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6話
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『16時に正門の前でお待ちしております』
携帯電話の通知を見て、慧は周囲の目も憚らずあっと驚きの声を上げた。机の上に広げていたノートを鞄に無造作に掻き込み、急ぎ足で講堂を出る。校門に着いて周囲を見回すと、見覚えのある青いスポーツカーが停まっていた。助手席に近づき、漏らす寸前の如く窓ガラスを連打すると、ややあってドアロックを解錠する音がした。
「すんません夢里さん! 俺、携帯の電源切ってて……!」
運転席に座っていた人物の紅い双眸が、微笑みに細められる。
慧がシートベルトを締めるのを見届けて、車はゆっくりと発進し出した。
「相変わらずお元気そうで何よりです。慧お坊ちゃん。でも、少し顔色が悪いみたい。目の下に隈もございますし、ちゃんと眠れていらっしゃらないのではないですか?」
顔色の悪さには気がついているが、理由が理由なので説明しづらい。慧は曖昧に笑って誤魔化した。
「そのお坊ちゃんっての、やめてくださいよ。俺はもう鮫島家から勘当された身なんですから」
「たとえ何があろうとも、私にとってお坊ちゃんはお坊ちゃんですよ」
車は住宅路を抜け、大通りを走り出す。どこへ向かうのか、と問いかけると「このままどこまでも行ってしまおうかしら」などと食えない返事が来る。何と言えばいいか分からずに黙り込むと、夢里はクスクスと鈴を転がすような笑い声と共に、
「悟様は会議が長引いていて、予定よりも遅れるそうですから、もう少し私とのドライブにお付き合いくださいな」
と柔和な声色で付け加えた。
夢里は、慧の身の回りの世話を幼少の頃より担当している。ジョブは護衛人、ギフトは変装。服や化粧、変声技術などを用いて老若男女問わず様々な人物に成り切ることができる。実父の古くからの知り合いであるということ以外は、年齢どころか性別さえも謎に包まれているのがこの夢里という人物だった。
今は女性の格好をしているのだから、形式的に「彼女」と呼ぶべきなのだろうか。ぽってりとした赤い唇に視線を注いでいると、夢里と目が合う。慌てて顔を前方に向け直すが、車の駆動音に紛れて夢里が笑う気配を感じ取り、恥ずかしさから顔がみるみるうちに熱くなっていった。
しばらくの間、当たり障りのない世間話が繰り広げられた。大学での授業に着いていけているか、友達はできたのか、金銭的な問題はないかなどを、カウンセリングでも受けているような優しい声で問われ、どこか居心地の悪さを覚えながらもそれらの質問に答えていく。
20分ほど経過した頃、無機質な着信音が車内に鳴り響き、その場の雰囲気を打ち破った。夢里は自身の胸ポケットから携帯電話を取り出し、慧に差し出した。
携帯電話を受け取り、耳に当てる。
「……もしもし」
慧の呼びかけに、数秒経ってから、「ああ」と気怠げな男の声が返ってきた。
『慧、久しぶりだな。オレだよ、オレ。えーっと、あー……お前の兄貴の……何言おうとしてたんだっけか。……悪ぃ。ちょっと立て込んでてな、兄ちゃん今疲れてんだわ』
「警察って忙しいんだな。ちゃんと眠れてんの?」
『まあ、ぼちぼちと言ったところだ』
電話の向こうから悟以外の声は聞こえない。人目につかない場所で電話をかけているようだ。
『そっちは元気してたか? 大学はちゃんと通ってっか?』
先程夢里に尋ねられたものと似たような質問ばかりを投げかけられ、それにぎこちなく答えながら、早くこの時間が終わればいいのにと思ってしまう。
悟は決して悪人ではない。だが、警察という職業柄、彼の声色は常に威圧的で、聞いていると空気が薄くなっていくような息苦しさを覚えるのだ。だから、会話はできる限り手短に済ませたかった。
本題に入るように促すと、電話の向こうで盛大なため息を吐かれる。まだ会話を続けたそうな気配を残しつつも、悟はすぐさま話題を切り替えた。
