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コトウ
煙の向こう
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物資が届いたという連絡が入り、マリオネットが注文しておいたものを届けに来た。
マリオネットが品物を机に置いた。
「ご注文の品物です、ボス。ヒルト鉱石の弾丸と、カートリッジの予備です。ですが、ボス。これは使わないほうがよいかと」
「俺に指図するのか?」
「いいえ、ボス。ですが、これは危険です。万が一暴発すれば、手首が吹き飛ぶぐらいではすみません」
ヒルト鉱石はシールドを無効化する。軽量で強靭な物質だ。
しかし、その軽量ゆえに、重量を武器とするものには向かない。
この特殊弾には、芯に鉛を使い回りをヒルト鉱石で覆うのと、火薬を通常より増やすことで威力を持たせてある。
「わたしはボスの武器となり、盾になります。しかし、暴発を防ぐことはできません」
クロスは答えず、箱を開けて、弾丸をカートリッジに詰め始めた。
「ボス」
「そんなもんでくたばれば、俺はそれだけの男ということだ」
マリオネットは装甲をあけた。
「……ボスはわたしを外の世界に連れ出してくださいました。研究所の外に出て、わたしは始めて生きている事を実感しました。ボスがわたしに本当の意味の命を与えてくださったのです。わたしの命はボスのもの。ボスが死ぬときは、わたしの死ぬときです」
マリオネットの肉眼がまっすぐにクロスを見ていた。クロスはそれを見返す。
「俺は死なねえ。俺の敵は、ぶち殺す。それだけだ」
「ボス……」
マリオネットの顔に朱がさした。喜びに瞳を潤ませている。
「物資を指定の場所に配賦しろ」
「御心のままに」
マリオネットが装甲を閉じた。
マリオネットが部屋を出て行くと、端末機が勝手に起動した。
『ボス、本家の大ボスから通信です』
「……繋げ」
しばらく待ち受け画面になった後、髪に白いものが混じり始めた温厚そうな男が映った。その端正な顔立ちはクロスに似ている。
「ご無沙汰です。ボス。何かありましたか」
『コトウを落したと聞いた。よくやってくれた』
「光栄です。が、それだけではないでしょう」
しばらく大ボスは口を開かなかった。
『……物資を大量に動かしたそうだな』
「コトウは、守りが薄く、早急に強化しなければ他のコネクションに付け入る隙を与えると思いまして」
大ボスが苦しそうに顔を歪めた。
『……ギルバートが姿を消した』
「……捜索は? 他のコネクションの仕業ですか?」
我ながら、白々しい、とクロスは心の中で吐き捨てた。
『あれは、自分から姿を消した……わしが、ギルバートのやっておることに気づかんと思ったか?』
「……なんのことか、わかりませんな」
クロスが掴んだ程度の情報は、おそらく本家の中枢にいるものなら掴んでいるだろう。そして、クロスの動きの意味も分かっているはずだ。
『わしはすぐにギルバートを呼び寄せ、諭そうとした。じゃが、直後にギルバートは姿を消した。足取りはいまだにつかめておらん』
「……こんな地方にいるものに、どうしろと?」
『……クロス、おまえの働きは、幹部の中でも度々話題に上っておる。土地を奪うだけでなく、よく治め、組織への上納金もたいしたものだ。それがあれには気に食わなかったらしい。そこをサモナにつけこまれた』
大ボスが溜息をついた。
「……」
『あれはおまえより恵まれておる自分に気づかなかった。そんな風に育てたのは、わしの責任だ』
クロスは口を挟まず聞いていた。
『おまえを生かすために、おまえを認めないと決めたが、その判断は間違っておったのかも知れん。業の深いことだ』
「──ボスの決定は、何物にも優先されます。ご判断は?」
『……組織にとって、最良の方法をとるがいい。こちらはわしが抑える』
ボスからの通信が終わり、クロスは無意識に煙草に火をつけた。
大ボスはギルバートがやろうとしていることを察知し、未然に防ごうとした。
しかし、ギルバートはそれを跳ね除けた。むしろ、計画を知られたことで焦り、本家の手が及ぶ前に事を済ませてしまおうと決意したのだろう。
