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第27話 遊びとは楽しいもの
しおりを挟む「ゲーム? 今からか? 」
颯を疑うような目で、遥希は問う。瞳はばっちり颯を収める。
「うん。あそこのテレビゲームを使ってね」
テレビにコードが繋がったテレビゲームを、颯は指差す。昨日、プレイしたままの状態で放置してある。
テレビゲームのハードウェアの名前は、Wuu!(ウゥー)。10年ほど前に爆発的に人気を博した、我が国の大手ゲーム会社が開発した、家族向けのテレビゲームである。
社会現象になる程であり、いくつもの大人気ゲームソフトが誕生した。
「Wuu!か。懐かしいな。良く同級生とプレイしたものだな」
過去を思い返したのか。遥希は懐かしそうに微笑を浮かべる。
颯の自宅で初めて、遥希の自然な表情が見えた気がする。Wuu!のおかげで、会話が拡がる話題が生まれる。
「そうなんだ! じゃあ———。これとかプレイしたことある? 」
テレビの近所のタンスを開け、中身を探り、颯は1つのゲームソフトのパッケージを取り出す。そして、遥希に見えるように、パッケージを表に向ける。
「もちろん! プレイしたことあるぞ!! ミリオカートだろ? 逆に私達の世代でプレイした経験の無い奴は存在するのか? 」
遥希のテンションが上がる。
「そうだよね! 愚門な質問だったね」
颯は遥希のテンションに応えて笑みを浮かべる。
彼らの世代にとって、ミリオカートは特別なゲームの一つであり、多くの楽しい思い出を共有してきた。
ほぼ全員の同級生が、ミリオカートを自宅に所持していた。これは誇張していない。実際に、どこの自宅にも、Wuu!のハードウェアと共に、ミリオカートもあった。
「本当にだ。私を軽く見すぎだぞ」
わざとらしく、拗ねたように、遥希はそっぽを向く。口元は明らかに緩んでいる。
颯は特別な感情を胸中で抱く。決してマイナスな感情ではなく、プラスの感情だ。楽しさや喜びといったものだ。
今まで颯と遥希は、共通の話題で盛り上がった経験が無かった。クソ1号とクソ2号の愚痴会で、盛り上がったのは事実だ。だが、あの時は、各々が好き放題に愚痴を溢していたに過ぎない。
しかも、2人きりの場で、盛り上がるなど、皆無であった。気を利かせて、遥希が話題を提供し、颯が合わせて答える形だった。これが一般的だった。
そう考えれば、颯と遥希の関係が進んだと言える。大きな進歩だ。颯と遥希の間での心の距離は縮んだ。
遥希が拗ねた仕草を見て、颯はその演技に笑いをこらえるのが難しい状況になる。明らかに、わざとらしさが透けて見えるからだ。
「「ぷっ」」
颯と遥希は耐えられずに、噴き出した。
颯と遥希が同時に笑い出すと、部屋に笑い声が響き渡った。その笑顔と笑い声は、両者の関係が良好に変化した証かもしれない。
「いや~笑った笑った」
1通り笑い終えると、涙を拭うように、遥希は目の下を掻く。颯の自宅に入ったばかりの時とは、大違いだ。完全に緊張感が抜ける。
「俺もすごい笑ったよ」
2人は同じ意味合いの言葉を発する。
颯と遥希は笑いながら、今までにないくらい自然体で会話を楽しんでいた。この新しい雰囲気は、二人がお互いの本当の自分を受け入れ、共感し合うことを許したように。
「そろそろミリオカート始める? 」
視線を切らずに、しっかり遥希の目を見つめ、颯は尋ねる。これから楽しい楽しいゲームの時間を過ごすために。
「ああ、そうだな。私も早くプレイしたいな。随分久しぶりなミリオカートだしな」
颯の提案に、遥希は満面の笑顔で頷いた。普段の男らしい言動とは対照的に、実に可愛らしい女性らしい笑顔だった。日本人離れした特有の笑顔も魅力的だった。
そんな素晴らしい笑顔に、頬をわずかに赤く染め、颯はころっと見惚れる。
これまで元カノの聖羅の笑顔に魅了された経験があっただろうか。もしかしたら、あったかもしれない。現時点での颯の記憶には存在しない。おそらく、きれいさっぱりに消え去ってしまったのだろう。
「う、うん。そうだね。早く準備するよ」
見惚れた自分を隠すように、イスから立ち上がる颯。
そのまま早歩きで、リビングのテレビの前まで赴く。
リモコンを用いてテレビの電源を点け、Wuu!のハードウェアの電源を押す。Wuu!の起動する際の機械音が、颯の鼓膜を優しく撫でる。何度も聞き覚えのある機械音だ。
テレビのチャンネルをゲーム用に切り替え、準備完了。
「はい。これがコントローラーね。ミリオカートがプレイしやすいように、車のハンドル型のコントローラーにしてるから」
タンスから取り出したハンドル型のコントローラーの1つを、遥希に差し出す。このハンドルを活用して、ミリオカートは車を操縦する。
「おお。私はハンドルでのコントローラーしか使ったことがないから。ありがたいな」
颯からコントローラーを受け取る遥希。懐かしんで、ハンドルのコントローラーの手触りを確認する。ハンドル型のコントローラーは、ミリオカートをより楽しむための必需品で、遥希もその使い方に慣れている感じだ。
颯はもう片方のハンドル型のリモコンを手に掴み、再びイスに腰を下ろす。
「そろそろ始めようか。準備はいい? 」
「ああ。もちろんだ。楽しもうな! 」
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