淫魔は夢にて

田中 乃那加

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入須君の日常

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 こもる熱気と、飛び散る汗と。

「あっ♡ ん゙っ♡♡」

 ギシギシとベッドが軋む音をBGMに、オレは腰をふっている。
 男相手に、まるで女みたいな声をあげながら。

「もっとぉ♡ はげしいのっ、あ゙ぅ♡♡」

 素っ裸に引っかかるのは靴下だけ。そこら辺に散らばった服を横目にしてたら、気をそらすなって言わんばかりに突き上げられた。
 
「ひあぁぁっ♡♡ しょこっ、おくっ、やら゙ぁぁっ♡♡」

 いわゆる騎乗位ってやつ。
 だから腰がくだけてしまえば、重力で簡単に届いちゃいけないトコロをえぐられちゃう。
 そうなるともう、キモチイイしかなかった頭がますますピンク一色に。

「ごりごりしちゃっ、あーっ♡♡ んひぃぃ♡♡♡」

 オマケに乳首まで吸いつかれて、甘イキが止まらない。

「あんっ♡♡ んぉっ♡ お゙っ♡」

 その間もゴスゴスと暴れ回る肉棒に、オレのソコも限界で。

「もっ、イかせてっ♡♡」

 そう叫んで、相手の腹筋にオレのちんこを押し当てた。そしたら。

『またイくんですか? …………洋真

 




※※※

「っ!?」

 飛び起きた瞬間、目覚まし時計代わりに掛けていたアラームが鳴り響いた。

「くそっ」

 またやっちまった。
 寝癖のついた頭を掻きむしっても、気分は落ち込むばかり。

「最低……」

 夢をみた。ここのところ、なんども同じ夢を。
 しかもそれが。

「洋真ーっ、そろそろ起きなさいよ!」

 リビングのある下から大声張り上げたのは、姉ちゃんだ。
 母さんが看護師してて、夜勤のある日は姉ちゃんが朝メシの準備をしている。

「まだこんな時間じゃねぇか」

 ギリ二度寝したくなる時間だけど、それをしたら鉄拳食らうのが確実。だから、しぶしぶベッドから立ち上がる。

「はぁぁぁぁ」

 深いためいのあと、なんか腰に痛みを感じて動きを止めた。
 別に酷くはない。でも少し違和感というか、強ばった感じがする。
 
「ちょっと洋真ーっ!また寝てんじゃないでしょうねぇぇぇッ!!」
「チッ、うっせぇな。今起きるって言ってんだろ!」

 朝っぱらから近所迷惑なんじゃないかってレベルの声に、オレは負けじと怒鳴り返した。
 
「あぁもう」

 オレの頭、どーかしちまったんじゃねぇのか。
 鏡を覗き込めば、明らかに寝る前より疲れた顔したオレがこちらを睨みつけている。

「ひでぇ顔」

 そう呟いて、顔を洗おうと部屋を出た。


 
「うわ、なにその顔」

 おはようの挨拶の前に、姉ちゃんはそう言って顔をしかめる。

「うるせぇよ」
「目の下、がやばいわよ」

 いくら水で洗っても落ちるわけがないそれは、確かに一目見てわかるほどだろう。
 
「寝不足なの、アンタ」
「ちげぇし」

 むしろここのところ、早めに布団に入っている。
 というか、眠くなって仕方ないと言うべきか。
 だから小学生かってくらいの時間には、もう夢の中のハズなんだけど。

「夢……」

 あ。イヤなこと思い出した。
 オレがこんなに調子悪いのも、たぶんあの夢のせいだ。

「ほら、さっさとご飯たべちゃって」

 自分から話振ってきたくせに、姉ちゃんはもうオレに背を向けている。
 どうやら化粧をしているらしい。

「親父は」
「忘れたの? 今日から出張。始発で行ったわよ」
「あ、そ」

 だからか。いつもなら、親父の方が早起きだ。
 オレの家は、看護師のお袋と会社員の親父。んで、もう社会人三年目の姉ちゃんの四人家族だ。
 少し歳が離れた姉ちゃんは、こうして忙しいお袋の代わりをよくしてくれてる。

 ……なんて言っても、オレにはただの口うるさい姉なんだけどな。

「なぁ。それ、めんどくさくねぇの?」
「あ?」

 席にすわってトーストをかじりながら、オレは口を開く。
 姉ちゃんは前髪をあげて、今は眉毛を書いているらしい。貧相な眉毛が書き足されて、明るい色に塗られている。

「めんどくても、やんなきゃ外に出れないのよ」
「そういうもんか?」
「そーゆーもんなの、バカ弟」

 ふぅん。でも、オレがいうのもなんだけどさ。
 別に姉ちゃんの顔はそこまでブスじゃない。むしろスッピンこそ悪くないと思う。
 それに姉ちゃんがオレくらいの頃までは、化粧のひとつもしなかった。
 ガチガチの運動部だったから、日焼け止めくらいは塗ってたけど。
 眉毛だってあんなに貧相だっただろうか。

「アンタのその顔色も、少しマシにしてあげようか?」
「いらねぇよ、アホ姉」

 コンシーラ (って前に言ってた)片手にバカにしたように笑ってくるから、舌打ちしてオレンジジュースの入ったグラスを持つ。
 
「これ……いつもと違う」

 すでに注がれていたそれは、なんだか酸っぱい気がする。
 すると呆れたような声が、オレの背中に直撃した。

「ったく、お子様のクセに味覚だけは肥えてんのねぇ。そーよ、いつものがなかったの」

 いつもと違うスーパーに行ったら、置いてなかったらしい。
 
「残すんじゃないわよ。全部飲みなさい」
「なんで」
「ワガママいうんじゃありません」

 まるでガキを叱りつける母親みたいな口ぶりだ。
 オレは無言でジュースをテーブルの上に置き去りにして立ち上がった。

「ちょっと! ちゃんと片付けて行ってよね」
「やだ」
「コラッ、洋真!!!」

 目元にアイラインを引きながら器用に怒る姉ちゃんを横目に、オレはさっさと学校に行くことにする。

「あー、くそだりぃ」

 こころなしか、頭も痛い気がした。
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