転生して性奴隷♂魔王の息子と暴れてきます(仮)

田中 乃那加

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21.アレがコレで、コレがアレで……とにかく争奪戦

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 妹の言葉に、どういう事だ? と疑問を口にする暇もない。
 ただ、突き刺すような視線。
 それは剣を手にした、実の妹のものだ。

「悪いが、何言ってのかサッパリ分かんねぇ」

 彼女の腕前と残酷さを知らぬエトは、困惑の表情を浮かべる。

「分からないなら、それで良いの。だけどこの不埒な手を離しなさい。腐れ童貞ホモが。テメーは豚とでもヤってろ、アホンダラ野郎。その無駄にぶら下がってる祖チン、引っこ抜くわよ」
「……い、妹のほうが鬼畜」
「まぁな」

 心無しか涙目のエトに、肩を竦めて応える。

 まぁ、地元では『凶悪狂犬のミラ』とか『悪魔でも裸足で逃げ出すレベル』とか『我が国の生物兵器的毒舌』とか名高い女だったからな。
 あの毒舌が健在ってとこで、むしろ安心すらする。
 でも。

「エト、離せ」
「え?」

 僕の言葉に、彼は戸惑いと悲しみを滲ませた声を上げる。
 それでも忠告しなきゃいけない。彼女は……。

「つべこべ言うなッ!」
「ゔわッ!?」

 強く突き飛ばした。
 都合の良い事に、彼の巨体が彼女の方へ倒れる。
 僕は取り落としていた剣を、素早く拾う。
 
「兄さんっ!」

 ふらついた彼女の切っ先を、勢い良く跳ね飛ばす。
 甲高い金属音と共に、剣は大きく弧を描き落ちた。

「僕の友人にそんなモノ、向けてんじゃないぜ」
「えー? 友人というか恋人未満っつーか」
「エトは黙ってろ!」
「はい……」

 横槍入れるアホは一喝する。
 ミラは小さく息をつくと、未だ僕らを静観していた仲間たちに言った。

「目的変更よ。あの二人、半殺しに痛めつけてやるわ」

 途端、こちらに攻撃を向けんとする仲間達。
 しかし魔道士だけは、僕と彼女を交互に見てオドオドと声を上げた。

「あ、あのぉ。良いの? ミラのお兄さんとお友達……」
「あ゙?」
「ひ、ひぃっ!? ご、ごめんなさいごめんなさいっ」
 
 ミラの低い唸り声に、フルフルと首を振り小さくなる。
 ……何だこの子、すごく可愛い。
 大きな瞳に可憐で華奢な感じ。まさに『女の子』って感じの。
 少々ハスキーな声な気もするけど、それがまた愛らしいというか。

「余計な口答えだよっ、新人!」
「そう。ワタシ達は、ミラの命令に従うのみ……」
 
 盗賊娘や、召喚術師の少女にも叱られてシュンとなってるのがまた。
 ヤバい。こういう娘、好みかも。

「す、すいません。ボク……」

 しかもボクっ娘か。少々気もするけど、悪くない!
 そんな僕の思考を読んだのか。

「ルベル、顔がだらしない」

 と、エトに横目で睨みつけられる。まるで夫の浮気を咎める、妻みたいだ。
 
「うるさいなぁ。君も分かるだろ、男ならさぁ」
「分かんねぇよ。お前しか好きじゃねーもん」
「またそういう事を」

 童貞のクセに。しかも、男に言われても少しも嬉しくないって……まぁイヤじゃないけど。
 あー、僕もついにホモの仲間入りしちまうのかなぁ。なんて、憂鬱な気分になる。
 
 そんな時。

 大きな爆発音が、広間に響く。
 耳をつんざく轟音に、思わず一同が音の出処を探した先……勇者一行の数メートル後ろだ。
 黒煙と、瓦礫になった床。
 黒焦げになった跡。火炎系の魔法だろうか。

