元アラフィフ男の異世界転生記 〜新しい家族とともに異世界を謳歌する〜

あかいとまと

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第42話:星の渦の中心で揺れる影

第42話:星の渦の中心で揺れる影

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 星の道は、歩くほどに“音”を変えていった。

 最初は、砂を踏むような柔らかい音。  
 次第に、金属を擦るような硬い響きへと変わり――  
 今は、まるで遠い鐘の音が重なり合うような、透明な振動が足元から伝わってくる。

 シュウは胸の痛みを押さえながら、前を行く“闇のシュウ”を見つめた。

 黒いマントは風もないのに揺れ、その背中は、どこか“空洞”のように見えた。

 アレンが隣で息を整えながら呟く。

「⋯⋯この道、前世のときより深い」

「深い?」

「ああ。前はもっと⋯⋯乾いていた。何もない、ただの“通路”だった。今は――」

 アレンは目を細める。

「“誰かの感情”が混じっている」

 その言葉に、シュウの胸がわずかに熱を帯びた。

 ネロが後ろから声を上げる。

「兄ちゃん⋯⋯星の道が、なんか、ざわざわしてる」

 ネロの翡翠色の瞳には、無数の線が走っていた。  
 未来の断片、可能性の揺らぎ、星の流れ――  
 それらが複雑に絡み合い、ネロの視界に映り込んでいる。

 ラムの尾の光が、ネロの胸で淡く脈動した。

「ネロ、無理はするな。見えすぎると、心が持たん」

「うん⋯⋯でも、大丈夫。ラムの尾が、守ってくれてる」

 ネロの声は震えていたが、その瞳はしっかりと前を見ていた。

 リオは、胸を押さえながら歩いていた。  
 星の痛みは増しているはずなのに、足取りは乱れない。

 その背中には――  
 “何かが目覚めようとしている気配”があった。

 闇のシュウは、そんな三人を一瞥し、静かに言った。

「ここから先は、星の渦の中心だ。お前たちの“影”が試される」

「影?」

「そうだ。星の道は、光だけでは形を保てない。影があるからこそ、道は存在する。お前たちの影が弱ければ――飲まれる」

 その言葉と同時に、足元の星々がざわりと揺れた。

 まるで、何かが“目覚めた”かのように。

 道が開けた。

 そこは、空でも地でもない。  
 ただ、無数の星々が渦を巻き、中心に向かって吸い込まれていく巨大な空間だった。

 中心には――黒い球体。

 光を吸い込み、  
 影を吐き出し、  
 星の流れを歪める“核”。

 闇のシュウが、その前に立つ。

「これが⋯⋯星の渦の核。お前が転生したとき、切り捨てられた“可能性”が集まった場所だ」

 シュウは息を呑んだ。

「じゃあ⋯⋯あれは」

「ああ。俺の“墓場”だ」

 闇のシュウの声は、静かだった。

 だが、その静けさの奥には――  
長い孤独と、果てしない虚無が積み重なっていた。

 そのとき、アレンが突然膝をついた。

「アレン!」

 シュウが駆け寄ろうとした瞬間――アレンの胸から、強烈な光が溢れた。

 星の紋が浮かび上がり、  
 その光がアレンの意識を過去へと引きずり込む。

 アレンの視界に――  
 崩れ落ちる塔、  
 闇に飲まれる星空、  
 そして、倒れた“誰か”の姿が映った。

 その“誰か”は――

 闇のシュウだった。

「⋯⋯思い出した」

 アレンは震える声で呟いた。

「前世の俺は⋯⋯お前を守ろうとして死んだんだ」

 闇のシュウの瞳が揺れる。

