役に立たなくていいと思っていた俺の生活魔法が、国を静かに変え始めるまで―追放された生活魔法使いの、村から始まるスローライフ

夜澄 文

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第六話 分からないまま、続いている

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 視察団が村に滞在する三日目だった。

 俺の生活は変わらない。
 朝、起きて、水を見て、食事を作り、頼まれたことを片付ける。

 ただ、作業の途中で立ち止まっている人間が増えた。

 畑の脇。
 水路の端。
 倉庫の入口。

 視線が、作業ではなく「手順」に向いている。

 慣れていない感覚だった。

 午前中、共同倉庫で保存箱の入れ替えをしていると、護衛の一人が近づいてきた。

「……それは、毎日やっているのか」

「箱の状態次第です」

「一人で?」

「ええ」

 護衛は、それ以上聞かなかった。
 だが、離れた後も、距離を取って見ている。

 昼、食事をしていると、ロランが隣に座った。

「視察の人たち、何を見てるんだ?」

「さあ。税と治安じゃないですか」

「……そうか?」

 ロランは納得していない顔だった。

「前に、王都の役人が来たときは、こんな見方じゃなかった」

 その違いが、俺には分からない。

 午後、雨が降った。

 屋根と水路の状態を確認する。
 調整は最小限でいい。

 だが、その様子を、側近らしき男がじっと見ていた。

「……魔力の流し方が、均一ですね」

「そうですか?」

「普通は、場所ごとに切り替える」

 言われて、少し考えた。

「面倒では?」

 男は言葉を失った。

 夕方、村の女たちが集まっていた。

「最近、洗濯が楽すぎる」
「水が変わらない」
「前は、こんなに持たなかった」

 声は小さいが、内容ははっきりしている。

「……あの人がいなくなったら?」

 誰かが言った。

 返事はなかった。

 俺は、その輪に入らず家に戻った。

 夜、保存棚を整理しながら、考える。

 視察は、長引いている。
 普通なら、もう終わっているはずだ。

 だが、誰も何も言わない。

 翌日、王女が水路の前に立っていた。

「少し、歩いても?」

「構いません」

 二人で並んで、水の流れを見る。

「この状態を、どれくらい維持していますか?」

「特に数えていません」

「……調整は?」

「必要だと思ったときだけ」

 王女は、水面に映る空を見ていた。

「村人は、不安がっています」

「何か、問題が?」

「問題が起きない理由が、分からないからです」

 その言葉は、理解できた。

 だが、答えは出せない。

「私は、命令できません」

 唐突に、王女は言った。

「この立場では、あなたに何かを強いる権限がない」

「それは……」

「だから、今は見ています」

 視線が、俺ではなく、村全体に向けられる。

「生活が、誰によって、どのように支えられているのか」

 その夜、側近と護衛が低い声で話しているのを聞いた。

「数字に出ない」
「だが、確実に違う」
「一人分の魔法じゃない」

 俺は、聞かなかったことにした。

 理解できない話題に、意味はない。

 数日後、視察団が出立する準備を始めた。

 村人は落ち着かない様子だった。

「……連れていかれるのか?」

 そんな声も聞こえる。

「何を?」

「……あの人だ」

 俺は、家の前で荷を整理していた。

 特に変わったことはしていない。
 出かける予定もない。

 ただ、村の空気が、少し重い。

 生活は、回っている。
 それだけは、変わらない。

 ――第五王女視点。

 彼は、自分の価値を理解していない。
 それが、最大の問題であり、最大の強みだ。

 生活魔法は、戦えない。
 だが、国は生活でできている。

 私には、まだ力がない。
 命令も、即断もできない。

 だからこそ、
 「選択」を用意する必要がある。

 価値が先にあり、
 気付くのは、いつも後だ。
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