魔王様は静かに暮らしたい

田中 乃那加

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魔王様は驚愕する

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「うおっ!」
「ぎゃぁぁっ!!!!」

 男が叫び、そして僕も叫んだ。
 っていうか。怖い怖い怖い怖いっ、なんなんだこの生き物!? 
 イキナリ乱入してきて叫ぶとか。しかもここがどこだって分かってんのか? 魔界の、しかも魔王の部屋だぞ!

 そして突然飛び込んできたこの全裸男は、まじまじとこちらを見ている。
 目をかっぴらいて、口をあんぐりさせてるのがまたマヌケというか不気味というか。
 いや、ホントに怖いんだけど。

「……」

 なんか喋れよ。その叫んだあとの沈黙も薄気味悪いだろうがよ。しかもやっぱり何も着てない。素っ裸。
 服くらい着ろ。大事なトコロも全部丸見えで、なんなら――。

「ヒッ!?」

 た、たってる。
 勃起してる、って言った方がいいか。

 隠す気もさらさらない股間が、すざましい膨張を遂げるのを目の当たりにしたこっちの感情よ。
 さながら露出狂にでくわした乙女みたいな気分。怖い。普通に怖すぎる。魔王であっても、全裸の勃起男に遭遇すると恐怖を覚えるらしい。

「な、な、な……」
「おいアンタ」
「ひぃぃぃっ、しゃ、喋った!?!?!?」

 我ながら矛盾してる、でも仕方ないだろ。
 自慰の最中に、変質者が現れたら普通はこうなる。違うな、だいたいこんな状況が普通じゃないだろって話だけども。
 ごちゃごちゃ考えていると。

「おい」
「!」

 やっぱり喋った。低くて、なかなかいい声だ……ってそんな場合じゃない。
 全裸変態勃起男 (字面がおかしい)がこちらへずんずん近づいてくるじゃないか。

「えっ」
「アンタが魔王だな」
「ちょっ」
「逃げんじゃねぇぞ」
「なっ、ちょ、く、来るなよ!!」
「来なきゃヤれねぇだろ」
「やややっ、ヤる!?」

 るの方だろうか。そうであってくれ。いや、そうであってください。
 自分の立場も忘れてこんな気弱なのは、やっぱり半裸を見られてるから。自分の一番見られたくない所を見られてる状況。
 
「こ、この人間ごとき、消し炭にしてやる」

 ベッドの上で後ずさりながらもそう怒鳴る。
 そうだ、僕は魔王なんだぞ。人間なんて、大した力も魔力もない存在。あっという間に――。

「【衝撃電流イパルス】!って、ぅえぇぇっ!?」

 さすがに本当に丸焦げにするのはって思った優しい僕は、無装備の人間なら気絶するくらいので雷魔法を放ったはずだった。
 それなのに。

「ほう? 静電気か」
「な、なんで……」

 食らったハズの本人はピンピンしてるどころか、ほとんどダメージすらない様子に唖然とするしかない。
 この男、本当に人間だろうか。
 魔法が効かないなんて。

「もしやこれが攻撃魔法だったりするのか」
「!」

 首をひねりながらも歩み寄ってくるコイツが、得体の知れないモノに思えてきた。
 だってそうだろう。かなり手加減してるとはいえ、魔王の魔法を受けてこうやって無傷なんだから。
 
「あいにくだが、俺には魔法とやらが効かないみたいでな」
「は、はぁぁぁ!?」

 どういうことだ。この世に魔法が効かない生物なんているのだろうか。
 ゴーレムのような土人形でさえ、呪文さえ唱えれば粉々にできるのに。やはり何か妙な魔法防具でも仕込んでいるのだろうか。

 恐怖とともに好奇心に駆り立てられ、まじまじと男の裸体を眺める。
 この姿に一体、どうやって隠すんだろう。まさか体内に埋め込むタイプなのだろうか。
 いやまて。そんな防具聞いた事ないし、だいたいメリットが思いつかないぞ。
 
 しかし、そんな事をつらつら考えている僕は気が付かなかった。

「おい」
「うるさ――え?」

 ドサッという音と視点がひっくり返ったのと、あとは背中に感じたシーツの感触。それで僕がベッドに押し倒されたことを知った。

「アンタ隙だらけだぞ」
「お、おまっ……」

 目の前に大写しになった男の顔は意外にもなかなかの美形で、ってどーでもいいわそんなこと!
 この魔王ともあろう僕がっ、ただの人間の全裸男にベッドに押し倒されている!?
 一瞬で怒りと羞恥でパニックになる。

「離せッ、なにしやがる変態がぁぁぁぁ
!!!!」
「否定はしないが、人のこと言えるか?」
「くっ」

 たしかに僕だって半裸だよ! でもこれは仕方ないだろ、プライベート時間だっての!!
 しかも何故か身体に力が入らない。いや違う、コイツめちゃくちゃ馬鹿力だ。

「ぐっ、ぐぎぎ……」
「今の俺の腕力、アンタそうとうの魔力だな」

 歯を食いしばって押し返そうとする僕に、男は感心したような声を上げる。
 そして聞いてもいないのにペラペラしゃべりやがった。

「俺には魔法は効かん。そういう体質だからな。でも魔力を吸い取る事ができるんだ。そしてそれは――」
「い゙ッ!?」

 軽々と腕をひねりあげられて、鈍い痛みが走る。

「腕力と、として蓄積される」
「ぎゃっ!!!!」

 ぐりぃぃっ、と腹に押し当てられた固くて熱いモノに恐怖した。
 
「や、やめろ」

 これは従者を、いやせめて秘書呼ばなければ。じゃないとヤられる。
 出会って数分の全裸変態野郎に蹂躙されてしまう。それだけはヤダ。絶対、ヤダ。

 だけどそんな考えもお見通しだったのだろう。
 男が白い歯を見せて笑った。

「人払いしといて正解だったな」
「なにっ!?」

 人払いって。いくらなんでも魔王の側近や従者たちだぞ。魔法が効かないとはいえ、人間ごときの足止めなんて……。
 
「向こうの廊下に『掃除中、立ち入り禁止』って看板立てたぜ」
「!?!?!?」

 ちょっと待て。
 たしかにこんなに騒いでいはずなのに誰も見にこない。これは非常にマズイ。
 つーかっ、部下どもアイツらもおかしいだろ! そんな看板ひとつで魔王の部屋の警護すらしないって。

 そりゃあ前任魔王の頃の殺伐としたブラックな職場環境から、今の割とホワイトで和気あいあいとした職場の雰囲気は作ったけどさ!!
 だからって平和ボケしすぎだろ。悲しくなるわっ。

「アンタのケツ穴も準備万端みたいだしな、一晩ゆっくり遊ぼうぜ」
「ひっ……」

 変態怖い。しかも魔法効かないとかチートにもほどがある。
 もうどうしていいか分からない。
 それでも、なぜか中途半端にいじっていたお尻の奥の方がキュンとうずいた。
 

 


 


 
 
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