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ダンスパーティーまでの道のり

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9月の終わり、私達は先生に渡された、パートナー申請書なるものに署名していた。
各々のパートナーの名前はすでに書かれている。

私はボヤいた。

「僕この紙の事、知らなかったんだけど。結局イサキオスの事ちゃんとパートナーとして誘ってなかったら、後夜祭出られなかったんじゃん。」

「えっ!?ティーナ知らなかったの!?」

シャルロットは驚いた顔をした後に、閃いた顔になった。

「そう言えば、ティーナは基本引きこもりだったから、タイマリス学園の学園祭に来た事無かったのね。」

イザベルが言う。

「まぁそんな人がいるの?とても人気のある学園祭なのに。まぁ来た事無いなら、色々知らなくても納得ね。」

私はため息をついた。

「それなら最初から腹をくくって堂々と誘えば良かった。」

グダグダと悩んだ事を思い出し、カッコ悪い自分が嫌になる。

シャルロットが笑った。

「夏休み明けてすぐに申し込まれたのでしょ?そんなに早く言われたら、それより先に誘うなんて無理よ。」

「後夜祭のパートナーは争奪戦だものね。イサキオス様が焦ったのも分かるわ。」

イザベルの言葉の意味が分からず首をかしげる。
イザベルは扇子の先で私の額をグリグリしながら、

「あなたは男にも女にも人気があるのよ!もう少し危機感を持ちなさい!その内変態にでも捕まって囲われるわよ!」

私は、まっさかぁ~と呆れ顔をした。
しかしシャルロットも重ねて言った。

「そうね、ティーナはもう少し自分の魅力に気付かなければ、必ず痛い目に合うわね。」

2人から言われ、さすがに私はゾッとした顔になる。
分かれば良いのよと2人は満足そうだった。

幼女体型のイザベルの方が絶対変態に狙われると思ったが、言わなかった。
賢明な判断と言えるだろう。

「それにしても、いつの間にカイトに申し込みに行ってたの?」

「フフフッ、同じクラスになったのよ?いつでもチャンスがあったわ。」

シャルロットはいつの間にかカイトを誘っていた。
承諾して貰えたと聞いた時は、自分の事のように嬉しかった。

署名をしたので、職員室にいる先生に出しに行こうと3人は立ち上がった。
今はもう放課後、出したらそのまま寮へ帰ろうと荷物を持った所で私は捕まった。

さて一体誰に捕まったでしょう?

抵抗したのだが、引きずる様にどこかへ連れて行かれる。
首根っこ掴まれた子猫状態だ。
転移魔法で逃げようと思ったが、その場合次に見つかった時の私への対応はもっと酷いものになるだろう。

シャルロットが、

「これ出しておくわねぇ~。」

と手を振っている。
助けてくれる様子はない。
よし、現実逃避しよう。そっと目を閉じる。

しばらくすると、入った事のない部屋に転がされた。

「自分で歩けよ!あぁ重かった。」

私を拉致した奴は腕を回しながら、疲れたアピールを盛大にする。

「うるさいな!!勝手に連れて来たんだろ!!」

私はキレた。毎度毎度勝手が過ぎる。

「勝手にとは何だ!!この前聞いただろうが!!」

自分は怒っても良い立場だと思ったのに、キレられた。

「何を聞いたのさ!僕は何にも聞かれてない!!」

私達は額をくっつけ、両手を組み合い、押し相撲状態だ。

「陛下の反対勢力が動き出したから、手伝えと言っただろー!!」

「そんなの初耳だぁぁぁ!!」

額が痛くて涙がチョットでる。
腹が立つ気持ちより、痛い方が勝ってきた。
相手もそう思ったのか、アホらしいと言って急に手と額を離した。
私の勢いは止まらずそのまま前に倒れる。
身体強化!!!とっさに魔法を使う。

ガターーーンッ!!!

机に突っ込んだが、痛くない。
どうやら間に合った様だ。

私は倒れたまま顔だけ相手に向け、何するんだと叫ぼうとした時、何人かの笑い声が聞こえた。
誰も居ないと思った教室には、人が居たようだ。

私は慌てて立てり、周りを見渡すと、見た事のない人が3人立てっていた。
男の人が2人に、女の人が1人。

マグリットの方を見る。
当然私を拉致したのはコイツ。

私は目だけで、誰!?と訴えてみる。
マグリットは額をさすりながら、

「生徒会の会長、副会長、書記の方達だ。」

と答えた。

オレンジ色の短い髪に、鋭く細いつり上がった目、獅子を思わす様な猛々しい男が、私に手を差し出してきた。

「生徒会長のアドルフ・ロートシルトだ。よろしく。」

彼はイサキオスと同じ美しい金色の瞳をしていた。
私は慌てて彼の手を取り握手しながら挨拶する。

「クリス・ランカスターです。」

会長の横にいる女の人は副会長だった。
緑色の髪にオレンジ色の瞳、、多分マグリットのお姉さんだ。

「フフフッ、私はユリアーネ・ダルトワ。マグリットの姉ですわ。驚いたわ、マグリットのあんな顔初めて見たわ。」

そう言うと彼女は後ろを向き、肩を震わせなが笑っている。
腰まである長い髪はウェーブがかかっていてとても美しい。
妖艶という言葉がぴったりの人だ。
胸元が広く開いたワンピースを着ているので、胸の谷間が露わになっている。

この人はヤバイ、、私の警告が鳴った。

書記の人は小柄な男で、茶色いストレートの髪が伸び放題、彼の目は隠れてしまっている。
キノコを思わす容貌の彼は小さい声で、

「パオロ・トゥールーズです。」

と言った。

生徒会は4年生達で運営される。
5年生になると就職活動やら、夜会に出席し婚活し始める人が増えるので忙しくなる。
その為任期が終わるのは4年生の3月までなのだ。

マグリットが説明し始めた。

「学園祭は大変忙しい。生徒会は祭りを開催する事に時間を全て取られるので、警備は毎年プロの人を雇い任せている。しかし、今回はそれだけでは足りない。」

マグリットはわざとらしく私の顔に向け指を指した。

「そこでお前だ!」

腹が立ち過ぎて冷静になる。私は半眼で聞いた。

「そんなの僕1人が入ってどうなるの?」

「もちろん先生方も今年は警備に回るそうだ。一部上級生達も交代で警備に回る。」

マグリットはそこまで言ってニヤッとした。

「お前は、火竜討伐に行ったことで、イサキオス同様世間に顔が知れ渡っている事を自覚しているか?」

私は固まった。

「ふんっ。やはり何も分かっていなかったか。そんな事だろうとは思っていたが。あれだけ派手なパフォーマンスを大勢の前でして、皆がお前に興味を持たないとでも思ったのか?」

「、、、、思った。」

マグリットはまた鼻で笑う。

「思いのほかアホだな。」

今回はぐうの音も出なかった。

「そんなお前が警備で回っていたら、抑制になるだろう?火竜を押さえ込んだほどの使い手なのだからな。」

褒めていない、あの顔は馬鹿にしている。

「イサキオスは?」

「あいつは戦い方も見た目も派手過ぎる。今回の任務は向いてない。」

私に拒否権は無さそうだが、1つ譲れない事があった。

「、、、でも、、僕、ダンスパーティーに出たい。」

マグリットは片眉を上げる。
どうやらイサキオスからは何も聞いてないようだ。

「分かった。その時間は解放してやる。」

こうして私は腹黒星人に捕まり、学園祭までこき使われる事になった。

のちに、彼が私にお願いしていた事が、本当は学園祭当日の警備だけだった事を、ヘンリーに聞かされるのであった。
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