刃愛

のどか

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シェードカオン

嫉妬

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 車は寄り道もせずホテルに直行した。
 クロスが車から降りるときは、まずスワロウが先に下りて周囲を確認し、その後残りの護衛が周囲に壁を作ってから降りることになっている。しかし、スワロウがドアを開けて車を降りたとたん、車の中から腕を掴まれた。
 振り向くと、クロスが腕を掴んでいた。
「ボス?」
 クロスが手順を無視して車を降りた。なにをするのかといぶかしむスワロウの腕を掴んだまま、邪魔する者は蹴散らす勢いで前に進む。
「ボス!」
 置き去りにされた護衛が慌てて車から飛び降りたが、その間にクロスはロビーで鍵を受け取ってエレベーターに乗り込んだ。
「な、なんだよ、ボス」
「黙って来い」
 クロスはさっさと上階へのボタンを押した。残りの護衛が乗り込む前に扉が閉まる。出遅れて取り残された護衛が所在無さげに扉の前に佇んでいた。

 強引に部屋まで連れてこられたスワロウはベッドの上に放り出された。クロスがさっさと上着を脱ぎ捨てる。
「ちょっと待て! なにするつもりだ!」
「ああ? わからねえか?」
 ネクタイを外しながらクロスが聞き返した。
 馬鹿なことを聞いた──と、スワロウは後悔した。答えなど分かりきっている。スワロウの秀麗な顔に血の気が上った。
「出かける前に、口で──」
「あんなもんで満足できるかよ。脱げよ。それとも脱がして欲しいのか?」
 クロスの余裕の無さにスワロウは気がついた。車中でもイラついているのは、察しがついたが、なにに憤っているのかまでは分からない。
(俺に八つ当たりするなよ!)
 『グランティア』の襲撃を受ける前、スワロウはクロスにレイプされた。
 殴り倒された挙句、縛られ、媚薬くすりまで使われた、どこからみても立派な強姦だが──クロスに言わせれば、スワロウがクロスに秋波を送っていたから応えた──スワロウが無意識にそういう眼で見ていたとしても──そうする気になったのは、どう考えてもグランティア襲撃のストレスだ。
「なにを怒っている?」
「ああ?」
「あんたは、怒るとやたらとヤりたがる」
「……」
 本人にも思い当たることがあるのか、一瞬気まずそうに顔をしかめた。
 クロスが怒ったのは、アレクサンダーがスワロウの美点に気づいたからだ。密かに愛でているそれを、あっさり口にされたという苛立ちをスワロウに向けるというのは、どう考えても筋違いなのだが、それが自分のものだと確認しなければどうにも収まりがつかない。
 だが、それを言い出さないぐらいの自覚はクロスにある。
「面倒だな」
 クロスはスワロウの服に手を伸ばした。
 危ういところでスワロウはその手をさけた。
「自分で脱ぐ」
 以前抗って服を破かれたスワロウは、諦めた。大人しくさせてやれば多少なりと機嫌が直ると知っているからだ。
 クロスは舌打ちして引き下がった。自分のシャツを脱ぐ方に専念する。
 スワロウは履いたままだった靴と靴下を脱ぎ、上着を脱ぐ。
 シャツのボタンに手をかけたところで、クロスが手を伸ばしてきた。
「な、なんだよ」
「脱ぐのを手伝ってやる」
 そういいながら、ボタンよりその下の肌に触れてくる。本人よりもその体を知り尽くした指が感じるところを這い回る。
「手伝ってない! あ、ちょっと……だめだ、やめろって!」
 抗うスワロウにクロスが眼を細める。
「なんでだろうな。裸より、中途半端に着てるほうが、エロくねえか?」
「男として気持ちはわかるが、俺をその対象にするな!」
 気持ちは分からなくも無い。素裸より、少しだけ衣服が残ってる方がそそられるというのは、同じ男として覚えがある。
 しかし、自分がその対象にされると、妙に気恥ずかしい。
「脱ぐまでまてよ! ちょっ……汚れるだろうが!」
「替えぐらいあるだろう。なきゃ、買ってやるぜ」
(惚れてるからって、なにしてもいいってわけじゃねえぞ!)
 心の中で罵りつつも、最後まで抵抗し続けることは出来ないだろうと諦めている自分がどこかにいた。
 羞恥で血の気が上っているのが自分でも分かる。
「そんな顔するなよ」
「そんな顔って、どんな顔だよ」
「嫌だけど、感じてるって顔だ。そんな顔されると、屈服させたくなる」
「いやらしいこと、言ってんじゃねえ!」
「いやらしいこと、するんだろう? これから」
 もう、スワロウには返す言葉も無かった。

 内線が入った。
「なんだ?」
『ボス、今どこにいます?』
 スワロウの副官を務める男からだった。護衛を振り切って部屋に戻った二人を心配してのことだろう。
「部屋だ」
『……スワロウ隊長は?』
「ここにいるが、出すか?」
『いえ……部屋にいることが分かれば……できれば今日みたいなことは護衛の関係上好ましくありませんので……』
 言葉を濁しているが、なにがあったのかは察しているのだろう。でなければ、終わったころを見計らって連絡を入れることは出来ない。
「分かった。もうしねえよ。これからの予定? 今のところねえから今日はもう好きにしていいぜ。お勧めスポットとやらを転送するから好きに遊んで来い」
 クロスは通信をきった。
「気の効く部下だな」
 振り返ると、うつぶせのまま息を切らしたスワロウが恨めしげな視線を送ってくる。
「……どこが……だよ……護衛、振り切るなよ、危ねえだろうが」
 掛布をかぶりシーツに顔を伏せたまま、抗議する。
「悪かったな。じゃあ、護衛しやすいように明後日の葬儀までホテルに篭城してやろうか? それなら護りやすいだろう。やることは色々とあるしな」
 スワロウが顔をこわばらせた。
「ああ、違った。ひとつだな」
「壊す気か!」
「冗談だ」
 クロスは上機嫌で笑ったが、スワロウには冗談だとは思えなかった。
 以前、リハリビが終わったあと、手加減なしだと宣言され、本気で気を失うまでされたからだった。
 そして、賭けてもいいが、それを言ったときのクロスの目は本気だった。
 このときのクロスの頭からは、一度断ったこともあり、アレクサンダーの思惑は綺麗さっぱり忘れられていた。
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