まほろば

田中 乃那加

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3.なけなしの

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 部屋に入れば、僕は自身の役割を演じるよう努める。
 それはすごく簡単な事だ。
 傍若無人な裸の王様になればいい。
 どうやら彼はそういうプレイも好きなようだから。

「そ、そこっ……あんまり、さわっ、んな」

 女のそれと違う、柔らかくも無いしボリュームも無い貧相な胸に手を伸ばす彼に釘を刺した。

 ここに触れられるだけで、自分はゾッとする。
 『僕は何をやっているんだ』って現実に引き戻されるような気分になるから。
 
「っ、だからやめろってば……村瀬むらせっ!」
「もー。名前で呼んでって言ってるでしょ?」

 珍しく手を引っ込める様子のない彼の名を、叱りつけるように叫ぶ。
 すると穏やかだが有無の言わせない声色の言葉が返ってきた。

「きょ、恭介」
「……はい。よーく出来ました」

 その瞳に僕は怯えた。
 口元は柔和に笑う彼の瞳には冷徹な獣が住んでいるように見えたから。
 それでも僕の心、というか本能は怯える以上に魅せられていたのも否定できない。

 ……もしかして僕、変態なのか。いやそうだな、末期状態なのかもしれない。
 自嘲しながらの思考で、きっと注意が散漫になっていたのだろう。
 彼が低く唸った瞬間与えられた刺激によって、強制的に浮上させられる。

「んんッ!? ……ふ、ぁぁぁ、い、痛ぁッ……!」
「あーぁ、また別のこと考えてるね」

 明らかに不機嫌そうな声のあと。不意打ちで脇腹を撫であげられ、首筋に噛み付かれた。
 強く歯を立てられたから、それなりに痛い。歯型どころか血も滲んでいるんじゃあないか。
  空気に晒されるとヒリヒリする。

「あんまり怒らせると、食べちゃうぞ」
 
 子供が軽く拗ねて見せるような膨れっ面。それも本気ではなく、おどけて見せているような。だけどその目は。

「きょ、ぅ、すけ」

 ―――今日は王様では居られない、かもしれない。


■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□

「ぁ゛ぁ……ッ、くぅ……ぐぅっ、ぅ……」
「はーい、二本目。も少し頑張って」

 四つん這いになって尻を高くあげる、牝犬にも劣る屈辱的な格好。
 己の排泄器官から感じる、圧迫感と異物感はなかなか慣れる事が出来ない。

「痛かったら言いなよ?」
「……ぅ、う、るッ、さ……ァ、ぁ、ぃ」

 今回は酷く抱くのかと思いきや、実際はいつも通りにゆっくりと丁寧に解していく。
 一層のこと、手荒に乱暴にして欲しいとも思う。
 そうすれば、こんな変な気持ち、治るかもしれないのに。

「うん? 随分余裕だね」
「ヒッ……ぐぅッ、ん゛んッ……!? くぅッ……っはぁっ……」

 いきなり増した圧迫感。それがばらばらに動いて、後孔を掻き回すものだから堪らない。
 顔の下に敷いてある枕を噛みながら、必死で声を抑えた。

「声、我慢しないよ」
 
 聞き分けのない子供に諭すような声だ。
 熱い吐息が首筋や耳元を撫でて、ぞわりという悪寒に似た快感が背中を駆けていく。

「も、もう……いい、からぁっ……」

 早く挿れて、と言えずに尻すぼみになる言葉に彼は薄く笑った。

「だーめ、もっと解さないと。俺の入らないでしょ?」

 もう勘弁してくれ、頼む、許して、と心の中で何度も叫んだ。
 これ以上弄られると、頭がおかしくなってしまう。
 ……僕だけ、僕だけがこんなに乱れて。
 捨てたはずの羞恥心はまだまだ残っていたらしい。頭を振って、駆け登る快楽を散らそうと躍起になるがきっと徒労に終わるだろう。

「泣くほど嫌?」
「!?」

 恭介の大きく長い指が、僕の目元をすくい上げる。
 そこで初めて、自分が涙を流していた事に気が付いた。
 こんな事で泣くなんて、と脳裏に描いた自分自身が嘲笑うのが分かった。

