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その後3
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無音の室内で座り込む。ぽたぽたと雫の落ちるままに、スマホを手にした。電源を入れるが、やはり連絡はない。
「……連絡ぐらい……いや」
番になったわけではない。
約束はしたかもしれないが、確約ではない。
「……期待」
していたのかもしれない。
特別になれたのかと、宗弥の特別な存在になれるのかもしれないと期待していた自分に気付く。
「……ははっ」
気付いた自分を嘲笑う。
宗弥はアルファであり、更には大企業の次期社長だ。それなのに宗弥の唯一になるのかもしれないと、心のどこかで期待していたのかもしれない。
「他にもオメガがいるかもしれないのに」
心にもないことを呟いてみるが、空しさだけが流れていく。
いつから自分は、自分以外の誰かに依存するようになったのか。
振り向きキッチンを見つめると、出来たてだったはずのふたり分の料理から湯気が消えている。
今まで一人で生きてきた。出来るだけ誰かに頼らずに生きていこうと思い、番なんて期待していなかった。
――本当に?
自分自身に問いただす。
誰かの番になって生きていく自分を想像したことはなかった。自分の運命は、記憶の彼だと思っていた。彼に見られたはずの憐れな自分を消したい。
出来るならば、あの瞬間をやり直したい。
心の奥底に封じ込めていた本音が顔を出す。タオルで水気を拭いながら考える。
発情期は来ている。しかし相性のいい発情抑制剤で、他者に頼らず過ごすことが出来ている。
これからもそうだろう、そうあるように生きていこうと思う。
――本当に?
怒濤のように流れている数日を振り返る。
宗弥と番になると言うことは、あの数日が続くということだろう。
水気を拭う手が止まり、暫しの間、啓介は動けなかった。
遅くなってしまった。
宗弥は、たまっていた仕事と格闘していた。やらなければならない仕事は山積みだ。商社である父親の会社は、いつも多忙を極めている。そこに、啓介と過ごすための一週間の休暇をもぎ取った。
「連絡を」
時刻を見ると、どっぷり日が暮れた頃だった。
もう寝ているかな。
そう思うも、連絡くらいはいいかと思い、ラインにメッセージを送る。
――既読にならない。
不安が過るが、啓介は大人だ。返事がないくらい、心配はいらないはずだが、宗弥はケイを知っている。だからこそ不安が募って仕方がない。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様」
挨拶を済ませ、急ぎ帰路につく。
あの時は、間に合ったけれど間に合わなかった。
遙か昔の過去を繰り返さぬよう、心に戒める。駐車場に着くと、車に乗り込み、もう一度スマホを確認する。やはり既読は着いていない。啓介を思いながら、はやる気持ちを抑えながら、ハンドルを握り発進した。
「啓介」
啓介のアパートに着くとチャイムを鳴らす。しかし返事はない。
眠っているのか。
そう考えても、おかしくはない時間だ。けれども気になる。
「啓介」
もう一度チャイムを鳴らすと、スマホに連絡を入れる。合鍵をもらえなかったことを後悔する。
「……宗弥?」
もどかしい時間は、わずかな時間でさえも経過が遅く感じられるが、そのとき声が聞こえホッと息を吐いた。
「俺だ。開けて」
「……わかった」
扉が開かれると、現れた啓介の姿に眉間のしわを寄せた。
ぼんやりしていた気がする。
意識が朦朧としながらも、震動するスマホに手を伸ばした。眠ってしまっていたようだ。
「怠……」
スマホを見ると、数件のメッセージを確認する。
「……来てるのか?」
眠っていたから、こんなにも怠いのかと思いながら、ゆっくりと立ち上がり玄関に向かう。
扉を開け、見えた姿にホッとしたが、宗弥の表情が曇り訝しむ。
「熱があるんじゃないのか」
伸ばされた手が額に触れ、ひんやりとした感触に、ほぅと息を吐く。
「とにかく、何か服を着た方がいい」
下着姿で眠っていたのだと思い出す。
「……ああ」
「とにかく」
宗弥に手を引かれ、室内へと歩き出す。
「服は、勝手に出すぞ」
「……ああ」
服を着せられ、ベッドに促される。
「寝ろ」
「……仕事」
「ああ、遅くなった。今終わった」
「……あんた、うちに来る気、だったのか」
「そうだが?」
「……そう」
「薬あるか?」
「……多分、引き出しに」
「わかった」
もう一度額に、ひんやりとした手が重ねられる。
冷たくて気持ちがいい。
外は秋風。深夜の空気は、啓介の体を冷やしていた。
宗弥はベッドの横にある小さな引き出しから薬を探すと、キッチンに向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを手にする。
「啓介、……っと。寝たか」
ぼんやりとした思考の中、宗弥の声を聞く。唇に冷たいものを感じ、何かの液体だと思った。口内に流し込まれる冷たさを飲み込むと、ついで粒を含む。もう一度液体を飲まされ、何だろうと思いながら、啓介は揺蕩う空間に身を任せた。
「明日は休みだ、ゆっくり休め」
宗弥の声が心地いい。触れたいと思う。
「啓介」
名を呼ばれ手に触れられると、自分は手を伸ばしていたのだと知った。
「……」
この気持ちを、どう伝えればいいのか。手に感じる温もりに浸っていた。
「……連絡ぐらい……いや」
番になったわけではない。
約束はしたかもしれないが、確約ではない。
「……期待」
していたのかもしれない。
特別になれたのかと、宗弥の特別な存在になれるのかもしれないと期待していた自分に気付く。
「……ははっ」
気付いた自分を嘲笑う。
宗弥はアルファであり、更には大企業の次期社長だ。それなのに宗弥の唯一になるのかもしれないと、心のどこかで期待していたのかもしれない。
「他にもオメガがいるかもしれないのに」
心にもないことを呟いてみるが、空しさだけが流れていく。
いつから自分は、自分以外の誰かに依存するようになったのか。
振り向きキッチンを見つめると、出来たてだったはずのふたり分の料理から湯気が消えている。
今まで一人で生きてきた。出来るだけ誰かに頼らずに生きていこうと思い、番なんて期待していなかった。
――本当に?
