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番外編・ネオ
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怖い人だな。
初めてリアム・ベル様を見たときには、僕、ネオはそう思った。
リアム様は、ベル侯爵家の次男だという。いつも本人が言っているので、よく知っている。
僕は平民だ。しかも、孤児。そんな僕が、リアム様と関わることはなかった。でも、あの日――
「あっ」
目の前にいたソラ・ターナー様の肩が、僕にぶつかった。僕の体は、傾いてしまう。傾いた先は長い螺旋階段。このまま落ちたら、軽傷ではすまないかも。
「危ないっ」
マズい、と思った瞬間、誰かに腕を掴まれ、階段と反対側に引かれる。
僕は、その弾みで、床に座り込んでしまった。
「ああっ」
咄嗟に手を伸ばしたが、彼は階段から落ちていく。
どうしよう。誰か――っ!
「危ないっ」
そのとき、緊迫した声が耳に入ってきた。慌てて階下を見下ろす。
彼――リアム様は、なんとオーウェン殿下に助けられていた。自分を助けてくれた人がリアム様だったことも驚きだが、オーウェン殿下がリアム様を助けたことにも驚きだ。
「……え?」
僕の見間違いかと思い、目を擦る。しかし、次に目を開けた際にも、その状況は変わっていない。ならば、これは現実だ。
そんなことを考えていたら、オーウェン殿下の腕の中にいたリアム様が、意識を失ったようだ。
「何があったんだ、オーウェン!」
アレンさんが、オーウェン殿下に叫んでいる。
「彼が階段から落ちてきたんだ」
オーウェン殿下は、アレンさんに状況を説明しているようだ。
「何でこんなことに……っ!」
背後からソラ様の唸ったような潜めた声が聞こえてきた。そのまま彼は、階段を駆け下りていく。
「え、今のって……?」
なんだったのだろう。ソラ様はいつも明るいのに、そうではなかったような。
「聞き間違いかな……?」
よくわからないが、リアム様は、オーウェン殿下に抱き上げられていく。サミュエル様が、駆け下りていったソラ様に、状況を聞いているようだ。
「人騒がせだな」
アレンさんは、そう言って、オーウェン殿下と一緒に去って行った。
「さっきの見た?」
僕の友人が、そう言った。
「見た。っていうか、僕……」
もしかしたら、自分の方が階段から落ちていたかもしれない状況だったと、今更ながらに気付き、震えてくる。
「ネオ、大丈夫か。なにがあったんだ?」
「……う、うん。実は僕、階段から落ちそうになっていたんだ。それを、リアム様が……」
「え、リアム様が?」
「……助けてくれたんだ」
「え? まさか」
「そう思うだろ……でも、たしかにあの手はリアム様だったんだ……」
信じられないのは僕も同じだ。
ふたりで顔を見合わせ、息をのむ。
「リアム様って、あのリアム様だろ?」
「そう、あのリアム様」
「まさか……え、見間違いじゃないのか?」
「え、だって、階段から落ちたのは、リアム様でしょ」
「そ、そうだったけれど……」
階段から落ちた人が、僕を助けてくれた人だ。
でも、リアム様がそう思われていない状況になっていたなんて、僕は知らなかったんだ。
しかし、リアム様が僕を助けてくれたんだっていう確信が持てそうになった事件が起きた。それは、食堂でだ。
僕と友人が、食堂に行っていたときだ。友人と僕が、トレーを運んでいたときのこと。
「平民なのに来るとか、何様だよ」
そう貴族の学生に絡まれてしまった。
「あの、すみません」
たまに、こういうことがるのは、平民の悲しいところだ。平等とは何なのだろうと思う一面。
しかし、そのとき、彼に肩を押されて、トレーを落としてしまった。
罵倒され、思わず頭を下げていると、リアム様が僕たちの間に入り、僕を助けてくれた。それどころか、床に落ちたままのトレーを片付けようとしてくれる。
「どうしたんだ」
そのとき、オーウェン様が現れた。あまりの非現実的なことの連続に、僕は言葉を失ってしまう。
食堂の人が来て、どうしたのか聞いてきたとき、リアム様が立ちあがった。そのまま去って行く。驚いてしまって、彼にきちんとお礼を言うことが出来なかった。
「わあー、大丈夫ですか。これってリアム様がしたんですか。ひどいー」
そのとき、ソラ様が現れた。
「ち、違います!」
慌てて僕は呟いたが、声が小さくて、誰にも聞こえなかったようだ。
「大丈夫か、ネオ」
そんな僕に手を差し伸べてくれたのがアレンさんだ。
