ワケあり捨てられ(元)奴隷少女は、無類の動物好き王子からの寵愛に戸惑いを隠せない

小麦 錬る

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 ドンッと最後に鈍い音が響いた。
どうやら、走る馬車から突き落とされたらしい。
そのまま雨でぬかるんでいる地面を滑り落ちる。落とされたそこは坂になっていたようで、道から外れた林でようやく止まった。
軋む身体を引き摺りながら林の中へ入ると、大きな木が姿を現した。その根元に横たわり、空から振る水をその身に受け虚空を仰ぎ見る。


 少女はとても幸福だった。
やっと解放された、やっと終わる…
そんな事を思いながら、遠くへ走り去っていく馬車の音を耳にしていた。

雨が頬を打ったが、なぜだか暖かく包み込んでくれているような、そんな気さえしていた。

 どこの森かわからない、山の中に捨てられた。
奴隷としての生活がようやく終わったのだ。
少女を買った貴族の男は、彼女がもう自分の持ち物として役にたたず、オークションにもかけられないと落胆し、憤り、ゴミのように捨てたのだった。

 少女の体にはに痛々しい傷が付いていた。
鞭の跡、殴られた跡、火傷の跡、切り裂かれた跡など、治りかけの傷から真新しいものまで様々だった。



 3回日が落ち、3回日が昇った頃。
なかなか死ぬ事ができないんだな。とぼんやり考えている中で、とうとう意識が朦朧としてきた。
空腹や痛みなどは最早感じることは無い。もう随分前に寂しさも悲しさも痛さも苦しさも、感情ごとどこかへ行ってしまった。

足音が聞こえる……。

霞む意識の中で、黒い大きな影を見た。

きっと熊が来たんだ。
早く早く私をたべて、殺して。

この息の根を止めてくれるなら何でも良かった。
山の生き物たちに食べられて、それで全て終わりにしてして欲しかった。





 しかし、次に彼女が目を覚ましたのは、
森の草の上でもなく、熊の胃袋の中でも、ましてやあの世でもなく、
柔らかいベッドと清潔なシーツの上だった。




「やあ、起きたね。まだ動かないで、傷が開くから。」

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