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第30話:ケーキ三昧
第30話:ケーキ三昧
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テラスの長テーブルの上には、まるで夢の国から運ばれてきたかのように、色とりどりのケーキがこれでもかと並べられていた。
ふわふわと空気を含んだスポンジの上に、とろけるような生クリームがたっぷりと乗せられ、その上には鮮やかなイチゴやブルーベリーが宝石のように散りばめられ、チョコレートのリボンが優雅に巻かれている。
まるで絵本の中の王宮のデザートパーティーを彷彿とさせる光景だ。
その香りは、甘く、芳醇で、鼻をくすぐるその瞬間から、誰もが足を止めずにはいられない。
俺、シュウ・タチバナは、16歳の肉体に宿った55歳の魂として、この異世界エリュシアで、かつての地球の味を再現できるこの「異世界マーケット」の存在に心底感謝していた。
かつては、甥っ子を育て上げ、晩年は静かな田舎暮らしを送っていた。
それが、階段から落ちて死んでしまった挙句、女神エリシアに「ゴメンね~」の一言で異世界に放り出され、しかも若返ってチート能力まで与えられるという、まさに人生最大の誤算と奇跡の賜物。
そして今、このログハウスのテラスで、俺の周りには、家族と呼んでもいいような面々が、ケーキの前に集まっていた。
最初に現れたのはネロとリオだった。
二人とも風呂場から戻ってきたようで、髪はまだ少し湿っていて、湯気をまとったような肌が夕暮れの光にきらりと輝いている。
ネロは茶髪に翡翠色の瞳をきらめかせ、「兄ちゃん、それなに? めっちゃいい匂いする!」とテーブルに駆け寄り、目を丸くしてケーキを見つめる。
リオも黒髪をかきあげながら、「これ⋯⋯食べたことない。でも、なんか、すごく⋯⋯甘そうな気がする」と、未来視の瞳ではない、ただの食欲に満ちた目で見つめていた。
俺は笑いながら、「地球のケーキだ。好きに食べてもいいが、3つまでだぞ」と言うと、二人は即座に「うおぉぉぉ! やったー!」と歓声を上げ、どのケーキから手を出すかで真剣な表情を浮かべ始めた。
ネロはまず、いちごのショートケーキを手に取り、「これ、見た目が可愛い!食べてみる!」と宣言し、フォークでひとくちすくって口に入れる。
その瞬間、彼の顔が驚きと喜びでぱっと明るくなった。「うわぁ⋯⋯! なにこれ⋯⋯! スポンジがふわふわすぎて、口の中で溶ける! 生クリームも、なんか⋯⋯空気みたいに軽いのに、めっちゃ濃厚! イチゴも、この世界のより甘くて、酸っぱさがちょうどいい! まるで⋯⋯夢を食べてるとこみたい!」と、まるで初めて味覚を覚えた子供のように、目を輝かせながらしゃべり続ける。
リオは慎重にチョコレートケーキを選び、「俺はこっちがいい」と言い、一口食べた瞬間、黒い瞳が見開かれた。
「⋯⋯こ、これは⋯⋯。チョコレートが⋯⋯深くて⋯⋯。苦みと甘さが混ざって、後味に香りが残る。この世界のチョコレートって、もっとざらざらしてたけど、これは⋯⋯滑らかすぎる。まるで、舌の上で溶ける魔法みたいだ⋯⋯」と、珍しく感動の声を漏らしていた。
そこに、薬草園から戻ったミラが現れた。
金髪を後ろで結び、赤い瞳に少し汗ばんだ額を見せながら、「シュウさん、なにかいい匂いがすると思ったら⋯⋯これは一体?」とテーブルに近づき、驚いたようにケーキを見つめる。
俺が「地球のケーキだ。好きに食べてもいい」と言うと、彼女は控えめに「本当にいいんですか?」と確認してから、ティラミスを一つ選び、フォークでそっとすくった。
口に入れた瞬間、彼女の表情が凍りつき、そしてゆっくりと、まるで時間が止まったかのように、目を閉じた。
