Sakura Generation  ~絶望を希望に変える少女たち~

にわかばでぃ

文字の大きさ
14 / 39
第一章 誰のせいでもない

青い月の夜に

しおりを挟む
――薫――

山口県が解放された、その夜。

空には、どこか不自然なほど澄んだ青い月が浮かんでいた。
祝勝のざわめきから少し離れた瓦礫の影で、薫は一人、膝を抱えて座っていた。

胸の奥が、痛いほど重い。
センターとして前に立ち、声を張り、皆を導く
――その役目の重さが、ようやく現実としてのしかかってきた。

(私なんかが……)

先輩たちに支えられて、助けられて、命を守られて。
それなのに、自分は本当に“センター”としてふさわしかったのか。
感謝と申し訳なさと、期待に応えなければならないという重圧が、涙となって溢れ落ちる。

声を殺して泣く薫の隣に、気配がそっと近づいた。

「……眠れないの?」

美園だった。
問いかけは優しく、夜の静けさを壊さないように小さかった。

薫は答えず、体育座りのまま膝に顔を埋める。
言葉にした瞬間、きっと壊れてしまう気がして。

美園は何も言わず、隣に腰を下ろした。
しばらく、青い月を見上げる。

やがて、美園が静かに口を開いた。

「ね……鹿児島の話、したことあったっけ」

淡々とした声だった。
けれど、その奥に沈んだものを、薫は感じ取った。

鹿児島でのBAN。
ヘイトの襲撃。燃える学校。逃げ惑う友人たち。

「郊外に逃げれば助かるって、思ってたんだ」

一人、また一人と、ヘイトに飲み込まれていく。
最後に残ったのは、たった一人の親友。

「その夜も……青い月だった」

月明かりの下で、親友が引き裂かれる。
叫ぶことしかできなかった、美園。

「その瞬間、能力が出たの」

凍りつくヘイト。
空手で砕いた敵。

「でもね……」

声が、わずかに震えた。

「守れたのに、遅かった。
 どうして、もっと早く力が出なかったのかって……」

美園はそこで言葉を詰まらせた。

「それからずっと、青い月の夜になると、自分が許せなくなる」

静寂。

風が瓦礫を鳴らし、月が二人を照らす。

薫は、ゆっくりと顔を上げた。
涙で滲んだ視界の向こうに、美園がいた。

(……私だけじゃない)

苦しんでいるのは、自分だけじゃない。
誰もが、守れなかった過去を抱え、恐れを抱いて、それでも前に立っている。

薫は、そっと美園の手を握った。

「……私、全部背負おうとしてた」

震える声で、でもはっきりと。

「でも……チームなんだよね。
 だから私は、私にできることを、最後までやる」

センターとして。
仲間の一人として。

美園の瞳から、堪えていた涙があふれ落ちた。

次の瞬間、二人は強く抱き合っていた。

声を殺すこともなく、遠慮もなく。
青い月の下で、子どもみたいに泣きじゃくる。

失ったものも、恐れも、後悔も。
それでも――今、ここに生きている。

青い月は黙って、二人を照らし続けていた。




■□■□■□特殊能力解説■□■□■□

美園(みその)

特殊能力:極寒喫茶(クール・プロトコル)

美園の「極寒喫茶」は、戦場に“冷静さ”と“秩序”をもたらす極低温制御能力である。
能力が発動すると、周囲はまるで静かな喫茶店のように音と熱が吸い取られ、空間全体の温度と動作速度が緩やかに低下する。
美園自身が冷静沈着で観察力に優れるため、敵の癖や動線を見抜き、最も効果的な位置に冷気を配置できる。
空手による近接戦闘では、冷却された敵の動きを正確に捉え、最小限の力で制圧する。
冷気の濃度を上げると防御力の高い宇宙服のようなシールドが形成される。
極限環境でも崩れない所作と知性が能力に反映されており、極寒喫茶は美園の「静かな支配」を象徴する能力である。
戦場において彼女が立つ場所は、常に秩序に包まれる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...