Sakura Generation  ~絶望を希望に変える少女たち~

にわかばでぃ

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第四章 五月雨よ

僕のジレンマⅠ

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――凛――

 兵庫エリアのコア――神戸。
 その攻略が始まったという事実を、私は六甲山の冷たい空気の中で実感していた。

 海岸沿いは、想像以上に防衛網が厚かった。
 無数のヘイトが海から陸へと連なり、正面突破は不可能に近い。
 そこで選ばれたのが、六甲山からの侵攻だった。

 今回の作戦で、センターを務めるのはG1の莉莎子さん。
 その背中を見ているだけで、不思議と心が落ち着く。
 どんな状況でも、前に立つ人だ。
 だから、みんな自然とついていく。

 森の中を進むにつれて、木々の隙間から神戸の街がちらりと見え隠れする。
 静かすぎるほど静かで、それが逆に不気味だった。
 しばらく進んだところで、視界が急に開けた。

「……え?」
 思わず声が漏れた。

 そこは、ぽっかりと空いた広場だった。
 そして、その中心に――人がいた。

 コロニー。
 それも、子供たちばかり。二十人ほどだろうか。

 信じられなかった。
 これだけヘイトの勢力圏に近い場所なのに、コロニーは壊されていない。
 周囲にはヘイトの痕跡があり、通過している形跡もある。
 それなのに、襲われた様子はなかった。

「……無視、されてる?」
 誰かが呟いた。
 どうやらヘイトたちは、子供たちを脅威とみなさず警戒の対象外としているらしい。

 でも、それは安全を意味しない。
 食料は明らかに不足していた。
 子供たちは皆、痩せ細り、服も擦り切れている。
 それでも必死に笑おうとしているのが、胸に刺さった。

 莉莎子さんは、しばらく子供たちを見つめていた。
 そして、何も言わず、ゆっくりと歩み寄った。
「……大丈夫」
 そう言って、目の前の子を、そして周囲の子供たちをまとめて抱きしめた。

 その瞬間、莉莎子さんの肩が震えた。
「……こんなところで……」
 声が詰まり、涙がこぼれ落ちる。

 過酷な環境。誰にも守られず、それでも生き延びてきた子供たち。
 その現実が、莉莎子さんの心を打ち抜いたのだと、私にも分かった。

 その夜。
 私たちは携行していた食料を分け与え、簡易的な焚火を囲んでいた。
 子供たちは久しぶりの温かい食事に、無邪気に笑っていた。
 その笑顔を見ていると、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
 焚火の火が、ぱちぱちと音を立てる中で――。

「みんなに、話があります」
 莉莎子先輩が立ち上がった。

 その声のトーンで、ただ事じゃないと分かった。
 櫻小隊の全員が、自然と視線を向ける。

「この作戦を最後に、私は卒業します」

 一瞬、音が消えたように感じた。
「……え?」
 誰かの声。

 私の頭も、真っ白になった。

 卒業。

 その言葉が意味するものを理解するのに、少し時間がかかった。
 その間に、私の中で記憶が溢れ出す。
 どんなにつらい状況でも、先頭に立ってくれた姿。
 失敗して落ち込んだとき、全力でふざけて、思い切り笑わせてくれたこと。
 誰かが傷つけば、必ず一番に駆けつける優しさ。

 ――ずっと、お姉ちゃんでいてほしかった。
 心の中で、そんな幼い願いが顔を出す。
 でも、それを口にすることはできなかった。

「私はね」
 莉莎子先輩は、焚き火を見つめながら続けた。
「ここまで来たら、後はみんなに任せたい。ちゃんと、未来を託せるって思えたから」

 その言葉に、胸が締め付けられる。
 同時に、誇らしさも込み上げてきた。
 ――選ばれたんだ。私たちは。
 だから私は、ぎゅっと拳を握った。
  寂しい。
  怖い。

 それでも。
「……笑って、送り出そう」
 心の中で、そう誓った。
 焚き火の明かりに照らされる莉莎子先輩の横顔は、いつもより少し大人びて見えた。
 夜空には星が浮かび、遠くに神戸の街の灯りが瞬いている。

 戦いは、これからだ。
 でも、この夜のことだけは――
 きっと、ずっと忘れない。
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