「⋯⋯これは⋯⋯。コーヒーの香りが⋯⋯鼻に抜けて⋯⋯。クリームとスポンジの層が、まるで音楽のように重なって⋯⋯。口の中で、いろんな味が広がる。この世界のケーキは、もっと固くて、噛む力が必要だけど、これは⋯⋯触れた瞬間に崩れて、喉を通る。まるで、甘い雲を食べてるみたい⋯⋯」と、声を震わせながら言った。
彼女の顔は、まるで初めて恋をしたかのように、ほんのりと赤らんでいた。
その声に反応して、アレンとヨシュア、そしてフェイも姿を現した。
アレンはいつものように肩をすくめながら、「おいおい、こんなに美味しそうな匂いを撒き散らして、俺たちを誘惑するのかよ、シュウ」と笑いながら近づき、ヨシュアは少し緊張した面持ちで、「シュウさん、これは⋯⋯もしかして、地球の⋯⋯?」と、まるで神聖な儀式に参加するかのように、声をひそめていた。
フェイは銀髪をなびかせ、碧眼に熱を宿して、「シュウ様⋯⋯この香り、私の魂まで震える⋯⋯」と、まるで騎士が聖剣を前に跪くかのような態度で、テーブルに手を置いた。
俺は「まあまあ、座れよ。今日は特別だ。だがな、これは俺たちの秘密だ。特にヨシュア、王室には絶対に言うなよ。王宮の連中が聞きつけて、このケーキを要求し始めたら、俺の平和な生活が台無しだ」と釘を刺すと、ヨシュアは慌てて「は、はい! 絶対言いません! これは⋯⋯俺たちだけの⋯⋯聖なるデザートですね⋯⋯!」と真剣な顔で誓った。
アレンは迷わずレアチーズケーキを選び、「これは見た目がシンプルだけど、香りが濃厚だな」と言い、一口食べた瞬間、眉を上げた。
「⋯⋯これは⋯⋯乳製品のコクが、後からじわじわ来る。酸味がちょうどいいバランスで、甘すぎず、でも満足感がある。この世界のチーズケーキは、もっと重くて胃もたれするけど、これは⋯⋯胃に優しい。まるで、体に染み渡る清涼剤みたいだ」と、感嘆の声を上げた。
フェイはモンブランを選び、「シュウ様の選ぶものは、どれも神の賜物に違いない」と言いながら、一口すくって口に入れる。
その瞬間、彼の表情が硬直し、そしてゆっくりと、まるで祈るように目を閉じた。
「⋯⋯栗のペーストが⋯⋯甘くて、ほくほくして⋯⋯。渋皮の風味も残っていて、まるで森の恵みそのもの⋯⋯。メレンゲの軽さと、スポンジのふんわりが、絶妙なハーモニーを奏でている⋯⋯。これは⋯⋯オナニー以上に至福の瞬間だ⋯⋯」と、まるで魂を捧げたかのような声で言った。
俺は思わず吹き出したが、周りも笑い声を上げた。
ヨシュアは少し迷っていたが、最終的にキャラメルブラウニーを選び、「これ⋯⋯見た目がちょっと怖いけど⋯⋯」と言いながら、勇気を出して一口食べた。
その瞬間、彼の銀髪が風に揺れるように、体がびくりと震えた。「⋯⋯! こ、これは⋯⋯!
チョコレートにキャラメルが混ざって⋯⋯苦くて甘くて⋯⋯。あとから、ほんのり塩味が香る⋯⋯。これは⋯⋯王宮のシェフたちが何年かけても再現できない⋯⋯。まるで、神が下したデザートのレシピそのものだ⋯⋯」と、まるで信仰心を覚えたかのように、声を震わせていた。
彼の顔は、真剣そのもので、まるでこの一口が、彼の人生を変えるかのような重みを感じていた。
俺は自分も、昔ながらのバターケーキを一つ選び、フォークで切り分けて口に入れた。
ふわっとしたスポンジが、舌の上で崩れ、バターの芳醇な香りが口いっぱいに広がる。
甘さは控えめで、でも満足感は大きく、まるで母の手作りを思い出させるような、懐かしさが胸を打つ。
「⋯⋯やっぱり、地球のケーキは最高だな」と、ひとりごちると、皆も頷きながら、それぞれのケーキを味わっていた。
「パイも食べるか?」と俺が言うと、テーブルにアップルパイとレモンタルトを追加で並べた。
その瞬間、全員の目がキラリと光った。
ネロは即座にアップルパイを手に取り、「これ、見た目がサクサクしてそう!」と一口かじる。
