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第20話 停学
しおりを挟む「運命の再会のような雰囲気はいいから。さっさと座れ」
水を差すように、聖羅の担任が、イスに座るように命令する。眉間に皺が寄り、苛立ちが垣間見える。
「…。わ、わかりました」
担任の機嫌の変化を敏感に察し、石井から距離を取るように、視線を外し、聖羅は従順に命令に従う。
石井と向かい合う形で、イスに腰を下ろす。
聖羅とは反対の長机のイスに、石井が腰を下ろす。隣には、石井の担任が、険しい表情で、整った姿勢をキープして、イスに座す。威圧感があった。聖羅の担任も同じようなものだった。
しばらく指導室には、静寂な時間が流れる。誰も口を開かない。そのため、言葉は生じない。
聖羅と石井は当然、口を開かない。悠々と開ける空気では決してない。もし口を開き、言葉を創造するならば、2人の担任に咎められること間違いなしだろう。
だが、不思議と、2人の担任も無言を保つ。口がチャックで閉まったように、一言たりとも言葉を発さない。
そんな重苦しい時間が、数分ほど続いただろうか。
「今日、お前達に指導室に集まってもらったのには理由がある。その理由はお前達も薄々気付いていると思うが……」
沈黙を破ったのは、聖羅の担任だった。淡々とした口調で、先ほど前の空気を破壊する。表情は厳しい。内心、穏やかではなさそうだ。
ちらちらと、両目を左右に動かし、聖羅の担任は、交互に聖羅と石井に、視線を投げる。
自然と、聖羅と石井は、聖羅の担任と目を合わせる。鋭い目線が、聖羅と石井を捕まえる。
居心地が悪そうに、聖羅と石井は、目を逸らす。両者共に、見つめ返すことは叶わなかった。
「今朝から爆発的に情報の拡散が行われている。その情報は、石井と伊藤。お前達がラブホから出てきた上、伊藤が石井に寝取られた。こういった内容の情報だ。多くの生徒達が、この情報に飛び付き、興味津々だ」
聖羅の担任の言葉を引き継ぐように、石井の担任が、イスから立ち上がり、言葉を紡ぐ。
室内を歩き始める。革靴と床のぶつかる音が、室内で反響する。
「この情報については、証拠もある。ある女子生徒が、担任の俺に写真を提供してくれた。それがこれだ」
教員は自身のスマートフォンを取り出し、聖羅と石井に対して画面を見せる。
スマートフォンの画面はロック画面だった。そして、まさかのロック画面が、聖羅と石井が、ラブホの入り口から姿を現す直後の写真だった。
おそらく、すぐにスマートフォンから写真を取り出すように、あらかじめロック画面に設定していたのだろう。そうとしか考えられない。
一方、聖羅と石井は、絶句し、何も言えない状態に陥る。顔からは血色が失せていた。顔面蒼白といった表現が正しい。もはや、驚きを優に通り越している。
「その反応。黙認ととっていい感じだな」
僅かに目を細め、聖羅の担任が、心を抉るような言葉を発する。追い打ちに更なる追い打ちを加えるように。
「え! ちがっ」
「そういうわけじゃ! 」
同時に、聖羅と石井が、弁解を試みる。
だが、残酷にも、両担任共に、聞く耳をと持たない。目すら向けず、完全に無視を決め込む。
「とにかく! 決定的な証拠はあるんだ。そのため、お前達は停学だ。停学の期間においては、後々連絡する。とにかく話はここで終わりだ。お前達は早急に帰宅しろ」
最後に冷たく吐き捨てると、聖羅の担任は、乱暴に指導室の戸を開け放つ。
「ちょっと待ってください! て、停学ですか!? それに、いきなり帰れだなんて」
慌てた顔で、聖羅は席から立ち上がる。明らかに抗議に意志が存在する。
「そ、そうっすよ! 流石に罰が重すぎないっすか!! 」
便乗して、石井も抗議に参加する。聖羅に加担する形だ。
「ギャアギャア喚くな! それと口答えもするな! とにかく指示に従え。それに、お前達は未成年にも関わらず、不純異性交遊を堪能した。停学では済まない学校も多数ある。停学処分だけでも、お前達は運が良いと思え。以上だ」
一方的に言いたいことだけを捲し立てると、有無を言わせず、聖羅の担任は指導室の外をびしっと指さす。
完全に異論は認めない意向だ。
「「…」」
視線を右往左往に彷徨わせた後、聖羅と石井は視線を合わせる。お互いに諦めのムードが漂う。
どれだけ抵抗しても、相手にさえしてもらえない空気が、指導室にプンプン漂う。もちろん、担任2人も相手にしないスタンスである。
聖羅と石井は、黙って頷くと、化け物から逃げるような早歩きで、指導室を退出した。その際、決して担任2人の顔を見なかった。いや、避けたというのが正しいだろう。
聖羅と石井が指導室から完全に姿を消した。
2人の担任からは、聖羅と石井の行動を確認できない。
2人の担任は、一瞬だけ目を合わせると、お互いに大きなため息を吐いた。
そして、ドアの近所に佇んでいた、聖羅の担任が、指導室のドアを硬く閉じた。
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