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シェードカオン
金糸雀を狩れ
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「申し訳ございませんでした!」
開口一番、男は手をついて頭を下げた。床に這いつくばって許しを請う姿を、何対もの目が見下ろしていた。
葬儀の警備を任されていたロッド・リンクは、まだ三十代の半ばだというが、その若さでそういう大きな仕事を任せられていただけに、かなりの切れ者なのだろう。
青ざめた顔は実年齢より若くみえる。荒事に向いているとは思えない知性が先立った端正な顔だ。
死者は出なかったとはいえ、コレクションの面子を潰されたに等しい。幹部の中には怪我をしながらも、薬物の助けを借りて幹部会に出席している者もいる。
大ボスの長男であるエドワードも肩に包帯を巻いた痛々しい姿だ。
「このたびの事は、私の不徳のいたすところ。どのように処されようとかまいません。ですが、なにとぞ、家族だけは。この首を差し出しますので」
「ふざけてんじゃねえ」
投げつけられた言葉に、全員が驚いて声の主を振り返った。
クロスは吐き捨てるように言った。
「なに、甘えたこと言ってやがる。怠けるな! このマドゥの面子に泥を塗った相手を世界の果てまで追い詰めて、けじめ取れ! 血の海の中で、マドゥに手を出したことを後悔させてやれ!」
青ざめていたロッドの顔に、生気が戻った。
一見叱咤のようにも思えるが、逆だ。汚名を雪ぐチャンスを与えてやるということだ。
全員が大ボスの意見を求めるように視線を集中させた。
大ボスはゆっくりと頷いた。
コネクションにも、親がその構成員だったためそのままコネクションの一員になった者と、本人の腕を見込まれ入った外様がいる。
大ボスの息子であるエドワードやマルトーニのように何代もコネクションの構成員である者と、リッパーやスワロウのように本人の代で入ったもの。
ロッドは何代も前からマドゥコネクションに仕える、いわば生え抜きの人材だ。身内意識がかなり強い。
どう処分するか悩むところだが、功労者であるクロスが推すならば、機会くらいはやってもいい。
「甘いですな」
不服そうに鼻を鳴らしたのはガランスという、でっぷりと太った男だ。頬に絆創膏を張りつけている。
「他の者に任せたのでは、ロッドにも無念が残るだろう。機会ぐらいはやってもかまわないだろうが」
そういうマルトーニも片腕をつっている。大ボスがすでに決定を下した事もあり、ロッドも捜査に参加させることになった。
もっとも、大ボスを満足させる結果が出せなければ今度こそロッドは責任を取らされるだろう。
ロッドは促され、席に着いた。末席にはなぜかスワロウがいる。本来こんな場所にいるべきではないのだが、無理矢理クロスに引っ張ってこられたのである。
さすがに武装解除され『サザンクロス』の制服も預けてある。今のスワロウはごく普通のスーツ姿である。
他の幹部もスーツ姿だが、武装解除はされていない。
幹部だけが出席を許されている会議だ。クロスは初めて出席している。その席で、大ボスの息子の一人だと承認されるというわけだ。
「ところで、エリシアはどこですかな? 奥様ともども姿が見えないようですが」
マルトーニが不安そうに聞いた。今日は本来エリシアが幹部の一人になるお披露目のはずだったのだ。
「あれとエリシアは、今日は休ませておる。傷ひとつないが、やはり襲われたことがショックだったようでな」
女ですからな、とガランスが皮肉った。
エリシアがギルバートの跡を継ぎ、父親のマルトーニとクロスが後見人になることはすでに根回しされていた事もあり、恙無く決定された。
話はすぐに報復へと戻る。
「さて、ロッドに任せると言ったが、責任者にするわけにはいくまい。改めて責任者を決め、ロッドにはその下について働いてもらう。さて、誰にするべきかな?」
大ボスがあたりを見渡した。
大事な仕事とあって、何人かが口を開こうとした。
「その前に、聞きたいことがある」
「クロス?」
「葬儀のことだが、墓をどこにして、参列者の席がどこかということを知っているのは何人いる? 俺は直前まで知らされていなかったが、何人かは知っていたな?」
アレクサンダーが答えた。
「ああ、君は会場まで知らされていなかったんだね。僕は知ってたよ。大体、家族と幹部の一部だと思うけど……」
正確に答えを知っているロッドに視線が集まった。
