元アラフィフ男の異世界転生記 〜新しい家族とともに異世界を謳歌する〜

あかいとまと

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第1話:転生

第1話:転生

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 俺、橘シュウ55歳は、神様のミスにより階段から転落し、頭を強打して、この世を去ってしまった。

    幸いと言えば、ちょうど2ヶ月ほど前に育てていた甥っ子が「彼女と暮らす」と言って家を出ていたこと。  
    家族は他にいなく、独身で一人暮らしをしていた俺にとって、この世に縁を持つのは甥一人だけだった。  
    だから、俺が死んでも、悲しむのは彼くらいだろう。  
    葬式すら不要なほど、世間との繋がりは薄かった。  

「ほんとにゴメンね~。私としたことが、ついうっかりしちゃったっていうか、同姓同名の間違いだったのよ~」  

    真っ白なローブを纏った、透き通るような肌と銀髪をした女神らしき存在が、まるで天気の話でもするかのように、のんびりとそう言った。  
    彼女の声は、どこか遠くの風鈴のように澄んでいて、しかし妙に親しみやすかった。  

「いえ、別に。死んでしまったのは仕方ないですから」  

    俺がそう答えると、女神は目を丸くして、それからクスクスと笑った。  

「あらら、随分と大人ね。普通なら『なんで俺なんだ!』とか『まだ死にたくない!』とか叫ぶところなのに。君、いい人だね」  

「55年も生きてりゃ、ある程度のことは諦めもつくってもんです」  

「ふふ、それもそうね。でも、せめてものお詫びに、異世界に転生させてあげるわ。おまけに、若返りとチートスキルも付けてあげる。地球のスマホも持たせてあげるし、住まいも用意しておくから安心して」  

「至れり尽くせりってやつですね⋯⋯本当にありがとうございます」  

「あ、あとね~、私、容姿や年齢は変えられるけど、色は変えられないの。君の色は、この世界じゃちょっと珍しいかも。黒髪に茶眼、肌はやや小麦色⋯⋯まあ、異質だと思われるかもだけど、ま、大丈夫でしょ。じゃあ、頑張ってね~」  

    そう言うと、女神は指をパチンと鳴らした。  
    俺の身体は瞬時に白い光に包まれ、視界が歪み、意識が遠のいた。  

    ――気がつくと、そこは見知らぬ森の中だった。  

    空は青く、空気は澄み切っていて、どこか懐かしいような、しかしどこか異質な匂いが鼻をくすぐる。  
    目の前には、ログハウス風の2階建ての建物が静かに佇んでいた。  
    木の香りがする。  

「確か⋯⋯住まいは用意しておくって言ってたよな」  

    独りごちながら、俺はゆっくりと玄関へと歩を進めた。  
    玄関脇には、『シュウ・タチバナ』と刻まれた木製の表札がかけられていた。  

「へ~、テラスまである。なかなか良い住まいだな」  

    周囲を見渡すと、建物を囲むようにして高さ2メートルほどの木製の柵が設けられ、その内側は広大な敷地を有していた。  
    ざっと見ても1000坪はありそうな広さで、花壇には色とりどりの花が咲き乱れ、その隣には薬草らしき植物が整然と植えられていた。  

「あっちの石造りの建物は何だろう?」  

    気になって近づいてみると、それは倉庫と、脱衣所付きの浴室、そして独立したトイレだった。  

「不浄のものを外に置く⋯⋯昔の日本の農家みたいだな」  

    母屋に戻り、玄関を開ける。  
    中は明るく、広々としていて、入ってすぐがリビングで、その隣には設備の整ったキッチンが広がっていた。  
    キッチンの隣には収納部屋があり、そこには小麦粉、塩、砂糖、油、乾燥野菜、保存肉、果物、ハーブ類など、ありとあらゆる食材と調味料がびっしりと並んでいた。  

    リビングの奥には8畳ほどの部屋が3つ。  
    階段を上ると、2階には同じく8畳の部屋が五つと、中央に団らんスペースらしき広間があった。  

「⋯⋯人数が増える予定があるのかな? 神様、何か考えてるんじゃねぇのか?」  

    こめかみを押さえながら呟く。  

「それよりも、先ずは石鹸を作らないと」  

    浴室やトイレ、キッチンを見て回った俺は、この世界にはおそらく「石鹸」という概念が存在しないことに気づいた。  
    だが、油脂と灰汁(あく)があれば、簡易な石鹸は作れる。  

