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20.ドキッ! 変態発見の魔王討伐!
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上がる粉塵。
軽く舞う、火の粉。睨み合う、両者。
「おーぉ。魔城、襲撃されてるぞ」
「楽しそうに言うなっつーの! あ、母さんと……ぅえぇぇぇっ!?」
玉座に悠々と座るのは、奥方(見た目は完全に男)レミエル。
そして魔王レクスは―――。
「あ。2人ともおかえりなさい!」
「親父ぃぃぃッ!?」
ふんぞり返っているレミエルの足の下で、四つん這いになってる大男。
「おぉ、遅かったな」
「母さんんんッ!?」
息子の叫びも、もっともだった。
何故なら、まるで女王様に踏まれたM男如く。魔王が、輝く笑顔で奥方に踏みつけられていたから。
「なに客人の前で、SMプレイお披露目してんの!?」
「SM? 夫婦のコミュニケーションだよ」
「特殊過ぎんだろーがッ! 寝室でやれ、寝室でっ!」
「えー。だって見られるって興奮するでしょ?」
「やかましいわッ、この変態夫婦!」
両親の痴態(?)に、激怒の息子。
それを唖然と眺める、一団。
……あれが、爆発の原因。襲撃者達か。
―――4人のパーティ。
剣士(この場合勇者だろうな)、魔道士、盗賊、召喚術師ってとこだろう。
剣士は甲冑をしていて、男だか女だかも分からない。
しかし盗賊と召喚士、魔道士が女性なのは確実だ。
「さすが魔王だな、勇者様御一行が来るとは」
「ふふん、ルベルは初めてか。最近は気骨のある奴らが少ないがな」
「久しぶりだよねぇ、挑戦者さん達」
相変わらず偉そうにしているレミエルと、踏まれて嬉しそうな魔王。
……なんなんだ、この緊張感のない図式は。
向こうも同じように思ったのだろう、戸惑ったように顔を見合わせている。
「おいおい、勇者さんたち困ってんぞ。やっと辿り着いた魔王が、変態さんだもんな」
そりゃ困るだろ。
「ルベル……そーやって、息子である俺の傷口抉りにかかるな」
「ねぇねぇねぇ。2人とも踏まれてみなよ! 案外気持ち良いから」
情けなく、眉を下げたマトに追い討ちをかける父。
て言うか、なんだその『踏まれてみろ』って。マッサージか!
「ルベル。貴様なら、踏んでやらんことないぞ? ほれ、こっち来い」
「僕を巻き込むな、変態一家め」
「ちょっ、まさか俺も同類扱い!?」
レミエルがニヤニヤしながら手招きし、エトが理不尽を叫ぶ。
もう事態はめちゃくちゃだ。
そろそろ置いてきぼり食らってる勇者達が、可哀想になってきた時。
「私達を無視するな!」
そう怒鳴ったのは、甲冑の勇者。
恐らくだが、女性だろう。厳つい甲冑からでも、その仕草は男性のそれとは違う。
それにしても、どうも聞き覚えのある声。いや、それどころか……。
「魔王、覚悟しろ!」
そう言って、剣を構えた勇者。
鋭利なナイフを構える盗賊。
本を広げ、呪文の詠唱を始める召喚術師。
……ワタワタしながら、魔法を使おうと杖を振るが取り落としてテンパる、魔道士。
「ほぅ。威勢は良いようだ。お嬢さん方、ようこそ魔城へ。歓迎しよう」
面白そうに笑ったレミエル。足を組みかえた。
勇者達が女性と言うこともあって、どこか浮かれ気味なのは僕の気のせいだろうか?
なんだかんだ言って、彼は元々女好きだもんな。
……かく言う僕も、ドジっ子風の魔道士にグッときたが。
「あんまり、苛めちゃダメだよ。あっ、今パンツ見え……」
「大人しく踏まれていろッ、この豚野郎め」
「グフゥッ! ご、ご褒美……」
どーでもいいが、イカれてんのか。この変態夫婦。
そう言えば、初日も肘鉄されてたな。
息子であるエト。ついには、悟りを開けそうな表情し始めちゃったじゃないか。
「アンタが魔王かい? ふん、まるでオカマみたいな格好なんだなぁ!」
「……!!」
盗賊の娘が、挑発してせせら笑う。
完全に、レミエルの事を魔王だと誤解したのだ。無理もない。
まさか嫁さんが玉座に座って、旦那である魔王を踏んずけてるとは思わないもんな。
……しかし、反応したのはそこじゃなかったらしい。
「お、オカマ、だと……?」
ハッ、と自身の姿を見下ろした。
するとみるみるうちに、愕然といった表情になる。
「オレ……が、オカマ……?」
「そうじゃないのよ! 男のクセに、ドレスなんて着ちゃってさァ」
盗賊娘は、中指立てて捲し立てた。
その言葉にグサグサ刺されたような顔で、遂には頭を抱えてしまう。
「お、オレが……オカマ……だなんて」
「レミエル?」
「うがぁぁぁぁっ、オレはっ、オカマじゃないぃぃぃっ!」
「ああ゙ァッ♡」
彼が叫び、足の下の魔王をギリギリと踏み付ける。
本人は、恍惚の顔で踏み躙られているもんだから……まさにSMクラブ状態だ。
「れ、レミエルっ、もっと踏んで!」
「うるさいっ、この薄汚い変態魔王がーッ!」
「あ゙あ゙あ゙ッ♡」
「貴様が、オレを女にしやがったんだーッ!」
「ゔお゙ぉぉっ♡ い、いぃッ♡」
……なんだこれは。
盗賊の娘が、完全にドン引きだ……道で露出狂に出くわした、女子高生みたいになってるぞ。
「れ、レクスさん? エトがもう死にそうな顔してるんですけど……」
たまりかねて、彼に声を掛けた。
両親の醜態に燃え尽きたボクサーみたく、真っ白だ。
そして何故か、僕の手を握り締めてブツブツ何か現実逃避してるし。
「エト、君も現実を見ろよな。御両親は、どこに出しても恥ずかしい変態だぞ」
「い、言われなくても分かっとるわいッ! お前、人の傷心に塩塗りたくる真似すんじゃねーよ!」
恨めしげに言う彼がなんだか面白いし、少し愛しい……ってあれ?