「お前⋯⋯」

「お前は、星の流れを正すために戦って⋯⋯そして、倒れた。俺は⋯⋯その後を追ったんだ。お前を一人にしたくなくて」

 アレンの声は、痛みと後悔に満ちていた。

「なのに⋯⋯今世の俺は、お前のことを忘れて⋯⋯」

「忘れたんじゃない」

 闇のシュウは、静かに言った。

「忘れさせたんだ。星が。俺という“選ばれなかった可能性”を、お前の記憶から切り離した」

 アレンは拳を握りしめた。

「⋯⋯それでも、俺はお前を見捨てない」

 その言葉に、闇のシュウの胸がわずかに震えた。

 その瞬間――  
 星の渦が、激しく揺れた。

 リオが胸を押さえ、苦しげに息を吐く。

「っ⋯⋯兄さん⋯⋯星が⋯⋯暴れてる⋯⋯!」

 リオの身体が光に包まれた。

 骨が軋む音。  
 筋肉が伸びる音。  
 血が流れを変える音。

 獣人特有の“成長の跳躍”。

 リオの身体は、少年から青年へと一気に変化していく。

 黒髪は長くなり、  
 瞳は深い闇色に輝き、  
 背は伸び、  
 肩幅は広がり、  
 声は少し低く、落ち着いた響きへと変わった。

 星の紋が、額にくっきりと刻まれる。

 リオは息を整え、ゆっくりと顔を上げた。

「⋯⋯兄さん。俺、もう⋯⋯逃げない」

 その姿は、まるで“星の守護者”そのものだった。

 星の渦が暴れ、影が襲いかかろうとした瞬間――  
 ネロの胸の光が強く輝いた。

 ラムの尾の力が、ネロの周囲に結界を張る。

 銀色の狐火が、影を焼き払う。

「ネロ、下がってろ!」

「うん⋯⋯でも、見えるよ。兄ちゃんたちの“未来の線”が」

 ネロの瞳には、無数の未来が映っていた。

 その中には――  
 シュウが倒れる未来も、  
 闇のシュウが消える未来も、  
 アレンが再び命を落とす未来もあった。

 ネロは震えながらも、声を上げた。

「兄ちゃん⋯⋯“選ばなかった未来”が、全部ここにある!」

 闇のシュウは、星の核の前に立ち、静かに言った。

「シュウ。お前が“両方守る”と言うなら――証明してみせろ」

 黒い星光が、闇のシュウの胸から溢れ出す。

「俺は⋯⋯お前の影だ。お前が捨てた痛み、孤独、絶望⋯⋯全部、俺が背負ってきた」

 その声は、怒りでも憎しみでもなく――ただ、深い深い“悲しみ”だった。

「だからこそ⋯⋯お前の中に戻る資格があるのか、俺は知りたい」

 シュウは、胸の痛みを押さえながら前に出た。

「戻る資格なんて、最初からある」

 闇のシュウが目を見開く。

「お前は⋯⋯俺だ。  
 俺が捨てたものじゃない。  
 俺が“抱えきれなかったもの”だ」

 シュウは、手を伸ばした。

「だったら――一緒に生きよう」

 闇のシュウの影が、揺れた。

 その揺らぎは、  
 拒絶ではなく、  
 迷いでもなく――

 救われたいという、微かな願いだった。



 星の核が脈動し、  
 四人の影がゆっくりと“形”を持ち始めた。

 だが――  
 その姿は、先ほどとは違っていた。

 最初に形を成したのは、シュウの影だった。

 それは――  
 異世界に転生した直後の、15歳のシュウ。

 まだこの世界の空気にも慣れず、誰も知らず、何も持たず、ただ“生き直せと言われた”だけの少年。

 影のシュウは、震える声で呟いた。

「⋯⋯どうして⋯⋯俺は、ここに来たんだ⋯⋯」

 その声は、地球での55年の疲れと後悔を背負ったまま、突然若い身体に放り込まれた“あの日”の痛みそのものだった。

 シュウは息を呑む。

(⋯⋯そうだ。俺は最初、この世界でひとりだった)



