37 / 39
第四章 五月雨よ
五月雨よ
しおりを挟む
ーー凛ーー
近畿地方の大都市は、強力なヘイトの軍勢で固められていた。
都市鉱山――瓦礫の下に眠る金属や資源の量が桁違いで、そのぶんヘイトの勢力も強力だった。
兵庫エリアのコア、神戸を攻略するために、私たちは淡路島一帯の掃討作戦を任されていた。
徳島側から進軍を続け、辿り着いたのは淡路夢舞台跡。
かつて人が集い、音楽と光に満ちていたはずの場所は、今ではBANの痕跡を残す静かな廃墟になっていた。
空は重く垂れこめ、五月雨が絶え間なく降り続いている。
細い雨脚が視界を曇らせ、石畳を濡らしていた。
そのときだった。
耳障りなローター音が、雨音に混じって迫ってくる。
「……来る」
大阪方面からだ。
雲を割るように現れたのは、大量のドローン。
数が多いなんて言葉では足りない。空を覆い尽くす黒い群れだった。
戦闘開始。
薫が真っ先に前へ出る。
「行くよ! あるふぃー!」
特殊能力の承認欲求で「あるふぃー」を呼び出す。
石舞台を跳ね回り、ドローンを叩き落としていく姿は、正直、少し眩しい。
その横を、志野のドローンが静かに追随していた。
薫の動きに合わせて位置を調整し、見えない盾のように彼女を守っている。
「ほんと、息ぴったりだよね……」
思わず、そう呟いてしまう。
一方、公子は――
「きゃっ! ちょっと、近いってば!」
悲鳴を上げながらも、剣を振るう手は正確だった。
飛び込んできたドローンを、次々と叩き落としていく。
そのすぐ横で、美和子が何食わぬ顔で護衛している。
派手さはないけれど、崩れない安心感。
私はその光景を見ながら、剣を構えた。
友達でもあり、ライバルでもあり、仕事仲間でもある。
どれか一つじゃ足りない、不思議な関係。
時にはぶつかる。
言葉が足りなくて、すれ違うこともある。
それでも、時間を重ねるたびに、後から後から愛しさが込み上げてくる。
不思議だ。
まるで、五月雨みたいだと思った。
一気に距離が縮まるわけではない、静かに、でも確実に。
気づけば、いつの間にか心に染みわたっている。
私は剣を振るいながら、そんなことを考えていた。
――いつか、別れが来る。
それは戦いの時かもしれないし、戦いが終わる日かもしれない。
あるいは、それぞれが違う道を選ぶ日かもしれない。
その想像だけで、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……ばかだな、私」
戦場で考えることじゃない。
わかっているのに、感情は止まらなかった。
気づけば、頬を伝うものがあった。
雨のせいなのか、涙なのか、自分でもわからない。
視界が滲んでも、剣は振るう。
仲間の背中を守るために。
どれくらい戦っただろう。
次第に、ドローンの数が減っていく。
そして――
ふっと、雨が弱まった。
雲の切れ間から、一筋の光が差し込む。
濡れた草原と石舞台跡が、淡く輝いた。
「……終わった?」
私は深く息を吐き、特殊能力を解除した。
身体が少しだけ重くなり、今の自分に戻る感覚。
ゆっくりと、水面に着地する。
足元の水たまりが、小さく波紋を広げた。
顔を上げて、空を見る。
まだ雲は残っているけれど、その向こうには確かに光がある。
五月雨よ。
どうか、この時間を、少しだけ長く続けて。
そう願いながら、私は静かに剣を下ろした。
近畿地方の大都市は、強力なヘイトの軍勢で固められていた。
都市鉱山――瓦礫の下に眠る金属や資源の量が桁違いで、そのぶんヘイトの勢力も強力だった。
兵庫エリアのコア、神戸を攻略するために、私たちは淡路島一帯の掃討作戦を任されていた。
徳島側から進軍を続け、辿り着いたのは淡路夢舞台跡。
かつて人が集い、音楽と光に満ちていたはずの場所は、今ではBANの痕跡を残す静かな廃墟になっていた。
空は重く垂れこめ、五月雨が絶え間なく降り続いている。
細い雨脚が視界を曇らせ、石畳を濡らしていた。
そのときだった。
耳障りなローター音が、雨音に混じって迫ってくる。
「……来る」
大阪方面からだ。
雲を割るように現れたのは、大量のドローン。
数が多いなんて言葉では足りない。空を覆い尽くす黒い群れだった。
戦闘開始。
薫が真っ先に前へ出る。
「行くよ! あるふぃー!」
特殊能力の承認欲求で「あるふぃー」を呼び出す。
石舞台を跳ね回り、ドローンを叩き落としていく姿は、正直、少し眩しい。
その横を、志野のドローンが静かに追随していた。
薫の動きに合わせて位置を調整し、見えない盾のように彼女を守っている。
「ほんと、息ぴったりだよね……」
思わず、そう呟いてしまう。
一方、公子は――
「きゃっ! ちょっと、近いってば!」
悲鳴を上げながらも、剣を振るう手は正確だった。
飛び込んできたドローンを、次々と叩き落としていく。
そのすぐ横で、美和子が何食わぬ顔で護衛している。
派手さはないけれど、崩れない安心感。
私はその光景を見ながら、剣を構えた。
友達でもあり、ライバルでもあり、仕事仲間でもある。
どれか一つじゃ足りない、不思議な関係。
時にはぶつかる。
言葉が足りなくて、すれ違うこともある。
それでも、時間を重ねるたびに、後から後から愛しさが込み上げてくる。
不思議だ。
まるで、五月雨みたいだと思った。
一気に距離が縮まるわけではない、静かに、でも確実に。
気づけば、いつの間にか心に染みわたっている。
私は剣を振るいながら、そんなことを考えていた。
――いつか、別れが来る。
それは戦いの時かもしれないし、戦いが終わる日かもしれない。
あるいは、それぞれが違う道を選ぶ日かもしれない。
その想像だけで、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……ばかだな、私」
戦場で考えることじゃない。
わかっているのに、感情は止まらなかった。
気づけば、頬を伝うものがあった。
雨のせいなのか、涙なのか、自分でもわからない。
視界が滲んでも、剣は振るう。
仲間の背中を守るために。
どれくらい戦っただろう。
次第に、ドローンの数が減っていく。
そして――
ふっと、雨が弱まった。
雲の切れ間から、一筋の光が差し込む。
濡れた草原と石舞台跡が、淡く輝いた。
「……終わった?」
私は深く息を吐き、特殊能力を解除した。
身体が少しだけ重くなり、今の自分に戻る感覚。
ゆっくりと、水面に着地する。
足元の水たまりが、小さく波紋を広げた。
顔を上げて、空を見る。
まだ雲は残っているけれど、その向こうには確かに光がある。
五月雨よ。
どうか、この時間を、少しだけ長く続けて。
そう願いながら、私は静かに剣を下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる