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第三章 流れ弾
無言の宇宙
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――莉乃――
松山攻略。
本来なら、G1の莉莎子先輩がセンターを務めるはずだったフォーメーション。その真ん中に、今日は――私が立っている。
月明かりが、コスチュームを淡く照らしていた。
浴衣みたいなデザインのドレスは、袖も裾もやわらかくて、歩くたびにふわりと揺れる。夜風を含んだ生地が肌をなぞるたび、現実感が少しずつ遠のいていく気がした。
G2だけでの攻略。
櫻小隊を、私が導く。
胸の奥が、きゅっと縮む。
(失敗したらどうしよう)
(みんな、私についてきてくれてるのに……)
考えれば考えるほど、足元が不安定になる。
そんなときだった。
「莉乃」
振り向くと、絵理奈がいた。
月明りの中で、静かに私を見ている。
「大丈夫。あんたなら、ちゃんとやれるって。」
それだけ。
なのに、不思議と息が楽になった。
「……ありがとう」
そう返した瞬間、胸が少しだけ跳ねる。
(なんでやろ……)
前から、ほんの少しだけ気になってた。
弓を構える横顔とか、索敵に集中してるときの真剣な表情とか。
でも、今は考えたらだめ。ちゃんとしなきゃ。
深夜の松山。
廃ビル群は、影の塊みたいに沈黙していた。
「敵影……今のところ、なし」
精神感応で、みんなの存在は感じられる。
なのに――姿が、見えない。
ビルの間を抜けるたび、誰かが視界からすっと消えていく。
(……え?)
慌てて意識を集中させる。
いる。ちゃんと、そこにいる。
でも、見えない。音もしない。
まるで、真空の宇宙に放り出されたみたいだった。
(落ち着こう……大丈夫……)
そう思った瞬間――。
感応が、大きく揺れた。
「――志野ちゃん!?」
「公子!?」
返事が、ない。
戦闘不能?
喉が、ひゅっと鳴る。
薫と凛の気配が激しく揺れている。攻撃を防いでる。でも――連携が取れない。
自分の腕が、突然消えたかと思うと、次の瞬間また現れる。
(なに……これ……)
怖い。
視界が信用できない。
そのとき、ほんの一瞬、空気の歪みが見えた。
(……あ)
意識が、静かに研ぎ澄まされていく。
――《微細観察》。
世界が、細かく分解される。
見えないはずの輪郭が、少しずつ浮かび上がる。
(光学迷彩……)
敵だけじゃない。
私たち自身も、包み込まれている。
「……そうだったんだ」
小さく、息を吐く。
「絵理奈。敵が見えた。配置、共有するね」
次の瞬間、絵理奈の《確信焦点》が重なった。
感覚が、繋がる。
見えない敵の位置が、意識の中に層状に鮮明に浮かぶ。
視覚がなくても、迷わない。
「……いける。みんな、いけるよ」
自然と、声が出た。
仲間たちの姿は、相変わらず消えたり現れたりしている。
それでも、動きは揃っていた。
斬撃。
矢が放たれる音。
衝撃。
一体、また一体と、確実に敵が沈黙していく。
最後のヘイトが崩れ落ちたとき、月明りだけが静かに廃墟を照らしていた。
――愛媛エリア、解放。
戦闘後。
瓦礫の上に腰を下ろして、深く息をつく。
ふと、隣を見る。
絵理奈がいた。
何も言わず、弓を下ろしている。
(……好き、なんやろな)
理由は、分からない。
助けてくれたからかもしれないし、背中を預けられたからかもしれない。
でも、言葉にしたら、この気持ちはこぼれてしまいそうだった。
音にした瞬間、消えてしまいそうで。
だから、言わない。
無言のまま、夜空を見上げる。
星のない、静かな宇宙。
(……今は、これでいい)
胸の奥にそっとしまい込んで、私は、また前を向いた。
■□■□■□特殊能力解説■□■□■□
絵理奈(えりな)
特殊能力:確信焦点(クロワッサン・サーチ)
確信焦点は、絵理奈が「考えた末に選ぶ」のではなく、“もう分かってしまう”能力だ。
戦場に立った瞬間、彼女の視界にはクロワッサン状の光の軌跡が浮かび上がる。
それは敵の弱点、最短ルート、味方との最適な連携位置――その瞬間に成功率が最も高い“正解”だけを示す導線である。
そしてそのイメージを他のIDOLと精神感応で共有することで戦術級能力として活用することができる。
特徴的なのは、この能力が知性ではなく直感の確信として働く点だ。
絵理奈自身は「なんとなく、こっちやと思っただけやねん」と笑うが、その一矢は必ず戦況を動かす。
弓を構えた瞬間、身体が自然と最適な射線に導かれ、放たれた矢は“偶然当たった奇跡”のように見えて、実際は必然の結果となる。
能力発動中でも彼女の雰囲気は変わらない。
ほのぼのとした関西スマイルのまま、最も合理的で残酷な答えを選び続ける。