『で、どうだよ。例のことについて何か分かったことはあっか?』
「特にこれといった人はいねぇかな。よくも悪くも独特な雰囲気がある街ではあるよ。聞いてた通りの治安の悪さとかはあるけど、でも、スリとか万引きとかは、そっちでもあったことだし、大した問題じゃねぇと思う。あとは……まあ、たまに銃声が聞こえてくるかな。危ない道に入らなければ、巻き込まれることはなさそうだな」
『そうか……』
悟は明らかに落胆していた。通話の向こうで物音がする。その後、ライターの着火音と長々としたため息が聞こえ、悟がタバコを吸っているのだと分かる。
「ごめん、力になれなくて」
『気にすんな。だが、何か不審なことがあったら、オレか夢里にすぐに報告しろ。いいな? どんな些細なことでもだぜ』
「……うん」
膝の上で両手の指を組み、項垂れるような体勢になっていた慧は、からからに渇いた喉を震わせ、口を開く。
「なぁ、本当にこっちに保持者がいんのかな。それも、他人に危害を加えることができるギフトだなんて、本当にそんなことがありえんの?」
近頃、外の世界では不審な事件が多発している。政府の要人や警察関係者、大企業の取締役などの殺人事件が相次いで起きているのである。いずれの事件も容疑者は2名。被害者を警護していた人々が皆、口を揃えて「その男と目が合った瞬間、体が痺れたように動かなくなった」と証言したことから、警察は同一の人物による犯行と見て捜査を進めている。
ここまでが報道機関を通して一般人も知ることのできる情報である。このことから、相手を意のままに操る能力の持ち主による犯行だと巷では噂されているそうだが、ギフトホルダーの犯行だとすると不可解な点がいくつかある。
まず、15歳になると発現するとされている能力だが、他人に危害を加えるようなギフトはそもそも存在せず、また、悪意を持って使用しようとした時は効果が発動しないようになっている。
たとえば、夢里の「どんな姿にもなることができる」という能力は、護衛人というジョブを務めるために使用することは可能だが、他人に成り代わって詐欺行為をするなどの悪用はできない。
そして、慧が今住んでいるモラト特別自治区域は能力保持者に対する強い恨みを持つ者が多く、ホルダーの侵入を易々と許容するとは思えなかった。
だが、悟はモラト特別自治区域にホルダーがいるのだと言う。警察の彼が自信を持ってそう言えるということは、部外者の慧には話すことができない、決定的な証拠があるのだろう。
生活費の援助と引き換えに、モラト特別自治区域に住んで該当のホルダーを探すのが、悟から与えられた慧の役目だ。
能力なしであることが判明し、周囲から爪弾きにされていた慧は、歳の離れた兄に頼られる状況が嬉しくて、特に何も考えずに彼の頼みを受け入れてしまった。だが、今では本当にそれでいいのかという疑念が芽生え始めている。
「そっちで色々と不可解な事件が起きてるっていうのは俺も知ってる。でも、証拠がない以上、モラトの犯行だって断定はできない。はっきり言って、俺には全ての罪をモラトになすりつけているようにしか……」
発言を遮るように、悟が慧の名前を呼ぶ。
『与えられるギフトの数は一人につきひとつだ。ギフトを複数個持つ人間など歴史上に一人として存在しねぇ。っつうことは、ギフトも持たないモラトが、何らかの方法でギフトを得られるようになったというのが一番考えられる線だろ』
「そんな方法があるなら、ホルダーがギフトを新たに手に入れる方法だって考えられるはずじゃんか。なぁ、兄さんばっかり情報を持ってて、何も持たない俺がただ命令を聞くだなんてフェアじゃない。何か知ってることがあるなら、俺にも共有してほしいんだ。俺にはそれを聞く権利があるんじゃねぇの?」
悟は少し黙り込んだ。彼が少しでも自分のことを信頼していれば、たとえ警察の機密情報であったとしても、いくらかの事情を話してくれるはずだ。慧はそれを期待して、悟が話し出すのを待った。
だが、次に悟が言ったのは、
