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18.変態と童貞と金蹴りと……やっぱり変態
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「……」
なんの返事も返って来ない。
僕は再度ノックをした。
「おい、いるのは分かってんだぞ」
「……」
無言。
しかし部屋に居ない訳じゃないのは、分かっている。
人の気配を察するのは、剣を嗜んでいたら当然身につくものだから。
「居留守とは、いい度胸だな」
今度は強めに叩く。
「……」
僕は無言で、扉を殴りつけた。
ドンドンという鈍い音が廊下に響く。
「このクソ童貞が!」
そう罵って、足で蹴ってみた。
ガコンッ、と酷い音がしたが気にしない。
「おーい、開けないとドア壊しちまうぞー」
「ちょ、ストップストーップ!」
叫び声と共に、ドアが小さく開いた。
「ドア壊れるだろーがッ!」
「壊す気でやってんだ。悪いか」
「開き直るなっつーの……なんだよ」
「入れろ。この僕を、こんな廊下に出させておくのか?」
「……い、いやぁ、今はちょっとまずい」
「あ゙? 」
「へ、部屋、散らかってるから」
「一人暮らしの女の子かよ」
「いや、その……」
「良いから入れろッ、じゃないとここで叫ぶぞ!」
乱暴された風を装って、な。
そう脅してみた。
「お前なぁッ、いい加減に」
「良いのか? 童貞エト君、遂に拗らせて男を襲った……なぁんて、ウワサが付くぜ」
「べ、別に俺は」
「僕だって御免だよ。だけど、それより今は君と話がしたい気分なんだ。なぁ、分かるだろ?」
そう言って、ジッと睨みつける。
本当はここで、色目の1つでも使えば良いんだろうが……そんな事、死んだって無理だし。
「なんで怒ってんだよ……怖ーよ」
くそっ、この唐変木でクソ童貞には真意が伝わらないな。
罵ってやりたい気持ちをグッと抑えて、今度は笑みを作ってみる。
「ゲス顔して……何? 俺、今から殺して埋められたりすんの!?」
「だぁぁぁッ、鈍い野郎だなッ! サッサと入れろって言ってんだよ、バーカバーカッ!」
「えっ、入れろ? ナニを!?」
「そこだけ変に勘違いしてんじゃないッ! 」
……なんなんだもう、コイツやっぱりアホなんじゃないのか。
大きくため息をつくと、彼はようやく渋々といった感じで頷いた。
「ったく、仕方ねーな……でも本当にちょっと待てよ、片付けるから」
そう言って一旦、部屋に戻ろうとする。
……が、閉じられつつあるドア。
僕は渾身の力を込めて、抑えた。
「お、おいっ、危ないだろーが! ちょっと待てって」
「待てない。散らかってる? 男の部屋だろ、今更なんとも思わないさ」
「いやその、散らかってるというか……あっ、待てよ! 人の話を聞……」
「なんだ綺麗な部屋じゃないか」
制止を無視して、強引に部屋に足を踏み入れる。
……と、思いも寄らないモノが目に飛び込んできた。
「っ!? こ、これ」
「あぁぁぁっ、見られちまったァァァ!」
固まる僕に、叫んで頭を抱える彼。
壁に貼られた写真。
数枚、それは明らかに隠し撮りされた僕の写真……。
「エト、君」
「ちょっ、待て待て待てッ、そんな養豚場の豚を見るような目をしないでッ!? いや、下がんなくて良いから! 生ゴミ見るような目もやめろって!」
「……」
正直引いた。
だって、壁に男の……しかも自分の写真(しかも寝顔とか。いつ撮ったんだ?)貼ってるって。
気色悪いじゃん、普通に。
「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ、チクショー! こうなったら『ピー(自主規制)』を……」
「ヤケ起こすなぁぁぁぁッ、この性犯罪者予備軍ーッ!」
「……ひでぶっ!?」
やけくそになったのか、身を翻して掴みかかってきたアホに、僕は渾身の肘鉄食らわした。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫
「ほんとゴメン」
「……」
「いや、マジで」
「……」
「いででででっ、蹴らんといて!? 大事なトコロ!」
「潰してやろうか?」
「ヒィィィッ」
―――エトは正座、僕はその前に仁王立ち。
これが今の状況だ。
コイツの部屋は入った事がある。
でもまさか、こんな状況になってたとは……。
「エト。これは、なんだ」
「ええっと……写真、です」
「だれの」
「る、ルベルの」
「いつ撮った?」
「寝室に忍び込み……ました」
そう。
部屋に貼ってあった写真の他に、何枚か隠してあった。
僕の寝顔や、着替えを隠し撮りした写真!
