元アラフィフ男の異世界転生記 〜新しい家族とともに異世界を謳歌する〜

あかいとまと

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第4話:獣人の子供

第4話:獣人の子供

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    とある日。
    俺がフェイと共にギルドへの納品をした帰り道の事だった。
    街の広場の周辺に人だかりが集まっているのを見かけ、「何事だろう?」と興味心にかられ、見に行ってみた。

「どうやら奴隷商人のようですね」

    人だかりの中心を見たフェイが呟く。
    人らしき存在が檻に閉じ込められて見世物にされている。

「あ~、俺⋯⋯こういうの嫌いなんだよね」

    そう言って目線を反らした先に、小さな檻が1つ離れて置いてあるのを発見した。
    気になった俺は、その檻に近付くと中を覗き込む。
        
「子供か?」

    よく見ると獣人の子供らしく、耳や尾が付いている。
    黒髪に茶眼⋯⋯俺と同じだ。

「どうやら病気の子供の様ですね」

    フェイが言う。
    そこに商人が近寄って来て声をかけて来た。

「お客様。その商品は使い物になりません」

「どういう事だ?」

    俺は怪訝そうに問いかける。

「脚と腕を骨折しています。それに、よく分からない病でポーションを飲ませても回復しません」

    俺は獣人の子供を横目で眺めると『鑑定』をしてみた。
    右脚と左腕の骨折と⋯⋯あとは。

「この子は幾らだ?」

    俺が問いかけると、業者の者は驚いたように目を見開き、

「これを買うのですか?    黒髪茶眼の呪われた子供ですよ⋯⋯と、お客様も黒髪茶眼でしたね。申し訳ありません」

    そう言って、頭を下げる。
    俺はフェイに向き直ると、尋ねた。

「この世界では黒髪茶眼は呪われているのか?」

    すると、フェイは困った様に応えた。

「黒や黒に近い色は呪いの影響であるとの古い伝承があります。ですが、それは伝承であって真実ではありません。シュウ様も黒髪茶眼ですが貴族である事ですし、やはり伝承は間違いである可能性も⋯⋯」

    俺は商人に向き直ると、もう1度言った。

「この子は幾らだ?」

「処分出来るのでしたらお安くしておきます。銀貨5⋯⋯いや、銀貨1枚でどうでしょうか?」

「買った」

    俺はそう言うと、革袋から銀貨を取り出し、男に渡した。

「連れて帰りたいのだが」

    俺が声をかけると、男は慌てて檻の鍵を解錠した。

「フェイ。一時的に馬車か何かを借りてくれ」

「分かった」

    フェイはそう言うと、素早く行動に移した。
    俺は獣人の子供を抱き上げると、フェイの後を追った。



    夜が更けても、囲炉裏の火は静かに揺れていた。
    その火の前で、リオは初めての温かい食事を口に運んでいた。
    彼の小さな手はまだ震えていたが、それでもスプーンをしっかりと握り、ゆっくりとスープをすすった。
    ネロが隣に座って、「リオ兄ちゃん、これ美味しいよ! ラムさんが作ったからね!」と嬉しそうに話しかけると、リは少しだけ口元を緩めた。
    その笑みは、まだぎこちないものだったが、確かに心の奥から漏れ出たものだった。
    シュウはそれを静かに見守っていた。
    彼の胸の奥に、かつて自分が地球で育てた甥っ子の顔が重なった。
    あの時も、こんなふうに無力で、傷ついた小さな命を抱きしめた。
    今は、また同じ道を歩んでいる——いや、歩かされているのかもしれない。
    神の意図は分からないが、それでも、彼には守るべきものがある。
    それが今の彼の生きる意味だった。

「リオ、まだ食べられるかい?」

    とシュウが優しく声をかけると、リオはこくりと頷いた。

「はい⋯⋯すっごく、お腹が満たされて⋯⋯」

    と、声はまだ小さかったが、確かに言葉を紡いでいる。
    その瞬間、ラムの九つの尾がふわりと揺れ、囲炉裏の火が一際明るく輝いた。
    銀狐の大精霊は、静かに微笑んでいた。