『お前だって、母さんがモラトに殺されるのを見たはずだ』
という決まり切った言葉だった。
『どんなにオレが真実を話しても、子供の世迷言だって、警察は信じちゃくれなかった。だからオレは、この手で真実を明るみにするために警察になったんだ。警察というジョブを与えられたのは、このギフトを手に入れられたのは、きっと運命だ。神が、母さんの仇を取れってオレに言ってんだよ』
この話をすると、いつも平行線になる。慧はただ、自分のことを兄に信頼してほしいだけだった。だが兄は、母親の仇を討つことしか考えていない。
母親を殺したモラトは、モラト特別自治区域に住んでいた人物であり、ホルダーに対して強い恨みを持っていた。
せめて犯人が今も生きていればと思うのだが、彼は逮捕後すぐに自殺してしまったから、真相は闇に包まれている。
『お前だって母さんの仇を取りたいだろ。お前が協力してくれれば、きっと父さんもお前のことを見直してくれるぜ』
「……」
見直すも何も、自分は父に失望されるような行いをした覚えはない。15年の歳月を経て築かれた親子関係は、モラトであるという、たったそれだけのことで瓦解してしまった。
『警察が誰もオレのことを信じちゃくれなかったように、誰もお前の力を信じてはいなかった。でもオレは、オレだけはお前のことを、お前のその目を信じてる。お前が言ったんだ。犯人はギフトを使ったんだってな。オレは、お前のその言葉を信じている』
捲し立てるようにそう言って、悟は電話を切った。スピーカー部分を耳に当て、ビジートーンを聴きながら絶句していると、横から伸びてきた手が携帯を攫う。
夢里は携帯を仕舞うと、悴んだように固まって動かない慧の手を、包み込むように握り締める。子供の頃、手袋を付けずに雪遊びをしては、真っ赤になった手を夢里に温められていたのを何故だか不意に思い出し、不意に泣きたくなった。
夢里は、第二の父であり、母のような存在だった。だけど今は。
「慧お坊ちゃん、私からもお願いです。どうか奥様の仇を取ってください」
聞き分けの悪い子供を言い含めるような声色と共に、真紅の瞳に見つめられ、慧はひとりぼっちになってしまったような寂しさを覚えた。
携帯電話の通知を見て、慧は周囲の目も憚らずあっと驚きの声を上げた。机の上に広げていたノートを鞄に無造作に掻き込み、急ぎ足で講堂を出る。校門に着いて周囲を見回すと、見覚えのある青いスポーツカーが停まっていた。助手席に近づき、漏らす寸前の如く窓ガラスを連打すると、ややあってドアロックを解錠する音がした。
「すんません夢里さん! 俺、携帯の電源切ってて……!」
運転席に座っていた人物の紅い双眸が、微笑みに細められる。
慧がシートベルトを締めるのを見届けて、車はゆっくりと発進し出した。
「相変わらずお元気そうで何よりです。慧お坊ちゃん。でも、少し顔色が悪いみたい。目の下に隈もございますし、ちゃんと眠れていらっしゃらないのではないですか?」
顔色の悪さには気がついているが、理由が理由なので説明しづらい。慧は曖昧に笑って誤魔化した。
「そのお坊ちゃんっての、やめてくださいよ。俺はもう鮫島家から勘当された身なんですから」
「たとえ何があろうとも、私にとってお坊ちゃんはお坊ちゃんですよ」
車は住宅路を抜け、大通りを走り出す。どこへ向かうのか、と問いかけると「このままどこまでも行ってしまおうかしら」などと食えない返事が来る。何と言えばいいか分からずに黙り込むと、夢里はクスクスと鈴を転がすような笑い声と共に、
「悟様は会議が長引いていて、予定よりも遅れるそうですから、もう少し私とのドライブにお付き合いくださいな」
と柔和な声色で付け加えた。
夢里は、慧の身の回りの世話を幼少の頃より担当している。ジョブは護衛人、ギフトは変装。服や化粧、変声技術などを用いて老若男女問わず様々な人物に成り切ることができる。実父の古くからの知り合いであるということ以外は、年齢どころか性別さえも謎に包まれているのがこの夢里という人物だった。