……この世界にも、盗撮魔っているのか。
人間界の写真技術はまだ未熟だが、魔界ではそれなりの写真機がある。
「ふぅぅん? 君はいつから、性犯罪者になったのかなァァァ」
「べ、別になんにもしてねーよ!? 写真も、こう……思い出をな、うん」
「思い出? どーせッ、× × × × の時、× × ×××××する為に使ってたんだろーがァァァ!」
「ちょ、ルベル。はしたない」
「やかましいッ、このクソ童貞が!」
足を振り上げれば、スン……と大人しくなる。
もちろんコイツのアレを目掛けて、だ。
「ルパから、君が熱心に勉強してると聞いて来てみれば」
「勉強はしてたんだぜ!? でも」
「でも……なんだよ?」
「モチベーションがなぁ」
「モチベーション? 」
「す、好きな人の、写真見れば、元気出るっつーか」
「それで盗撮か!」
「フィナがアドバイスしてくれたんだぜ」
……なんてこった!
あの腐女子な美少女は、どうしてこんなにも変化球なアドバイスをしたんだ。
頭を抱えた僕に、しょんぼりとしたエト。
こうしてみると。
やっぱり叱られた大型犬みたい、というか……って!
「なんでッ、僕がッ、君を可愛いと思っちまったんだッ!!」
「えぇぇ!?」
余計な事を怒鳴りつけて、今度は僕が項垂れる。
違う、違うんだ。
別に大の男を『可愛い』とか。
僕の目はとうとう、腐っちまったのか。
それとも、またなんかの魔法だか呪いだの掛けられているのかも。
「ルベル?」
「エト……なんで僕に、会いに来なかった」
「えっ」
「こんな写真じゃなくて。僕に会いに来いって言ってんだよ。このスットコドッコイのバカ童貞野郎ッ、お前なんて不能になっちまえぇぇぇッ!」
「こ、後半の罵倒がエグい」
項垂れついでに、このアホの顔を一切見ずに言い切ってやった。
女の腐ったような事を……って。女の子に失礼だな。
―――ほんの少し、視線を戻す。
「!」
「……」
一瞬で視線が合った。
電気が流れたような、変な衝撃。
「おい、エト! 君、なんか魔法使ったか?」
「ハァ? 使ってねーよ」
「そ、そうか……」
なんなんだ、今の。
心臓が跳ね上がったぞ。
これはもしや。いやいやいやいや! 冗談だよな!?
でも……うん? うーん、考えるのをやめよう。
「それにしても」
僕は部屋を見渡す。
本が山積みの机。今にも雪崩起きそう。
「本を読んでるのは、本当だったらしいな」
これが放置気味の積みゲーならぬ、積み本ならば話は別だが。
盗撮云々はともかく、頑張る姿勢は認めてやってもいいかもしれない。
「でもまぁ、なかなか難しくてよぉ」
「難しい? 」
「その……専門用語とか、多いし」
そんな専門書なのか、と積み本の一冊を手に取ってみれば。
「これ」
見覚えがある表紙と題名。
他に数冊、取って並べてみる。
「へぇ! お前も、こういう本読むのか」
全て、僕が今まで読んできた書籍だった。
小説から図鑑、歴史書まで。
異族言語の専門書もある。
……人を知りたきゃ、本棚を見ろと聞いたことがある。
その人がどんな本を読んできたのかで、その思考や思想傾向が分かる、と。
「よ、読みたかった、けどさ」
「?」
ため息を漏らし、視線を逸らした彼は弱々しく呟いた。
「兄貴に教えてもらったんだ『まずは共通の話題を』って」
「共通の話題?」
「……俺だって、ルベルと仲良くしたい。でも、難しくてさ。あと勉強もちゃんもやって、立派な魔王にならねぇと」
「魔王に、なるのか」
……なんだか、悪いけどイメージじゃないんだよな。
コイツが魔王?
ほんの少し心配になっちまうのは、何故だろう。
「うん。なるよ……なったら、ちゃんとルベルにプロポーズするから」
「ぷ、プロポーズぅぅ!?」
一足飛びだな、コイツ。
でもそうか。ゆくゆくはコイツと……って、何喜んでんだ僕はッ!?
「る、ルベル大丈夫か。赤くなったり青くなったりしてるぜ」
「ゔっ、べ、別に!」
まずいまずい、平常心だ。
僕が男と結婚なんか、しない。
でもコイツはまぁ悪い奴じゃないし……ってもう良いっての!