「この家に、また一つの命が宿った。君の痛みも、孤独も、もう終わりだよ。ここは、君の故郷になる」

    リオはその言葉に、思わず目を潤ませた。
    彼は今まで、誰からも「故郷」と言われたことがなかった。
    檻の中で、病と飢えに耐え、黒髪茶眼というだけで「呪われた子」と呼ばれ、人間以下の扱いを受けてきた。
    それが今、火の前で、家族と呼ばれる者たちに囲まれ、名前を呼ばれ、食事を与えられている。
    現実とは思えなかった。

    その夜、シュウはリオの骨折を治癒魔法で完治させた。
    彼のチート能力の一つである「完全治癒」は、ただの回復魔法とは次元が違う。
    細胞レベルから再生し、痛みも炎症も跡形もなく消し去る。
    リオの右脚と左腕は、まるで最初から壊れてなどいなかったかのように、完璧な状態に戻った。
    フェイはその光景を黙って見守っていたが、内心では震撼していた。
    シュウの力は、もはや騎士団長としての常識では計り知れないものだった。
    そして、リオの体に秘められた「闇の完全治癒能力」にも気づいていた。
    それは、シュウの能力とは異質で、より根源的で、まるで闇そのものから生命を紡ぎ出すような力だった。
    フェイはそれを感知した瞬間、背筋に冷たいものが走った。
    この子は、ただの孤児ではない。
    何か大きな運命の鍵を握っている——そう直感した。

    翌日、リオの体調も安定し、歩けるようになった。
    シュウとネロ、フェイ、ウォルフ、ラムと共に、ギルドへ向かうことにした。
    リオを正式に「リオ・タチバナ」として登録し、シュウの養子とすること。
    ネロにとっては兄貴分となり、フェイが後見人として名乗りを上げる。
    ギルドの受付係は、当初は訝しげな顔をしていたが、フェイの騎士団長としての威厳と、シュウの貴族としての身分を確認すると、すぐに手続きを進めた。
    そして、リオの名前が正式に登録された瞬間、ネロは飛び跳ねて喜んだ。

「やったー! リオ兄ちゃん、俺の兄貴だよ! これから一緒に冒険に行こうね! モンスター倒して、宝物見つけて、すごい剣手に入れようぜ!」

    リオはその熱意に少しびっくりしながらも、自然と笑みがこぼれた。
    彼の心の氷が、少しずつ溶け始めていた。

    家に戻ると、リオは初めての自分の部屋を与えられた。
    ネロが「リオ兄ちゃん、俺の部屋と隣だよ! 夜、怖かったらいつでも呼んでね!」と張り切って案内してくれた。
    リオはその無邪気な優しさに、胸が熱くなった。
    夜になり、風呂の時間になった。
    フェイが子供たちの風呂を管理している。
    彼は「健康と衛生は、騎士の基本」と言い、毎日入浴を欠かさない。
    その日、リオとネロが風呂場に入ると、フェイも後から入ってきた。
    そして、なぜかふたりの勃起時のサイズを測り始めた。

「これは、成長記録の一環だ。シュウ様にも報告する」

    フェイは真剣そのもので、巻き尺を取り出して、ネロの勃起時11センチ、リオの勃起時13センチを丁寧に記録した。
    リオは真っ赤になりながらも、フェイの真剣な態度に逆らえず、黙って勃起したサイズを測られていた。
    ネロは「え? なんで測るの? そんなの関係ないじゃん!」と言い、フェイは「男としての自覚を持つことは大切だ」と真顔で答えた。