 ああ、確かにこれは自分でもドン引きだ。なんで泣いたんだろう。女々し過ぎる。
 これじゃあ彼だってソノ気を無くしても仕方ない。

「もしかして痛かった?」

 指を全て引き抜いて、彼は僕を後ろからそっと抱きしめた。
 僕は小さく、違う。と呟いた。

「今日はやめとこうね」

 でも相変わらず優しい声でそんな事を言うものだから、首を頑張って曲げながら。
 
「駄目……! 止めるのは、い、嫌だ」
「でも」

 やはり離れて行こうとする体温を逃すまい、とその身体にすがりつく。

「ぼ、僕、だけは、嫌だ。きょ、恭介のが、欲し……ゥわッ!!」

 力任せに肩を押され、気が付けばその獣の目に射抜かれるように見下ろされていた。

「挿れて欲しい? うん、分かった……挿れてあげる」

 僕は微かに震えながらも、目を伏せ頷く。

「ッぐっ……ぁ゛っ……うぅっ……」

 指なんか比べ物にならない。内蔵が迫り上がるような圧迫感。
 未だに慣れきれず痛みすら感じる時がある。

「……ッほら、もうっ、少し。いい子だから、ね」

 彼の方も軽く息を詰めている。
 それだけで分かる。どこまでいっても彼は僕を甘やかす。
 そんな彼も、それにぐずぐずと甘える僕自身も忌々しくて仕方ない。

それにいくら抱かれても、燻っているこの奇妙で気持ちが治らなくて。やっぱり僕はこの男が……なんて絶望的な気分になる。

「ほら、見てごらんよ」
「っ……!?」

 全部入ったと言いたいのか、接合部を縁を指で撫でて笑った。
 女じゃないのに、男を受け入れた箇所からじわりと熱と欲が広がる。

「動くね」

 彼もそろそろ我慢し辛くなってきたのだろう。
 一言断って、緩やかに律動を始めた。
 背骨を伝って駆け上がる快感が、途端僕を甘く支配する。

「ぅっ、ん……っ、くっ……ッ……ぁ」
「……声!」
「あっ!!……や、やだっ……あッ、……ァ、ァ」

 嬌声を聞かれたく無くて、己の指を噛んで抑えていたのに。 
 何が気に入らないのか、彼は少し声を荒らげて僕の両手を纏めて絡めて頭上に戒めてしまった。

 女みたいに隠すものなんかありゃしないのに……。
 どうして全てをさらけ出され、支配されるが堪らなく苦しくて羞恥を煽るのだろう。

 ……この前の方が良かった、と喘ぎの中で呟いた。
 王様のように偉そうに抱かれていた方が。
 羞恥なんて、とうに消えてしまったと思っていたのに。

「っん、かわいい、ね。もっと、感じて?」

 彼はうっとりと、それでいて残酷とも取れる笑みを浮かべて囁いてくる。きっと知っているんだ。その言葉一つ一つが僕を苛んで、ともすれば壊してしまいかねないという事を。

 ……頼むから優しくしないでくれ。
 無意識にキスを求めていた唇を。僕自身を恥じた。


■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□



「いやぁ、今日も盛り上がったなぁ!」
「だから触んなっての」

 にやけ顔で肩に手を回してくる不埒な手を叩く。
 ピロートークなんて真っ平御免だ。

「え~? 誠ってば淡白なんだからァ」
「うるさい、黙ってろよ」

 セックスの後、ベタベタされるのは嫌い。それは女相手であっても同じなんだけど。
 あ。元恋人にはそういう所もヒドいって言われたっけ。

 やっぱり女は感情を言葉や分かりやすく態度で表現する事を大切にするのか。
 でも僕だって、僕なりの愛情で接していたつもりなんだけどなァ。ま、そこはすれ違っていたんだろう。

「ねー、誠ってば」
「んだよ……」

 人がせっかくまともな感傷に浸っているって言うのに。新たな混乱の元が話しかけてんじゃあないよ。

「呼んだだーけ」
「はァ? なんだそれ」
「あははは」
「あのなァ、気色悪いことするんじゃないよ」
 
 彼に背を向けて横たわる僕は、そので感情が上下左右に揺さぶられているというのにさ。

「まだ時間あるだろ。ちょっと寝るから」

 少し疲れた、そう思って目をつぶった。

『おやすみ』

 直ぐに落ちていく意識の外で、そんな声が聞こえたか聞こえないか……。
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