自身にツッコミ入れつつ、僕は彼に再び視線を向けた。
「俺の気持ちが、お前にとって迷惑なのは分かってるんだけどよォ……」
「あ゙? 迷惑だなんて、誰が言った」
しょぼくれている、この変態バカ男を鼻で笑う。
そうやって決めつけて、自分を卑下してさァ……そういう所がイラつくんだ。
「変態童貞クズ野郎。兄や魔王の座に怖気付くな。自分人生だろうが!」
「別に俺は……」
「確かに君はバカだし、変態だし。童貞だし。どうしようもない男だな」
「ひ、ひでぇ……」
『童貞は関係ねーだろ』と涙目な奴に、構わず続ける。
「でも……悪くないんじゃないか」
「え?」
「あんまり劣等感拗らせんなって言ってんだ。バカ野郎」
コイツはコイツ、それだけで充分だ。
レガリアと一緒にいる時には得られない感情を、僕は感じているのだから。
「ルベル」
「仲良く、なれるだろ。僕達」
「な、仲良くしてくれんの!?」
「当たり前だろ。変質者」
「変質者って……」
必死で見上げてくる瞳。
そのエメラルドグリーンが、美しくて。
思わず見蕩れそうになる。
「友達、からな」
ほとんど無意識でそう呟けば。
「ルベルぅぅぅぅッ!!」
「ば、バカっ、離せッ」
……座ったまま、腰に抱きついてきやがった!
しかも、顔の位置がヤバい!?
「うわぁぁぁぁッ、どこに顔を擦り付けてんだッ」
「ルベルぅぅぅぅっ、愛してるぞぉぉぉ」
「ちょっ、そ、ソコ、やめろぉぉっ」
……こともあろうに、股間にグリグリと顔を擦り付けてくる。
振り離そうにも、ガッシリと尻を掴まれて動かない。
「ひゃぁッ、し、尻撫でてんじゃないぃぃっ、変態!!」
「ハァハァ……お前、すっげぇ、いい匂いする……ハァ……」
「やめろ、ガチでヤバいって!」
「ルベルぅぅ」
「いやぁぁぁぁッ!!」
まさに変態。
……コイツ、こんなんで本当に魔王になるのか!?
必死に彼の頭を引っ掴みながら、内心叫ぶ。
―――そしてこの後、やっぱりガチ切れした執事が部屋に飛びこんで来た。
なんの返事も返って来ない。
僕は再度ノックをした。
「おい、いるのは分かってんだぞ」
「……」
無言。
しかし部屋に居ない訳じゃないのは、分かっている。
人の気配を察するのは、剣を嗜んでいたら当然身につくものだから。
「居留守とは、いい度胸だな」
今度は強めに叩く。
「……」
僕は無言で、扉を殴りつけた。
ドンドンという鈍い音が廊下に響く。
「このクソ童貞が!」
そう罵って、足で蹴ってみた。
ガコンッ、と酷い音がしたが気にしない。
「おーい、開けないとドア壊しちまうぞー」
「ちょ、ストップストーップ!」
叫び声と共に、ドアが小さく開いた。
「ドア壊れるだろーがッ!」
「壊す気でやってんだ。悪いか」
「開き直るなっつーの……なんだよ」
「入れろ。この僕を、こんな廊下に出させておくのか?」
「……い、いやぁ、今はちょっとまずい」
「あ゙? 」
「へ、部屋、散らかってるから」
「一人暮らしの女の子かよ」
「いや、その……」
「良いから入れろッ、じゃないとここで叫ぶぞ!」
乱暴された風を装って、な。
そう脅してみた。
「お前なぁッ、いい加減に」
「良いのか? 童貞エト君、遂に拗らせて男を襲った……なぁんて、ウワサが付くぜ」
「べ、別に俺は」
「僕だって御免だよ。だけど、それより今は君と話がしたい気分なんだ。なぁ、分かるだろ?」
そう言って、ジッと睨みつける。
本当はここで、色目の1つでも使えば良いんだろうが……そんな事、死んだって無理だし。
「なんで怒ってんだよ……怖ーよ」
くそっ、この唐変木でクソ童貞には真意が伝わらないな。
罵ってやりたい気持ちをグッと抑えて、今度は笑みを作ってみる。
「ゲス顔して……何? 俺、今から殺して埋められたりすんの!?」
「だぁぁぁッ、鈍い野郎だなッ! サッサと入れろって言ってんだよ、バーカバーカッ!」
「えっ、入れろ? ナニを!?」
「そこだけ変に勘違いしてんじゃないッ! 」
……なんなんだもう、コイツやっぱりアホなんじゃないのか。
大きくため息をつくと、彼はようやく渋々といった感じで頷いた。
「ったく、仕方ねーな……でも本当にちょっと待てよ、片付けるから」
そう言って一旦、部屋に戻ろうとする。
……が、閉じられつつあるドア。
僕は渾身の力を込めて、抑えた。
