まほろば

田中 乃那加

文字の大きさ
13 / 13

13.誤解するほどの

しおりを挟む
 反響する浴室の中で、言い分とやらが滔々と語られる。
 髪から滴る水滴が、肩を流れて湯に波紋を作る様をぼんやり眺めながら聞いていた。

「ああ、なるほど」

 彼がさっき口にした反応だ。そう返すしかなかった。
 僕は大きな思い違いをしていた。
 問題は初めてセックスした日と、それから何度も身体を重ねた後の記憶を僕がほぼ失っていた。という事。
 あ、記憶喪失とかじゃあないぞ。単なる疲れから眠ってしまったり呆然としていたりだ。
 だって仕方ないだろ。毎回1度や2度で終わらず、  まさに精根尽き果てるレベルだったんだから。

「毎回『触るな』『近寄るな』っていうけどね。俺はてっきり照れ隠しだと思ってたなぁ」

 寂しそうに呟く恭介の表情は当然分からない。しかし今は……見たくて仕方ないのが正直な気持ちだな。

「俺は最初の時から愛してたし、誠からその言葉を聞いてたんだけどなぁ」

 彼の話だと、僕は最初にこのホテルで『好きって言ってくれなきゃ抱かせてやんない』って甘えたらしい。
 ……う、我ながら吐き気がヤバい。
 酒って怖い。ほんとに怖い。
 いや怖いのは酒じゃなくて酔っ払った僕自身だけど。

 いい歳した男がそんな、女が言っても面倒臭い台詞を口走るなんて! 気持ち悪い通り越して、もはや恐怖だ。

「それに俺エッチした後にちゃんと『好き』『付き合お』って言ってるのに反応超薄いしさぁ」
「そ、それ多分僕は意識とばしてたと思うぜ……」

 だいたい反応なかったら確認しろよ! っていうか、100歩譲って勘違いしたとして。

「月一度でラブホは付き合ってないだろ」

 良くてセフレだってば。

「え? だって誠が『煩わしいの嫌い』って」
「キョトンとした顔すんな! それはセフレだと思ってたからだろっ」

 なんだよ……コイツ全然話が噛み合わないんだけど。
 
「歴代の彼女は大体こんな感じだったけどなぁ」
「!?」
「だから『付き合う』ってこういう事だと思ってた。あ、でも誠となら友達としても色々仲良くしたかったんだよ? でもそういうの嫌だって……だから徐々に関係変えていこうかなってさ。デート? とかもしてみたいし」
「……」

 な、なんなの。こいつ、まさか真っ当な交際ってやつした事ないのか?

「だって俺、気が付いたら脱童貞してたし。女ってこういう事ばかりしたがるし」
「ええぇ……」

 この男が最強に女運なかったのか、コイツ自身の性質が引き寄せるのか。
 とにかく色々と碌でもないヤツなのは分かったのだが。
 そろそろ頭がくらくらしてきた。少しのぼせたのかな。いや、違うな。恭介が……やめとこ。
 金の件もだけど、なんか。色々と一般常識とか倫理観とか微妙におかしい気がするんだけど。
 自分が常識人とか正常とかは言わないけど。なんだか恭介は不完全で歪な生育をした半分子供みたい。

「恭介ってさァ……」

 ため息交じりで名を呼べば、やっぱり妙に澄んだ瞳を向けてくる。そんな男を見ていて、僕は一つの結論に行き着いた。
 ……まぁこのくらいイカれた奴の方が面白いかもしれないなァ。
  少なくても仕事を忙しくしてるからって理由で他に男作る可能性は少なそうだし。

「あ。そう言えば君、大学生なんだってなァ。知らなかったぜ」

 十代のガキにあれだけ弄ばれてたなんて。大人としてのプライドがエラいことになったんだからな。
 そう愚痴と文句を零すと、彼は低い声で笑った。
 なんか急に感じる雄の余裕って空気がムカつく……僕も雄だけど。

「うん、じゃあ責任は取るね」

 そう言って左手の指をするりと撫でた。
 ゾクリと背中を悪寒めいたが走る。

「愛してるよ……誠は?」

 そんな甘い囁きに僕は黙って頷く他なかった。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...