事が早まった。
クロスは無意識に頬の傷を指でなぞった。
この傷は、力の無い子供のころ、命を拾ったときに負ったものだ。命を拾う代わりに、クロスは多くのものを失った。
血まみれになって倒れる遊び仲間。
護衛代わりの教育係。
この子だけは、と叫んで自らの身を盾に投げ出した──母親。
この傷を消さないのは、自らを戒めるためだ。
何物にも情をうつさぬように──
「あんたがやることは、いつもズレてんだよ……親父」
言い捨てて、自分が煙草を吸っている事に、クロスは気づいた。
「……確かに、イラつくと増えるな」
クロスは舌打ちし、煙草を半ばでへし折り、捨てた。
マリオネットが品物を机に置いた。
「ご注文の品物です、ボス。ヒルト鉱石の弾丸と、カートリッジの予備です。ですが、ボス。これは使わないほうがよいかと」
「俺に指図するのか?」
「いいえ、ボス。ですが、これは危険です。万が一暴発すれば、手首が吹き飛ぶぐらいではすみません」
ヒルト鉱石はシールドを無効化する。軽量で強靭な物質だ。
しかし、その軽量ゆえに、重量を武器とするものには向かない。
この特殊弾には、芯に鉛を使い回りをヒルト鉱石で覆うのと、火薬を通常より増やすことで威力を持たせてある。
「わたしはボスの武器となり、盾になります。しかし、暴発を防ぐことはできません」
クロスは答えず、箱を開けて、弾丸をカートリッジに詰め始めた。
「ボス」
「そんなもんでくたばれば、俺はそれだけの男ということだ」
マリオネットは装甲をあけた。
「……ボスはわたしを外の世界に連れ出してくださいました。研究所の外に出て、わたしは始めて生きている事を実感しました。ボスがわたしに本当の意味の命を与えてくださったのです。わたしの命はボスのもの。ボスが死ぬときは、わたしの死ぬときです」
マリオネットの肉眼がまっすぐにクロスを見ていた。クロスはそれを見返す。
「俺は死なねえ。俺の敵は、ぶち殺す。それだけだ」
「ボス……」
マリオネットの顔に朱がさした。喜びに瞳を潤ませている。
「物資を指定の場所に配賦しろ」
「御心のままに」
マリオネットが装甲を閉じた。
マリオネットが部屋を出て行くと、端末機が勝手に起動した。
『ボス、本家の大ボスから通信です』
「……繋げ」
しばらく待ち受け画面になった後、髪に白いものが混じり始めた温厚そうな男が映った。その端正な顔立ちはクロスに似ている。
「ご無沙汰です。ボス。何かありましたか」
『コトウを落したと聞いた。よくやってくれた』
「光栄です。が、それだけではないでしょう」
しばらく大ボスは口を開かなかった。
『……物資を大量に動かしたそうだな』
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『……ギルバートが姿を消した』
「……捜索は? 他のコネクションの仕業ですか?」
我ながら、白々しい、とクロスは心の中で吐き捨てた。
『あれは、自分から姿を消した……わしが、ギルバートのやっておることに気づかんと思ったか?』
「……なんのことか、わかりませんな」
クロスが掴んだ程度の情報は、おそらく本家の中枢にいるものなら掴んでいるだろう。そして、クロスの動きの意味も分かっているはずだ。
『わしはすぐにギルバートを呼び寄せ、諭そうとした。じゃが、直後にギルバートは姿を消した。足取りはいまだにつかめておらん』
「……こんな地方にいるものに、どうしろと?」
『……クロス、おまえの働きは、幹部の中でも度々話題に上っておる。土地を奪うだけでなく、よく治め、組織への上納金もたいしたものだ。それがあれには気に食わなかったらしい。そこをサモナにつけこまれた』
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「……」
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『おまえを生かすために、おまえを認めないと決めたが、その判断は間違っておったのかも知れん。業の深いことだ』
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