その瞬間、「うわあ! パイ生地が、何層にもなってて、噛むたびにサクッって音がする! リンゴは甘酸っぱくて、シナモンの香りが鼻に抜ける! この世界のパイって、もっと固くて歯が疲れるけど、これは⋯⋯噛むのが楽しくなる!」と、まるで発明をしたかのように興奮していた。
リオはレモンタルトを選び、「これ⋯⋯黄色が鮮やかだ」と言い、一口食べた瞬間、顔をしかめたが、すぐに笑みになった。
「⋯⋯酸っぱい! でも、そのあとに甘さが戻ってくる。レモンの香りが、頭をすっきりさせる。まるで、戦いの後の清涼剤みたいだ⋯⋯」と、黒狼族らしい表現で感想を述べた。
ミラはアップルパイを一口食べて、「パイ生地が、この世界のものよりずっと薄くて、でも崩れない。リンゴの水分がちょうどよくて、しつこくない。薬草園で育ててるリンゴも、こうなればいいのに⋯⋯」と、まるで研究者のように分析していた。
アレンはレモンタルトを食べて、「これは⋯⋯清涼感がすごい。戦いの後にこれがあれば、疲労が吹き飛ぶな。王宮の連中には絶対に教えたくない。俺だけの秘密だ」と、悪戯っぽく笑った。
フェイはアップルパイを食べて、「シュウ様の用意するものは、どれも私の心を震わせる。このサクサク感は、まるで敵の鎧を切り裂く剣のようだ⋯⋯」と、またもやオナニー並みの熱量で称賛した。
ヨシュアはレモンタルトを食べて、「⋯⋯これは⋯⋯王宮のデザートとは、次元が違う。酸っぱさが、私の精神を研ぎ澄ませる。次期国王として、必要な覚悟を与えてくれる⋯⋯」と、まるで儀式のように語っていた。
夕暮れの光がテラスをオレンジ色に染め、ケーキの甘い香りが風に乗って森へと運ばれていく。
遠くで銀狼のウォルフが「またお前たちの甘ったるい匂いがするな⋯⋯」と文句を言いながらも、近づいてきて、「⋯⋯ふん、まあ、一つくらいなら許可しよう」と、小さなアップルパイを一口食べた。
すると、彼の狼の顔がわずかに緩み、「⋯⋯意外に悪くないな。このサクサク感は、獲物を捕らえる瞬間の快感に似ている」と、珍しく褒めた。
九尾の銀狐ラムは、古代樹の影から現れ、「⋯⋯人間の甘味とは、また変わったものだな。だが、この精製された甘さには、生命の根源を感じる。大地の恵みが、形を変えたものか⋯⋯」と、智慧者らしい言葉を残して、静かに去っていった。
俺は皆んなの笑顔を見ながら、心の底から満たされていた。
かつての人生では、ここまで多くの人に囲まれて、こんなに単純な幸せを味わうことはなかった。
甥っ子を育てたことは誇りだが、それは責任と重圧の連続だった。
だが、ここでは違う。
俺はただ、彼らと一緒にケーキを食べ、笑い、日常の小さな喜びを分かち合っている。
異世界に転生したのは偶然かもしれないが、この瞬間は、女神の「ミス」が、俺にとっての最大の「奇跡」だったと、心から思えた。
「これからも、時々こうやって、地球のケーキを楽しもうぜ」と俺が言うと、ネロが「うん! 次はチョコレートフォンデュとかないの?」と期待満々で聞き、リオは「抹茶のケーキも食べてみたい」と未来視で見たわけでもないのに、まるで知っているかのように言った。
ミラは「私は紅茶のシフォンケーキがいいです」と控えめに希望を述べ、アレンは「俺はバームクーヘンが食いてぇな、何層にもなってんのかよ」と笑い、フェイは「シュウ様が召すものなら、全てが聖餐です」と真剣に言い、ヨシュアは「⋯⋯次は、チョコレートケーキを二つ食べてもいいですか?」と、すでにルールを破ろうとする勢いだった。
俺は笑いながら、「まあ、たまにはいいだろう。だがな、秘密は守れよ? 特に王宮にはな」と念を押すと、全員が「はい!」と声をそろえた。
その声は、夕闇に溶け込むように、静かに、でも確実に、この場所の平和を守る誓いのように響いた。
そして、テーブルの上には、まだいくつかのケーキが残っていた。
俺はそれを片付けながら、心の中で決めた。
これからも、こうやって、小さな幸せを積み重ねていこう。
