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第19話 呼び出し
しおりを挟む「伊藤。ちょっと職員室に来なさい 。今すぐだ」
4時間目終了の直後。颯と聖羅のクラスの担任が、前の戸から教室へ入室するなり、わざわざ聖羅の席まで足を運び、声を掛ける。担任は普段と大きく異なり、表情は険しく、声のトーンも低い。
「…は、はい」
突然の担任の接近に多少驚きつつも、条件反射するように、席から立ち上がり、聖羅は返事をする。
「よし。先生の後に付いてきなさい」
表情を変えずに、担任は教室の出口に向かって、歩を進める。
今度は返事をせず、聖羅は口を噤み、担任の指示通りに行動する。数メートルほど空間を空けて、担任の後を追う。
「伊藤さん呼び出し喰らってるよ。どうしてだろう? 」
「バカ! 例の情報が原因に決まってるだろ」
「あ~ね」
「あらら。先生達まで情報が伝わったのかな? 」
「そりゃ伝わるよね。あれだけ生徒達が話題に挙げれば」
颯のクラスメイト達は、口々に感想を述べる。男女関係なく、思った事を口にする。
8時ごろの早朝に、登校したばかりの聖羅に、1番初めに接触した女子生徒も、その中の1人だ。
様々な生徒達の言葉が、颯の耳にも届く。
2年6組の教室に身を置いていれば、強制的に耳に入る。様々な声色を帯びた言葉が、颯の鼓膜を刺激する。
だが、両手で耳を塞ぐ必要はない。
平然とした様子で、担任の背中を後ろから追う聖羅を、視野に収める。まるで見送るように。
颯の視線は、聖羅に集中する。一点集中の形だ。
しかし、聖羅は颯に目線を寄越さない。担任の背中を凝視する。意識は完全に担任に傾倒する。
聖羅からの反応のリターンが皆無にも関わらず、教室から消えるまで、颯は聖羅の姿を目で追い続けた。
反応が欲しかった訳ではない。
ただ、担任からの呼び出しを喰らい、後を追う聖羅の姿が、実に滑稽であり、内心でざまぁと思った。だから、鑑賞を楽しむように、表情を変えずに、聖羅を視界に収め続けた。聖羅が教室から退出するまで。
☆☆☆
教室を退出し、廊下を進み、聖羅は担任の後方を追随する。
しばらく歩き続けると、職員室前を通過し、隣の指導室が聖羅の目に留まる。
まさかといった顔を、聖羅が形成する。動揺や戸惑いが、顔から露見する。だらしなく、無意識に空気を集めるように、口が半開きになる。
「ここに入りなさい。ここで先生から話がある」
指導室の前で足を止め、相変わらず重々しい口調で、担任は聖羅に指示を出す。
ガラーッと引き戸のドアを開放し、指導室に入室するように催促する。
「……はい」
一瞬だけ躊躇する素振りを見せるも、表情を隠すように俯きながら、聖羅は指導室の中に向かう。
数歩でドアに差し掛かり、あっという間に入室した。
室内には、向かい合うように長机が2つと、セットでパイプイスが4つ設置される。部屋の隅にはホワイトボードが置かれている。
聖羅の入室した姿を認知し、担任も指導室に足を踏み入れる。
完全に入室を完了し、ドアの鍵の施錠を行う。
まるで退路を塞ぐように、カチャリッという音が室内に響く。
指導室には、聖羅達の前に先客が2人あった。1人は2年5組の男性の担任。もう1人は、聖羅と強く縁《ゆかり》のある人物だった。
その人物も男性だ。
金髪の長髪に二重の茶色の瞳、女性ならば大部分が、思わず、振り向いてしまうほどのイケメンだ。素晴らしいルックスを所持する。
そのイケメンは、聖羅の顔を認識し、目を見開き、名前を口にする。
「…聖羅…」
「…和久君…」
お互いにファーストネームで、ボソッと呼び合った。
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