    収納部屋には動物性の脂が保存されていた。  
    あとは灰汁さえ作ればいい。  

    外に出ると、森の中を散策しながら枯れ枝を大量に集め、キッチンの竈に運び込んだ。  
    竈に枯れ枝を詰め、右手の人差し指を向けて念じる。  

「火よ⋯⋯」  

    ――指先からオレンジ色の炎がほとばしり、枯れ枝に火が灯った。  

「よし、魔法は使えるな」  

    風魔法で空気を送りながら、枯れ枝を完全に灰になるまで燃やし尽くす。  
    灰が冷めきった頃、それを大きな容器に移し、水を注いで攪拌(かくはん)する。  
    それを鍋に移して竈にかけ、再び火を点ける。  

    沸騰し始めた頃、油脂を少しずつ加えながら、木のスプーンで丹念にかき混ぜる。  
    グツグツと煮立つ中、香りが変化し始める。  
    そこに、俺は事前に摘んできた『タイム』『オレガノ』『ミント』の乾燥ハーブを細かく刻んで加えた。  

「殺菌効果と、香りでリラックス効果も狙おう」  

    ハーブの香りが湯気に混じり、部屋中に広がる。  
    ミントの清涼感、タイムのスパイシーさ、オレガノの深みのある香りが、石鹸特有の脂臭さを上手く中和してくれる。  

    ある程度煮詰まったら火を止め、粗熱を取ってから、小さな木型やガラス容器に流し込む。    
    冷ます間に、今度は『アルコール除菌剤』も作ることにした。  

    この世界にはアルコールもビールもあるらしいが、濃度の高い消毒用アルコールはおそらく存在しない。  
    だが、蒸留すれば70%以上のエタノールは作れる。  

    収納部屋には、ブドウの果汁と酵母が保存されていた。  
    発酵させてから、蒸留器(これも用意されていた)を使って精製。  
    75%のエタノールを確保し、そこにミントのエキスと、タイムの抽出液を加えて香りを和らげる。  

「これで、手の消毒もバッチリだ」  

    夜になり、浴室へ向かう。  
    石造りの浴槽は天然の温泉らしく、湯気が立ち上り、柔らかな光が灯っていた。  
    湯船に浸かりながら、出来上がった石鹸を使って身体を洗う。  

    泡立ちこそ現代の地球のものほどではないが、ハーブの香りが鼻をくすぐり、肌触りは滑らか。  
    油脂の質が良いのか、乾燥もしない。  

「⋯⋯意外とイケるじゃん」  

    湯船に浸かりながら、スマホを取り出す。  
    画面はちゃんと起動し、オフラインで使えるメモアプリやレシピ、医学知識、化学知識などが保存されていた。  

「女神さん、本当に手厚いな⋯⋯」  

    翌朝、空はまだ薄明かりに包まれていたが、俺はすでに薬草園の整備に取りかかっていた。    
    ログハウスの裏手に広がる花壇の隣には、雑草が少しだけ生い茂った薬草畑が広がっている。
    黒髪を後ろで結び、茶色の瞳を真剣に細めて、俺は手袋をはめ、スコップと鍬を手に丁寧に土を耕していく。
    土の香りが鼻をくすぐり、昨夜の星空とは違う、大地の鼓動を感じる。
    収納部屋にあった動物の糞と腐葉土を混ぜた肥料を土に混ぜ込み、水をまいて湿らせた。
    魔法で水を供給できるので、手間はかからない。
    女神の恩恵か、この世界の魔法は実に便利だ。

    畑の中には、タイム、オレガノ、ミントに加え、カモミール、セージ、ローズマリー、ラベンダーもしっかりと育っていた。
    どれもポーション作りに欠かせない貴重な薬草ばかり。
    俺は一つひとつを丁寧に収穫し、一部は天日干しにして乾燥させ、一部は魔法で冷気を保てる容器に入れて冷蔵保存する。
    この容器は女神から与えられたもので、魔法の力で内部の温度を一定に保ってくれる。
    まさに異世界の高級家電だ。

「ポーション作りも始めよう」

    と、俺は独り言を呟きながら、薬草をベースに回復ポーション、魔力回復ポーション、解毒ポーションの試作に取りかかった。
    女神のスキル「万能調合法」のおかげか、調合成功率は100%。
    失敗という言葉がこの世界に存在しないかのように、すべて完璧に仕上がる。
    回復ポーションはカモミールとセージに、甘草と蜂蜜を加え、そこに微量の癒し魔法を注入。
    完成した瞬間、淡い金色の光を放ち、瓶の中を優しく揺らめかせる。
    一口飲むと、体の芯からじんわりと温かさが広がり、昨日の疲れがすーっと引いていく感覚。
    まるで心まで浄化されるようだった。

