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前菜 開店準備に大車輪!
第13話 君を仰ぐ
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「わが名はリエル・クリス・ユークリッド! その首貰い受ける!」
馬上でそう名乗りを上げて敵将と一騎打ち……苦戦ののち見事に討ち果たし、槍を掲げてこう叫ぶのだ。
「敵将討ち取ったりィ――ッ!!」
……そんな夢を見ていた日々が、私にもあった。
ゼルーグどのは笑われるだろうか。
いいや、きっと笑いはしても馬鹿にはされまい。
戦場で実際にやってのけた張本人なのだから。
あれが、あのかたのもとでの私の初陣だった。
私も数年のうちにはゼルーグどののように頼れる騎士となって、わが主をお支えしたい……そう、願っていた。
それがどうだ、今目の前で無様に悲鳴を上げ、命乞いをしながら死にゆく者どもは、兵士ですらない。
ただのごろつきだ。
わが名を名乗るのも馬鹿らしい。
もっとも、私の名などもとからたいして意味など成さないのだが。
伯爵とはいえ所詮は没落貧乏貴族の三男坊、家の中に私の居場所などなかった。
私に居場所をくださったのはただ一人、わが主……
「リエルはリエルでいいだろう、おれは好きだがな、その響き」
四人で国を捨て、名も捨てなければならなくなったとき、あのかたはそう仰ってくださった。私がこの女性のような名前が好きではないことを承知のうえでだが、それでも唯一、私だけが本名を残すことを許されたのだ。
今の名は、リエル・クザン。
もともと意味などなかった名を無意味でなければならないものに変えただけだが、それでも、初めて自分の名を好きになれた瞬間だった。
出会ったときからそうなのだ。
あのかたは、私を私でいさせてくれた。
だから決めたのだ。
私はここで剣になろうと。
あのかたのための、万難を打ち払うための剣になろうと。
それこそが私の生き甲斐だ。
身分でも名でもない。
あのかたこそが、わが主!
あのかたが国を捨てるなら私も捨てる。あのかたが殺せと命じるなら王でも殺そう。
それは信仰に反する行為ではあるが、信仰と忠誠どちらを取るかと問われれば、迷いなく忠誠と答えよう。
だからこそ、本来ならば斬るにも値しないごろつきであろうといくらでも斬り伏せて見せよう。
所詮は烏合の衆、本物の戦場で磨き抜いたわれらの技に敵うはずもなし!
「どうしたリエル、機嫌悪そうだな」
連中を適当に薙ぎながら、ゼルーグどのがいった。顔を見ているわけでもないのになぜわかるのだろう、この人は。
そんな心の声まで聞き取ったのか、
「穂先が怒りに満ちてるぜ」
相変わらず飄々という。
「まあ、わかるけどな」
わかっているなら訊かないでほしい。
「今ごろあいつはあの怪物と二人っきりでよろしくやってることだろうしなあ」
私が口を開く前に、ゼルーグどのの顔の横を矢がかすめていった。
「てめっ、わざと狙いやがったな!?」
犯人は一人しかいない。
ヒューレだ。
彼女はわれわれのうしろで弓での援護をしながらときどき剣をもって前に出てくる。もともと弓の名手で特に騎射では部隊でも随一の腕前を誇っていた。
そんな彼女が、危急を救うわけでもないのに仲間の近くに撃つはずがない。
なぜそんなことをしたのか、それは私でもわかる。
私と同様、あれが不愉快なのだ。
ただし私と違って、同性ゆえに。
そういう方面が苦手な私でも、彼女があのかたを女として慕っていることくらいはわかる。
そういえば全員で新しい名を考えたとき、彼女はあのかたにその名をつけていただいて大喜びしていた。
ヒューレ――どこにでも咲いている、淡いピンク色の野の花だ。
ただし花言葉は「見た目だけ」、「毒にも薬にもならぬ」。
間違いなく彼女はそれを知らない。しかし今後知ったとしてもあの喜びは色褪せないだろう。たまたまあのかたの目に留まっただけといういい加減な命名でも、彼女にとってそれは何物にも代えがたい輝きを放ち続ける至高の呪文なのだ。
そのためにわざわざ鎧にヒューレの紋章を刻んでトレードマークにしてしまっている。
ううむ、私もそういうものがほしい。
しかしだからといってねだるというのはあまりにみっともない。
この町でなにか功績を立てれば勲章代わりにいただけるだろうか?
こんなごろつきどもを何人斬ったところで武勲にはならないから、やはり店の経営に貢献……?
いやしかし、私に経営学などない。
そもそも接客も料理もしたことがない。
はて……?
こんな私たちを率いて、あのかたはいったいどうやって経営しようとお考えなのだろうか?
料理ならばヒューレに任せればいい。あのかたもヒューレに教わってかなり上達されているようだ。しかし、私とゼルーグどのは?
あの化け物など論外だ。
下品に血をすすることしか能のないあんな怪物が役に立つはずがない。
あれはいずれ始末するとして、私があのかたのために今後貢献できることとは、いったいなんなのだろう……?
