9 / 39
プロローグ
櫻の坂を登る
しおりを挟む
――薫――
静寂は、いつまでも続くと思った。
帰還した十一人の先輩たち――G1の英雄たちでさえ、目に光を宿していない。
訓練場の隅で、志野が膝を抱えている。私はその横に座り込んだ。
「志野……」
声をかけると、彼女は笑った。
笑顔――の形をした、ひび割れた何か。
「帰ってきたのにさ。喜べばいいのに……なんでだろ」
私は返せない。
喉が強く締めつけられる。
志野の視線が、遠くの先輩たちへ向けられる。
皆、うつむいたまま、誰も口を開かない。
「エースがいないから?」
「……それだけじゃない」
志野は拳を握りしめる。
「勝てなかったんだよ。あの人たちでも。だったら……私たちなんて」
途切れた声が、小さく震えた。
私は横を見る。
志野の目は、涙の寸前で止まっていた。
「それでも……やるしかない、んだよね」
自分に言い聞かせるみたいだった。
司令官がゆっくりと訓示台に立つ。
その足音だけで、ざわめいていた訓練場が静まり返った。
全員の視線が、一点に吸い寄せられる。
「本日をもって――ゼルコヴァ小隊は解散する。」
短く、断定的な言葉。
その瞬間、ざわり、と空気が揺れた。
息を呑む音、
唇を噛む音、
誰かの肩が震える気配。
エースであるエリサを中心に編成され、数々の戦果を挙げてきたゼルコヴァ小隊。
しかしエリサを失った今、その戦略と戦術では、もはや増大し続ける「ヘイト」との戦闘を継続することは困難――
司令部は、そう結論づけたのだ。
沈黙の中、司令官は視線を巡らせる。
そこにいるのは、勝ち続けてきた英雄たちと、まだ未熟な未来の担い手たち。
「しかし――希望は、まだ残っている。」
その言葉に、わずかに空気が動く。
「G1の一部と、G2を中心に、新たな戦略と戦術を編成する。
ゼルコヴァ小隊は解体し、ここに――櫻小隊を結成する」
静かだが、力のこもった声だった。
「次の戦いを担うのは、お前たちだ。
この世界の“続き”を選ぶのも、守るのも――お前たち自身だ。新たな櫻小隊に参加するかどうかはお前たちの意思に委ねる」
訓練場に立つ少女たちは、誰も声を上げなかった。
ただ、胸の奥で何かが確かに切り替わる音だけが、はっきりと響いていた。
横で志野が、ゆっくりと立ち上がる。
彼女の指先が、私の袖をまた掴んだ。
「薫、どうする……?」
「どうしたい?」じゃない。
「どう生きるか」が問われている。
私は――手を伸ばす。
恐怖よりも、強く。
「行こう。志野」
志野が大きく息を吐いて、笑った。
今度は、ちゃんとした笑顔で。
「……うん。じゃあ、一緒に咲こう。櫻みたいに」
訓練区画から本部へ続く坂道。
風が吹き抜け、舞い落ちた櫻の花びらが足元を滑る。
登れば、もう戻れない。 それでも。
(憧れに、追いつくために)
一歩踏み出す。 次の一歩。
そして――私たちは、欅並木の通りを曲がり、櫻の舞う坂を登っていった。
~ Sakura Generation ~
静寂は、いつまでも続くと思った。
帰還した十一人の先輩たち――G1の英雄たちでさえ、目に光を宿していない。
訓練場の隅で、志野が膝を抱えている。私はその横に座り込んだ。
「志野……」
声をかけると、彼女は笑った。
笑顔――の形をした、ひび割れた何か。
「帰ってきたのにさ。喜べばいいのに……なんでだろ」
私は返せない。
喉が強く締めつけられる。
志野の視線が、遠くの先輩たちへ向けられる。
皆、うつむいたまま、誰も口を開かない。
「エースがいないから?」
「……それだけじゃない」
志野は拳を握りしめる。
「勝てなかったんだよ。あの人たちでも。だったら……私たちなんて」
途切れた声が、小さく震えた。
私は横を見る。
志野の目は、涙の寸前で止まっていた。
「それでも……やるしかない、んだよね」
自分に言い聞かせるみたいだった。
司令官がゆっくりと訓示台に立つ。
その足音だけで、ざわめいていた訓練場が静まり返った。
全員の視線が、一点に吸い寄せられる。
「本日をもって――ゼルコヴァ小隊は解散する。」
短く、断定的な言葉。
その瞬間、ざわり、と空気が揺れた。
息を呑む音、
唇を噛む音、
誰かの肩が震える気配。
エースであるエリサを中心に編成され、数々の戦果を挙げてきたゼルコヴァ小隊。
しかしエリサを失った今、その戦略と戦術では、もはや増大し続ける「ヘイト」との戦闘を継続することは困難――
司令部は、そう結論づけたのだ。
沈黙の中、司令官は視線を巡らせる。
そこにいるのは、勝ち続けてきた英雄たちと、まだ未熟な未来の担い手たち。
「しかし――希望は、まだ残っている。」
その言葉に、わずかに空気が動く。
「G1の一部と、G2を中心に、新たな戦略と戦術を編成する。
ゼルコヴァ小隊は解体し、ここに――櫻小隊を結成する」
静かだが、力のこもった声だった。
「次の戦いを担うのは、お前たちだ。
この世界の“続き”を選ぶのも、守るのも――お前たち自身だ。新たな櫻小隊に参加するかどうかはお前たちの意思に委ねる」
訓練場に立つ少女たちは、誰も声を上げなかった。
ただ、胸の奥で何かが確かに切り替わる音だけが、はっきりと響いていた。
横で志野が、ゆっくりと立ち上がる。
彼女の指先が、私の袖をまた掴んだ。
「薫、どうする……?」
「どうしたい?」じゃない。
「どう生きるか」が問われている。
私は――手を伸ばす。
恐怖よりも、強く。
「行こう。志野」
志野が大きく息を吐いて、笑った。
今度は、ちゃんとした笑顔で。
「……うん。じゃあ、一緒に咲こう。櫻みたいに」
訓練区画から本部へ続く坂道。
風が吹き抜け、舞い落ちた櫻の花びらが足元を滑る。
登れば、もう戻れない。 それでも。
(憧れに、追いつくために)
一歩踏み出す。 次の一歩。
そして――私たちは、欅並木の通りを曲がり、櫻の舞う坂を登っていった。
~ Sakura Generation ~
1
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる