記憶の欠片

藍白

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 運命なんて――!
 きっと『ケイ』は、運命を信じたのだろう。けれども何も報われなかったと思う。今の自分は、その影に怯えている。
「離れ、て」
 だから離れなくてはと怯える。運命なんて信じてないのに、惹きつけられる本能に抗えない。
「おいで」
「はっ、……あっ」
 耳元に彼の声が響いている。目を瞑り、熱い呼気を吐き出した。吸い込んだ空気に、彼の匂いが混ざりくらくらする。
「君の名前は?」
「……っ、はぁ……あっ」
 彼は啓介の胸元の社員証を見ると、表情を緩ませた。
「啓介。俺は宗弥、おいで」
「はっ……あっ……」
 ガンガンと警鐘が鳴る。
 ダメだ、この先は――知りたくない。
 運命なんて信じていない……信じたいとも思わない。
 けれども信じて叶わなかった夢が離れない。小さな欠片が集まり、思考の奥深くに形を成して居座っている。
 夢か記憶か――その欠片が降ってくる。
「啓介、俺の番」
 番。
 オメガはアルファにうなじを噛まれると、本能が求め合い番になる。
 朦朧とする意識の中、抱き上げられ運ばれる。その震動でさえも全身が歓喜し、昂ぶりが止まらない。下肢の屹立は勃ち上がり、後孔からは勝手にオメガ特有の粘液が滲んでいる。現状にも気付かぬまま、運ばれた部屋のソファーに横たえられる。覆い被さるように抱きしめられ、唇が重なり困惑する。けれども本能が歓喜して止まらない。
「ん……ん」
 勝手に腕が動き、自分に覆い被さっている宗弥の背に回り、気付かぬままに縋る。わずかに開いた啓介の唇を割って、宗弥の舌が絡まる。水音が耳に響き、後孔がずくずくと疼いている。
「ん……ふっ……」
 真新しいスーツは剥がれ、剥き出しになった小さな胸の尖りを摘ままれる。
「んんっ」
 ビクンと大きくその体が跳ねると、ふっと息の漏れる空気を感じた。
 番の喜びは番の喜び、番の悲しみは番の悲しみ。
 宗弥の温かな空気を感じ困惑する。
 違う、俺は……違う。
 俺は運命なんて――!
「んんん――」
 もう一方で性器を弄られ身じろぐが、宗弥の逞しい体が覆い被さり動けない。はっはっ、と熱い呼気を漏らしながら小刻みに震える。
「啓介」
「あっ! あ、あ――」
 耳元に宗弥の声が響き、白濁が飛んだ。
「んぁ……はっ……ぁ……」
 オメガとしてうなじを守るためのネックガードを外されると、ぶるりと身震いした。うなじに熱い呼気を感じ、ベロリと舐められる。
「番に」
「や、めて」
「何故?」
「お、れは、運命、なんて」
「何故?」
「運命なんて、ひぁっ」
 後孔に指を這わされ挿入されると、びくびくと裸体が震えた。足を大きく開いている現状に泣きたくなるが、啓介の思いとは裏腹に、悶える快感に困惑する。
 何だこれ、この感覚は……発情抑制剤は飲んでいるのに、何故こんなにも。
 自分自身がわからない。けれども歓喜していることに気づくと、啓介は自分自身に嫌悪する。それなのに宗弥の背に回した自分の腕が離れない。
「綺麗だ」
「ひっ、や、めろっ」
 態度とは裏腹な言葉が吐き出されるも、その背に回された腕には力が込められる。見越しているかのように、宗弥の手が蠢く。後孔には愛液が溢れ、それを絡めるように宗弥の長い指が挿入される。
「んふっ、う、……あっ」
「……」
 無言で額に口づけられると、歓喜する本能に意識を奪われる。ゆっくりと進んでいく宗弥の指から与えられる刺激に身震いする
「挿入れるぞ」
「んあっ、待っ、待っ、……てっ」
「どうして?」
「いっ、あ、ぁっ、あ――」
 ぐぐっとした圧迫感を感じたかと思うと、内壁を擦る感覚に背がしなる。ゆっくり挿入され、啓介の息が止まる。
「――……っ、ん、あっ……ぁ」
「覚えてる?」
 その声が、何故だか夢に見た彼と重なり、耳に届く。
 え?
 瞑っていた目を開けると、優しげな瞳が自分を見つめて、夢の彼とリンクする。
 そんなはずはない、けど……けど。
 あの後のシーンがタブって見える。
 優しげな眼差しが自分を捕らえて目を離せない。けれどもその表情に、夢の彼が重なって苦しい。
 もし彼が、あの夢の彼がこの宗弥であれば――そう思うと苦しい。惨めな後を遂げたであろう自分を知っているのかと、ありもしない過去に混乱する。
「あっ……はっ……あっ」
「どうした?」
 苦しげに眉をひそめた啓介を案じ、宗弥が頭を抱えるように抱きしめる。一層宗弥の匂いに包まれ、もっと苦しい。頭を振り、それを伝えようとするも伝わらず、もっともっと苦しい。
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