「あ、ありがとう、ございます」
なんとか声を絞り出し、礼を言いながら立ちあがる。
「あいつに絡まれたのか」
「ち、違います。リアム様は、その」
「いい。わかっているって」
「違うんです」
「あいつ、身の程を知れって。なあ」
僕は意気地なしだ。違うとしっかり説明できない。
僕がもだもだとしている間に、オーウェン殿下たちは、どこかに行ってしまった。
リアム様と僕は、同じクラスだ。だから彼が、どんな風に変わっていったのか見えている。それを信じられない思いで見ているのが、僕たちクラスメイトだ。
彼は目立つ。見目もそうだが、存在が際立っているのだと思う。
「最近のリアム様、なんか変わったな」
「うん、僕もそう思う」
同じように感じたのは、僕たちだけではなかったようだ。
ある日、リアム様が、僕たちの住む孤児院に遊びに来た。それも、オーウェン殿下と、だ。
正直なところ驚いた。驚きすぎて、失礼な態度を取ってしまう。でも、リアム様は、そんな僕を咎めることはしなかった。変わったなと思う。
今までのリアム様だったら、激しく罵倒されていたはずだ。
「……いい人、なのかな」
ほんのり、僕の中で、リアム様に対する思いが変わっていく。
クリスマスパーティーでも、リアム様は活躍していた。それだけではない。時折、週末になるとやって来ては、掃除に洗濯を手伝ってくれる。子どもたちと遊んだり、菓子作りをしたり。
学園では孤立しているようにみえていたリアム様だが、こうしてみると、寂しかっただけなのかもしれないと思うようになっていく。
「そっか。僕たちと同じなのかもしれないな」
そんなリアム様を見ながら、僕は呟いていた。
貴族であるリアム様と同じだと考えるのは違うと思うけれど、その反面、同じ十八歳なんだとも思えてくるから不思議だ。
「不思議な人」
「どうした、ネオ」
「あ、アレンさん」
いつも孤児院に遊びに来ているアレンさんだ。オーウェン殿下とも仲がいいし、背も高いので、僕は少し彼に対して萎縮している。
でも、アレンさんは、そんな僕のことに構うことなく、喋り続けている。
「あいつ、変わったよな。リアム」
「リアム様ですか。そうですね。僕もそう思います」
「今のあいつなら、信じられそうだなって思うんだ」
「わかる気がします。孤児院のクリスマスパーティーも、手伝ってくれるって言うし」
「そうなのか。そっか……」
アレンさんは、少し考えるような素振りを見せる。
「あ、俺もクリスマスパーティー、手伝うから」
「え? いいんですか」
「人手はあった方がいいだろう」
「はい、助かります」
にこりと微笑むと、アレンさんは、少しそっぽを向いた。どうしたのだろう。何か失礼なことでもしでかしたのかな。
「あー……ネオ、その」
「はい?」
なんだろうと思っていたら、オーウェン殿下が来た。僕はそっとその場を離れる。高貴な人は苦手だ。
アレンさんは、一度僕の方を見て、何かを言いかけたが、オーウェン殿下と話し始めてしまった。
そして学園での断罪劇の日。
僕は勇気を出して、リアム様への、今までの僕の思いを打ち明けた。アレンさんが、ずっと見守ってくれているような気がしたから、最後まで話すことが出来た。
会が終わってから、アレンさんに褒められた。嬉しい。
アレンさんとは、彼の誘いでダンスも踊ったのだ。いい思い出になると思う。
「ありがとうございます、アレンさん」
「ん?」
会場を出ながら、彼と並んで歩く。
「いつも励ましてくださって」
「し、下心があったからな」
「下心?」
足を止めて、アレンさんの顔を見つめる。彼の頬が、心なしか赤くなっているように感じるのは気のせいか。
「す、好きだ」
「――え?」
「だから好きだって言っているんだ!」
そんな大声で叫ばれたら、行き交う人たちに聞こえるではないか。
僕は慌てて、アレンさんに「しー!」って言った。
「す、すまん」
「い、いいえ……でも、そそその……」
「返事、聞かせてくれるか」
「へ、返事……その……いいのですか、僕で」
アレンさんは、卒業後は騎士団に入るのだという。オーウェン殿下の近衛騎士を目指している素敵な人だ。
「いつの頃からか、妙にネオのことが気になりだしてな」
頭を掻きながら、アレンさんは言う。
「そ、そそそうなんですね……その、僕はその」
「返事」
「は、はいっ! お、お願いします!」
ダンスだけではないが、あのとき踊ったダンスは最高だった。息が合うっていうのかな、そういうのをひしひしと感じていた。アレンさんだからだと思う。