そのギャップこそが、確信焦点の最大の強さである。
松山攻略。
本来なら、G1の莉莎子先輩がセンターを務めるはずだったフォーメーション。その真ん中に、今日は――私が立っている。
月明かりが、コスチュームを淡く照らしていた。
浴衣みたいなデザインのドレスは、袖も裾もやわらかくて、歩くたびにふわりと揺れる。夜風を含んだ生地が肌をなぞるたび、現実感が少しずつ遠のいていく気がした。
G2だけでの攻略。
櫻小隊を、私が導く。
胸の奥が、きゅっと縮む。
(失敗したらどうしよう)
(みんな、私についてきてくれてるのに……)
考えれば考えるほど、足元が不安定になる。
そんなときだった。
「莉乃」
振り向くと、絵理奈がいた。
月明りの中で、静かに私を見ている。
「大丈夫。あんたなら、ちゃんとやれるって。」
それだけ。
なのに、不思議と息が楽になった。
「……ありがとう」
そう返した瞬間、胸が少しだけ跳ねる。
(なんでやろ……)
前から、ほんの少しだけ気になってた。
弓を構える横顔とか、索敵に集中してるときの真剣な表情とか。
でも、今は考えたらだめ。ちゃんとしなきゃ。
深夜の松山。
廃ビル群は、影の塊みたいに沈黙していた。
「敵影……今のところ、なし」
精神感応で、みんなの存在は感じられる。
なのに――姿が、見えない。
ビルの間を抜けるたび、誰かが視界からすっと消えていく。
(……え?)
慌てて意識を集中させる。
いる。ちゃんと、そこにいる。
でも、見えない。音もしない。
まるで、真空の宇宙に放り出されたみたいだった。
(落ち着こう……大丈夫……)
そう思った瞬間――。
感応が、大きく揺れた。
「――志野ちゃん!?」
「公子!?」
返事が、ない。
戦闘不能?
喉が、ひゅっと鳴る。
薫と凛の気配が激しく揺れている。攻撃を防いでる。でも――連携が取れない。
自分の腕が、突然消えたかと思うと、次の瞬間また現れる。
(なに……これ……)
怖い。
視界が信用できない。
そのとき、ほんの一瞬、空気の歪みが見えた。
(……あ)
意識が、静かに研ぎ澄まされていく。
――《微細観察》。
世界が、細かく分解される。
見えないはずの輪郭が、少しずつ浮かび上がる。
(光学迷彩……)
敵だけじゃない。
私たち自身も、包み込まれている。
「……そうだったんだ」
小さく、息を吐く。
「絵理奈。敵が見えた。配置、共有するね」
次の瞬間、絵理奈の《確信焦点》が重なった。
感覚が、繋がる。
見えない敵の位置が、意識の中に層状に鮮明に浮かぶ。
視覚がなくても、迷わない。
「……いける。みんな、いけるよ」
自然と、声が出た。
仲間たちの姿は、相変わらず消えたり現れたりしている。
それでも、動きは揃っていた。
斬撃。
矢が放たれる音。
衝撃。
一体、また一体と、確実に敵が沈黙していく。
最後のヘイトが崩れ落ちたとき、月明りだけが静かに廃墟を照らしていた。
――愛媛エリア、解放。
戦闘後。
瓦礫の上に腰を下ろして、深く息をつく。
ふと、隣を見る。
絵理奈がいた。
何も言わず、弓を下ろしている。
(……好き、なんやろな)
理由は、分からない。
助けてくれたからかもしれないし、背中を預けられたからかもしれない。
でも、言葉にしたら、この気持ちはこぼれてしまいそうだった。
音にした瞬間、消えてしまいそうで。
だから、言わない。
無言のまま、夜空を見上げる。
星のない、静かな宇宙。
(……今は、これでいい)
胸の奥にそっとしまい込んで、私は、また前を向いた。
■□■□■□特殊能力解説■□■□■□
絵理奈(えりな)
特殊能力:確信焦点(クロワッサン・サーチ)
確信焦点は、絵理奈が「考えた末に選ぶ」のではなく、“もう分かってしまう”能力だ。
戦場に立った瞬間、彼女の視界にはクロワッサン状の光の軌跡が浮かび上がる。
それは敵の弱点、最短ルート、味方との最適な連携位置――その瞬間に成功率が最も高い“正解”だけを示す導線である。
そしてそのイメージを他のIDOLと精神感応で共有することで戦術級能力として活用することができる。
特徴的なのは、この能力が知性ではなく直感の確信として働く点だ。
絵理奈自身は「なんとなく、こっちやと思っただけやねん」と笑うが、その一矢は必ず戦況を動かす。
弓を構えた瞬間、身体が自然と最適な射線に導かれ、放たれた矢は“偶然当たった奇跡”のように見えて、実際は必然の結果となる。
能力発動中でも彼女の雰囲気は変わらない。
ほのぼのとした関西スマイルのまま、最も合理的で残酷な答えを選び続ける。
そのギャップこそが、確信焦点の最大の強さである。
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