    魔力回復ポーションは、ローズマリーとミントに、この世界特有の「エネルギー草」をブレンド。
    エネルギー草は、魔力の流れを活性化させる効果があり、魔法使いにとっては命綱のようなものらしい。
    これを飲むと、頭が冴え、指先まで魔力が満ちていく。
    解毒ポーションは、オレガノとタイム、ウドの根に、浄化魔法を施した水を加えて作る。
    透明な液体に緑の微光が舞い、毒に侵された体を浄化する力を持つ。

「これで、街に出ても安心だな」

    と、俺は満足げにポーションの瓶を並べながら笑った。
    昼には、パン作りにも挑戦。   
    収納部屋にあった小麦粉、酵母、塩、水、バターを使って、捏ねて発酵させ、石窯で焼く。
    香ばしい匂いが家中に広がり、出来上がったパンは外はカリッと、中はふわふわ。
    バターを塗って一口かじると、もう最高。
    異世界に来たとは思えないほどの幸福感が口の中に広がる。

「⋯⋯まさか、55歳の俺が異世界で石鹸作りやパン焼きに勤しむ日が来るとはな」

    と、俺はテラスに腰を下ろし、出来立てのパンと紅茶(薬草園にあったハーブティー)を楽しんだ。
    スマホのカメラを手に取り、今日の出来事をすべて記録する。「日記代わりにしよう」と、俺は呟いた。
    今は15歳の少年の姿をしている。
    黒髪に茶眼、容姿端麗。
    アソコは勃起時に18cmと、ちょっとだけ女神のいたずら心が働いたのか、ややスペシャル仕様。
    だが、俺は苦笑いするだけだ。

「まあ、若いし、健康なら文句はない」

    魔法は、火・風・水・土・雷・氷・光・闇・癒し・重力・空間・時間・植物操作・金属操作・音波・幻覚・言語理解⋯⋯と、ほぼ全て使える。
    スキル名は「万能調合法」「無限魔力」「知識全開」「身体最適化」など、まさにチート。
    異世界に来たばかりのアラフィフ元サラリーマンが、こんな力を持つとは夢にも思わなかった。
    だが、俺は驚きよりも、むしろ「これは便利だ」と淡々と受け入れていた。
    元はといえば、甥っ子を一人で育て上げた経験がある。
    責任感と実用性を重んじる性格が、今も変わらず生きている。

    夕方、森の奥から何かの気配を感じた。
    魔法で感知すると、狼のような生物がこちらをうかがっている。
    警戒心よりも、むしろ興味本位で、俺は静かに立ち上がり、森の入り口へ向かった。
    薄暗い木々の間を抜けると、銀色の毛並みを持つ巨大な狼が、静かに佇んでいた。
    目は鋭く、だがどこか知性的で、ただの野生動物とは思えない。
    それが「銀狼のフェンリル」と呼ばれる存在だと、知識全開スキルのおかげで即座に理解できた。

「⋯⋯まあ、いいさ。俺はもう、ただのアラフィフサラリーマンじゃない。異世界で、新たな人生を歩む、シュウ・タチバナだ」

    と、俺は呟き、パンの残りを手に差し出した。
    フェンリルは一瞬警戒したが、俺の魔力に包まれた穏やかな気配を感じ取ると、ゆっくりと近づき、パンを受け取った。
    一口かじると、目を細め、まるで満足したように尻尾を軽く振った。

    それから毎日、フェンリルは俺のログハウスに通うようになった。
    最初は遠慮がちに森の端で待っていたが、俺が料理を分けてやると、次第に堂々と中まで入ってくるようになった。
    ある日、俺は「名前は? 俺はシュウ・タチバナだ」と尋ねた。
    すると、フェンリルは突然、人語を話した。

「ウォルフだ。お前のパンとスープが気に入った。ここに居させてくれ」

    俺は驚かなかった。
    異世界で狼が話すくらい、今となっては驚きでも何でもない。

「構わないよ。ただし、家事を手伝ってもらうからな」

    と、俺は笑いながら言った。  
    ウォルフは鼻を鳴らし、「狩りは任せておけ」と答えた。
    それ以来、ウォルフは俺の護衛兼家事パートナーとして、毎日を共に過ごすようになった。
    朝は森で獲物を仕留め、夕方には薬草の収穫を手伝い、夜は俺の隣で静かに眠る。