「正確には、教会内部の警備をしていた者と、大ボスの御家族、ここにおられるクロス様をのぞいた幹部の方々ですが」
「外の警備の者は知らないのか?」
「知りません。内部の警備の者にも情報の漏洩を防ぐため、人をつけてありました」
内部の者さえ秘密を漏らさないよう見張らせていたのだという。
「怪しい者は?」
「情報を与えた後、家の盗聴もさせてましたし、接触した人間は全て調べてありますが、機密が漏洩した様子は見られませんでした」
「そうか」
クロスはくわえた煙草に火をつけた。
「そんな事を聞いて、どうするんだ? 自分に仕事が回されると思っているのか?」
ガランスが憎々しげに言うと、エドワードが口出しした。
「可能性があると?」
クロスは紫煙を吐き出した。
「……恐らくは」
「では、この仕事はクロスに回すべきだな」
クロスは軽く目を見張った。
アレクサンダーならともかく、一番目がそれほど好意的とは思っていなかったせいだ。
「おいおい、エドワード、どういうつもりだい? 我々を差し置いて本気でこの新参者に任す気かい? それはあんまりじゃないか」
「ガランス、本当に分かっていないんですかぁ? 差し置いてじゃあ、ありません。兄さんは、クロスにしか、任せられないって言ってるんですよぉ」
肩をすくめたアレクサンダーが首を振った。
「なるほど、彼にしか、任せられんな」
マルトーニまで納得しているようだった。
「なにが分かってないんだね。アレクサンダー。分かるように言ってもらえないかね?」
青筋まで立てたガランスに答えを教えたのはエドワードだった。
「我々の中にカナリア……いや、裏切り者がいるということだ」
ガランスが青ざめた。
カナリアは密告者だが、裏切り者とまで言うからには、機密を漏らすどころか協力までしたということだ。
「な、なにを根拠に……」
「スワロウ」
それまで所在無さげに座っていたスワロウが顔を上げた。
アレクサンダーが目を見張った。
「スワロウって、彼が?」
「? 知っているのか?」
アレクサンダーだけでなく、全員がスワロウを振り返っていた。
「そりゃあ、知ってるよ。『サザンクロス』の切り込み隊長で、実質№Ⅱだろう」
教会の出来事でその実力は見たものの、若さと美貌のせいで、そこまでの人物とは思わなかったのである。
「奴らは普通の銃しか持っていなかった。そうだな?」
「ヒルト鉱石の武器なら、一人二人は持っていたみてえだが、せいぜいナイフ程度だ。銃が主力だったぜ」
「奴らはどうやって、潜んでいた?」
「墓の下に簡易シェルターを埋めてやがった。機械仕掛けで、土を跳ね飛ばして入り口が開く奴だ」
棺桶の変わりに、数日なら内部で生存可能なシェルターを埋めてあったのだ。生命維持装置はバッテリーが消耗しており、中で数時間は暮らしていた形跡がある。
「最初から特攻要員だった。そうだな」
「たぶんな。全員口の中に毒を仕込んでいやがったぜ。気がついたが、即効性のやつで手遅れだ。生きて帰る気はなかったみてえだ」
クロスがスワロウをつれてきたときは何かと思ったが、証言させるためだったらしいとアレクサンダーは納得した。
「だから、それがどうしたというんだ!」
あまりに察しの悪いガランスに、エドワードが白い目を向けた。
「普通の銃は、ライトシールドひとつで防げる。にも関わらず、敵は対シールドの武器を用意していなかった。今回はたまたま、手違いでクロスと君の部下──スワロウだったな、の、武装解除が行われていなかったから防げたものの、そうでなければ我々は死んでいた。奴らは会場にシールド類がないという慣習を知っていたとしか思えない」
エドワードが吐き捨てるようにいい、クロスが跡を継いだ。
「射線のひらけた絶好の位置だったろう? 土の中に簡易シェルターを埋めるにも、当日なんぞは無理だ。少なくとも前日、あるいはそれ以前に。そんなまねは、墓の位置を知っていなければできるもんじゃない」
ロッドが警備を手配する前、まだ手薄なうちに簡易シェルターを特攻要員ごと埋めた。それしか考えられなかった。
「これって、墓の位置とこっちの葬列の席、ライトシールドや設置用のシールド、警備さえライトシールドを使ってないと知っていなければ、できないでしょ? しかも、脱出は不可能だと知っていたから、自殺用の毒を仕込んでおく。教会の外の警備はまさに水も漏らさぬって、やつだからねぇ。そこら辺、ロッドは抜け目ないし。まいったねぇ、こっちの情報、タダ洩れじゃない」
お手上げ、とアレクサンダーは手を上げて見せた。
クロスはロッドに視線を向けた。
「頼んでいたことは?」
