元アラフィフ男の異世界転生記 〜新しい家族とともに異世界を謳歌する〜

あかいとまと

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第32話:王が膝を打った日

第32話:王が膝を打った日

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 王宮からの使者が来た――
 それ自体は、予想していた。

 だが、彼らの態度は、俺の想像とは少し違っていた。

 森の入口に現れた王宮騎士団は、武装していたが、剣は抜かれていない。 
 先頭に立つ白銀の鎧の男――近衛騎士団長レオニス・ヴァルグリムは、テラスに足を踏み入れると、真っ先にこう言った。

「シュウ・タチバナ殿。
 昨夜の件――まずは、王国を代表して感謝を」

 そう言って、彼は騎士団長の身でありながら、片膝をついた。

 フェイが息を呑む。 
 ネロとリオが目を丸くする。

 「感謝⋯⋯?」

 俺が聞き返すと、レオニスは静かに頷いた。

「もし貴殿が即座に対処していなければ、魔力異常は森を越え、王都近郊まで波及していた可能性が高い」

 ミラが小さく呟いた。

「⋯⋯評価、的確ですね」

 レオニスは立ち上がり、続ける。

「王宮の観測網は異変を捉えましたが、収束した速度が異常だった。あれは偶然ではない。――“制御された災害”です」

 俺は苦笑した。

「褒め言葉として受け取っていいのかな?」

「もちろんだ」

 彼は即答した。

「王は言われました。
『シュウ・タチバナは、我が国が縛る者ではない。共に考えるべき者だ』と」

 その言葉に、場の空気が和らぐ。

 ヨシュアが、ほっとしたように息を吐いた。

「⋯⋯父上らしい」

 レオニスは一歩前に出て、正式な文書を差し出した。

「王からの招待状です。協議の席に、ぜひ参加していただきたい」

 協議。 
 監視でも拘束でもない。

 フェイが俺を見て、静かに頷いた。 
 ――行くべきだ、と。



 王宮・円卓会議室。

 そこに集まっていたのは、武官、文官、魔導士長、財務卿、農務卿。 
 そして、玉座には――国王グレゴール13世。

 威圧感はあるが、目は澄んでいる。 
 老獪さよりも、現実を見る王の目だ。

 俺が一礼すると、王は手を振った。

「堅苦しい礼は不要だ、シュウ・タチバナ。余は、すでにお前に二度も命を救われている」

 一度は天然痘騒動。 
 もう一度は⋯⋯コレラ。

 王は続けた。

「結論から言おう。今回の“甘味事案”、問題ではあるが、罪ではない」

 ざわ、と空気が動く。

 王は机を軽く叩いた。

「むしろ、制御できれば、医療、労働、復興、すべてに寄与する」

 財務卿が慎重に口を挟む。

「しかし陛下、兵士に流用されれば――」

 王は即座に遮った。

「だからこそ、シュウを排除するのではなく、隣に置く」

 はっきりとした宣言だった。

 王は俺を見て、笑った。

 「聞いたぞ。“文明の暴力”と呼んだそうだな」

 俺は肩をすくめた。

 「言い得て妙でしょう?」

 王は声を上げて笑った。

 「実に的確だ。ならば我らは、その暴力を――知恵で飼いならす」

 会議は、そこから建設的に進んだ。

・甘味の段階的導入
・子供、病人向けの低魔力版
・兵士への使用は禁止、ただし研究は可
・製法はシュウ監修のもと管理

 誰も、俺を縛ろうとはしない。 
 むしろ、意見を求めてくる。

 最後に王が言った。

「シュウ・タチバナ。余はお前を、“異世界の客人”ではなく、この国の知恵袋の一つとして迎えたい」

 俺は、少し考えてから答えた。

「じゃあ1つ、忠告しておくよ」

「ほう?」

「甘い物はな、力にもなるが――人を幸せにもする」

 王は、深く頷いた。

「だからこそ、扱いを誤らぬ」

 こうして。

 スイーツは禁忌にならず、
 シュウ・タチバナは拘束されず、王国は――1つ、未来へのカードを得た。

 そして俺は思った。

 ケーキ一切れで国家が揺れるなら、次は――何が起きる?


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