「おーい、どした? 怪我でもしたか?」
その声でわれに返り、既に決着がついていたことを知った。
「ところでこの死体の山、どうすりゃいいんだ?」
なるほど。
まずは町の掃除から、そういうことですね。
「片付けましょう」
「え、おい、いや無理だろ!」
「偉人ヨルザン・ウェルスギーはいいました。為せば成る、為さねば成らぬ、なにごとも……」
「成らぬは人の為さぬなりけり……ってそういうレベルじゃねえよ! 軽く百は超えてるぞ!?」
「なにごとも目の前のことからこつこつと、ですよ」
さて、まずはどこからか荷車を借りてこなければ。
馬上でそう名乗りを上げて敵将と一騎打ち……苦戦ののち見事に討ち果たし、槍を掲げてこう叫ぶのだ。
「敵将討ち取ったりィ――ッ!!」
……そんな夢を見ていた日々が、私にもあった。
ゼルーグどのは笑われるだろうか。
いいや、きっと笑いはしても馬鹿にはされまい。
戦場で実際にやってのけた張本人なのだから。
あれが、あのかたのもとでの私の初陣だった。
私も数年のうちにはゼルーグどののように頼れる騎士となって、わが主をお支えしたい……そう、願っていた。
それがどうだ、今目の前で無様に悲鳴を上げ、命乞いをしながら死にゆく者どもは、兵士ですらない。
ただのごろつきだ。
わが名を名乗るのも馬鹿らしい。
もっとも、私の名などもとからたいして意味など成さないのだが。
伯爵とはいえ所詮は没落貧乏貴族の三男坊、家の中に私の居場所などなかった。
私に居場所をくださったのはただ一人、わが主……
「リエルはリエルでいいだろう、おれは好きだがな、その響き」
四人で国を捨て、名も捨てなければならなくなったとき、あのかたはそう仰ってくださった。私がこの女性のような名前が好きではないことを承知のうえでだが、それでも唯一、私だけが本名を残すことを許されたのだ。
今の名は、リエル・クザン。
もともと意味などなかった名を無意味でなければならないものに変えただけだが、それでも、初めて自分の名を好きになれた瞬間だった。
出会ったときからそうなのだ。
あのかたは、私を私でいさせてくれた。
だから決めたのだ。
私はここで剣になろうと。
あのかたのための、万難を打ち払うための剣になろうと。
それこそが私の生き甲斐だ。
身分でも名でもない。
あのかたこそが、わが主!
あのかたが国を捨てるなら私も捨てる。あのかたが殺せと命じるなら王でも殺そう。
それは信仰に反する行為ではあるが、信仰と忠誠どちらを取るかと問われれば、迷いなく忠誠と答えよう。
だからこそ、本来ならば斬るにも値しないごろつきであろうといくらでも斬り伏せて見せよう。
所詮は烏合の衆、本物の戦場で磨き抜いたわれらの技に敵うはずもなし!
「どうしたリエル、機嫌悪そうだな」
連中を適当に薙ぎながら、ゼルーグどのがいった。顔を見ているわけでもないのになぜわかるのだろう、この人は。
そんな心の声まで聞き取ったのか、
「穂先が怒りに満ちてるぜ」
相変わらず飄々という。
「まあ、わかるけどな」
わかっているなら訊かないでほしい。
「今ごろあいつはあの怪物と二人っきりでよろしくやってることだろうしなあ」
私が口を開く前に、ゼルーグどのの顔の横を矢がかすめていった。
「てめっ、わざと狙いやがったな!?」
犯人は一人しかいない。
ヒューレだ。
彼女はわれわれのうしろで弓での援護をしながらときどき剣をもって前に出てくる。もともと弓の名手で特に騎射では部隊でも随一の腕前を誇っていた。
そんな彼女が、危急を救うわけでもないのに仲間の近くに撃つはずがない。
なぜそんなことをしたのか、それは私でもわかる。
私と同様、あれが不愉快なのだ。
ただし私と違って、同性ゆえに。
そういう方面が苦手な私でも、彼女があのかたを女として慕っていることくらいはわかる。
そういえば全員で新しい名を考えたとき、彼女はあのかたにその名をつけていただいて大喜びしていた。
ヒューレ――どこにでも咲いている、淡いピンク色の野の花だ。
ただし花言葉は「見た目だけ」、「毒にも薬にもならぬ」。
間違いなく彼女はそれを知らない。しかし今後知ったとしてもあの喜びは色褪せないだろう。たまたまあのかたの目に留まっただけといういい加減な命名でも、彼女にとってそれは何物にも代えがたい輝きを放ち続ける至高の呪文なのだ。
そのためにわざわざ鎧にヒューレの紋章を刻んでトレードマークにしてしまっている。
ううむ、私もそういうものがほしい。
しかしだからといってねだるというのはあまりにみっともない。
この町でなにか功績を立てれば勲章代わりにいただけるだろうか?
こんなごろつきどもを何人斬ったところで武勲にはならないから、やはり店の経営に貢献……?
いやしかし、私に経営学などない。
そもそも接客も料理もしたことがない。
はて……?
こんな私たちを率いて、あのかたはいったいどうやって経営しようとお考えなのだろうか?
料理ならばヒューレに任せればいい。あのかたもヒューレに教わってかなり上達されているようだ。しかし、私とゼルーグどのは?
あの化け物など論外だ。
下品に血をすすることしか能のないあんな怪物が役に立つはずがない。
あれはいずれ始末するとして、私があのかたのために今後貢献できることとは、いったいなんなのだろう……?
「おーい、どした? 怪我でもしたか?」
その声でわれに返り、既に決着がついていたことを知った。
「ところでこの死体の山、どうすりゃいいんだ?」
なるほど。
まずは町の掃除から、そういうことですね。
「片付けましょう」
「え、おい、いや無理だろ!」
「偉人ヨルザン・ウェルスギーはいいました。為せば成る、為さねば成らぬ、なにごとも……」
「成らぬは人の為さぬなりけり……ってそういうレベルじゃねえよ! 軽く百は超えてるぞ!?」
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