まほろば

田中 乃那加

文字の大きさ
1 / 13

1.冷徹な王様の

しおりを挟む
 逢瀬はいつも安い装飾が散りばめられた一室。見慣れたものだ。
 劣情のみを掻き立てる照明に、部屋のサイズに不釣り合いな大きなベッドが鎮座した下品なレイアウト。

 まさに『そういうこと』の為だけに用意されたこの部屋。
 それなのに入ってすぐ、伸ばされた手を煩わしく思う。

「がっつくな」

 待て、の出来ない駄犬じゃああるまいし。
 そもそもベタベタされるのは嫌いな方でさ。女からも男からもな。
 独占欲なんて言うのも反吐が出る。

 それでもまだ伸ばしてくる不埒な手を、ヒステリックな感情のまま引っぱたいた。
 苦笑いと共に引っ込められたそれを振り切って、乱雑に服を脱ぎ散らかしていく。

 さながら横暴で冷徹な王のような振る舞いだ。

「どうせ君はそういうの好きなんだろう」

 ほらそうやって、僕の脱ぎ捨てた抜け殻を拾い集めて回って。床を無様に這いつくばっていればいい。
 そんな事をしていても尚、柔和に見えるその顔の瞳に光る獣の色は隠しきれないんだからな。

 ―――すっかり全てを脱ぎ捨てて、自由になったこの身体を安物のベッドに横たえる。
 女じゃあるまいし、隠すものなんかありゃしない。
 羞恥心さえもここでは麻痺していくのが分かる。
横目で見るのは脱ぎ散らかした僕の服を、綺麗に畳んだり掛けたりする大きな手だけ。

 ……そう、手だけ。身体だけだ。君の存在理由なんていうのはそれだけなんだよ。
 まぁ同時に、僕の存在意義もそれだけだがな。

「おいおいおい、君シャワー浴びてこいよな」

 無遠慮にベッドを軋ませて乗り上げて来た無作法者め。
 舌打ち混じりに強く命じると大人しく、再びマットレスの小さな軋みと、ぺたぺたという間抜けな足音と共にシャワールームに向かって行った。

『』

…… あいつがもごもごと無粋なことを口にする。

「はァ? 馬鹿言うんじゃあないよ。僕はもう綺麗にしてきた。余計なこと言わないでさっさと行け」

 脇役モブで奴隷の分際で僕に意見するんじゃあない。僕は王だ。少なくても今の君にとってはな。
 
 威圧的にそう吐き捨てれば、しばらくしてシャワールームから水音が聞こえてくる。
 ……僕は目をつぶった。

 瞼の裏に遮断しきれない光が煩わしい火花のように散る。
 心地良いとは思えないBGMが中途半端に耳腔を擽り眉を顰めた。

 ……こういうのオシャレとか思ってんのかね。
 センスってもんが皆無なんだよなァ。
 ま、こういう所に過度な期待はしないし、むしろこの位の低俗さが夢を見るには丁度良いのだろう。

「あー、疲れた」

 僕にだって日常がある。
 さっき脱ぎ捨てた窮屈な抜け殻を身にまとい、日々息苦しい人間関係を無心で生きる日常が。

『』

 ……あァ? なんだもう戻って来たんだな。
 ちゃんと綺麗にしてきたのかよ。
 
なんて聞いてやらない。別に僕はこいつの母親でもなんでもないから。

『』
「ふん、勝手にすれば?」

 慣れたものだろ、跪き方はさ。
 
僕は大儀そうに起き上がり、ベッドの傍らに膝をついた男に向かって片足を突き出す。

「キスして」

 それがの合図だ。
 
 恭しく口付けされる足の爪先。そこからゾワゾワと熱が広がっていく。
 足先から灯り、導火線に付いた火のように確実に這い上がってくる。唇が知らず知らずのうちに這い上がって行くのが分かる。
 僕はいつもそこで小さく溜息をつく。

 ―――込み上げる涙を堪えるのに必死で堪えながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

処理中です...