僕も、リアム様やオーウェン殿下のように、素直にまっすぐな人になりたい。
人は変わっていく生き物だということを、リアム様から教えてもらった。そして、変わらない思いがあることは、オーウェン殿下から。
彼らの造る国に、僕は住んでいるんだ。だから――
「よし!」
「はい!」
アレンさんは、そんなふたりを守っていきたいのだという。そんな彼を僕が支えられたら。
「よし、ネオ! 今から鍛錬だ!」
「た、鍛錬っ?」
「足腰を鍛えておけば、いざというときにいいからな」
「いざというとき……?」
こういうちょっと不思議なところがあるのが、アレンさんの魅力なのだろうと思う。かわいい人だ。
とはいえ、鍛錬はなかなか厳しいものがあるので、気合いが必要だ。
「冗談だ」
「い、いえ! 僕もアレンさんと一緒に!」
「そうか。なら、ダンスの練習を付き合ってもらおうかな」
「ダンス? はい!」
「オーウェンとリアムの結婚式に踊るだろう?」
「そうですね」
楽しみだ。
たくさん練習して、彼に恥じない自分でいたいと思う。
「結婚式かあ。楽しみです」
「……俺たちの方が早いかもな」
「え?」
「な、なんでもない。ほら、行くぞ」
「はい、アレンさん」
手を繋いで、彼と歩いて行く。
END
ーーーーーーーー
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
皆様に支えられ、無事書籍化させていただくことができました。感謝しています。
書籍版もお楽しみいただけると嬉しいです。書き下ろしのENDがあり、よりこのお話に深みが出たなと思います。もちろん改稿していますので、投稿版よりすっきりと読みやすくなっていると思います。
感想などお寄せいただけましたら幸いです。
ツイッター(藍白・ツイッター で検索していただけるとヒットすると思います)しています。よろしければ……!
藍白。
初めてリアム・ベル様を見たときには、僕、ネオはそう思った。
リアム様は、ベル侯爵家の次男だという。いつも本人が言っているので、よく知っている。
僕は平民だ。しかも、孤児。そんな僕が、リアム様と関わることはなかった。でも、あの日――
「あっ」
目の前にいたソラ・ターナー様の肩が、僕にぶつかった。僕の体は、傾いてしまう。傾いた先は長い螺旋階段。このまま落ちたら、軽傷ではすまないかも。
「危ないっ」
マズい、と思った瞬間、誰かに腕を掴まれ、階段と反対側に引かれる。
僕は、その弾みで、床に座り込んでしまった。
「ああっ」
咄嗟に手を伸ばしたが、彼は階段から落ちていく。
どうしよう。誰か――っ!
「危ないっ」
そのとき、緊迫した声が耳に入ってきた。慌てて階下を見下ろす。
彼――リアム様は、なんとオーウェン殿下に助けられていた。自分を助けてくれた人がリアム様だったことも驚きだが、オーウェン殿下がリアム様を助けたことにも驚きだ。
「……え?」
僕の見間違いかと思い、目を擦る。しかし、次に目を開けた際にも、その状況は変わっていない。ならば、これは現実だ。
そんなことを考えていたら、オーウェン殿下の腕の中にいたリアム様が、意識を失ったようだ。
「何があったんだ、オーウェン!」
アレンさんが、オーウェン殿下に叫んでいる。
「彼が階段から落ちてきたんだ」
オーウェン殿下は、アレンさんに状況を説明しているようだ。
「何でこんなことに……っ!」
背後からソラ様の唸ったような潜めた声が聞こえてきた。そのまま彼は、階段を駆け下りていく。
「え、今のって……?」
なんだったのだろう。ソラ様はいつも明るいのに、そうではなかったような。
「聞き間違いかな……?」
よくわからないが、リアム様は、オーウェン殿下に抱き上げられていく。サミュエル様が、駆け下りていったソラ様に、状況を聞いているようだ。
「人騒がせだな」
アレンさんは、そう言って、オーウェン殿下と一緒に去って行った。
「さっきの見た?」
僕の友人が、そう言った。
「見た。っていうか、僕……」
もしかしたら、自分の方が階段から落ちていたかもしれない状況だったと、今更ながらに気付き、震えてくる。
「ネオ、大丈夫か。なにがあったんだ?」
「……う、うん。実は僕、階段から落ちそうになっていたんだ。それを、リアム様が……」
「え、リアム様が?」
「……助けてくれたんだ」
「え? まさか」
「そう思うだろ……でも、たしかにあの手はリアム様だったんだ……」
信じられないのは僕も同じだ。
ふたりで顔を見合わせ、息をのむ。