「お、おいっ、危ないだろーが! ちょっと待てって」
「待てない。散らかってる? 男の部屋だろ、今更なんとも思わないさ」
「いやその、散らかってるというか……あっ、待てよ! 人の話を聞……」
「なんだ綺麗な部屋じゃないか」
制止を無視して、強引に部屋に足を踏み入れる。
……と、思いも寄らないモノが目に飛び込んできた。
「っ!? こ、これ」
「あぁぁぁっ、見られちまったァァァ!」
固まる僕に、叫んで頭を抱える彼。
壁に貼られた写真。
数枚、それは明らかに隠し撮りされた僕の写真……。
「エト、君」
「ちょっ、待て待て待てッ、そんな養豚場の豚を見るような目をしないでッ!? いや、下がんなくて良いから! 生ゴミ見るような目もやめろって!」
「……」
正直引いた。
だって、壁に男の……しかも自分の写真(しかも寝顔とか。いつ撮ったんだ?)貼ってるって。
気色悪いじゃん、普通に。
「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ、チクショー! こうなったら『ピー(自主規制)』を……」
「ヤケ起こすなぁぁぁぁッ、この性犯罪者予備軍ーッ!」
「……ひでぶっ!?」
やけくそになったのか、身を翻して掴みかかってきたアホに、僕は渾身の肘鉄食らわした。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫
「ほんとゴメン」
「……」
「いや、マジで」
「……」
「いででででっ、蹴らんといて!? 大事なトコロ!」
「潰してやろうか?」
「ヒィィィッ」
―――エトは正座、僕はその前に仁王立ち。
これが今の状況だ。
コイツの部屋は入った事がある。
でもまさか、こんな状況になってたとは……。
「エト。これは、なんだ」
「ええっと……写真、です」
「だれの」
「る、ルベルの」
「いつ撮った?」
「寝室に忍び込み……ました」
そう。
部屋に貼ってあった写真の他に、何枚か隠してあった。
僕の寝顔や、着替えを隠し撮りした写真!
……この世界にも、盗撮魔っているのか。
人間界の写真技術はまだ未熟だが、魔界ではそれなりの写真機がある。
「ふぅぅん? 君はいつから、性犯罪者になったのかなァァァ」
「べ、別になんにもしてねーよ!? 写真も、こう……思い出をな、うん」
「思い出? どーせッ、× × × × の時、× × ×××××する為に使ってたんだろーがァァァ!」
「ちょ、ルベル。はしたない」
「やかましいッ、このクソ童貞が!」
足を振り上げれば、スン……と大人しくなる。
もちろんコイツのアレを目掛けて、だ。
「ルパから、君が熱心に勉強してると聞いて来てみれば」
「勉強はしてたんだぜ!? でも」
「でも……なんだよ?」
「モチベーションがなぁ」
「モチベーション? 」
「す、好きな人の、写真見れば、元気出るっつーか」
「それで盗撮か!」
「フィナがアドバイスしてくれたんだぜ」
……なんてこった!
あの腐女子な美少女は、どうしてこんなにも変化球なアドバイスをしたんだ。
頭を抱えた僕に、しょんぼりとしたエト。
こうしてみると。
やっぱり叱られた大型犬みたい、というか……って!
「なんでッ、僕がッ、君を可愛いと思っちまったんだッ!!」
「えぇぇ!?」
余計な事を怒鳴りつけて、今度は僕が項垂れる。
違う、違うんだ。
別に大の男を『可愛い』とか。
僕の目はとうとう、腐っちまったのか。
それとも、またなんかの魔法だか呪いだの掛けられているのかも。
「ルベル?」
「エト……なんで僕に、会いに来なかった」
「えっ」
「こんな写真じゃなくて。僕に会いに来いって言ってんだよ。このスットコドッコイのバカ童貞野郎ッ、お前なんて不能になっちまえぇぇぇッ!」
「こ、後半の罵倒がエグい」
項垂れついでに、このアホの顔を一切見ずに言い切ってやった。
女の腐ったような事を……って。女の子に失礼だな。
―――ほんの少し、視線を戻す。
「!」
「……」
一瞬で視線が合った。
電気が流れたような、変な衝撃。
「おい、エト! 君、なんか魔法使ったか?」
「ハァ? 使ってねーよ」
「そ、そうか……」
なんなんだ、今の。
心臓が跳ね上がったぞ。
これはもしや。いやいやいやいや! 冗談だよな!?
