Sakura Generation  ~絶望を希望に変える少女たち~

にわかばでぃ

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第一章 誰のせいでもない

なぜ恋?

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――紫鈴しりん――

山口市の中心にそびえる塔は、夜でも黒々と空を切り裂いていた。
あの最上階にあるマスターコンピューターを落とせば、この一帯は解放される。

わかっている。

わかっているからこそ、前日の夜に聞こえてきた声が、やけに耳についた。
「ねえねえ、もし戦争が終わったらさ――」
「それって、告白するタイミングじゃない?」
「えー! 凛ちゃん大胆!」
華、志野、凛。

三人は簡易ベッドを囲んで、ひそひそ、でも楽しそうに笑っている。
……恋バナ。

私は部屋の入口で立ち止まり、ため息をひとつ吐いた。
「ねえ紫鈴も来なよ」
「聞いてほしいんだけど!」

振り返って、言葉を投げる。
「……盛りのついた猫みたい」

一瞬の沈黙。

そして「ひどーい!」という声を背に、私は踵を返した。

戦闘前に、恋の話?
そんな余裕があるなら、作戦を一回でも多く頭に叩き込むべきでしょう。

部屋に戻り、壁にもたれて目を閉じる。
(浮かれて足をすくわれるくらいなら、最初から期待しない方がいい)

そう、私はそういう人間だ。
終わらせるために戦う。
感情は、そのあとでいい。

――翌日。

夜明けとともに、塔への攻略が始まった。
防衛ドローン、地上ユニット、即席の迎撃陣地。

それらを一つずつ潰し、私たちはついに塔の内部へ踏み込む。
「……ここが、1階」
高い天井。

中央に最上階まで続く吹き抜け。
そして――螺旋階段。

上を見上げた瞬間、空気が変わった。

――ゴォォン……。

低く、重い鐘の音。
それが、吹き抜けを伝って降りてくる。

「……嫌な音」
「上に、いるね」

次の瞬間だった。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ――!
「来る!!」

雨。
違う、弓矢だ。

上階から、無数の矢が降り注ぐ。
螺旋階段の途中で、私たちは張り付けにされた。

「前に出られない!」
「上から全部見られてる……!」
敵は、待っていた。
ここを通らなければ上へ行けないと、最初から知っていた。

――そのとき。
「下がって。視界、奪うよ」
華の声。

次の瞬間、空気が柔らかく震えた。

桜雲季節フォーリン・ブロッサム――桜霞》

一面に広がる、淡い桜吹雪。
吹き抜けいっぱいに花弁が舞い、上階の敵の輪郭が消える。

「今だ……!」
私は、足に力を込めた。
――速く。
――誰よりも。

螺旋階段を蹴るたび、視界が流れる。
矢が掠める。
風を切る音が耳元を裂く。

(止まるな)
心拍と階段の段数が重なっていく。
桜吹雪の向こうに、最上階が見えた。
最後の一段を踏み抜き、私はそこに立つ。

最上階。

鐘の正体。
そして――マスターコンピューター。

背後から、仲間の声が遠く聞こえた。
私は、剣を握り直す。
「……ここからは、私の仕事」

終わらせる。
この鐘を。
この塔を。
紫鈴は、一歩、前へ踏み出した。

■□■□■□特殊能力解説■□■□■□

華(はな)

特殊能力:桜雲季節(フォーリン・ブロッサム)

華の「桜雲季節」は、四季を帯びた桜の気象領域を展開し、戦場そのものを季節で塗り替える広域制御能力である。
半径20~40メートルに及ぶフィールドは、春夏秋冬のモードを切り替えることで異なる効果を発揮する。
 春《桜霞》では味方の精神を安定させ回復を促し、敵の視界と行動を鈍らせる。
 夏《炎陽桜》は継続的な焼灼ダメージを与えるが、味方にも消耗を強いる諸刃の剣。
 秋《落桜刃》では桜の刃が舞い、中距離範囲に高火力の斬撃を放つ。
 冬《吹雪桜》は敵の可動率を著しく低下させ、ドローンなどの空中兵器を落下させる効果を持つ。
能力の根底にあるのは「季節は必ず過ぎ去る」という思想であり、華の穏やかで癒し系な性格とは裏腹に、戦場に“移ろい”を静かに突きつける力でもある。やさしい微笑みの裏で、最も非情な現実を示す能力だと言える。

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