    その後、フェイとネロ、リオはシュウの部屋にやってきた。

「シュウ様、報告です。ネロ君は勃起時11cm、リオ君は勃起時13cmでした。成長著しいと言えるでしょう」

    フェイが報告すると、シュウはちょうど紅茶を口に含んでいたところだった。
    その瞬間、彼は紅茶を噴き出してムセてしまい、慌ててハンカチで口を拭った。

「はぁ? 何を真面目な顔して報告してんの! 男の価値がアソコのサイズで決まると思ってんの!?」

    シュウは顔を赤らめながらも、笑いを堪えきれず、肩を震わせていた。
    ネロとリオは困惑したままだったが、フェイだけは真剣そのもので、

「いや、シュウ様。男としての誇りは、ここから始まるのです。勃起時15センチの私も、まだまだ精進が必要と感じております」

    と、まるで武道の極意を語るかのように言い放った。
    シュウは呆れながらも、

「⋯⋯お前、本当に騎士団長かよ」

    と呟いた。

    その夜、リオはシュウの部屋を訪ねた。
    彼は小さな声で、

「シュウさん⋯⋯あの、どうして、あんな俺を買ってくれたんですか? 呪われてるって言われて、病気だって言われて、誰も見向きもしなかったのに⋯⋯」

    と、震える声で尋ねた。
    シュウは彼を優しく見つめ、静かに言った。

「リオ、黒髪茶眼が呪われてるなんて、信じるわけないだろ。俺も黒髪茶眼だ。お前と同じだ。この世界には、色や形で人を差別する馬鹿な伝承がたくさんある。でもな、それらは全部、過去の恐れから生まれた嘘なんだ。俺は、その嘘を壊したかった。お前を救うことで、『黒髪茶眼=呪われてる』っていう迷信を、一つでも潰したかった。そして——お前が、俺と同じ髪と瞳の色をしてたからだ。それが、一番の理由かもしれない」

    リオはその言葉に、涙をこぼした。
    彼は今まで、自分の見た目をずっと嫌っていた。
    黒髪茶眼のせいで、虐げられ、捨てられ、檻に入れられていた。
    それが今、同じ色の髪と瞳を持つ男に、「俺と同じだから救った」と言われた。
    それは、彼の心の奥底に突き刺さるような言葉だった。
    シュウは彼の頭を優しく撫でた。

「これからは、誰にも怯える必要はない。お前はリオ・タチバナだ。俺の弟で、ネロの兄貴で、この家の一員だ。誰が何と言おうと、ここに居場所がある。それが、この家が持つ力なんだ」

    その夜の出来事から、リオの心は少しずつ変わっていった。   
    彼は朝早く起きるようになり、ネロと一緒に囲炉裏の火を起こす手伝いをした。
    ラムが作る朝食の香りに、最初は警戒していたが、今はしっかりと箸を動かすようになった。
    フェイからは剣の基礎を教わり、ウォルフからは獣人の感覚を引き出す訓練を受ける。
    シュウは彼に「闇の完全治癒能力」の使い方を少しずつ教え始めた。
    それは、命を救う力であり、決して戦いのための武器ではないと。
    リオはその重さを、しっかりと胸に刻んでいた。

    ある日、シュウがスマホで古文書を調べていると、黒髪茶眼の者たちがかつて「星の守護者」と呼ばれていた記録を見つけた。
    彼らは世界の均衡を保つために存在し、闇と光の狭間で力を発揮する者たちだった。
    しかし、ある出来事をきっかけに、彼らは「闇の使い」として忌み嫌われる存在へと変えられてしまった。
    その記録を読んだシュウは、静かに拳を握った。
    ——リオは、ただの孤児じゃない。
    彼は、失われた守護者の末裔なのかもしれない。
    そして、その力が目覚めようとしている。

    その夜、囲炉裏の火がいつもより赤く燃えていた。
    リオが夢の中で、黒い狼の影を見た。
    その狼は、彼に向かってこう言った。

「お前は、忘れていた記憶を呼び覚ます者。闇の治癒は、癒すだけではない。世界の歪みを正す力だ。覚悟を決めろ——再び、星の守護者が目覚める時が来たのだ」

    リオは目を覚ました。
    汗ばんだ額を拭い、静かに立ち上がると、囲炉裏の前に跪いた。
    火の前で、彼は初めて、自分の運命を受け入れたように見えた。

    シュウはその様子を遠くから見ていた。
    彼の胸には、不安と希望が入り混じっていた。
    この小さな家で育つ6人の絆——それが、やがて世界を変える力になるのかもしれない。
    そして、その始まりが、今、静かに動き出していた。


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