ケーキ一つで笑顔になる彼らの顔を見るたび、俺は、この異世界に生まれ変わったことに、心から感謝するだろう。
そして、女神エリシアにも、いつか会ったらこう言おう。
「ゴメンね~、じゃなくて、ありがとうな」と。
ふわふわと空気を含んだスポンジの上に、とろけるような生クリームがたっぷりと乗せられ、その上には鮮やかなイチゴやブルーベリーが宝石のように散りばめられ、チョコレートのリボンが優雅に巻かれている。
まるで絵本の中の王宮のデザートパーティーを彷彿とさせる光景だ。
その香りは、甘く、芳醇で、鼻をくすぐるその瞬間から、誰もが足を止めずにはいられない。
俺、シュウ・タチバナは、16歳の肉体に宿った55歳の魂として、この異世界エリュシアで、かつての地球の味を再現できるこの「異世界マーケット」の存在に心底感謝していた。
かつては、甥っ子を育て上げ、晩年は静かな田舎暮らしを送っていた。
それが、階段から落ちて死んでしまった挙句、女神エリシアに「ゴメンね~」の一言で異世界に放り出され、しかも若返ってチート能力まで与えられるという、まさに人生最大の誤算と奇跡の賜物。
そして今、このログハウスのテラスで、俺の周りには、家族と呼んでもいいような面々が、ケーキの前に集まっていた。
最初に現れたのはネロとリオだった。
二人とも風呂場から戻ってきたようで、髪はまだ少し湿っていて、湯気をまとったような肌が夕暮れの光にきらりと輝いている。
ネロは茶髪に翡翠色の瞳をきらめかせ、「兄ちゃん、それなに? めっちゃいい匂いする!」とテーブルに駆け寄り、目を丸くしてケーキを見つめる。
リオも黒髪をかきあげながら、「これ⋯⋯食べたことない。でも、なんか、すごく⋯⋯甘そうな気がする」と、未来視の瞳ではない、ただの食欲に満ちた目で見つめていた。
俺は笑いながら、「地球のケーキだ。好きに食べてもいいが、3つまでだぞ」と言うと、二人は即座に「うおぉぉぉ! やったー!」と歓声を上げ、どのケーキから手を出すかで真剣な表情を浮かべ始めた。
ネロはまず、いちごのショートケーキを手に取り、「これ、見た目が可愛い!食べてみる!」と宣言し、フォークでひとくちすくって口に入れる。
その瞬間、彼の顔が驚きと喜びでぱっと明るくなった。「うわぁ⋯⋯! なにこれ⋯⋯! スポンジがふわふわすぎて、口の中で溶ける! 生クリームも、なんか⋯⋯空気みたいに軽いのに、めっちゃ濃厚! イチゴも、この世界のより甘くて、酸っぱさがちょうどいい! まるで⋯⋯夢を食べてるとこみたい!」と、まるで初めて味覚を覚えた子供のように、目を輝かせながらしゃべり続ける。
リオは慎重にチョコレートケーキを選び、「俺はこっちがいい」と言い、一口食べた瞬間、黒い瞳が見開かれた。
「⋯⋯こ、これは⋯⋯。チョコレートが⋯⋯深くて⋯⋯。苦みと甘さが混ざって、後味に香りが残る。この世界のチョコレートって、もっとざらざらしてたけど、これは⋯⋯滑らかすぎる。まるで、舌の上で溶ける魔法みたいだ⋯⋯」と、珍しく感動の声を漏らしていた。
そこに、薬草園から戻ったミラが現れた。
金髪を後ろで結び、赤い瞳に少し汗ばんだ額を見せながら、「シュウさん、なにかいい匂いがすると思ったら⋯⋯これは一体?」とテーブルに近づき、驚いたようにケーキを見つめる。
俺が「地球のケーキだ。好きに食べてもいい」と言うと、彼女は控えめに「本当にいいんですか?」と確認してから、ティラミスを一つ選び、フォークでそっとすくった。
口に入れた瞬間、彼女の表情が凍りつき、そしてゆっくりと、まるで時間が止まったかのように、目を閉じた。
「⋯⋯これは⋯⋯。コーヒーの香りが⋯⋯鼻に抜けて⋯⋯。クリームとスポンジの層が、まるで音楽のように重なって⋯⋯。口の中で、いろんな味が広がる。この世界のケーキは、もっと固くて、噛む力が必要だけど、これは⋯⋯触れた瞬間に崩れて、喉を通る。まるで、甘い雲を食べてるみたい⋯⋯」と、声を震わせながら言った。