 次に現れた影は、小さな少年の姿だった。

 痩せて、怯えて、未来が見えるせいで周囲から避けられ、孤児院の暗い部屋で膝を抱えていた頃のネロ。

「⋯⋯見えるのに⋯⋯誰も信じてくれない⋯⋯言ったら怒られる⋯⋯だから⋯⋯黙ってるしかなかった⋯⋯」

 その声は、胸を締め付けるほど弱かった。

 ネロは唇を噛む。

「⋯⋯俺⋯⋯こんな顔、してたんだ⋯⋯」



 鎖の音が響く。

 リオの影は、奴隷として扱われていた頃の姿だった。

 痩せ細り、声を出すことすら許されず、ただ命令に従うだけの“物”として扱われていた少年。

「⋯⋯自由なんて⋯⋯知らなかった⋯⋯名前を呼ばれることも⋯⋯なかった⋯⋯」

 リオは拳を震わせる。

「⋯⋯もう、戻りたくない⋯⋯」



 最後に現れたのは、アレンの影。

 それは――  
 前世のアレン。

 星の守護者として、誰にも理解されず、ただ使命だけを抱えて戦い続けた青年。

「⋯⋯守るものが⋯⋯何もなかった」

 アレンは息を呑む。

「⋯⋯俺は⋯⋯お前を⋯⋯」

 影のアレンは、闇のシュウを見つめていた。



 四つの影が、ゆっくりと本体へ歩み寄る。

 闇のシュウが低く告げた。

「影は、お前たちの“弱さ”そのものだ。逃げれば飲まれる。向き合わなければ、道は開かない」

 星の渦が揺れ、影が伸びる。

 影のシュウが叫ぶ。

「どうして⋯⋯俺を置いていったんだよ⋯⋯!」

 影のネロが泣き叫ぶ。

「助けてほしかった⋯⋯誰でもいいから⋯⋯!」

 影のリオが鎖を引きずりながら手を伸ばす。

「⋯⋯自由なんて⋯⋯知らなかった⋯⋯!」

 影のアレンが静かに呟く。

「⋯⋯孤独は⋯⋯終わらないと思っていた」

 影たちが迫る。

 そのとき――

 星の核の奥で、さらに別の揺らぎが生まれた。

 影とは違う。  
 闇のシュウとも違う。  
 もっと深く、もっと古く、もっと危険な――

 闇のシュウが、初めて声を荒げた。

「⋯⋯まずい⋯⋯“あれ”が目覚める⋯⋯!」

「“あれ”って⋯⋯何だよ!」

 シュウが叫ぶと、闇のシュウは低く答えた。

「星の道が閉ざされるとき、切り捨てられた可能性の中でも――最も深く、最も危険で、最も“歪んだ”存在。」

 星の渦が裂ける。

 光がねじれ、  
 影が震え、  
 星の核の奥から――

 “第三の存在”が、ゆっくりと姿を現し始めた。



 星の核が脈動するたび、  
 影たちの輪郭が揺れ、  
 星の渦全体が不穏な呼吸を始めた。

 影のシュウは、転生直後の不安と孤独を抱えたまま、影のネロは、孤児院で泣き声すら押し殺したまま、影のリオは、鎖の重みを引きずり、影のアレンは、前世の孤独を纏っていた。