「お嬢さん達の目的は、だいたい分かったよ」

 ―――玉座。
 いつの間にか、魔王が悠々と座していた。

「その子のお陰で、我が妻の。いやぁ、危ない危ない」

 穏やかに目を細めて笑う、魔王の膝の上。 
 彼よりは幾分小柄な身体がグッタリと、抱えられていた。

「母さん!?」
「あぁ大丈夫。もう一回、洗脳しとかないとね。私の妻であり、女であるという事を」
「洗脳って」
 
 そこでふと、以前レミエルに聞いた話を思い出す。
『魔王に見初められたら……逃げられないぞ?』

 本当にそうなんだろう。でも別に、ゾッともしない。
 なぜなら。

「アンタが魔王か。覚悟しろ! 変態野郎め」

 盗賊娘が叫び、ナイフを構える。しかし、魔王は動じない。
 薄く微笑みすら浮かべ、膝の上のレミエルの髪を撫でている。

「いかにも……ははっ。変態と言われようが、愛する人が望めば叶えてあげたいモノだよ。ただし」

 そこでふと、言葉を切った。
 黒い瞳が真っ直ぐ僕の方に向いているのを、感じる。

「この手の上で、だけどね」

 穏やかで恐妻家。ドMの変態で、情けないようにも見える大男。そう思っていたけれど。
 どれも本性で、どれも違う。そんな気がした。
 
「……っ、分かんないこと言うんじゃないよ!」

 心無しか青ざめて、盗賊娘が怒鳴る。
 そして刹那、彼女の手からは何本ものナイフが魔王達に向かって飛んだ。まさに早業。
 彼女は優秀なナイフ使いらしい。

「あぁなるほど」

 カカカカカカ……ッ、とナイフが硬い木製に突き刺さる。
 その大きな玉座の背もたれに。

「その若さで素晴らしい。一つだけ良くないけど」

 手にした十数本のナイフ。受け止めたらしい。
 それを地面に放り投げる。硬い音をさせて、向こう側に。
 そして、愕然とした顔の盗賊娘を見据える。

「妻に向かって投げた事だよ」

 その目は笑っていない。
 薄ら笑みを浮かべた口元と対照的に、その目は冷たさすら感じる。
 僕は思わず、隣のエトの手を握りしめた。

「る、ルベル」

 このアホ、浮かれた声を出しやがって。自分の父親と言えど、魔王が割とマジでキレてんだぞ!?
 
「あーぁ、怒らせたなぁ。俺しーらね」
「知らないは無いだろ! 君の父親だ」
「だって無理だもん。親父は、母さんの事になるとすぐガチギレすんだもん」
「そんな呑気な……」

 相手は女の子達だぞ! それに、いくらムカつくとは言え僕の妹も居るし。
 そう言っても、彼は軽く頷いて言ってのける。

「大丈夫大丈夫」
「大丈夫なわけあるか! ほら、現にやり出したぞ……あぁ。召喚術か」

 そう、少し離れた所でドンパチやり始めた。
 ……召喚獣の咆哮と、吐き出す火炎。それをものともせず、相変わらず座したまま魔法で応戦する魔王。

「おー! さすが親父だなぁ」
「関心してる場合かっ、女の子達のピンチだぞ!」
「えー? ……俺は女なんてどうでもいいしなぁ」
「ホモは女に厳しすぎるだろ!?」
「だから、ホモじゃねーってば」

 圧倒的に彼女達が劣勢だ。
 淡々と、攻撃を無効化し返していく魔王。妹も、剣を振って懸命にその身体にダメージを与えようとしている。

「ルベルは、女に甘すぎだぜ」

 不貞腐れたように言って、先程に繋いでしまった手を痛いほど握ってきた。
 当然、何すんだバカ……と叫ぶ。

「俺だって、親父と同じだぞ」

 と、言葉を零した。
 その意味は容易に分かったが、分からなかった方が幸せだったかもしれない。
 友人(になれたと思った男)が、ヤンデレホモにジョブチェンジした瞬間だ。

「エト。嫉妬深い男は、嫌われるぞ」
「愛が深いって言えよ」
「言わん。それにしても闇が深過ぎだろ、君の親父さん魔王は」
「あー。兄貴が何とかするだろ」

 そうこうするうちに、魔王が玉座を立つのが見えた。
 優しい仕草で、気を失ったレミエルを玉座に座らせる。

「そろそろ飽きちゃったなぁ。それに私は、忙しいんだよ。これからまた数日、寝室に籠らなきゃね」
「コラ親父ーっ、いけしゃあしゃあと夫婦の営み宣言してんじゃねーぞ!」

 息子からのヤジに、彼は大きく頷く。

「エト。弟か妹、もう1人欲しいかい?」
「やめろーっ、年頃の息子にする話題じゃねーよ!」
「あははっ、今度は双子でも良いなぁ。さて」

 魔王は勇者達を見据えた。
 
「悪いけど、君たちの願いは何一つ叶わないよ。私を倒すことも、ルベルを取り戻すことも」
「っく……この悪魔ッ、兄さんを利用する気!?」
「利用? それは君達人間だろう」

 ミラの叫びに、魔王が冷たく応える。
 左手を小さく挙げた先。そこがぐにゃり、と空間が歪む。

「ルベルは、もう我が家の家族同然だよ」
「違うッ!」

 彼女は戦闘の疲労で、ふらつく足を踏みしめながら怒鳴る。
 
「兄さんはずっと、私達!」
「ふぅん。でも、もう必要ない」
「結局、貴方達は兄さんの……っ」
「君は、彼に真実を伝えていない。何故だい? ルベルは何も知らず、多くの種族の雄達に狙われ続けている」
「それは……」

