自動販売機にて。

雷仙キリト

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 そんなことがあったので、最初、俺は細木のことがうっすらと嫌いだった。しかし時間が流れるにつれ、そういった感情は次第に薄れていった。

 一方で俺は、斉藤に対する怒りを募らせていた。何故ならあいつは妙に細木に構おうとするのだ。

 どうやら入学初日に怖がらせてしまったことを後悔しているらしく、何とかして自分が怖い男ではないことをアピールしたいようだった。良くやるな、と思う。相手が可愛い女の子で斉藤が一目惚れをしたならともかく、相手は男で、しかも見た目も冴えないのに。

「きっとこれは試練なんだ」とか、斉藤は意味の分からないことを言っていた。細木の誤解を解くことができれば、他の奴等の印象も変わるかもしれない、楽しい高校生活が送れるかもしれない、と。

 結構な心構えだ。見た目に似合わず真面目なあいつらしい。ひとつ問題があるならば、斉藤の「優しさ」が不器用すぎることだろう。

 小学生以来人から良く思われることを諦めていた斉藤は、コミュニケーション能力が皆無だった。

 たとえば、授業中に消しゴムを落として、細木がそれに気が付かなかった時。普通の奴なら、拾ってやって「はいどうぞ」と渡してやるだろう。しかし斉藤は違った。細木の背中を叩き、地面に転がっている消しゴムを指差した。「落ちてるんだけど」と。……分かってるなら拾ってやれよ。細木の消しゴムを盗もうとしてると勘違いされたるのが怖かったんだ、と斉藤容疑者は供述した。ネガティヴすぎる。

 たとえば、体育の授業中にチームを作るってなって、細木が隅っこでひとりあぶれていた時。普通なら「こっち来いよ」と誘ってやるだろう。斉藤はもちろん違った。ひとりで困って立ち尽くしている細木に近づき、「お前、仲間に入れてくれる奴いないのか」とド直球な言葉を浴びせていた。……可哀想に、細木は泣きそうな顔をしていた。

 斉藤は馬鹿で不器用で、そのうえ人見知りだった。馬鹿なりに努力はしているみたいだが、やり方が悪い。恐らく入学初日の件も、顔のせいもあるのだろうが、怖がられたのはその歯に衣着せぬ言い方のせいだろう。

 俺は斉藤の尻拭いをしなければならなくなった。斉藤が「落ちてる」と指差した消しゴムを拾って渡してやり、「仲間がいないのか」と言い放った後は急いで「いないなら、俺達と一緒にやろうぜ」と付け加えた。

 斉藤が何か変なことをやらかすのではないかと不安でならず、俺は授業をサボるにサボれなかった。おかげさまでストレスが溜まりまくりだ。

 俺が斉藤に怒る理由が分かっただろう。細木に対する怒りは消え失せ、もはや「うちの斉藤がすみませんねぇ」と申し訳なく思う気持ちすらあった。

 だから、サイダーを渡したのは謝罪の意味も込めていた。

「自販機で当たったから、やる」

 指先が触れ合った瞬間。細木が情けない顔をして笑ったのを見た瞬間。涼ちゃんのこと以外では動くことのなかった感情が、確かに動いたのを感じた。

 俺はそれに気が付かないフリをした。
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