「続行中ですが、シェルターの方は、部品までばらして調べました。間違いなくマドゥの会社の製品のようです。今、部品のロッド番号から流通経路を洗わせています。襲撃した者は照会させましたが、マドゥの人間ではありませんし、シェードカオンの住人でもありません」
襲撃の後、クロスが警備の者に命じていたことだった。スワロウは顔で照会できるように、頭は無傷にしておいた。そこらへんは抜かりない。
「宿泊施設にも照会しましたが、いまだにあたりはありません」
「ホテルは使っていないということか。誰かに匿われていたとしか思えんな」
この仕掛けは一日かそこらでできるものではない。数日間、シェードカオンか近辺に潜んでいたはずだ。
クロスがあたりを見回してから訊ねた。
「ふたつ聞く。シェードカオンの住人でもないものが、そういった装備をマドゥに知られず入手できるものか? また、シェードカオンにはそういったものが簡単に持ち込めるのか?」
「ありえません! 持ち込むのはもちろん、入手だって不可能です!」
ロッドが悲鳴のような声をあげた。
「では、その手助けをした者がいる、ということだな」
空気が凍りついた。誰かが犯人をかくまい装備を提供し、襲わせたということだ。
そんなことは、ある程度権力を持った人間しかできない。
「容疑者はここにいる、情報を知っていた幹部ほぼ全員ということだ」
マルトーニが苦りきった顔で言った。
「しかし……わしは無実ですぞ! これ、このとおり怪我も!」
顔の絆創膏を主張するガランスに、より重症であるマルトーニは首を振った。
「それは証拠にならない。直接つけられた傷ではないし、わざと怪我をしてみせて、容疑からはずれようとした、ということも考えられる。わしも含めてな」
「そういう意味では、ロッドを使うのは正解ですねえ。結果がどうあれ責任を取らされることになる彼なら、手を貸しません。彼は絶対に無実ですからねえ」
アレクサンダーが笑ってみせた。
「なら、エドワードやアレクサンダーでも……」
条件は同じではないかと、ガランスは言いたいらしい。
「いや、騙されて利用されたという線も考えられる。それならあのときに、口も塞げて一石二鳥だろう」
ごく冷静にエドワードが指摘した。
実業家風だといわれる一番目だが、確かにここまで実務優先だとは思わなかった。家族をも容疑者に入れてかまわないというのだ。
「怖いねえ。僕は無実だけど、疑いのある人間を責任者にするわけにはいかないんだ。分かった? ガランス」
「この仕事はクロスに任せよう。引き受けてもらえるか?」
大ボスの言葉に、クロスは少々考えこんでいた。
「自分の手勢では、引き受けかねます」
つれてきた護衛だけでは捜査はできない。戦力としては最上だが、それとは別の能力が要る。また、シェードカオンについて、『サザンクロス』の面々はあまりにも不案内だ。
「ロッドを使うといい。もともとそちらの専門家だ。新しい『グランティア』の選抜しておいた人材も必要なら、使いたまえ。仕事のためなら、あらゆる権限を与える」
無表情にエドワードがいい、新しい『グランティア』のメンバーになるはずだった者のリストをクロスの手元に置いた。この時点で新しい『グランティア』はクロスの配下となったということだ。
アレクサンダーがにっこり笑って言った。
「僕の部下も使っていいよ。アントをつけただろう? 彼に言うといいよ」
「この仕事は完全に潔白であることが前提となる。お前に任せるのが一番なのだ」
ここら辺が落しどころだろうとクロスは思った。拒否してもいいことはないし、自らの手で報復できるのならその方がいい。
クロスは煙草を揉み消した。
「分かりました。引き受けましょう」
「引き受けてもらえて、安心したよ。協力できることはあるかい?」
「情報の提供を。使い捨ての戦闘要員などいくらでもいますが、時期的に考えて、ギルバード・マドゥの失踪後、こちらに手を出して撃退された者が責任を取らされた、という線が、一番濃厚でしょう。『サザンクロス』の方にはもうやらせてますが、戦闘記録との照合を」
これには幹部連も驚いた。
「君は、昨日の時点で、そこまでやってたのかい?」
「当然でしょう。どこの身内か分かれば、その上のやつも分かる」
おそらくは、上部の人間ごと責任を取らされている。どこの身内か分かれば、潜んでいる仲間も特定できるだろう。
「分かった。ギルバートの失踪後、あった戦闘データを提供……いや、分かっている他のコネクション構成員データの全てを閲覧できるよう取り計らおう。協力は惜しまん。なにかあれば言ってくれ」