 だが――  
 その影たちですら、星の核の奥から滲み出す“何か”に怯えているように見えた。

 闇のシュウが、低く呟く。

「⋯⋯来るぞ。“影”ですら触れられなかった、もっと深い層の存在が」

「深い層⋯⋯?」

 シュウが息を呑む。

 星の核の奥――  
 光と闇がねじれ、渦を巻き、  
 その中心に“穴”が開いた。

 そこから、声がした。

 ――⋯⋯たちばな⋯⋯ 
 ――⋯⋯しゅう⋯⋯

 聞き覚えのある声。  
 だが、どこか歪んでいる。

 ネロが震えた声で言う。

「兄ちゃん⋯⋯あれ⋯⋯“兄ちゃんの声”に似てる⋯⋯」

 リオも眉をひそめる。

「でも⋯⋯違う。兄さんの声じゃない。もっと⋯⋯冷たい」

 アレンが剣を構えた。

「これは⋯⋯“可能性”じゃない。  
 もっと根源的な⋯⋯“星の道そのものの歪み”だ」

 闇のシュウが、初めて焦りを見せる。

「星の道は、本来“選ばれなかった可能性”を吸収し続ける。だが⋯⋯長い年月の中で、吸収しきれなかった“残滓”が溜まることがある」

「残滓⋯⋯?」

「ああ。それはもう“可能性”ですらない。名前も、形も、未来も持たない――ただの“歪み”」

 星の核が裂けた。

 そこから現れたのは――

 それは、人の形をしていなかった。

 黒い霧が凝縮し、  
 星の光を吸い込み、  
 影のようでありながら、影ではない。

 だが――  
 その中心に、ひとつだけ“目”があった。

 星のように輝く、  
 しかし光を放たず、  
 ただ全てを見下ろすような、冷たい目。

 ネロが息を呑む。

「⋯⋯未来の線が⋯⋯見えない⋯⋯!」

 予知眼を持つネロが、未来を読めない。

 それはつまり――  
 この存在は“未来を持たない”ということ。

 リオが低く唸る。

「⋯⋯兄さん。あれ⋯⋯“生き物”じゃない」

 アレンが剣を握りしめる。

「星の道が長い年月で溜め込んだ“歪み”。名前も、意思も、目的もない。ただ――“存在してしまった”だけのもの」

 闇のシュウが言葉を継ぐ。

「そして⋯⋯“存在してしまった以上”、何かを喰わなければ形を保てない」

 その瞬間、  
 黒い霧が四人の影へと伸びた。

 影のシュウが悲鳴を上げる。

「やめろ⋯⋯! 俺を⋯⋯喰うな⋯⋯!」

 影のネロが泣き叫ぶ。

「いやだ⋯⋯消えたくない⋯⋯!」

 影のリオが鎖を引きずりながら後ずさる。

「⋯⋯戻りたくない⋯⋯戻りたくない⋯⋯!」

 影のアレンは、静かに目を閉じた。

「⋯⋯また⋯⋯孤独に⋯⋯」

 黒い霧が影たちを飲み込もうとする。

「やめろッ!」

 シュウが叫び、星光を放つ。

 胸の奥の星が脈動し、星の道全体が震えた。

 黒い霧が一瞬だけ後退する。

 闇のシュウが驚いたように目を見開く。

「⋯⋯お前⋯⋯“影”を守るつもりか?」

「当たり前だろ」

 シュウは影の自分を見た。

 転生直後の孤独を抱えた少年。  
 地球での後悔を抱えた大人の残滓。

「こいつは⋯⋯俺だ。“選ばなかった俺”でも、“捨てた俺”でもない」

 黒い霧が、星光を吸い込みながらシュウへと迫る。

 影たちを喰らおうとしていた霧が、今度は“本体”へと狙いを変えたのだ。

 ネロが叫ぶ。

「兄ちゃん、来るッ!」

 リオが前に出ようとするが、アレンが腕で制した。

「駄目だ、リオ! あれは……“触れたら終わり”だ!」

 黒い霧は、意思がない。  
 だからこそ、止まらない。  
 ただ“存在”を奪うために伸びてくる。

 闇のシュウが叫ぶ。

「シュウ! 影を守るなら――“歪み”そのものを揺らせ!」

「揺らすって⋯⋯どうやって!」

「お前の“選択”でだ!」

 黒い霧が、シュウの胸元へ迫る。

 星光が脈動し、星の道全体が震えた。

 影のシュウが、震える声で叫ぶ。

「⋯⋯俺は⋯⋯置いていかれたんじゃないの⋯⋯?」

 影のネロが泣きながら手を伸ばす。

「助けてほしかった⋯⋯誰でもいいから⋯⋯!」

 影のリオが鎖を引きずりながら叫ぶ。

「⋯⋯自由なんて⋯⋯知らなかった⋯⋯!」

 影のアレンは、静かに呟く。