彼女の顔は、まるで初めて恋をしたかのように、ほんのりと赤らんでいた。
その声に反応して、アレンとヨシュア、そしてフェイも姿を現した。
アレンはいつものように肩をすくめながら、「おいおい、こんなに美味しそうな匂いを撒き散らして、俺たちを誘惑するのかよ、シュウ」と笑いながら近づき、ヨシュアは少し緊張した面持ちで、「シュウさん、これは⋯⋯もしかして、地球の⋯⋯?」と、まるで神聖な儀式に参加するかのように、声をひそめていた。
フェイは銀髪をなびかせ、碧眼に熱を宿して、「シュウ様⋯⋯この香り、私の魂まで震える⋯⋯」と、まるで騎士が聖剣を前に跪くかのような態度で、テーブルに手を置いた。
俺は「まあまあ、座れよ。今日は特別だ。だがな、これは俺たちの秘密だ。特にヨシュア、王室には絶対に言うなよ。王宮の連中が聞きつけて、このケーキを要求し始めたら、俺の平和な生活が台無しだ」と釘を刺すと、ヨシュアは慌てて「は、はい! 絶対言いません! これは⋯⋯俺たちだけの⋯⋯聖なるデザートですね⋯⋯!」と真剣な顔で誓った。
アレンは迷わずレアチーズケーキを選び、「これは見た目がシンプルだけど、香りが濃厚だな」と言い、一口食べた瞬間、眉を上げた。
「⋯⋯これは⋯⋯乳製品のコクが、後からじわじわ来る。酸味がちょうどいいバランスで、甘すぎず、でも満足感がある。この世界のチーズケーキは、もっと重くて胃もたれするけど、これは⋯⋯胃に優しい。まるで、体に染み渡る清涼剤みたいだ」と、感嘆の声を上げた。
フェイはモンブランを選び、「シュウ様の選ぶものは、どれも神の賜物に違いない」と言いながら、一口すくって口に入れる。
その瞬間、彼の表情が硬直し、そしてゆっくりと、まるで祈るように目を閉じた。
「⋯⋯栗のペーストが⋯⋯甘くて、ほくほくして⋯⋯。渋皮の風味も残っていて、まるで森の恵みそのもの⋯⋯。メレンゲの軽さと、スポンジのふんわりが、絶妙なハーモニーを奏でている⋯⋯。これは⋯⋯オナニー以上に至福の瞬間だ⋯⋯」と、まるで魂を捧げたかのような声で言った。
俺は思わず吹き出したが、周りも笑い声を上げた。
ヨシュアは少し迷っていたが、最終的にキャラメルブラウニーを選び、「これ⋯⋯見た目がちょっと怖いけど⋯⋯」と言いながら、勇気を出して一口食べた。
その瞬間、彼の銀髪が風に揺れるように、体がびくりと震えた。「⋯⋯! こ、これは⋯⋯!
チョコレートにキャラメルが混ざって⋯⋯苦くて甘くて⋯⋯。あとから、ほんのり塩味が香る⋯⋯。これは⋯⋯王宮のシェフたちが何年かけても再現できない⋯⋯。まるで、神が下したデザートのレシピそのものだ⋯⋯」と、まるで信仰心を覚えたかのように、声を震わせていた。
彼の顔は、真剣そのもので、まるでこの一口が、彼の人生を変えるかのような重みを感じていた。
俺は自分も、昔ながらのバターケーキを一つ選び、フォークで切り分けて口に入れた。
ふわっとしたスポンジが、舌の上で崩れ、バターの芳醇な香りが口いっぱいに広がる。
甘さは控えめで、でも満足感は大きく、まるで母の手作りを思い出させるような、懐かしさが胸を打つ。
「⋯⋯やっぱり、地球のケーキは最高だな」と、ひとりごちると、皆も頷きながら、それぞれのケーキを味わっていた。
「パイも食べるか?」と俺が言うと、テーブルにアップルパイとレモンタルトを追加で並べた。
その瞬間、全員の目がキラリと光った。
ネロは即座にアップルパイを手に取り、「これ、見た目がサクサクしてそう!」と一口かじる。
その瞬間、「うわあ! パイ生地が、何層にもなってて、噛むたびにサクッって音がする! リンゴは甘酸っぱくて、シナモンの香りが鼻に抜ける! この世界のパイって、もっと固くて歯が疲れるけど、これは⋯⋯噛むのが楽しくなる!」と、まるで発明をしたかのように興奮していた。
