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恋人設定二日目(前)
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それから次の日。
つまり約束の日の二日目となる朝、クラウスは恋人 (という設定の青年)の声にて目覚める事となる。
「可愛い僕のプリンセス。お寝坊さんな君がたまらなく愛しいね」
「んあ゙?」
起きがけに何とも珍妙な呼び掛けをされて不機嫌なのは、クラウスの前世が純日本男であることだからだろうか。
「すっごい眉間のシワ。ほんとに朝が弱いのは変わらないね」
「……るせぇな。出張中だけだ」
低く悪態を返したクラウスは気付いていない。
ガルムの表情が妙に明るい事に。
「やっぱり恭蔵さんは可愛いなぁ」
そう言って抱きしめて寝癖でボサボサな頭を撫で回してくる手に無反応を装いつつ、眠気と軽い混乱で目をぱちくりしていた。
――あ、そっか。コイツは俺の恋人……っていう設定だっけ。
あくまで三日の約束のうちの二日目に過ぎない。だからこのやり取りもおままごとのようなものだと理解したのは、すでに彼に寝間着に手をかけられた時だった。
「っ、ちょ!? なにしてんだよ」
「なにって着替え」
「いやいやいやっ、自分でするから!!」
「えー」
どうやら着替えさせたかったらしい。しかしいくらなんでも召使いでもない、それどころか自分より地位の高い貴族の男にそんなことされるのは抵抗があった。
そうやって首を横にふるクラウスに彼は少し寂しそうな顔をして。
「恋人をお着替えさせるの、僕の夢だったんだけど」
と弱々しく手を引き始めた。
「恋人って……」
「あ、でも好きな人が嫌がる事はしちゃいけないよね」
「おいガルム」
あざとい、あざとすぎる。とクラウスは内心つぶやいた。
少し潤んだ瞳での上目遣い。前世ではどちらかといえばツンデレ気味の青年であったはずなのに、それが自らの顔の良さを生かしてくるのがまたずるい。
「僕たち恋人なんだけどな……」
「いや設定な?」
「今日含めてあと二日の……」
「ええいっ、わかったわかった! 好きにしろ!!」
「え?」
彼はついに叫んだ。
「お前の恋人らしいこと全部させてやるよ! だから遠慮すんな」
「クラウス……男前……」
「うるせぇ、俺も腹括ったんだ」
昨夜は結局手を出してこなかった。それどころか甲斐甲斐しく身の回りの世話をした後に、優しく頬にキスまでして部屋を立ち去ったのだ。
どうやら別の部屋をとったらしい。
『クラウスを不安がらせたくないのと僕の理性の問題』
とおどけた口調で言っていたが、この大切にされ具合に慣れずモヤモヤしていたのだ。
――俺が日和っていて情けないだろ。あいつにここまでさせて、ちゃんと恩を返さないわけにはいかないよな。
かつての部下、というのもあるのだろう。
今までの男たちに対するものとはまた違う感情が芽生えつつあった。
むしろこれが本来の『恭蔵』としての性質なのかもしれない。
転生後の貴族、クラウスという肉体を得つつもやはり中身は変わらないものだ。
「ふはっ」
ふいにガルムが吹き出した。
「やっぱり貴方は変わらないなぁ」
「……なんだよ。変わって欲しかったのか」
「ううん。どんな貴方も好きだし愛してる」
「小っ恥ずかしいこというなぁ」
「だって本心だもの」
彼はクラウスの手をとった。
「貴方が死んで後悔と悔しさばっかりの人生だったよ」
「そ、そりゃすまない……」
「だから決めたんだ」
グイッと距離を詰める顔。その瞳はあの時の真剣さだが、その奥に妙な煌めきがあった。
「今度こそ後悔しない選択をしようって」
いくら三日間の約束でも、ね。とまた悲しげに微笑む。
クラウスの胸にちくりと痛みがさした。
「まずは身支度して朝ごはんだね!」
一転、明るい声で言ったガルムに黙って頷く。
――三日、かぁ。
この後はどうしよう。異国にでも逃げようと思っていたが、息子の乱心ぶりを聞いてしまうとそれも躊躇われる。
だいたい領主の責任というのも今更ながらのしかかってくるもので。しかしこのまま戻れば自分はどうなるのか。
――いっその事ヨハンが怒り狂って処刑でもしてくれないかな。