「⋯⋯孤独は⋯⋯終わらないと思っていた」

 影たちは、黒い霧に怯えながらも、シュウの言葉を待っていた。

 黒い霧が触れようとした瞬間――

 シュウは、影の自分を抱き寄せた。

「⋯⋯お前は、俺だ。  
 捨てたんじゃない。  
 “乗り越えた”んだ」

 影のシュウが、驚いたように目を見開く。

「⋯⋯乗り越え⋯⋯?」

「お前がいたから、今の俺がいる。孤独も、不安も、後悔も⋯⋯全部、俺の一部だ」

 影のシュウの瞳が揺れ、  
 黒い霧が一瞬だけ後退する。

 シュウは続けた。

「ネロの影も、リオの影も、アレンの影も――全部“選ばなかった未来”じゃない。“俺たちが歩いてきた道の途中”だ」

 影たちが、静かに顔を上げる。

 その瞬間――  
 影たちの身体が、淡い光を帯び始めた。

 影のネロが、涙を拭いながら呟く。

「⋯⋯兄ちゃん⋯⋯俺⋯⋯消えたくない⋯⋯」

「消えない。お前は“過去のネロ”じゃない。“今のネロを作った大事な一部”だ」

 影のネロの瞳に、初めて光が宿る。

 影のリオが鎖を握りしめる。

「⋯⋯俺⋯⋯自由になりたかった⋯⋯」

「なったじゃないか。今のお前は、もう鎖なんてついてない」

 影のリオの鎖が、音もなく砕け散る。

 影のアレンが、静かに目を閉じる。

「⋯⋯孤独は⋯⋯終わらないと思っていた」

「終わったよ。お前は今、俺たちと一緒にいる」

 影のアレンの身体が、星光に包まれる。

 影たちが光を帯びるほどに、  
 黒い霧は激しく震え始めた。

 まるで――  
 “喰えるはずの影が光に変わっていく”ことに、耐えられないかのように。

 霧の中心の“目”が、シュウを睨む。

 ――⋯⋯タチバナ⋯⋯ 
 ――⋯⋯シュウ⋯⋯
 ――⋯⋯ナゼ⋯⋯ユルス⋯⋯

 声が、歪んだ星の響きで響く。

 闇のシュウが低く呟く。

「⋯⋯あれは“理解できない”んだ。影が光に変わることを。“歪み”には、選択も、赦しも、意味もない」

 黒い霧が、怒りのように渦を巻く。

 星の渦全体が震え、  
 空間が軋む。

 アレンが剣を構えた。

「来るぞ⋯⋯!」



 黒い霧が、ついに形を変えた。

 霧が凝縮し、  
 星光を吸い込み、  
 巨大な“影の獣”のような姿を取る。

 だが、その中心には――  
 相変わらず“目”がひとつ。

 未来を持たない、  
 名前もない、  
 ただ存在してしまった“歪み”。

 ネロが震える声で言う。

「兄ちゃん⋯⋯あれ⋯⋯“未来の線”が一本もない⋯⋯生き物じゃない⋯⋯!」

 リオが低く唸る。

「⋯⋯兄さん。あれは⋯⋯“倒す”とかじゃない。“正す”しかない⋯⋯!」

 闇のシュウが頷く。

「そうだ。あれは敵ではない。だが、放置すれば星の道そのものを喰い尽くす」

 黒い獣が、咆哮を上げた。

 星の渦が裂け、  
 影たちが光に包まれ、  
 シュウの胸の星光が――  
 かつてないほど強く脈動する。

「⋯⋯だったら――」

 シュウは一歩前に出た。

 影たちが、背中に寄り添うように光を放つ。

「俺が――“歪み”を正す!」

 黒い獣が、星の渦を揺らしながら突進してくる。

 アレンが剣を構え、  
 リオが爪を光らせ、  
 ネロが未来の線を読み、  
 闇のシュウが黒い星光を構える。

 そして――

 星の道の中心で、  
 “歪み”との戦いが始まった。



 黒い獣のような“歪み”が、星の渦を揺らしながら突進してくる。

 星光を吸い込み、  
 影を喰らい、  
 存在そのものを削り取る――  
 そんな“無”の塊。

 シュウは胸の星光を輝かせ、真正面から立ち向かった。

「来いよ⋯⋯! 俺はもう、影も過去も捨てない!」

 黒い獣が咆哮し、星の道が震える。

「シュウ、右だ!」

 アレンが叫び、剣を振り抜く。

 星光を帯びた刃が黒い霧を裂き、獣の肩口に深い傷を刻んだ。

 だが――

 傷口は、すぐに“無”へと戻るように閉じていく。

「⋯⋯やっぱり、普通の攻撃じゃ通らないか」

 アレンが歯を食いしばる。

 闇のシュウが低く言う。

