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165 ミールの独断

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リキンの街。

噴水広場から、人気のない水路近くまで移動した。

私、ミール、ミシェル、ノエルの4人。

私はなぜか、3人とも好きだ。亡くしたナリス、モナ、アリサに持っていた友情とも違う。

異性のミシェル、男性になれるノエルはいいとして、ミールにも同等の感情を抱いている。

『超回復』を得てミールと出会って、1800年ぶり、そう思ってしまった。

それはきっと、私ではなく、スキルオーブに『』と一緒に詰まった思いのようなものだろう。

そしてミシェルとノエルもすんなりと、心の中で受け入れられた。きっと因縁がある。

だけど今は、ミールとミシェル自身が好き。


あと2時間もすれば日も暮れる。

頬を赤らめてミールが切り出した。

来た。

「ねえ、ユリナ様、ミシェルと婚約するよ。そう決めてたんだ」

分かっていた。

ショックだけど、歯を食いしばるしかない。

「・・うん、おめでとう。心から祝福する」

2人の手を取って笑顔を作った。私としては満点だ。



「祝福? なんでなのさ、ユリナ様」

おめでとうと言うので精いっぱいだった。予想外の刺々しい言葉。

ミールの気持ちが分からなくなった。

「え。だって、2人の・・・」


「だから、3人で婚約するんだよ」

私の頭の中、?????である。

「私はミシェルと一緒でもユリナ様が欠けたら嫌だ」

「ど、どういうこと」

「ユリナ様がどっかに逃げた日、3人で結婚の約束をしようってミシェルと決めていたの」

「私の意向は?」

「逃げた罰だよ。強制的に従ってもらうから」


どストレートに来た。

確かにダンジョンで知り合ったガル、ダルの兄弟はメル、ハルナ、ミリーの女性3人と「五人婚」をしている。

共通の夫、共通の妻を持ち、5人で中級ダンジョンに潜っている。

ミシェルが言う。
「オルシマで知り合ったダルさんが、教えてくれたんだ。なんだか、スッキリした」

この国は自由すぎるが、自分がこんなことを経験するとは思わなかった。


ただ・・

うれしい。

常識外れだと言われたとしても、ただうれしい。

さっきまでとは違った涙が出てきた。そんな選択肢があると考えてなかった。

「私とミシェルは、けじめをつけるため、ユリナ様が帰ってくるまでは離れてたんだよ」

抱き付かれた。

「なのにユリナ様は、新しくハーフエルフを連れて帰ってくる。浮気者・・」

べ~って、舌出した。

ここから全部従ってもらうって言われた。

ミールがお怒りだけど、怒られててもうれしい。


けれど、ノエルが少しだけ沈んでいる。
疎外感だろう。

ミールがノエルに、有無を言わさず告げた。

「ノエルも一緒だよ」
「は?」

「今日が初対面だけど、4人で婚約」

「わ、私の意見は?」

「ユリナ様があんな熱い目で見てるもん。半年して4人でうまくやっていけそうなら、みんなで暮らそう」

ミールがすべて取り仕切ってしまった。

呆気にとられる私とノエル。


秒で、私達の恋の行方が決まった。



なぜ、結婚ではなく「婚約」なのか。ミールは考えていた。

すべてミシェルのため。

私の『超回復』目当ての貴族の使いや富豪がすでに、かなりオルシマに来ている。

パーティー「アイリス」を組んでいるミールも目を付けられているが、敵を自分で蹴散らせる。

だけどミシェルはまだ、おおっぴらに仲間だと言えない。

悪意をはね返すには弱すぎるのだ。誘拐が怖い。

だから、先にミシェルのランクとレベルを上げる。

私は劣等人でも、尋常でない討伐履歴がある。

ミールはBランク、最低でもレベル70、HP1050を目指す。

ノエルは、「ハーフエルフ兵器」の異名を取るから、いるだけでいい。


そしてミシェルは現在のレベル53から最低でも120になってもらう。

私の『超回復』を利用する。

闇魔法の適正Eだと基礎ステータスは低いけど、レベルが120あればHPも720まで上がる。

剣で上級ダンジョン30階フロアボスと戦えるレベルだ。

いずれは、ノエルとミールが突出したHPを開示する。

ミシェルは脅威のレベル120だけを開示する。

HPは謎でも、すでに特級ドラゴンダンジョン10階フロアボス討伐の履歴もある。

さらに派手な討伐履歴を付け加える。

可愛い花の名前から取った「アイリス」だけど、メンバーは凶悪だとアピールしたい。


これがミールの構想だ。


「ユリナ、ミール、それにノエルさん、俺のためにありがとうな」

「ミシェルのためだけじゃない」

ミールが、にっこりと笑った。

「私のため」

教会暗部で悪事に加担されられそうになったミール。

明るく生きるチャンスが生まれた。

「だから幸せになるの。そのためにミシェルを強くするの。そんでユリナ様とノエルとも伴侶になるの」

私とノエルも、思わず笑ってしまった。

「だよ、ミシェル。私達4人の家族ではミールが女王だね。もう逆らえない」

急展開だけど、ミールに怒られたけど、ノエルも驚いているけど、本当にうれしい。


基本はソロの4人だから、自由に動く。

子供も生めないけど、私に家族ができる。


ミールには大感謝だ。




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