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第四章 五月雨よ
I’m In
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――茉莉奈――
姫路城攻略が始まって、三日目の朝を迎えた。
白んでいく空を見上げながら、私は何度目かわからない深呼吸をする。
市街地のヘイトは、バディーズ部隊の協力もあってほぼ掃討が完了していた。それでも、視線を城へ向ければ、現実は容赦なく突きつけられた。
姫路城。
無骨な装甲に覆われたその姿は、まるで巨大な獣が牙を剥いているようだった。
城内への突破口は、いまだに開けていない。
突撃部隊は、力を温存するため戦闘には参加せず、後方で待機中だ。
表情には出さなくても、焦りが伝わってくる。
大手門への攻撃は、すでに6回跳ね返されている。
城内から降り注ぐ矢の雨。無尽蔵に湧き出てくるヘイトの物量。
毎回、あと一歩のところで押し返されてきた。
「……まだ、足りない」
そう呟いたのは、絵理奈だった。
彼女の瞳に、いつもの“確信”の光が灯る。
「でも、見えた。通れる」
その一言で、空気が変わった。
作戦はこうだ。
沙羅たちが特殊能力《工場夜景》を展開し、堀を越えて進撃する。派手な構造物と光で敵の注意を引きつける陽動。
大手門の物量が薄くなった瞬間、美園が《極寒喫茶》で氷の道を作る。
その道を、私が護衛しながら美和子を前へ。
最後は、美和子の特殊能力で門を破壊する。
「行ける?」
美和子が、ハンマーを肩に担ぎながら私を見る。
「行くしかないでしょ」
私は小さく笑って、武器を握り直した。
作戦開始。
遠くで、沙羅の《工場夜景》が展開される。
オレンジ色の光が堀の向こうに揺らめき、巨大な構造体が立ち上がる。
案の定、ヘイトの流れがそちらへ傾いた。
「今!」
美園の声と同時に、地面が凍りつく。
白い霧を吐きながら、氷の道が一直線に大手門へ伸びていく。
私は前に出た。
紋白蝶飛を展開し、迫りくる矢とヘイトの攻撃を受け止める。
コスチュームのシールドを貫通した傷は増えていく。
それでも、足は止めない。
「美和子、行って!」
「任せて!」
背後で、ハンマーが唸りを上げる。
その瞬間、さらにヘイトが湧き出した。
ぞろぞろと、切っても切っても現れる影。
刃を振るうたび、装甲が砕け、火花が散る。
私も美和子も傷だらけだ。
腕が重い。
息が苦しい。
それでも、退けない。
「まだ……まだ!」
美和子のハンマーが、大手門に叩きつけられる。
一撃、二撃、三撃。
金属と石が悲鳴を上げ、ついに門が内側へ崩れ落ちた。
「突破口、開いた!」
歓声を上げる暇はなかった。
そのまま、私たちは三の丸へ雪崩れ込む。
三の丸広場は、まるで地獄だった。
四方からヘイトが押し寄せ、休む間もなく刃を交える。
そのときだ。
背後を、風が抜けた。
突撃部隊が、私たちの横をすり抜けていく。
迷いのない足取りで、城内へと突入していく姿。
すれ違いざま、志野と目が合った。
一瞬だけ、うなずき合う。
言葉はいらなかった。
想いは、ちゃんと通じている。
「……行って」
私は小さく呟き、再び前を向いた。
本番はこれから。
突撃部隊への追撃を許すわけにはいかない。
今、腕を下ろしてしまったら、すべてが終わってしまう。
私は歯を食いしばり、最後の力を振り絞る。
シールドは限界に近く、体中が悲鳴を上げていた。
それでも、信じている。
きっと、いつか夢に届くと。
みんなと一緒に、腕を伸ばしたい。
その瞬間――
ヘイトの動きが、ぴたりと止まった。
「……?」
この城のマスターコンピューターの破壊に成功したようだ。
終わった。
……勝ったんだ。
ようやく、顔を上げる余裕ができた。
城の上に、青空が広がっている。