「“歪み”には形がない。だからこそ、形を持つ攻撃は意味をなさない」

「じゃあ、どうすれば⋯⋯!」

「“選択”だ。お前が影を赦したように――“歪み”にも揺らぎを与えろ!」

 黒い獣がリオへ向かって跳ねた。

「リオ、下がれ!」

「⋯⋯下がらない!」

 リオの身体が星光に包まれ、青年へと成長した姿がさらに輝きを増す。

 黒狼族の血が、星の守護者の血と共鳴し、リオの爪が星光を帯びた。

「兄さんの未来を⋯⋯奪わせない!」

 リオが跳躍し、獣の顔面へ爪を叩き込む。

 星光が爆ぜ、黒い霧が散った。

 だが――  
 霧はすぐに再構築される。

 リオは息を荒げながら言った。

「⋯⋯兄さん。あれ⋯⋯“痛み”を感じてない」

「痛み⋯⋯?」

「うん。俺たちが何をしても、あれは“反応”してるだけ。意思がない。ただ……喰うために動いてる」

 ネロが震える声で続ける。

「未来の線も⋯⋯一本も見えない⋯⋯“選択肢”がない存在なんだ⋯⋯!」

 ネロの翡翠色の瞳が、星光に照らされて揺れる。

「兄ちゃん⋯⋯見える⋯⋯!」

「何が見える!」

「“歪み”の中心⋯⋯あれは⋯⋯“誰かの可能性”じゃない⋯⋯“誰のものでもなかった未来”が溜まって⋯⋯形になっちゃったんだ⋯⋯!」

 闇のシュウが頷く。

「そうだ。星の道は、選ばれなかった可能性を吸収する。だが、あまりに多くの“行き場のない未来”が溜まると――こうして“歪み”として形を持つ」

「じゃあ⋯⋯あれは⋯⋯」

「“誰にも選ばれなかった未来の塊”だ」

 ネロが息を呑む。

「⋯⋯だから⋯⋯未来が見えないんだ⋯⋯“誰の未来でもない”から⋯⋯!」

 そのとき――  
 光を帯びた影たちが、シュウの背後に立った。

 影のシュウが、震えながらも言う。

「⋯⋯俺は⋯⋯消えたくない⋯⋯でも⋯⋯お前の邪魔にもなりたくない⋯⋯」

「邪魔じゃない。お前がいたから、今の俺がいる」

 影のシュウの瞳が揺れ、光が強くなる。

 影のネロが、涙を拭いながら言う。

「兄ちゃん⋯⋯俺⋯⋯あの頃の俺を⋯⋯嫌いだった⋯⋯でも⋯⋯兄ちゃんが拾ってくれたから⋯⋯今の俺がいる⋯⋯」

 影のリオが鎖を握りしめる。

「⋯⋯俺は⋯⋯自由になりたかった⋯⋯兄さんが⋯⋯自由をくれた⋯⋯」

 影のアレンが静かに言う。

「⋯⋯孤独は⋯⋯終わった。今の俺は⋯⋯一人じゃない」

 影たちの光が、黒い獣の動きを鈍らせる。

 “歪み”は、光を嫌う。

 光は“選択”の象徴だからだ。

 シュウの胸の星光が、これまでにないほど強く脈動した。

 星の道全体が震え、  
 黒い獣が苦しげに後退する。

「⋯⋯これは⋯⋯?」

 闇のシュウが目を見開く。

「シュウ⋯⋯お前⋯⋯“星の道そのもの”と繋がり始めている⋯⋯!」

「繋がる⋯⋯?」

「影を赦し、過去を受け入れ、“歪み”に揺らぎを与えようとしている。それは――星の道の本質だ」

 星光が、シュウの身体から溢れ出す。

 黒い獣が、初めて“怯えた”ように後退した。

 ネロが叫ぶ。

「兄ちゃん⋯⋯! “歪み”が⋯⋯兄ちゃんの光を怖がってる⋯⋯!」

 だが――  
 黒い獣は、次の瞬間、形を変えた。

 霧が凝縮し、  
 星光を吸い込み、  
 巨大な“口”を開く。

 その口は――  
 星の道そのものを喰らおうとしていた。

 アレンが叫ぶ。

「まずい! あれが星の道を喰ったら――俺たち全員、帰れなくなる!」

 リオが爪を構える。

「兄さん⋯⋯!」

 ネロが未来の線を読み、震える声で言う。

「兄ちゃん⋯⋯! “今のままじゃ勝てない”って未来が⋯⋯多すぎる⋯⋯!」

 黒い獣が、星の道へ噛みつこうとした瞬間――

 シュウが叫んだ。

「だったら――俺が“道”を繋ぐ!」

 星光が爆ぜ、シュウの身体が光に包まれた。

 星の道が、シュウの足元から広がっていく。

 黒い獣が咆哮し、  
 星の渦が裂け、  
 影たちが光を放ち――

 星の道の中心で、決戦が始まった。



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