元アラフィフ男の異世界転生記 〜新しい家族とともに異世界を謳歌する〜

あかいとまと

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第31話:甘味災害(スイーツ・パニック)

第31話:甘味災害(スイーツ・パニック)

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 ――その異変は、あまりにも些細な一言から始まった。

 「⋯⋯あれ?」

 最初に声を上げたのは、ネロだった。

 彼はケーキ皿を空にし、満足そうにお腹をさすりながら、首をかしげていた。  その顔色が、ほんのり赤い。

 「兄ちゃん⋯⋯なんか⋯⋯体が、あったかい⋯⋯?」

 俺はその瞬間、嫌な予感を覚えた。

 「ネロ? どうした、食べ過ぎ――」

 言い終わる前に、ネロの翡翠色の瞳が、ぱあっと光った。

 比喩じゃない。 
 本当に、淡い光を放ったのだ。

 「え?」

 次の瞬間。

 ボンッ!

 小さな爆発音と共に、ネロの周囲の空気が弾けた。 
 テーブルの上のフォークと皿が、カタカタと揺れる。

 「なっ⋯⋯!?」

 フェイが即座に剣に手をかけ、ミラは目を見開いた。

 「魔力反応⋯⋯!? しかも、異常な増幅です!」

 リオがネロを見て、はっと息を呑む。

 「兄さん⋯⋯ネロから、魔力が⋯⋯溢れてる」

 ネロ本人はというと、きょとんとしている。

 「え? オレ、なんかした?」

 してる。 
 めちゃくちゃしてる。

 その時、今度はアレンが呻いた。

 「⋯⋯おい、待て⋯⋯俺もだ」

 彼の体から、じわりと魔力の波動が漏れ出す。 
 筋肉が微妙に膨張し、床板がミシッと鳴った。

 「冗談だろ⋯⋯ただケーキ食っただけだぞ⋯⋯!?」

 ヨシュアも胸元を押さえ、青ざめた顔で呟く。

 「⋯⋯体内の魔力循環が、異常加速しています⋯⋯心臓が、速い⋯⋯!」

 フェイが即座に理解したように叫んだ。

 「シュウ様! これは⋯⋯魔力暴走の初期症状です!」

 ミラも歯を食いしばる。

 「原因は⋯⋯間違いありません⋯⋯!」

 全員の視線が、テーブルの上のケーキへと集まった。

 俺の脳裏に、地球での知識がフラッシュバックする。

 ――高カロリー
 ――糖分
 ――脂質
 ――即効性のエネルギー

 そして、この世界では。

 魔力=生命エネルギー

 「⋯⋯やっちまった」

 俺は、乾いた声で呟いた。

 「地球のケーキはな⋯⋯栄養の塊なんだよ」

 ラムが、いつになく険しい表情で九尾を広げる。

 「⋯⋯なるほど。この世界の肉体と魔力回路では、過剰な甘味は“祝福”ではなく“毒”になり得る」

 その言葉が終わるより早く。

 ドンッ!!

 今度は、リオの足元の地面が陥没した。

 「うわっ!? ちょ、俺、踏ん張っただけなのに⋯⋯!」

 ウォルフが低く唸る。

 「⋯⋯森がざわついている。
 この周囲一帯、魔力濃度が異常だ」

 フェイが叫ぶ。

 「このままでは、彼らは――魔力過多で倒れます!」

 ヨシュアが必死に息を整えながら、俺を見た。

 「シュウさん⋯⋯これが⋯⋯あなたの世界の“お菓子”なのですか⋯⋯?」

 俺は、額に冷や汗を流しながら、はっきりと答えた。

 「ああ⋯⋯文明の暴力だ。でも、地球に人は皆んな普通に食べてたぞ!?」

 ネロが涙目で言った。

 「え⋯⋯? ケーキ、美味しかっただけなのに⋯⋯」

 俺は即座に決断した。

 「全員、動くな! ミラ、魔力鎮静薬! フェイ、結界展開! ウォルフ、森の精霊を呼べ! ラム――!」

 ラムは静かに頷いた。

 「⋯⋯甘味の代償は、甘くはないな。だが安心せよ。この九尾、災害級スイーツなど何度も見てきた」

 見てきたのかよ⋯⋯。

 テラスの上で、異世界史上初の“スイーツ由来魔力災害”が、今まさに始まろうとしていた。

 俺は心の底から誓った。

 ――もう二度と、無計画にケーキを振る舞うのはやめようと。

 ⋯⋯多分。


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