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164 ミシェルに会いに

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無茶苦茶だったけど、ミールとノエルの初顔合わせは終わった。


今、初心者冒険者に干しオークを振る舞いながら談笑している。まだ昼前だ。


「じゃあ、ユリナ様とノエルは本当に友達なの?」

「今のところはね。これからユリナにアタックするの。あ、性別は女でなく男としてね」

「ノエル、余計なこと言わないの」

「いいじゃない。一緒に死線のさらに向こう側までくぐったし、まったくの他人でもないでしょ」

「悔しい。私もユリナ様とワイバーンに捕まって、空飛ぶ。ユリナ様、ワイバーン探しに行こうよ!」

初心者達はつぶやく。

「すげえ、どっちかっていうとブスのユリナ姉ちゃんを美女2人で取り合ってる」
「でも、女と女だぜ」

「ハーフエルフってどっちにでもなれるんだよね」
「母ちゃんが言ってた、ちじょうのもつれだよ」

「しゅらば、ってやつだね」


恥ずかしい。とにかく、恥ずかしい。

だけど浮かれられない自分がいる。


ミシェルのことを放って置けない。

私が帰ってきた。もう、ミールとミシェルが離れている理由はない。

私は土下座してでも、再び仲を取り戻してもらうつもりだ。

2人の仲がうまく行っても、ノエルと付き合うなんて考えていない。

とにかく謝りたい。

「ミール、ミシェルと別れちゃダメ」

「今後のことは決めてる。ユリナ様が戻ってきたら、一緒に会いに行くと言ってある」

まだ昼前。この3人なら、100キロ先のリキンでも夕方前に行ける。

私のスキルを有効利用して行く。

「じゃあユリナ、私はオルシマの街に入って、住むとこでも探すわ」

「ノエル」

「なに、ミール?」

「あなたも来るの。3人で一緒にリキンの街まで行くよ」

ミールの強い語調。有無を言わせない。


国境に近いリキンの街まで、オルシマから南に100キロ。

国境に向かう整備された南北街道。
一番スペックが低い私でも、時速45キロで走り続けられる。

ミールとノエルが両方とも私を抱えて走ると言った。

どちらかに頼んでも、再び戦闘が始まる。だから私に合わせてもらった。

危ないことにならないよう、必死に走った。一つだけ、ミールに言った。

「ミール、ミシェルと幸せになって欲しいってのは、本心だからね」

「ユリナ様もミシェルが好きなのは分かってた。2人の答えは決まってるんだよ」

「それって・・」

ミールは答えず、スピードを上げた。

ノエルも私達に遠慮するように、どちらからも距離を取って走っている。

わずか2時間半でリキンの街に到着した。


ギルド前に到着した。

ミシェルがどこにいるのか、今日は帰ってくるのか分からない。

だけど、ドキドキしている。

酒の流通が盛んな街だけど、アルコールを買いあさる、気持ちの余裕はない。

気持ちを落ち着かせるためにエールを出して飲んだけど、まったく酔えない。

一気に8杯ほど、木のジョッキであおった。

「ミール、正直に言うよ。やっぱりミシェルと会うのは怖い」
「ユリナ様、どうして」

「あんたとミシェルがくっつくのは嬉しい。だけど・・」

「ミシェルが好きなんだよね。男として」

「・・うん、好き・・」

「ユリナ様、私とミシェル、どっちが好き?」
「え、えーと」

核心を突かれた気がした。最近の心の中で沸いていた疑問なんだ。

なぜ、2人がくっついてうれしいんだろう。

そして切ないんだろう。

「そうか、2人が一緒になることより、私の前から好きな2人が一緒にないくなる。そっちが悲しかったんだ」

ミールが、また問いかけてくる。


「じゃあ、私とミシェルとノエル、誰が一番好き?」


おかしな質問。

だけど、私が最近考えていたことだ。ミールに心を読まれてる。

「女のミール、男のミシェル、両性のノエル、もうほとんど、好きって気持ちに違いがない」

ミールが微笑んだ。

「私、『超回復』の使いすぎで、頭がおかしいのかな」

「ユリナ様がおかしいなら、私も頭が変だよ」

どういうこと・・

ここはギルド前の噴水広場。

私もミールも、ノエルも黙り込んだ。

水の音、行き交う人の声、そして外から帰ってきた冒険者の装備の音がする。



「・・ユリナ」

陳腐な芝居の一幕か・・。知り合いの冒険者と一緒に、ミシェルが近づいてきた。

少し精悍になっている。シャツの上に鎖かたびらと魔鉄の胸当て、普通のズボン。

そして腰にショートソードをさげている。

私はミシェルに再会したら、どんな顔をするのか自分でも想像ができなかった。

笑わなければ。
それが出来なければ無表情。
とにかく泣くな。

自分で決めていた。

だけど。

ミシェルの顔がぼやけて見えない。

出会ってわずか数か月。その上に、1か月以上も逃げていた。

だけど、ミールと3人で歩いたこと。

特級ダンジョンに潜って楽しかったこと。

いいことしか思い出さない。

ミシェルがそっと、手を取ってくれた。

「元気だった?」

いずれは距離を置くことになっても、今だけはどうしようもできない。

体は超越者に足を踏み入れていても、心はただの女。


ただ、ミシェルを真っ直ぐ見た。

何も言えずに涙を流すだけだった。





    
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