 何やら、訳有りの匂いがしてきた。
 ミラは気まずそうに目を伏せ、口ごもる。その姿に、引っ掛かりを覚えないわけが無い。

「どういう事だ?」
「兄さん……」

 僕がスライムやケンタウルス等の、異種族のオスにやたら言い寄られたのには、理由があるのか。
 レミエルが僕を息子の嫁に、と決めたのも。

「ミラ!」
「兄さん……ごめんなさい」

 そう言うと、彼女は再び魔王に剣を突き付ける。後の3人も、ボロボロになりながら攻撃を仕掛けるつもりらしい。
 魔王は、薄く笑った。

「困った淑女レディ達だね」
「レクスさん!」

 僕はさすがに叫んだ。
 彼の左手の歪み。これは魔法攻撃か。だとしたら、懇親の一撃というヤツだろう。
 彼女達が死ぬのを、指をくわえて見ている事は出来ない。

「やり過ぎじゃあ……っ」
「ちょっ、ルベル! 飛び出すな。危ねーって!!」

 両者に割って入ろうとした僕を、エトが抱きついて止める。
 離せ、と暴れてもビクともしない。こういう時に、体格差を知ってイヤになるんだ。

「ルベル、大丈夫だってば!」
「大丈夫なワケあるかよっ、妹が……」
「親父はそこまでバカじゃねーって」
「でも」

 彼女達の攻撃を片手で止めながら、その左手の歪みは大きくなっていく。
 大量の魔力が、人間である僕の目にも認識できる程だ。
 どんな攻撃魔法か知らないが、これをマトモに食らったら……。

「そろそろ、かな」

 魔王が呟いた。全身に鳥肌が立つ。
 再びエトの腕の中で、必死に暴れる僕。そこへ大きな手が、上から触れた。

「ン」
「れ、レガリアさん!?」

 魔王の次男。エトの兄。その人だ。
 長身を屈めるように、僕を覗き込んでいる。

「兄貴……」

 少しムッとしたような、エトの声。
 ともあれ、少しホッとしたのも事実だ。

「ン」
「レガリア、遅かったね。でも、私1人で充分だったよ」
「ン」
「もう、終わりだ」
「……ン」
「お前はそればかりだねぇ。やれやれ、誰に似たのやら」
「……」

 困ったように笑う魔王と、相変わらず『ン』しか発しない息子。
 敵が増えた、と一層悲壮感と緊張感の漂う勇者達がいた。

「ルベル、誤解しないで。殺さないから」
「え?」

 魔王が僕に微笑みかけた。
 その顔はやはりまだ瞳孔が開き気味だ。しかし、ちゃんといつものように目も笑っている。
 少しホッとして胸を撫で下ろす。

「転送魔法で、人間界に飛ばすだけだよ」
「な、なんだぁ」

 ビビっちまった。だって、こうやって改めて魔王と人間の力の差が大き過ぎるから。
 彼らの事を、ある程度知っていなかったら完全にパニックになっていただろう。

「じゃあ、そろそろ」
 
 呪文を唱え始める魔王。
 未だ、必死で攻撃を繰り出そうとする彼女達。
 僕としては、どんな立場で見れば良いんだろうかと悩む所だ。
 
 ―――その時だった。

「……待て、父上」
「え゙」

 また喋った。あの寡黙なレガリアが。低く、渋い声で。
 父である魔王も驚いたらしい。目をしばしばさせる。

「……転送させるな」
「レガリア? 」
「さ、せ、る、な」

 もはやドスの効いた声で訴える。
 
「どういう事? お前は圧倒的に言葉が足りないよ」
「駄目だ」
「なにが」
「……ン」
「こらこら、喋りなさい」

 都合が悪いのか、再びダンマリになる息子と苦笑いの父。
 なんだか一気に空気が変わったぞ。緊迫した感じが、緩んだというか。
 彼女達も攻撃の手を止めて、何事かと見ている。

「駄目だ」
「だから、どうしてだい?」
「……」
「レガリア?」
「……」

 彼は、おもむろに魔王に近付くと。何やらヒソヒソと話し始めた。
 
「おいエト。アレ何を話してんだ?」

 気になって、未だ抱き着いている彼を引っ剥がしながら問う。

「いててっ、知らねーよ。そんな事より……」

 エトが、懲りる事無く僕の肩に腕を回して囁く。
 
「ハァァァァッ!? 君は、正気かよ!」

 その内容に、思わず素っ頓狂な声を上げた―――。
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