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第35話 人気の無い場所
しおりを挟む「今日は人生で初めて学校に遅刻したな。やらかしたな~。八雲さんは間に合ったみたいだし。まぁ、あのスピードだったら当然か」
自身で勝手に納得する颯。
長い1時間目の授業終了後、休み時間に突入して、即座に自身の教室を退出した。
自宅から学校まで走った結果、身体中に大量に噴き出した汗は収まったが、喉は非常に渇いた状態だ。潤すための水分を、身体が求めていた。
そのため、自身の教室から1階に設置された自動販売機に移動中だ。自動販売機は、昇降口の直近にある。以前に遥希と遭遇した場所だ。
ゆっくりした足取りで階段を降り、1階に到着する。
1階の廊下を慣れた足取りで進み、目的地の昇降口直近の自動販売機に到着する。
自動販売機の前には、生徒の姿は見受けられない。以前とは異なり、遥希の姿も見当たらない。
硬貨を投入する前に、自動販売機に並ぶ飲み物を1品ずつ目で追い、見定めるように物色する。まず1番上の列から、左から右に目を動かし、飲み物を確認する。次に、2列目に視線を走らせる。
最後の3列目まで、すべて目を行き届かせる。
だが、自動販売機に硬貨を投入する素振りを見せない颯。ブレザーのポケットから、未だに財布すら取り出さない。どこか不満そうに、自動販売機に並ぶ飲み物達を注視する。
「ダメだ。俺の飲みたい物が無い。違う自動販売機で買お」
眼前の自動販売機から視線を切り、颯は昇降口から離れる。
普段ならば、迷わず麦茶を購入するのだが、今日は麦茶の気分ではなかった。炭酸の入ったジュースを飲みたい気分だった。
残念ながら、昇降口の自動販売機は、炭酸の詰まった刺激あるジュースを販売していなかった。
「しょうがない。正門近くの自動販売機まで行くかな。少し遠いけど」
校内用スリッパを履いたまま、颯は次の目的地を設定する。
「暑いな。4月の半ばだもんな。妥当な暑さかもね」
太陽の陽に晒され、灼熱のコンクリートの地面に、足を付けながら、正門に移動する。
昇降口から正門に移動するまで、生徒や教師の姿は見えない。休み時間でありつつ、暑さを避けて、校舎の中で冷房に当たりながら、有意義な時間でも過ごしているのだろうか。
「おっ。あれだな。炭酸ジュース売っててくれよな」
正門近くの自動販売機前に到達し、颯は機械に並ぶ商品達を視界に収める。
お目当ての炭酸ジュースは、すぐに発見できた。ファンタぶどうとMOTCH|《モッチ》があった。
制服のブレザーから折り畳みの財布を取り出し、硬貨を投入する。
静かに自動販売機から、硬貨の投入された音が、小刻みに吐き出される。100円1枚、50円1枚、10円1枚の、計160円を投入した。
「ここでいいかな。ここなら、誰に見られることも無さそうだし」
3メートルほど先から、聞き覚えの無い男性の声が、颯の鼓膜を撫でる。低すぎず高すぎずの、程よい高さとボリュームある声だった。男性にも女性にも、好まれそうな声色だった。
男子バスケ部の部室前で、見覚えの無い男性生徒が、軽く周囲を見渡す。
男子生徒は、野球部を象徴する坊主であるが、いかつい感じはなく、好青年感が滲み出る。顔からして、性格も優れてそうだ。
男子生徒の視界に、颯の姿は入らない。
颯は全く存じ上げないが、この男子生徒は、野球部のエースである。その上、バッティング技術も優れており、4番で主砲でもある。
「うん…。いいよ…」
その男性生徒の後ろには、美少女の姿があった。どこか乗り気では無く、面倒くさそうだ。表情から露になる。その美少女は瑞貴であった。
「ごめんね。1時間目終了後の休み時間に、こんな人気のない所まで来てもらって。今日は、大事な話があるんだ。聞いてくれるかな? 」
後方に振り返り、真面目な顔で、男子生徒は、瑞貴の目を見つめる。決意を決めた様子だ。
「……うん。どうぞ…」
先ほどと態度は変わらず、男子生徒から視線を逸らし、俯きながら、瑞貴は淡白に答える。
「これは…ちょっと……」
この後の展開を瞬時に予測し、颯は自動販売機の後方に隠れる。身を隠し、好奇心から、少しだけ顔を覗かせる。この後の展開から目が離せない。
静観して、男子バスケ部の部室前で、向き合う形で佇む、男子生徒と瑞貴の2人の様子を、視界に収める。
直後、意を決したように、瑞貴は顔を上げる。
すると、自動販売機から顔を覗かせる、颯と瑞貴の目が、ばっちし合う。
瑞貴の目が、大きく見開く。非常に驚いている様子だ。
(やばっ。バレた! )
時すでに遅しだが、颯は高速で、身を潜めるように、自動販売機の後ろに隠れた。
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