「助かります」
開口一番、男は手をついて頭を下げた。床に這いつくばって許しを請う姿を、何対もの目が見下ろしていた。
葬儀の警備を任されていたロッド・リンクは、まだ三十代の半ばだというが、その若さでそういう大きな仕事を任せられていただけに、かなりの切れ者なのだろう。
青ざめた顔は実年齢より若くみえる。荒事に向いているとは思えない知性が先立った端正な顔だ。
死者は出なかったとはいえ、コレクションの面子を潰されたに等しい。幹部の中には怪我をしながらも、薬物の助けを借りて幹部会に出席している者もいる。
大ボスの長男であるエドワードも肩に包帯を巻いた痛々しい姿だ。
「このたびの事は、私の不徳のいたすところ。どのように処されようとかまいません。ですが、なにとぞ、家族だけは。この首を差し出しますので」
「ふざけてんじゃねえ」
投げつけられた言葉に、全員が驚いて声の主を振り返った。
クロスは吐き捨てるように言った。
「なに、甘えたこと言ってやがる。怠けるな! このマドゥの面子に泥を塗った相手を世界の果てまで追い詰めて、けじめ取れ! 血の海の中で、マドゥに手を出したことを後悔させてやれ!」
青ざめていたロッドの顔に、生気が戻った。
一見叱咤のようにも思えるが、逆だ。汚名を雪ぐチャンスを与えてやるということだ。
全員が大ボスの意見を求めるように視線を集中させた。
大ボスはゆっくりと頷いた。
コネクションにも、親がその構成員だったためそのままコネクションの一員になった者と、本人の腕を見込まれ入った外様がいる。
大ボスの息子であるエドワードやマルトーニのように何代もコネクションの構成員である者と、リッパーやスワロウのように本人の代で入ったもの。
ロッドは何代も前からマドゥコネクションに仕える、いわば生え抜きの人材だ。身内意識がかなり強い。
どう処分するか悩むところだが、功労者であるクロスが推すならば、機会くらいはやってもいい。
「甘いですな」
不服そうに鼻を鳴らしたのはガランスという、でっぷりと太った男だ。頬に絆創膏を張りつけている。
「他の者に任せたのでは、ロッドにも無念が残るだろう。機会ぐらいはやってもかまわないだろうが」
そういうマルトーニも片腕をつっている。大ボスがすでに決定を下した事もあり、ロッドも捜査に参加させることになった。
もっとも、大ボスを満足させる結果が出せなければ今度こそロッドは責任を取らされるだろう。
ロッドは促され、席に着いた。末席にはなぜかスワロウがいる。本来こんな場所にいるべきではないのだが、無理矢理クロスに引っ張ってこられたのである。
さすがに武装解除され『サザンクロス』の制服も預けてある。今のスワロウはごく普通のスーツ姿である。
他の幹部もスーツ姿だが、武装解除はされていない。
幹部だけが出席を許されている会議だ。クロスは初めて出席している。その席で、大ボスの息子の一人だと承認されるというわけだ。
「ところで、エリシアはどこですかな? 奥様ともども姿が見えないようですが」
マルトーニが不安そうに聞いた。今日は本来エリシアが幹部の一人になるお披露目のはずだったのだ。
「あれとエリシアは、今日は休ませておる。傷ひとつないが、やはり襲われたことがショックだったようでな」
女ですからな、とガランスが皮肉った。
エリシアがギルバートの跡を継ぎ、父親のマルトーニとクロスが後見人になることはすでに根回しされていた事もあり、恙無く決定された。
話はすぐに報復へと戻る。
「さて、ロッドに任せると言ったが、責任者にするわけにはいくまい。改めて責任者を決め、ロッドにはその下について働いてもらう。さて、誰にするべきかな?」
大ボスがあたりを見渡した。
大事な仕事とあって、何人かが口を開こうとした。
「その前に、聞きたいことがある」
「クロス?」
「葬儀のことだが、墓をどこにして、参列者の席がどこかということを知っているのは何人いる? 俺は直前まで知らされていなかったが、何人かは知っていたな?」
アレクサンダーが答えた。
「ああ、君は会場まで知らされていなかったんだね。僕は知ってたよ。大体、家族と幹部の一部だと思うけど……」
正確に答えを知っているロッドに視線が集まった。
「正確には、教会内部の警備をしていた者と、大ボスの御家族、ここにおられるクロス様をのぞいた幹部の方々ですが」
「外の警備の者は知らないのか?」
「知りません。内部の警備の者にも情報の漏洩を防ぐため、人をつけてありました」