今は女性の格好をしているのだから、形式的に「彼女」と呼ぶべきなのだろうか。ぽってりとした赤い唇に視線を注いでいると、夢里と目が合う。慌てて顔を前方に向け直すが、車の駆動音に紛れて夢里が笑う気配を感じ取り、恥ずかしさから顔がみるみるうちに熱くなっていった。
しばらくの間、当たり障りのない世間話が繰り広げられた。大学での授業に着いていけているか、友達はできたのか、金銭的な問題はないかなどを、カウンセリングでも受けているような優しい声で問われ、どこか居心地の悪さを覚えながらもそれらの質問に答えていく。
20分ほど経過した頃、無機質な着信音が車内に鳴り響き、その場の雰囲気を打ち破った。夢里は自身の胸ポケットから携帯電話を取り出し、慧に差し出した。
携帯電話を受け取り、耳に当てる。
「……もしもし」
慧の呼びかけに、数秒経ってから、「ああ」と気怠げな男の声が返ってきた。
『慧、久しぶりだな。オレだよ、オレ。えーっと、あー……お前の兄貴の……何言おうとしてたんだっけか。……悪ぃ。ちょっと立て込んでてな、兄ちゃん今疲れてんだわ』
「警察って忙しいんだな。ちゃんと眠れてんの?」
『まあ、ぼちぼちと言ったところだ』
電話の向こうから悟以外の声は聞こえない。人目につかない場所で電話をかけているようだ。
『そっちは元気してたか? 大学はちゃんと通ってっか?』
先程夢里に尋ねられたものと似たような質問ばかりを投げかけられ、それにぎこちなく答えながら、早くこの時間が終わればいいのにと思ってしまう。
悟は決して悪人ではない。だが、警察という職業柄、彼の声色は常に威圧的で、聞いていると空気が薄くなっていくような息苦しさを覚えるのだ。だから、会話はできる限り手短に済ませたかった。
本題に入るように促すと、電話の向こうで盛大なため息を吐かれる。まだ会話を続けたそうな気配を残しつつも、悟はすぐさま話題を切り替えた。
『で、どうだよ。例のことについて何か分かったことはあっか?』
「特にこれといった人はいねぇかな。よくも悪くも独特な雰囲気がある街ではあるよ。聞いてた通りの治安の悪さとかはあるけど、でも、スリとか万引きとかは、そっちでもあったことだし、大した問題じゃねぇと思う。あとは……まあ、たまに銃声が聞こえてくるかな。危ない道に入らなければ、巻き込まれることはなさそうだな」
『そうか……』
悟は明らかに落胆していた。通話の向こうで物音がする。その後、ライターの着火音と長々としたため息が聞こえ、悟がタバコを吸っているのだと分かる。
「ごめん、力になれなくて」
『気にすんな。だが、何か不審なことがあったら、オレか夢里にすぐに報告しろ。いいな? どんな些細なことでもだぜ』
「……うん」
膝の上で両手の指を組み、項垂れるような体勢になっていた慧は、からからに渇いた喉を震わせ、口を開く。
「なぁ、本当にこっちに保持者がいんのかな。それも、他人に危害を加えることができるギフトだなんて、本当にそんなことがありえんの?」
近頃、外の世界では不審な事件が多発している。政府の要人や警察関係者、大企業の取締役などの殺人事件が相次いで起きているのである。いずれの事件も容疑者は2名。被害者を警護していた人々が皆、口を揃えて「その男と目が合った瞬間、体が痺れたように動かなくなった」と証言したことから、警察は同一の人物による犯行と見て捜査を進めている。
ここまでが報道機関を通して一般人も知ることのできる情報である。このことから、相手を意のままに操る能力の持ち主による犯行だと巷では噂されているそうだが、ギフトホルダーの犯行だとすると不可解な点がいくつかある。
まず、15歳になると発現するとされている能力だが、他人に危害を加えるようなギフトはそもそも存在せず、また、悪意を持って使用しようとした時は効果が発動しないようになっている。
たとえば、夢里の「どんな姿にもなることができる」という能力は、護衛人というジョブを務めるために使用することは可能だが、他人に成り代わって詐欺行為をするなどの悪用はできない。