私は、その空に向かって、そっと手を伸ばした。
まだ戦いの途中だけど――
確かに、ここまで来た。
姫路城攻略が始まって、三日目の朝を迎えた。
白んでいく空を見上げながら、私は何度目かわからない深呼吸をする。
市街地のヘイトは、バディーズ部隊の協力もあってほぼ掃討が完了していた。それでも、視線を城へ向ければ、現実は容赦なく突きつけられた。
姫路城。
無骨な装甲に覆われたその姿は、まるで巨大な獣が牙を剥いているようだった。
城内への突破口は、いまだに開けていない。
突撃部隊は、力を温存するため戦闘には参加せず、後方で待機中だ。
表情には出さなくても、焦りが伝わってくる。
大手門への攻撃は、すでに6回跳ね返されている。
城内から降り注ぐ矢の雨。無尽蔵に湧き出てくるヘイトの物量。
毎回、あと一歩のところで押し返されてきた。
「……まだ、足りない」
そう呟いたのは、絵理奈だった。
彼女の瞳に、いつもの“確信”の光が灯る。
「でも、見えた。通れる」
その一言で、空気が変わった。
作戦はこうだ。
沙羅たちが特殊能力《工場夜景》を展開し、堀を越えて進撃する。派手な構造物と光で敵の注意を引きつける陽動。
大手門の物量が薄くなった瞬間、美園が《極寒喫茶》で氷の道を作る。
その道を、私が護衛しながら美和子を前へ。
最後は、美和子の特殊能力で門を破壊する。
「行ける?」
美和子が、ハンマーを肩に担ぎながら私を見る。
「行くしかないでしょ」
私は小さく笑って、武器を握り直した。
作戦開始。
遠くで、沙羅の《工場夜景》が展開される。
オレンジ色の光が堀の向こうに揺らめき、巨大な構造体が立ち上がる。
案の定、ヘイトの流れがそちらへ傾いた。
「今!」
美園の声と同時に、地面が凍りつく。
白い霧を吐きながら、氷の道が一直線に大手門へ伸びていく。
私は前に出た。
紋白蝶飛を展開し、迫りくる矢とヘイトの攻撃を受け止める。
コスチュームのシールドを貫通した傷は増えていく。
それでも、足は止めない。
「美和子、行って!」
「任せて!」
背後で、ハンマーが唸りを上げる。
その瞬間、さらにヘイトが湧き出した。
ぞろぞろと、切っても切っても現れる影。
刃を振るうたび、装甲が砕け、火花が散る。
私も美和子も傷だらけだ。
腕が重い。
息が苦しい。
それでも、退けない。
「まだ……まだ!」
美和子のハンマーが、大手門に叩きつけられる。
一撃、二撃、三撃。
金属と石が悲鳴を上げ、ついに門が内側へ崩れ落ちた。
「突破口、開いた!」
歓声を上げる暇はなかった。
そのまま、私たちは三の丸へ雪崩れ込む。
三の丸広場は、まるで地獄だった。
四方からヘイトが押し寄せ、休む間もなく刃を交える。
そのときだ。
背後を、風が抜けた。
突撃部隊が、私たちの横をすり抜けていく。
迷いのない足取りで、城内へと突入していく姿。
すれ違いざま、志野と目が合った。
一瞬だけ、うなずき合う。
言葉はいらなかった。
想いは、ちゃんと通じている。
「……行って」
私は小さく呟き、再び前を向いた。
本番はこれから。
突撃部隊への追撃を許すわけにはいかない。
今、腕を下ろしてしまったら、すべてが終わってしまう。
私は歯を食いしばり、最後の力を振り絞る。
シールドは限界に近く、体中が悲鳴を上げていた。
それでも、信じている。
きっと、いつか夢に届くと。
みんなと一緒に、腕を伸ばしたい。
その瞬間――
ヘイトの動きが、ぴたりと止まった。
「……?」
この城のマスターコンピューターの破壊に成功したようだ。
終わった。
……勝ったんだ。
ようやく、顔を上げる余裕ができた。
城の上に、青空が広がっている。
私は、その空に向かって、そっと手を伸ばした。
まだ戦いの途中だけど――
確かに、ここまで来た。
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