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「怪しい者は?」
「情報を与えた後、家の盗聴もさせてましたし、接触した人間は全て調べてありますが、機密が漏洩した様子は見られませんでした」
「そうか」
クロスはくわえた煙草に火をつけた。
「そんな事を聞いて、どうするんだ? 自分に仕事が回されると思っているのか?」
ガランスが憎々しげに言うと、エドワードが口出しした。
「可能性があると?」
クロスは紫煙を吐き出した。
「……恐らくは」
「では、この仕事はクロスに回すべきだな」
クロスは軽く目を見張った。
アレクサンダーならともかく、一番目がそれほど好意的とは思っていなかったせいだ。
「おいおい、エドワード、どういうつもりだい? 我々を差し置いて本気でこの新参者に任す気かい? それはあんまりじゃないか」
「ガランス、本当に分かっていないんですかぁ? 差し置いてじゃあ、ありません。兄さんは、クロスにしか、任せられないって言ってるんですよぉ」
肩をすくめたアレクサンダーが首を振った。
「なるほど、彼にしか、任せられんな」
マルトーニまで納得しているようだった。
「なにが分かってないんだね。アレクサンダー。分かるように言ってもらえないかね?」
青筋まで立てたガランスに答えを教えたのはエドワードだった。
「我々の中にカナリア……いや、裏切り者がいるということだ」
ガランスが青ざめた。
カナリアは密告者だが、裏切り者とまで言うからには、機密を漏らすどころか協力までしたということだ。
「な、なにを根拠に……」
「スワロウ」
それまで所在無さげに座っていたスワロウが顔を上げた。
アレクサンダーが目を見張った。
「スワロウって、彼が?」
「? 知っているのか?」
アレクサンダーだけでなく、全員がスワロウを振り返っていた。
「そりゃあ、知ってるよ。『サザンクロス』の切り込み隊長で、実質№Ⅱだろう」
教会の出来事でその実力は見たものの、若さと美貌のせいで、そこまでの人物とは思わなかったのである。
「奴らは普通の銃しか持っていなかった。そうだな?」
「ヒルト鉱石の武器なら、一人二人は持っていたみてえだが、せいぜいナイフ程度だ。銃が主力だったぜ」
「奴らはどうやって、潜んでいた?」
「墓の下に簡易シェルターを埋めてやがった。機械仕掛けで、土を跳ね飛ばして入り口が開く奴だ」
棺桶の変わりに、数日なら内部で生存可能なシェルターを埋めてあったのだ。生命維持装置はバッテリーが消耗しており、中で数時間は暮らしていた形跡がある。
「最初から特攻要員だった。そうだな」
「たぶんな。全員口の中に毒を仕込んでいやがったぜ。気がついたが、即効性のやつで手遅れだ。生きて帰る気はなかったみてえだ」
クロスがスワロウをつれてきたときは何かと思ったが、証言させるためだったらしいとアレクサンダーは納得した。
「だから、それがどうしたというんだ!」
あまりに察しの悪いガランスに、エドワードが白い目を向けた。
「普通の銃は、ライトシールドひとつで防げる。にも関わらず、敵は対シールドの武器を用意していなかった。今回はたまたま、手違いでクロスと君の部下──スワロウだったな、の、武装解除が行われていなかったから防げたものの、そうでなければ我々は死んでいた。奴らは会場にシールド類がないという慣習を知っていたとしか思えない」
エドワードが吐き捨てるようにいい、クロスが跡を継いだ。
「射線のひらけた絶好の位置だったろう? 土の中に簡易シェルターを埋めるにも、当日なんぞは無理だ。少なくとも前日、あるいはそれ以前に。そんなまねは、墓の位置を知っていなければできるもんじゃない」
ロッドが警備を手配する前、まだ手薄なうちに簡易シェルターを特攻要員ごと埋めた。それしか考えられなかった。
「これって、墓の位置とこっちの葬列の席、ライトシールドや設置用のシールド、警備さえライトシールドを使ってないと知っていなければ、できないでしょ? しかも、脱出は不可能だと知っていたから、自殺用の毒を仕込んでおく。教会の外の警備はまさに水も漏らさぬって、やつだからねぇ。そこら辺、ロッドは抜け目ないし。まいったねぇ、こっちの情報、タダ洩れじゃない」
お手上げ、とアレクサンダーは手を上げて見せた。
クロスはロッドに視線を向けた。
「頼んでいたことは?」
「続行中ですが、シェルターの方は、部品までばらして調べました。間違いなくマドゥの会社の製品のようです。今、部品のロッド番号から流通経路を洗わせています。襲撃した者は照会させましたが、マドゥの人間ではありませんし、シェードカオンの住人でもありません」