自分自身に問いただす。
誰かの番になって生きていく自分を想像したことはなかった。自分の運命は、記憶の彼だと思っていた。彼に見られたはずの憐れな自分を消したい。
出来るならば、あの瞬間をやり直したい。
心の奥底に封じ込めていた本音が顔を出す。タオルで水気を拭いながら考える。
発情期は来ている。しかし相性のいい発情抑制剤で、他者に頼らず過ごすことが出来ている。
これからもそうだろう、そうあるように生きていこうと思う。
――本当に?
怒濤のように流れている数日を振り返る。
宗弥と番になると言うことは、あの数日が続くということだろう。
水気を拭う手が止まり、暫しの間、啓介は動けなかった。
遅くなってしまった。
宗弥は、たまっていた仕事と格闘していた。やらなければならない仕事は山積みだ。商社である父親の会社は、いつも多忙を極めている。そこに、啓介と過ごすための一週間の休暇をもぎ取った。
「連絡を」
時刻を見ると、どっぷり日が暮れた頃だった。
もう寝ているかな。
そう思うも、連絡くらいはいいかと思い、ラインにメッセージを送る。
――既読にならない。
不安が過るが、啓介は大人だ。返事がないくらい、心配はいらないはずだが、宗弥はケイを知っている。だからこそ不安が募って仕方がない。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様」
挨拶を済ませ、急ぎ帰路につく。
あの時は、間に合ったけれど間に合わなかった。
遙か昔の過去を繰り返さぬよう、心に戒める。駐車場に着くと、車に乗り込み、もう一度スマホを確認する。やはり既読は着いていない。啓介を思いながら、はやる気持ちを抑えながら、ハンドルを握り発進した。
「啓介」
啓介のアパートに着くとチャイムを鳴らす。しかし返事はない。
眠っているのか。
そう考えても、おかしくはない時間だ。けれども気になる。
「啓介」
もう一度チャイムを鳴らすと、スマホに連絡を入れる。合鍵をもらえなかったことを後悔する。
「……宗弥?」
もどかしい時間は、わずかな時間でさえも経過が遅く感じられるが、そのとき声が聞こえホッと息を吐いた。
「俺だ。開けて」
「……わかった」
扉が開かれると、現れた啓介の姿に眉間のしわを寄せた。
ぼんやりしていた気がする。
意識が朦朧としながらも、震動するスマホに手を伸ばした。眠ってしまっていたようだ。
「怠……」
スマホを見ると、数件のメッセージを確認する。
「……来てるのか?」
眠っていたから、こんなにも怠いのかと思いながら、ゆっくりと立ち上がり玄関に向かう。
扉を開け、見えた姿にホッとしたが、宗弥の表情が曇り訝しむ。
「熱があるんじゃないのか」
伸ばされた手が額に触れ、ひんやりとした感触に、ほぅと息を吐く。
「とにかく、何か服を着た方がいい」
下着姿で眠っていたのだと思い出す。
「……ああ」
「とにかく」
宗弥に手を引かれ、室内へと歩き出す。
「服は、勝手に出すぞ」
「……ああ」
服を着せられ、ベッドに促される。
「寝ろ」
「……仕事」
「ああ、遅くなった。今終わった」
「……あんた、うちに来る気、だったのか」
「そうだが?」
「……そう」
「薬あるか?」
「……多分、引き出しに」
「わかった」
もう一度額に、ひんやりとした手が重ねられる。
冷たくて気持ちがいい。
外は秋風。深夜の空気は、啓介の体を冷やしていた。
宗弥はベッドの横にある小さな引き出しから薬を探すと、キッチンに向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを手にする。
「啓介、……っと。寝たか」
ぼんやりとした思考の中、宗弥の声を聞く。唇に冷たいものを感じ、何かの液体だと思った。口内に流し込まれる冷たさを飲み込むと、ついで粒を含む。もう一度液体を飲まされ、何だろうと思いながら、啓介は揺蕩う空間に身を任せた。
「明日は休みだ、ゆっくり休め」
宗弥の声が心地いい。触れたいと思う。
「啓介」
名を呼ばれ手に触れられると、自分は手を伸ばしていたのだと知った。
「……」
この気持ちを、どう伝えればいいのか。手に感じる温もりに浸っていた。
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