リオはレモンタルトを選び、「これ⋯⋯黄色が鮮やかだ」と言い、一口食べた瞬間、顔をしかめたが、すぐに笑みになった。
「⋯⋯酸っぱい! でも、そのあとに甘さが戻ってくる。レモンの香りが、頭をすっきりさせる。まるで、戦いの後の清涼剤みたいだ⋯⋯」と、黒狼族らしい表現で感想を述べた。
ミラはアップルパイを一口食べて、「パイ生地が、この世界のものよりずっと薄くて、でも崩れない。リンゴの水分がちょうどよくて、しつこくない。薬草園で育ててるリンゴも、こうなればいいのに⋯⋯」と、まるで研究者のように分析していた。
アレンはレモンタルトを食べて、「これは⋯⋯清涼感がすごい。戦いの後にこれがあれば、疲労が吹き飛ぶな。王宮の連中には絶対に教えたくない。俺だけの秘密だ」と、悪戯っぽく笑った。
フェイはアップルパイを食べて、「シュウ様の用意するものは、どれも私の心を震わせる。このサクサク感は、まるで敵の鎧を切り裂く剣のようだ⋯⋯」と、またもやオナニー並みの熱量で称賛した。
ヨシュアはレモンタルトを食べて、「⋯⋯これは⋯⋯王宮のデザートとは、次元が違う。酸っぱさが、私の精神を研ぎ澄ませる。次期国王として、必要な覚悟を与えてくれる⋯⋯」と、まるで儀式のように語っていた。
夕暮れの光がテラスをオレンジ色に染め、ケーキの甘い香りが風に乗って森へと運ばれていく。
遠くで銀狼のウォルフが「またお前たちの甘ったるい匂いがするな⋯⋯」と文句を言いながらも、近づいてきて、「⋯⋯ふん、まあ、一つくらいなら許可しよう」と、小さなアップルパイを一口食べた。
すると、彼の狼の顔がわずかに緩み、「⋯⋯意外に悪くないな。このサクサク感は、獲物を捕らえる瞬間の快感に似ている」と、珍しく褒めた。
九尾の銀狐ラムは、古代樹の影から現れ、「⋯⋯人間の甘味とは、また変わったものだな。だが、この精製された甘さには、生命の根源を感じる。大地の恵みが、形を変えたものか⋯⋯」と、智慧者らしい言葉を残して、静かに去っていった。
俺は皆んなの笑顔を見ながら、心の底から満たされていた。
かつての人生では、ここまで多くの人に囲まれて、こんなに単純な幸せを味わうことはなかった。
甥っ子を育てたことは誇りだが、それは責任と重圧の連続だった。
だが、ここでは違う。
俺はただ、彼らと一緒にケーキを食べ、笑い、日常の小さな喜びを分かち合っている。
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「これからも、時々こうやって、地球のケーキを楽しもうぜ」と俺が言うと、ネロが「うん! 次はチョコレートフォンデュとかないの?」と期待満々で聞き、リオは「抹茶のケーキも食べてみたい」と未来視で見たわけでもないのに、まるで知っているかのように言った。
ミラは「私は紅茶のシフォンケーキがいいです」と控えめに希望を述べ、アレンは「俺はバームクーヘンが食いてぇな、何層にもなってんのかよ」と笑い、フェイは「シュウ様が召すものなら、全てが聖餐です」と真剣に言い、ヨシュアは「⋯⋯次は、チョコレートケーキを二つ食べてもいいですか?」と、すでにルールを破ろうとする勢いだった。
俺は笑いながら、「まあ、たまにはいいだろう。だがな、秘密は守れよ? 特に王宮にはな」と念を押すと、全員が「はい!」と声をそろえた。
その声は、夕闇に溶け込むように、静かに、でも確実に、この場所の平和を守る誓いのように響いた。
そして、テーブルの上には、まだいくつかのケーキが残っていた。
俺はそれを片付けながら、心の中で決めた。
これからも、こうやって、小さな幸せを積み重ねていこう。
ケーキ一つで笑顔になる彼らの顔を見るたび、俺は、この異世界に生まれ変わったことに、心から感謝するだろう。
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