襲撃の後、クロスが警備の者に命じていたことだった。スワロウは顔で照会できるように、頭は無傷にしておいた。そこらへんは抜かりない。
「宿泊施設にも照会しましたが、いまだにあたりはありません」
「ホテルは使っていないということか。誰かに匿われていたとしか思えんな」
この仕掛けは一日かそこらでできるものではない。数日間、シェードカオンか近辺に潜んでいたはずだ。
クロスがあたりを見回してから訊ねた。
「ふたつ聞く。シェードカオンの住人でもないものが、そういった装備をマドゥに知られず入手できるものか? また、シェードカオンにはそういったものが簡単に持ち込めるのか?」
「ありえません! 持ち込むのはもちろん、入手だって不可能です!」
ロッドが悲鳴のような声をあげた。
「では、その手助けをした者がいる、ということだな」
空気が凍りついた。誰かが犯人をかくまい装備を提供し、襲わせたということだ。
そんなことは、ある程度権力を持った人間しかできない。
「容疑者はここにいる、情報を知っていた幹部ほぼ全員ということだ」
マルトーニが苦りきった顔で言った。
「しかし……わしは無実ですぞ! これ、このとおり怪我も!」
顔の絆創膏を主張するガランスに、より重症であるマルトーニは首を振った。
「それは証拠にならない。直接つけられた傷ではないし、わざと怪我をしてみせて、容疑からはずれようとした、ということも考えられる。わしも含めてな」
「そういう意味では、ロッドを使うのは正解ですねえ。結果がどうあれ責任を取らされることになる彼なら、手を貸しません。彼は絶対に無実ですからねえ」
アレクサンダーが笑ってみせた。
「なら、エドワードやアレクサンダーでも……」
条件は同じではないかと、ガランスは言いたいらしい。
「いや、騙されて利用されたという線も考えられる。それならあのときに、口も塞げて一石二鳥だろう」
ごく冷静にエドワードが指摘した。
実業家風だといわれる一番目だが、確かにここまで実務優先だとは思わなかった。家族をも容疑者に入れてかまわないというのだ。
「怖いねえ。僕は無実だけど、疑いのある人間を責任者にするわけにはいかないんだ。分かった? ガランス」
「この仕事はクロスに任せよう。引き受けてもらえるか?」
大ボスの言葉に、クロスは少々考えこんでいた。
「自分の手勢では、引き受けかねます」
つれてきた護衛だけでは捜査はできない。戦力としては最上だが、それとは別の能力が要る。また、シェードカオンについて、『サザンクロス』の面々はあまりにも不案内だ。
「ロッドを使うといい。もともとそちらの専門家だ。新しい『グランティア』の選抜しておいた人材も必要なら、使いたまえ。仕事のためなら、あらゆる権限を与える」
無表情にエドワードがいい、新しい『グランティア』のメンバーになるはずだった者のリストをクロスの手元に置いた。この時点で新しい『グランティア』はクロスの配下となったということだ。
アレクサンダーがにっこり笑って言った。
「僕の部下も使っていいよ。アントをつけただろう? 彼に言うといいよ」
「この仕事は完全に潔白であることが前提となる。お前に任せるのが一番なのだ」
ここら辺が落しどころだろうとクロスは思った。拒否してもいいことはないし、自らの手で報復できるのならその方がいい。
クロスは煙草を揉み消した。
「分かりました。引き受けましょう」
「引き受けてもらえて、安心したよ。協力できることはあるかい?」
「情報の提供を。使い捨ての戦闘要員などいくらでもいますが、時期的に考えて、ギルバード・マドゥの失踪後、こちらに手を出して撃退された者が責任を取らされた、という線が、一番濃厚でしょう。『サザンクロス』の方にはもうやらせてますが、戦闘記録との照合を」
これには幹部連も驚いた。
「君は、昨日の時点で、そこまでやってたのかい?」
「当然でしょう。どこの身内か分かれば、その上のやつも分かる」
おそらくは、上部の人間ごと責任を取らされている。どこの身内か分かれば、潜んでいる仲間も特定できるだろう。
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「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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