でも……うん? うーん、考えるのをやめよう。
「それにしても」
僕は部屋を見渡す。
本が山積みの机。今にも雪崩起きそう。
「本を読んでるのは、本当だったらしいな」
これが放置気味の積みゲーならぬ、積み本ならば話は別だが。
盗撮云々はともかく、頑張る姿勢は認めてやってもいいかもしれない。
「でもまぁ、なかなか難しくてよぉ」
「難しい? 」
「その……専門用語とか、多いし」
そんな専門書なのか、と積み本の一冊を手に取ってみれば。
「これ」
見覚えがある表紙と題名。
他に数冊、取って並べてみる。
「へぇ! お前も、こういう本読むのか」
全て、僕が今まで読んできた書籍だった。
小説から図鑑、歴史書まで。
異族言語の専門書もある。
……人を知りたきゃ、本棚を見ろと聞いたことがある。
その人がどんな本を読んできたのかで、その思考や思想傾向が分かる、と。
「よ、読みたかった、けどさ」
「?」
ため息を漏らし、視線を逸らした彼は弱々しく呟いた。
「兄貴に教えてもらったんだ『まずは共通の話題を』って」
「共通の話題?」
「……俺だって、ルベルと仲良くしたい。でも、難しくてさ。あと勉強もちゃんもやって、立派な魔王にならねぇと」
「魔王に、なるのか」
……なんだか、悪いけどイメージじゃないんだよな。
コイツが魔王?
ほんの少し心配になっちまうのは、何故だろう。
「うん。なるよ……なったら、ちゃんとルベルにプロポーズするから」
「ぷ、プロポーズぅぅ!?」
一足飛びだな、コイツ。
でもそうか。ゆくゆくはコイツと……って、何喜んでんだ僕はッ!?
「る、ルベル大丈夫か。赤くなったり青くなったりしてるぜ」
「ゔっ、べ、別に!」
まずいまずい、平常心だ。
僕が男と結婚なんか、しない。
でもコイツはまぁ悪い奴じゃないし……ってもう良いっての!
自身にツッコミ入れつつ、僕は彼に再び視線を向けた。
「俺の気持ちが、お前にとって迷惑なのは分かってるんだけどよォ……」
「あ゙? 迷惑だなんて、誰が言った」
しょぼくれている、この変態バカ男を鼻で笑う。
そうやって決めつけて、自分を卑下してさァ……そういう所がイラつくんだ。
「変態童貞クズ野郎。兄や魔王の座に怖気付くな。自分人生だろうが!」
「別に俺は……」
「確かに君はバカだし、変態だし。童貞だし。どうしようもない男だな」
「ひ、ひでぇ……」
『童貞は関係ねーだろ』と涙目な奴に、構わず続ける。
「でも……悪くないんじゃないか」
「え?」
「あんまり劣等感拗らせんなって言ってんだ。バカ野郎」
コイツはコイツ、それだけで充分だ。
レガリアと一緒にいる時には得られない感情を、僕は感じているのだから。
「ルベル」
「仲良く、なれるだろ。僕達」
「な、仲良くしてくれんの!?」
「当たり前だろ。変質者」
「変質者って……」
必死で見上げてくる瞳。
そのエメラルドグリーンが、美しくて。
思わず見蕩れそうになる。
「友達、からな」
ほとんど無意識でそう呟けば。
「ルベルぅぅぅぅッ!!」
「ば、バカっ、離せッ」
……座ったまま、腰に抱きついてきやがった!
しかも、顔の位置がヤバい!?
「うわぁぁぁぁッ、どこに顔を擦り付けてんだッ」
「ルベルぅぅぅぅっ、愛してるぞぉぉぉ」
「ちょっ、そ、ソコ、やめろぉぉっ」
……こともあろうに、股間にグリグリと顔を擦り付けてくる。
振り離そうにも、ガッシリと尻を掴まれて動かない。
「ひゃぁッ、し、尻撫でてんじゃないぃぃっ、変態!!」
「ハァハァ……お前、すっげぇ、いい匂いする……ハァ……」
「やめろ、ガチでヤバいって!」
「ルベルぅぅ」
「いやぁぁぁぁッ!!」
まさに変態。
……コイツ、こんなんで本当に魔王になるのか!?
必死に彼の頭を引っ掴みながら、内心叫ぶ。
―――そしてこの後、やっぱりガチ切れした執事が部屋に飛びこんで来た。
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