そして、慧が今住んでいるモラト特別自治区域は能力保持者に対する強い恨みを持つ者が多く、ホルダーの侵入を易々と許容するとは思えなかった。
だが、悟はモラト特別自治区域にホルダーがいるのだと言う。警察の彼が自信を持ってそう言えるということは、部外者の慧には話すことができない、決定的な証拠があるのだろう。
生活費の援助と引き換えに、モラト特別自治区域に住んで該当のホルダーを探すのが、悟から与えられた慧の役目だ。
能力なしであることが判明し、周囲から爪弾きにされていた慧は、歳の離れた兄に頼られる状況が嬉しくて、特に何も考えずに彼の頼みを受け入れてしまった。だが、今では本当にそれでいいのかという疑念が芽生え始めている。
「そっちで色々と不可解な事件が起きてるっていうのは俺も知ってる。でも、証拠がない以上、モラトの犯行だって断定はできない。はっきり言って、俺には全ての罪をモラトになすりつけているようにしか……」
発言を遮るように、悟が慧の名前を呼ぶ。
『与えられるギフトの数は一人につきひとつだ。ギフトを複数個持つ人間など歴史上に一人として存在しねぇ。っつうことは、ギフトも持たないモラトが、何らかの方法でギフトを得られるようになったというのが一番考えられる線だろ』
「そんな方法があるなら、ホルダーがギフトを新たに手に入れる方法だって考えられるはずじゃんか。なぁ、兄さんばっかり情報を持ってて、何も持たない俺がただ命令を聞くだなんてフェアじゃない。何か知ってることがあるなら、俺にも共有してほしいんだ。俺にはそれを聞く権利があるんじゃねぇの?」
悟は少し黙り込んだ。彼が少しでも自分のことを信頼していれば、たとえ警察の機密情報であったとしても、いくらかの事情を話してくれるはずだ。慧はそれを期待して、悟が話し出すのを待った。
だが、次に悟が言ったのは、
『お前だって、母さんがモラトに殺されるのを見たはずだ』
という決まり切った言葉だった。
『どんなにオレが真実を話しても、子供の世迷言だって、警察は信じちゃくれなかった。だからオレは、この手で真実を明るみにするために警察になったんだ。警察というジョブを与えられたのは、このギフトを手に入れられたのは、きっと運命だ。神が、母さんの仇を取れってオレに言ってんだよ』
この話をすると、いつも平行線になる。慧はただ、自分のことを兄に信頼してほしいだけだった。だが兄は、母親の仇を討つことしか考えていない。
母親を殺したモラトは、モラト特別自治区域に住んでいた人物であり、ホルダーに対して強い恨みを持っていた。
せめて犯人が今も生きていればと思うのだが、彼は逮捕後すぐに自殺してしまったから、真相は闇に包まれている。
『お前だって母さんの仇を取りたいだろ。お前が協力してくれれば、きっと父さんもお前のことを見直してくれるぜ』
「……」
見直すも何も、自分は父に失望されるような行いをした覚えはない。15年の歳月を経て築かれた親子関係は、モラトであるという、たったそれだけのことで瓦解してしまった。
『警察が誰もオレのことを信じちゃくれなかったように、誰もお前の力を信じてはいなかった。でもオレは、オレだけはお前のことを、お前のその目を信じてる。お前が言ったんだ。犯人はギフトを使ったんだってな。オレは、お前のその言葉を信じている』
捲し立てるようにそう言って、悟は電話を切った。スピーカー部分を耳に当て、ビジートーンを聴きながら絶句していると、横から伸びてきた手が携帯を攫う。
夢里は携帯を仕舞うと、悴んだように固まって動かない慧の手を、包み込むように握り締める。子供の頃、手袋を付けずに雪遊びをしては、真っ赤になった手を夢里に温められていたのを何故だか不意に思い出し、不意に泣きたくなった。
夢里は、第二の父であり、母のような存在だった。だけど今は。
「慧お坊ちゃん、私からもお願いです。どうか奥様の仇を取ってください」
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