    ある日、俺はウォルフを連れて街へ行くことにした。
    街の入り口で、門番に止められる。

「身元を確認させていただきます」

    と、魔法水晶を差し出された。
    俺は困惑しながらもそれに触れた瞬間、水晶が青白く輝き、俺の名前「シュウ・タチバナ」、そして「貴族の血筋を持つ者」と表示された。
    門番は驚き、慌てて頭を下げた。

「失礼しました、シュウ様! どうぞ、どうぞお通りください!」

    俺は呆然とした。
    貴族?
 そんな話、女神から聞いていない。
    だが、ウォルフは「お前の魔力の波長が、この国の古い王族に似ている」と教えてくれた。  
    どうやら、この世界のシュウ・タチバナ家は、かつて魔法と調合法で国を支えた名家だったらしい。
    今は途絶えたとされるが、俺の存在がその末裔であると、魔法水晶が証明したのだ。

    街の中に入ると、人々が俺に畏敬の念を抱き、道を譲る。
    俺は苦笑いしながらも、ギルドに向かった。
    ギルドでは、俺が作った石鹸とポーションを試してもらった。
    石鹸は、薬草の香りと滑らかな泡立ちで、肌を潤すだけでなく、軽い傷や炎症にも効果がある。
    ポーションは、市販のものとは比べものにならないほど高品質。
    回復ポーションは即効性が高く、魔力回復ポーションは魔法使いの疲労を一瞬で取り除く。

    ギルドマスターは目を丸くし、

「これは規格外の高レベルアイテムです! 定期的に納品していただけませんか?」

    と熱心に頼んできた。
    俺は「構わないが、報酬は適正に」と淡々と答えた。
    ウォルフは「商売上手だな」と鼻で笑ったが、内心は満足しているようだった。

    その日、ギルドで一人の青年と出会った。
    銀髪の若者で、騎士団長のフェイ・アストレア。
    18歳ながら、堂々とした佇まいと鋭い眼光を持つ。
    彼は俺のポーションに興味を持ち、試飲した後、「これは⋯⋯本物の王家の調合法だ」と呟いた。
    そして、「あなたの家を訪ねてもよろしいでしょうか?」と尋ねてきた。

    俺は「構わない」と答え、家まで案内した。
    フェイはログハウスの外観を見て感嘆し、中に入ると、木の香りとハーブの香りに包まれ、まるで癒されるように目を閉じた。

「こんな場所が、この世界にあったなんて⋯⋯」

    彼は俺の料理を食べ、石鹸を使い、入浴の際には一緒に風呂に入った。
    そこで、俺のアソコの大きさに思わず「⋯⋯これは異常です!」と叫んで驚いたが、俺は「気にするな」と涼しい顔で返した。

「あなたは⋯⋯ただ者じゃない。でも、その力を使わず、こんな平和な暮らしをしている。なぜですか?」

    とフェイは尋ねた。
    俺は紅茶を一口飲み、

「力があるからって、使わなきゃいけないわけじゃない。俺は、ただ、安心して暮らしたいだけだ」

    と答えた。

    その夜、フェイは「ここに住んでもいいですか? 守りたい。この場所も、あなたも」と真剣な顔で言った。
    俺は少し考え、「なら、家事は分担だ。料理は俺が作るが、洗濯と掃除はお前がやる」と条件を出した。
    フェイは嬉しそうに頷き、「はい、シュウ様!」と答えた。

    こうして、俺の家にはウォルフとフェイが住み着くことになった。
    朝は3人でパンを焼き、昼はポーションを作り、夜は囲炉裏を囲んで話を交わす。
    ウォルフは時々「お前の料理がなければ、俺はここにいなかった」と言い、フェイは「シュウ様の石鹸で肌がつるつるになりました」と照れながら話す。

    ある日、俺はスマホのカメラで、三人とログハウスの庭を撮った。
    夕焼けに染まる木々、石窯の煙、テーブルに並ぶ手作りのパンとハーブティー。
    そして、銀狼と銀髪の騎士が笑う横顔。
    俺は静かに呟いた。

「女神さん、本当にありがとう⋯⋯でも、この世界で何が始まるのか、ちょっとだけ楽しみになってきたな」

    そして、その夜、森の奥から新たな気配が近づいていた。
    だが、俺は慌てず、パンを焼く手を止めなかった。
    新しい出逢いが、また一つ始まろうとしていた。


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