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163 喧嘩はやめて・・マジに

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『超回復』『超回復』『超回復』

私の肋骨が折れて回復を繰り返す。

そんなことに構わず、ミールは再び私を抱き締めている。

2人で激しくスライディングしたせいで、地面が剥き出しで荒れた草地。

まるで猛獣同士の戦闘があった直後のような光景。

ノエルも初心者冒険者達も目を丸くしている。

「ミール。私が悪かった。もう逃げない」
「本当?」
「うん、絶対に。そのために帰ってきたの」

騒ぎを聞きつけた他の冒険者も集まってきたけど、気にしていられない。

それにミールの顔を見ていたら、涙も出てきた。


「ミール、ごめんよ。本当にごめんよ。ミシェルのこと大好きだよね」
「・・うん。ユリナ様と同じくらい好きになれた」

「だけど、私が変な行動をしたせいで・・」

そうなんだ、ミールは私に優しくて、私が最優先なんだ。

「ミシェルと一緒にいたいのに、別れる方を選んだんだよね」

「そのことでユリナ様に話があるんだ。いや、あのユリナ様が走り去った日に、話そうとしてたことがあるの」


「それって・・」
「待ってユリナ様」

「?」

いきなりミールの雰囲気が変わった。

私の前では出したことがない、黒い空気が漏れている。視線も私の方ではない。

「ユリナ様、あいつは?」

ぶわっ、と黒いオーラが吹き出した。

ちっとどころじゃないくらい、危ない空気を醸し出している。

闇属性の戦闘エリート候補が本気になっている。

なぜた。

ミールの視線の先は、私でなくノエルだ。

「あいつ、私より強い。だけど許せない」

「は?」

ミールは私を離して立った。

そしてノエルの方を向いて、ナイフを抜いた。

「ミール、やめようよ。彼女は新しい友達のノエルだよ」

「ダメだよ、ユリナ様」

「いきなりどうしたのさ。ただの友達だって」
「ただの友達?」

ミールが纏う黒い空気が。ゆらゆらと動きだした。

「ただの友達なら、なんで・・」

「・・・・だよ」

「なんで、ハーフエルフの匂いが、ユリナ様の体からぷんぷんするんだよ!」

うげげげ、なにそれ。

「私達、そんな関係じゃないない・・・・あ・・」

そういえば、1度だけ交わった。

高度1000メートルからダイブして、地上に触れて私とノエルは骨盤ごと溶け合った。

そして2人が『超回復』で再生したとき・・

ノエルのアレが私のアソコに、根元までズッポリで復元された。

「私、迎え入れたつもりはないんだよ」

「それなら、あいつ、無理やりユリナ様とヤッたんだね」

ミールの脳内がとんでもないことになっているようだ。

そのストレスを与えた原因は私なんだけど・・

ミールの再び姿がぶれた。

ギインって、何の音?

なんと、右斜め前10メートルで甲高い音が鳴り、ミールとノエルのナイフがぶつかり合っていた。

「私はミール。ユリナ様とシたの?」

「ノ、ノ、ノ、ノエルよ。え、え、え~と、シたというか、一瞬だけ、1回だけ、事故なの!」

「だからあんたから、ユリナ様の匂いがするんだ。ずるい!」

ノエルが余計なことを言う。ミールが吠えた。

今度は2人の姿がぶれて、私や初心者冒険者がいない後方で、ナイフがぶつかり合う音がした。

ギンギン、キキキギン!音しかわからない。


ミールとノエルの顔合わせ。
まあ、確かに2人は自己紹介したな。

どことなく似ている切れ長の目。闇属性美少女とハーフエルフ美女。だけど、こんなんじゃない。

なぜ、いきなり戦闘勃発なんだろうか。

恐怖の表情で子供冒険者が寄ってきて、私にしがみついている。


ちょっと驚いたけど、2人とも冷静。

子供達に戦闘の影響が飛び火していない。火属性の技も使っていない。

ミールの水遁とノエルの風の精霊魔法がつぶかる。土遁で目くらましをして刺しに行ったミールに対し、ノエルは水の壁を作って防ぐ。

紛争地帯みたいだ。

ナイフをぶつけ合う音も響く。
ただ、ミールが劣勢だ。

私は底力がなくても、Aランク冒険者、ハイクラスオーガ、ワイバーンの攻撃を受けて生き残っている。

目の前で強烈な攻撃を凝視して、見る目だけは養われている。

体術は五分だと思う。だけど精霊魔法と忍法比べで、本人たちのレベル差がありすぎた。だけどミールはあきらめない。

攻防は20分も続いている。


「無理やりにユリナ様を押さえ込んだんだ」

「違うの。ワイバーンにがしっつてされて、地上1000メートルからびゅーんってして、地上にどーんってなって、ずぼってなったの」

「2人だけでランデブーを楽しんでるじゃん」

「楽しんでない。ユリナに助けられたけど、死ぬとこだったの!」


「嘘だ! 嫌がるユリナ様を押さえ込んで、エッチしたくせに」

「してない。ちゅっちゅはしたけど、押さえて、あっは~んとか言わせてない」

「じゃあなんで、ユリナ様の股間に、あんたの気配が残ってるんだよ」

「事故で入っちゃっの。1回も動かしていない」

「私はまだ、ユリナ様の小ぶりなおっぱいさえ、もんでないのに!」

「私も、まだもんでないってば」

ちょっと待てと言いたい。

あの2人、変に息が合ってないか?

このまま2人の言い合いが続いたら、精神に大ダメージを受けるのは私だ。

公開処刑だ。

子供冒険者も顔見知りの薬草採取者も私に変な目を向けている。

止めたかったが、ミールもノエルも高位の戦闘職。

魔法と体術を駆使しながら、「私を巡って?」戦う2人の動きを阻止できない。

私が無敵なのは、敵が至近距離まで来てくれるからだ。

さらに20分が経った。

体力、魔力が先に尽きたミールがへたり込んだ。

今度は私の方から近づいて、ミールを抱き締めた。

「私とノエルは友達だから。それは本当。ワイバーンと戦ったとき、色々あっただけ」
「みたいだね。戦いながら話をして理解した。納得はできないけど」

「とにかく、ただいま」
「おかえりなさい」


今度こそ落ち着いて、きっちり自己紹介をした。


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