「リアム様って、あのリアム様だろ?」
「そう、あのリアム様」
「まさか……え、見間違いじゃないのか?」
「え、だって、階段から落ちたのは、リアム様でしょ」
「そ、そうだったけれど……」
階段から落ちた人が、僕を助けてくれた人だ。
でも、リアム様がそう思われていない状況になっていたなんて、僕は知らなかったんだ。
しかし、リアム様が僕を助けてくれたんだっていう確信が持てそうになった事件が起きた。それは、食堂でだ。
僕と友人が、食堂に行っていたときだ。友人と僕が、トレーを運んでいたときのこと。
「平民なのに来るとか、何様だよ」
そう貴族の学生に絡まれてしまった。
「あの、すみません」
たまに、こういうことがるのは、平民の悲しいところだ。平等とは何なのだろうと思う一面。
しかし、そのとき、彼に肩を押されて、トレーを落としてしまった。
罵倒され、思わず頭を下げていると、リアム様が僕たちの間に入り、僕を助けてくれた。それどころか、床に落ちたままのトレーを片付けようとしてくれる。
「どうしたんだ」
そのとき、オーウェン様が現れた。あまりの非現実的なことの連続に、僕は言葉を失ってしまう。
食堂の人が来て、どうしたのか聞いてきたとき、リアム様が立ちあがった。そのまま去って行く。驚いてしまって、彼にきちんとお礼を言うことが出来なかった。
「わあー、大丈夫ですか。これってリアム様がしたんですか。ひどいー」
そのとき、ソラ様が現れた。
「ち、違います!」
慌てて僕は呟いたが、声が小さくて、誰にも聞こえなかったようだ。
「大丈夫か、ネオ」
そんな僕に手を差し伸べてくれたのがアレンさんだ。
「あ、ありがとう、ございます」
なんとか声を絞り出し、礼を言いながら立ちあがる。
「あいつに絡まれたのか」
「ち、違います。リアム様は、その」
「いい。わかっているって」
「違うんです」
「あいつ、身の程を知れって。なあ」
僕は意気地なしだ。違うとしっかり説明できない。
僕がもだもだとしている間に、オーウェン殿下たちは、どこかに行ってしまった。
リアム様と僕は、同じクラスだ。だから彼が、どんな風に変わっていったのか見えている。それを信じられない思いで見ているのが、僕たちクラスメイトだ。
彼は目立つ。見目もそうだが、存在が際立っているのだと思う。
「最近のリアム様、なんか変わったな」
「うん、僕もそう思う」
同じように感じたのは、僕たちだけではなかったようだ。
ある日、リアム様が、僕たちの住む孤児院に遊びに来た。それも、オーウェン殿下と、だ。
正直なところ驚いた。驚きすぎて、失礼な態度を取ってしまう。でも、リアム様は、そんな僕を咎めることはしなかった。変わったなと思う。
今までのリアム様だったら、激しく罵倒されていたはずだ。
「……いい人、なのかな」
ほんのり、僕の中で、リアム様に対する思いが変わっていく。
クリスマスパーティーでも、リアム様は活躍していた。それだけではない。時折、週末になるとやって来ては、掃除に洗濯を手伝ってくれる。子どもたちと遊んだり、菓子作りをしたり。
学園では孤立しているようにみえていたリアム様だが、こうしてみると、寂しかっただけなのかもしれないと思うようになっていく。
「そっか。僕たちと同じなのかもしれないな」
そんなリアム様を見ながら、僕は呟いていた。
貴族であるリアム様と同じだと考えるのは違うと思うけれど、その反面、同じ十八歳なんだとも思えてくるから不思議だ。
「不思議な人」
「どうした、ネオ」
「あ、アレンさん」
いつも孤児院に遊びに来ているアレンさんだ。オーウェン殿下とも仲がいいし、背も高いので、僕は少し彼に対して萎縮している。
でも、アレンさんは、そんな僕のことに構うことなく、喋り続けている。
「あいつ、変わったよな。リアム」
「リアム様ですか。そうですね。僕もそう思います」
「今のあいつなら、信じられそうだなって思うんだ」
「わかる気がします。孤児院のクリスマスパーティーも、手伝ってくれるって言うし」
「そうなのか。そっか……」
アレンさんは、少し考えるような素振りを見せる。
「あ、俺もクリスマスパーティー、手伝うから」
「え? いいんですか」
「人手はあった方がいいだろう」
「はい、助かります」
にこりと微笑むと、アレンさんは、少しそっぽを向いた。どうしたのだろう。何か失礼なことでもしでかしたのかな。
「あー……ネオ、その」
「はい?」
なんだろうと思っていたら、オーウェン殿下が来た。僕はそっとその場を離れる。高貴な人は苦手だ。