その方がある意味丸くおさまる気がする、なんて物騒なことを考えながらもクラウスは大人しくその身を任せていた。
つまり約束の日の二日目となる朝、クラウスは恋人 (という設定の青年)の声にて目覚める事となる。
「可愛い僕のプリンセス。お寝坊さんな君がたまらなく愛しいね」
「んあ゙?」
起きがけに何とも珍妙な呼び掛けをされて不機嫌なのは、クラウスの前世が純日本男であることだからだろうか。
「すっごい眉間のシワ。ほんとに朝が弱いのは変わらないね」
「……るせぇな。出張中だけだ」
低く悪態を返したクラウスは気付いていない。
ガルムの表情が妙に明るい事に。
「やっぱり恭蔵さんは可愛いなぁ」
そう言って抱きしめて寝癖でボサボサな頭を撫で回してくる手に無反応を装いつつ、眠気と軽い混乱で目をぱちくりしていた。
――あ、そっか。コイツは俺の恋人……っていう設定だっけ。
あくまで三日の約束のうちの二日目に過ぎない。だからこのやり取りもおままごとのようなものだと理解したのは、すでに彼に寝間着に手をかけられた時だった。
「っ、ちょ!? なにしてんだよ」
「なにって着替え」
「いやいやいやっ、自分でするから!!」
「えー」
どうやら着替えさせたかったらしい。しかしいくらなんでも召使いでもない、それどころか自分より地位の高い貴族の男にそんなことされるのは抵抗があった。
そうやって首を横にふるクラウスに彼は少し寂しそうな顔をして。
「恋人をお着替えさせるの、僕の夢だったんだけど」
と弱々しく手を引き始めた。
「恋人って……」
「あ、でも好きな人が嫌がる事はしちゃいけないよね」
「おいガルム」
あざとい、あざとすぎる。とクラウスは内心つぶやいた。
少し潤んだ瞳での上目遣い。前世ではどちらかといえばツンデレ気味の青年であったはずなのに、それが自らの顔の良さを生かしてくるのがまたずるい。
「僕たち恋人なんだけどな……」
「いや設定な?」
「今日含めてあと二日の……」
「ええいっ、わかったわかった! 好きにしろ!!」
「え?」
彼はついに叫んだ。
「お前の恋人らしいこと全部させてやるよ! だから遠慮すんな」
「クラウス……男前……」
「うるせぇ、俺も腹括ったんだ」
昨夜は結局手を出してこなかった。それどころか甲斐甲斐しく身の回りの世話をした後に、優しく頬にキスまでして部屋を立ち去ったのだ。
どうやら別の部屋をとったらしい。
『クラウスを不安がらせたくないのと僕の理性の問題』
とおどけた口調で言っていたが、この大切にされ具合に慣れずモヤモヤしていたのだ。
――俺が日和っていて情けないだろ。あいつにここまでさせて、ちゃんと恩を返さないわけにはいかないよな。
かつての部下、というのもあるのだろう。
今までの男たちに対するものとはまた違う感情が芽生えつつあった。
むしろこれが本来の『恭蔵』としての性質なのかもしれない。
転生後の貴族、クラウスという肉体を得つつもやはり中身は変わらないものだ。
「ふはっ」
ふいにガルムが吹き出した。
「やっぱり貴方は変わらないなぁ」
「……なんだよ。変わって欲しかったのか」
「ううん。どんな貴方も好きだし愛してる」
「小っ恥ずかしいこというなぁ」
「だって本心だもの」
彼はクラウスの手をとった。
「貴方が死んで後悔と悔しさばっかりの人生だったよ」
「そ、そりゃすまない……」
「だから決めたんだ」
グイッと距離を詰める顔。その瞳はあの時の真剣さだが、その奥に妙な煌めきがあった。
「今度こそ後悔しない選択をしようって」
いくら三日間の約束でも、ね。とまた悲しげに微笑む。
クラウスの胸にちくりと痛みがさした。
「まずは身支度して朝ごはんだね!」
一転、明るい声で言ったガルムに黙って頷く。
――三日、かぁ。
この後はどうしよう。異国にでも逃げようと思っていたが、息子の乱心ぶりを聞いてしまうとそれも躊躇われる。
だいたい領主の責任というのも今更ながらのしかかってくるもので。しかしこのまま戻れば自分はどうなるのか。
――いっその事ヨハンが怒り狂って処刑でもしてくれないかな。
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