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映画館デートはいかがですか1

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 傍から見ればちゃんと友達同士に見えるだろうか。
 そんな事を気にしたのは最初だけ。

「葵さん、行きましょう」

 やっぱり義幸はまぶしい。周りなんて見えなくなるほどに。
 待ち合わせから映画館に行くまでの道中。ずっと思ってたことがある。

「お前って……イケメンだったんだなあ」
「なんですか。藪から棒に」

 戸惑うように聞き返されたがそれには答えず、手を伸ばして後頭部を叩いた。

「痛っ!?」
「ふん、バーカ」

 これは十七年後の分だ。このクズ野郎め。
 理不尽だろうがしったことか。
 記憶の中では無愛想な奴が、目を白黒させて首をかしげてみせる姿が妙におかしかった。
 ザマアミロとかそういうんじゃなくてな、普通に可笑しかったんだ。だから思わず噴き出しちまった。

「なんて顔してんだよ」

 笑う方もたいがい失礼だろうけどさ。でもなんか色々と面白くなってきたというか、よくわかんなくなってきたんだよな。
 大嫌いなハズのやつと、なぜか一緒にデートしてんだぜ?
 これが笑えないわけない。

「葵さん?」

 今度はぽかんとした顔してる。当たり前だよなぁ。俺だったらドン引きするかもしれない。
 でも義幸はそうしなかった。

「……葵さんの笑顔、初めて見たかもしれない」

 なんとそう言って微笑んだ。これには今度は俺が度肝を抜かれた。

「し、失礼なこと言うなよ。笑顔くらいなるっつーの。お前じゃあるまいし」
「でもオレも好きな人の前だと心の中は満面の笑みですよ」
「心の中じゃなくて普通に笑えっての」

 でもそれものかもしれない――って、あれ?

「葵さんこっちですよ。行きましょう」
「ああ、うん」

 なんか少し思考に疑問を持って立ち止まりかけた俺の肩を彼が触れた。
 そのままさりげなく、でも優しげに背中を撫でられ再び目的地に向かう。
 なぜだか俺は一切の不快を感じることもなく。

「で。どんな映画なんだ」
「秘密ですってば」

 全部デートコースを決めたいからって、今日みる予定の映画ですら知らされてない。
 俺も適当なもので、事前に何が上映されてるか調べてくることは無かった。これもなんだか新鮮だ。
 だって男は女とデートする時はあらかじめの想定や飲食店の予約、簡単でも下調べをするべきってのが俺の中にあった。
 もちろんデート代は基本的にこっち持ち。

 女と付き合うのってめんどくさいって思ったのは学生時代まで。大人になればそんなもんだとあっさり受け入れた。
 まあ、こればかりは個人や時代ごとの価値観ってのがあるだろうけどな。

「それにしても混んでるなぁ」

 ふと呟いてしまうほど、映画館のロビーには多くの人がいた。
 おそらく話題になってる作品が上映されてるからだろう。漫画原作ではあるが、大人から子供まで幅広い人気を誇っている。
 
「ああこれ」

 懐かしい、と口に出す寸前でやめた。十七年前、確かに流行ってた。オッサンになっても覚えているほどだ。
 確か当時は見た記憶ないけど、その後に何度かテレビでやってて目にしたことがある。
 でもこれはあくまで

「どうしました?」
「いや、なんでもない」

 危ない危ない。タイムリープのことを口にすれば多分、頭でもおかくなったと思われる。
 もちろん母さんにも友達にも言えるわけない。
 とは言っても俺自身、これが本当にタイムリープなのかよく分からなくなっているが。

 俺はいまだ不思議そうな顔をする彼を曖昧にかわしつつ、そろそろ行こうと引っ張った。

「チケットはもう買ってあるんです」
「ああ、用意がいいな」

 カウンターへ行こうとすればそう止められる。手際がいいことだが、どちらにせよチケット代を出さないととカバンに手を掛ければ。

「飲み物いりますよね」
「え? あー、そうだな」

 確かに。そしたらその後でさり気なく渡そうかとうなずく。
 しかしそこでも、結局財布すら出させてもらえなかった。

「おい、義幸」
「いいんですよ。オレに出させてください」
「そういうわけにはいかんだろ」

 こちとら一応先輩だぞ。友達同士だって、同性であれば自分の分は自分で出すのが普通だ。
 なのにアイツは少し目元をゆるませて。

「だってデートじゃないですか。男にカッコつけさせてください」

 と小さな声で言った。

「いや、俺も男だし」

 デートってのは敢えてつっこまないでやる。俺から誘った形になっちまったもんな。
 でも彼はかたくなに受け取らない。

「ダメです。オレが奢りたいんです」
「それは俺の気がすまない」

 女じゃあるまいし。なんかすごく気まずいような、申し訳ない気分になるじゃないか。 
 これは女と男の差なのか? 女性の中には奢られて喜ぶ人が多いと聞いてるけど、俺は無理かもしれない。

 渋い顔をする俺に譲歩するつもりなのか、義幸は少し考えこむように視線を外してから笑った。

「じゃあ、映画のあとにでもどこか寄りましょう。そこでお願いします」

 ムキになる俺に対して、なんかこいつの方が大人みたいでまた少しムッとする。
 でもここは大人しくうなずいてやろうじゃないか。だって俺の方が大人なんだから。

「ほら行きましょう」

 一瞬だけためらうように手の触れた指が、俺の背中をそっと押す。
 こんな所で手をつなぐわけにはいかないってくらいは、彼にもわかっているようだ。
 正直少し安心した。

「どんな映画なんだよ。チケット見せろ」
「まだダメです」

 まだサプライズする気らしい。とは言っても、これから上映するのは二つ。どちらも時間は10分ほどしか違わない。
 でもそのジャンルが真逆で。

「まさか、アレじゃないよな……?」

 俺の視線の先。いわゆる邦画ホラー、青白い顔の長い髪の女がうつるポスターがあった。
 自慢じゃないが苦手はジャンルだ。間違いなくほとんどの時間を目をつぶってやり過ごすことになりそう。
 だからあらかじめ教えて欲しかったのだが。

「面白そうですよね」
「!?!?」

 嘘だろ……こんな夜寝れなくなるようなモノをわざわざ観たいのか? 正気とは思えない、俺なら無理だ。
 もう既に最悪。お化け屋敷に連れていかれる寸前の気分で、俺は義幸を見上げた。

「もしかして怖いの無理ですか」
「っ、そ、そんな事あるか!」

 ――あ。まずい。思わず虚勢張ってしまった。
 
 反射的に返した言葉に自分で自分をぶん殴りたくなる。でもここで奇行を晒すわけにもいかない。

「そろそろ時間ですね。行かないと」
「……」

 これ絶対ダメなやつだよ。最悪なデートに決定したよ。
 暗澹あんたんたる気持ちで、俺はとぼとぼと彼についてホワイエを歩いた。
 

 
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