魔王様は静かに暮らしたい

田中 乃那加

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魔王様だって疲れ〇〇

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「ん……」

 寝れない。いや、疲れてる。疲れてるのは疲れてるけど。
 むしろ疲れてるからかもしれない。この状態異常は。

「はぁっ、ぁ」

 熱が身体の一部に集中する感じ。なんだかモヤモヤ、というかムラムラして。
 あーもう、言ってしまおう。言わば疲れマラってやつ。
 疲れてると性欲高まるってのは、生きとし生けるものとしては当然の摂理だ。
 生殖に関することらしいけど、そこまで僕の身体は危機に瀕してるってワケか?

「最悪だ」

 早く眠りたいのに、それどころじゃないなんて。明日だって仕事は山積みで、ゆっくり寝る時間もなかなかない。それなのに、ベッドの中で悶々としてる自分が信じられない。

 ごろりと寝返りを打てば、妙にぬるいシーツが気持ち悪い。もういっそ起きて仕事でもしてしまおうか、なんて考え始めた時。

「うっわ」

 マジか、ありえない。
 童貞のガキじゃあるまいし、触れられてすらいない身体がこんなことになるなんて。
 
 健康な男性のそこが服を押し上げているのを見て、深くため息をついた。
 仕方ない、自分で処理するか。
 勘違いして欲しくないが、別に相手に困っているわけじゃないぞ。
 曲がりなりにも魔王だからな。そろそろ跡継ぎを、なんて言われてるがそれこそ仕事が忙しすぎてそれどころじゃない。
 
 エルヴァはそこんとこ分かってくれているせいか、口うるさく言わないでいてくれる。
 彼女にまでやかましくされたら、僕はもう完全に参っちまうだろうし。
 まぁ女と結婚できない理由はそれだけじゃないのだが。

「……」

 ベッドの上で衣服をはだけた。
 ほどよい夜気の心地良さに、身体の力が抜ける。
 必要最低限だ。そうじゃないと明日に差し障る。目的はさっさと発散して寝ること。寝ないとまた、顔色の悪さに城の者たちを心配させてしまうから。

 魔王たるもの健康管理も仕事のうち。そう、だから仕方のないこと。別に悪いことじゃない。

 そう自分に言い聞かせながら、固くなったソコを利き手でそっとにぎる。
 血液がそこに集まるのが分かる。もうすぐにでも出せそう。
 これは排出、そう排出行為だ。

「ん……ぅ……くっ……」

 脳裏になにか思い浮かべた方がいいかもしれない。
 でも目を閉じるもののイマイチ浮かんでこない。なんていうかコレジャナイ感。

「うーん」
 
 あれ、なんか冷静になってきた。僕は何してんだろ。でもここで止める気にもならないんだよなぁ。
 
 とりあえず快感だけは拾いながら、無感動に手を動かす。
 たしかに気持ちいい、けど。なんかイくには少し物足りないというか。

「っ、はぁ……」

 まずい。なんかつらくなってきたぞ。イきたいのにイけない感じだ。このまま無理矢理射精するか、それとも我慢して寝るか。
 
「うぅ、どうしよ」

 自分でしてるからなのか?
 だとすればマッサージみたいに誰かに――ってそれはいくら何でも無理だ。
 そりゃあ性的サービスをしてくれる場所は魔界にだってあるし、それこそ高級店の娼婦を呼ぶことも出来なくはない。
 だけどなぁ。

「絶対怒られるだろ」

 エルヴァに頼むわけにいくか。
 でも他の者に手配させたって、最終的には彼女の耳に入る。そういうシステムだ。それを作ったのは僕なわけだけど。

「くそっ」

 悪態つきながら自慰をするって、めちゃくちゃマヌケだ。
 と、そこでふと思い出した。

「マッサージ、か」

 かなり前にマッサージをうけた事がある。まだ魔王になる前だから、本当に若い頃だ。
 その時の施術がかなり特殊で、そのせいでえらい目にあった。というかもう完全なる黒歴史。
 でも今になって思い出すなんて。

「ええっと、どこだっけか」

 一旦起き上がって、ベッドサイドテーブルを探る。
 そしてそれはすぐに見つかった。

「まぁ無いよりマシか」

 手のひら大の楕円形容器を目の前にかざす。中身は保湿用ローション。季節ごとに指が乾燥してしまうのだ。
 紙の書類を扱うと手もカサカサになるって、今の仕事するまで知らなかった。
 
 しかもこれは特別製。無添加だし、なんなら口に入れたって大丈夫なシロモノだ。

 蓋を開け、ローションを左手人差し指にまとわせる。

「……」

 そしてあらかじめ寝巻きを脱いでおいた下腹部、のさらに奥。つまり、尻の辺りにローションまみれの指を這わせたのだ。

 入口 (出口とも言う)の辺りをくすぐるように液体を塗りこめると、久しぶりの感覚に身体が震えた。

「んっ」

 やばい、またなんかムラムラしてきた。前をいじってるよりよっぽど興奮する。
 口の中に唾がたまり、思わずゴクリとノドが鳴った。




※※※

「あっ、ぁ……ぁん♡」

 大股開のカエルのような無様な体勢。むき出しの尻に自らの指を出し入れして喘ぐ姿は、臣下達に見せられない。

「あっ♡ あっ♡ あっ♡」

 ダメだ。声が勝手にでちゃう。口をふさごうにも片方は尻穴に、もう片手は胸――乳首を触ってるから空いてない。

 そう。
 僕は若気の至りで、女性と普通の性行為ができない身体になってしまった。
 過去に妙なマッサージ店に出入りしたおかげで、お尻と胸を触らなきゃ上手くイけない。
 つまり前だけでは射精できないから、マトモな方法では跡継ぎなんて出来るわけがないんだ。
 だから仕事を理由にして、結婚を後回しにしているわけだけども。
 娼婦を買うのだって。こんな性癖が万が一、バレたらえらいことになる。

 だからするとすれば、こうやって変態アナニーするしかないのだけど。

「あぅ♡ あんっ♡」

 ああもうダメ。自分の姿を思い浮かべるだけでドキドキしてきちまう。
 せっかく頑張って更生したのに。変態アナニーなんてしないって、ちゃんと普通の男になるって決心したのに。

「うぅっ♡ ああん♡」

 ダメすぎる。僕の根性なし! 変態! 
 そうやって自分を責めたら、ますますおかしな気分になってくるなんて救えない。

「あぁっ、もぅ♡♡」

 イけるかも。久しぶりだから前もいじろうと胸から手を離した――時。

「魔王ぉぉッ、覚悟ぉぉぉぉッ!!!」
「!?」

 視線の先のドアが、バーンっと開いた。それと同時に野太い怒鳴り声。
 息が止まるかと思った。

「へ……?」
「ん?」
 
 暗い部屋に差し込んでくる光。そして逆光でも分かる、人影。

「あ」
「!!!!」

 部屋の入り口に立ちふさがる男。それはそれは大柄で、そして。

「ぜ、全……裸?」

 そう。大事なトコロも丸ごと丸見え、生まれたままの姿の大男がこちらを凝視していた。












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