アレンさんは、一度僕の方を見て、何かを言いかけたが、オーウェン殿下と話し始めてしまった。
そして学園での断罪劇の日。
僕は勇気を出して、リアム様への、今までの僕の思いを打ち明けた。アレンさんが、ずっと見守ってくれているような気がしたから、最後まで話すことが出来た。
会が終わってから、アレンさんに褒められた。嬉しい。
アレンさんとは、彼の誘いでダンスも踊ったのだ。いい思い出になると思う。
「ありがとうございます、アレンさん」
「ん?」
会場を出ながら、彼と並んで歩く。
「いつも励ましてくださって」
「し、下心があったからな」
「下心?」
足を止めて、アレンさんの顔を見つめる。彼の頬が、心なしか赤くなっているように感じるのは気のせいか。
「す、好きだ」
「――え?」
「だから好きだって言っているんだ!」
そんな大声で叫ばれたら、行き交う人たちに聞こえるではないか。
僕は慌てて、アレンさんに「しー!」って言った。
「す、すまん」
「い、いいえ……でも、そそその……」
「返事、聞かせてくれるか」
「へ、返事……その……いいのですか、僕で」
アレンさんは、卒業後は騎士団に入るのだという。オーウェン殿下の近衛騎士を目指している素敵な人だ。
「いつの頃からか、妙にネオのことが気になりだしてな」
頭を掻きながら、アレンさんは言う。
「そ、そそそうなんですね……その、僕はその」
「返事」
「は、はいっ! お、お願いします!」
ダンスだけではないが、あのとき踊ったダンスは最高だった。息が合うっていうのかな、そういうのをひしひしと感じていた。アレンさんだからだと思う。
僕も、リアム様やオーウェン殿下のように、素直にまっすぐな人になりたい。
人は変わっていく生き物だということを、リアム様から教えてもらった。そして、変わらない思いがあることは、オーウェン殿下から。
彼らの造る国に、僕は住んでいるんだ。だから――
「よし!」
「はい!」
アレンさんは、そんなふたりを守っていきたいのだという。そんな彼を僕が支えられたら。
「よし、ネオ! 今から鍛錬だ!」
「た、鍛錬っ?」
「足腰を鍛えておけば、いざというときにいいからな」
「いざというとき……?」
こういうちょっと不思議なところがあるのが、アレンさんの魅力なのだろうと思う。かわいい人だ。
とはいえ、鍛錬はなかなか厳しいものがあるので、気合いが必要だ。
「冗談だ」
「い、いえ! 僕もアレンさんと一緒に!」
「そうか。なら、ダンスの練習を付き合ってもらおうかな」
「ダンス? はい!」
「オーウェンとリアムの結婚式に踊るだろう?」
「そうですね」
楽しみだ。
たくさん練習して、彼に恥じない自分でいたいと思う。
「結婚式かあ。楽しみです」
「……俺たちの方が早いかもな」
「え?」
「な、なんでもない。ほら、行くぞ」
「はい、アレンさん」
手を繋いで、彼と歩いて行く。
END
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ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
皆様に支えられ、無事書籍化させていただくことができました。感謝しています。
書籍版もお楽しみいただけると嬉しいです。書き下ろしのENDがあり、よりこのお話に深みが出たなと思います。もちろん改稿していますので、投稿版よりすっきりと読みやすくなっていると思います。
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藍白。
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お読みいただきありがとうございます。
そうですね、私もこのふたりのその後を想像しています。きっと素敵な結婚生活を送っているはずです。いつか書けたらいいなと思います。ありがとうございます!
序盤から胸糞悪いキャラばっか...
お読みいただきありがとうございます。
序盤、なかなかしんどい展開ですね。
最近この小説を買って読み終わりました!最後2人共幸せになれて良かったです!野菜のパンとかクッキーとか途中で出てきて食べてみたいな〜って思ってしまいましたwこれからも頑張ってください!!
お読みいただきありがとうございます。
ハピハピENDになって、私も嬉しいです!! 私も、作中に出てくるもの、食べてみたいです。
ありがとうございます、頑張ります!