今、僕はコイツの事を愛しいって……。
「ルベル兄さん!」
一瞬、ヤバい思考に向きかけてた僕に声が飛んできた。
「!?」
声の方を振り返る。
その主は、甲冑の人。
捨てるように脱いだ、甲冑の下には―――。
「み、ミラ……?」
久しくの再会、我が妹。
ミラ・カントール、その人だった。
「兄さん。会いたかったわ」
「ミラ、本当に君かい!?」
疑うわけじゃないが、思わず声を上げると。
「えぇ、ミラですわ」
そう言って、琥珀色の瞳を細めて優美に微笑んだ。
……あぁ、そうだ。確かにあの顔も、声も。妹のミラ。
長かった髪は、何故か肩上まで切られているが。
「迎えに参りましたわ……お兄様」
「ミラ……っ!」
僕は妹に駆け寄らんと。
そして、妹は僕に駆け寄り走る。
正に感動の再会……な、ワケがなくて。
「このバカ妹がァァァッ!!」
―――ガキィッン、と金属のぶつかり合う音。
先程稽古で使った剣と、彼女の剣だ。
……反動を使って、互いに間合いを取る。
「感動の再会の流れだったでしょう? お兄様」
「その呼び方をやめろ、ミラ」
お兄様、なんて呼ぶ時はロクなことがない。
だいたい喧嘩ふっかけてくる時なんだ。
「だいたい、実の兄を売りやがって!」
僕は忘れてないからな。
そもそもの元凶は、彼女だ。
お陰で男なのに性奴隷にされるし、ホモ達には狙われるし……挙句の果てには魔王の息子の嫁候補だ。
くそっ、僕の人生設計を返せってんだ!
「まぁ、お兄様ったら……ちゃんと迎えに来たじゃあないの」
「うるさいッ、乱暴すぎだろ。昔から」
「女の子は、ちょっとお転婆位が丁度良いのよ?」
「女の子ってガラかよ。このじゃじゃ馬め」
妹ミラは見た目も良いし、一見穏やかそうな淑女。でもその中身はとんでもない女だ。
……喧嘩は基本、買う。なんなら、売られなくても買う。
早い話、喧嘩っ早いのだ。
しかも剣と腕っぷしは、女だてらに強い。
そこらの軟弱な男数人相手しても、息一つ乱さないだろう。
そしてこの性格。
「とにかく、帰りましょう」
そう言って、足早に歩み寄って来た。
「帰るって……どこに」
「安全な場所よ。少なくても、ここよりは」
「どういう事だ」
確かにここは魔界で、魔王の城。
でも、少なくても人間界で奴隷や逃亡者として居るよりは、危険じゃない気がする。
……まぁ、貞操の危機ってのは何度か感じたが。
「兄さんは何も知らない。御自分がどんな存在なのか。そして私や父様、オリエス兄さんが守ってきたのか……」
「え?」
よく分からない。
そう言えば、前も同じような言葉を聞いた事があった。一体誰が言っただろう。
僕は、ただの貴族の次男坊じゃないのか。そうでなければ、何者だというんだ!?
「話は後でする。今はまず、私達と来てもらうから」
「お、おいっ……!」
片方の手を取られ、引っ張られた。
その力強さに痛みを感じて、顔を顰めた。
しかし、話すどころかグイグイと引いてくるじゃないか。思わず悲鳴が上がる。
「……妹さんよ。申し訳ねぇが、彼を行かせる事は出来ないな」
「!」
さらに反対側の手を引いて言ったのは、エト。
こちらは、まっすぐな瞳が僕を映していた。
「貴方は何者ですかッ、離しなさい!」
「何者か? ……俺は、エト。魔王の息子だ」
揺れる事のない瞳。
僕は思わず、その色に魅入った。
「魔王の息子ね、なるほど。すると私達の敵、ですね」
「よく分からないが。彼を連れていくのなら、そうだろーな」
「貴方、もしや兄さんを!」
何かを察したような、焦った顔をしたミラは僕と彼を交互に睨みつける。
「な、なんだよ!?」
たじろぐ僕に、彼女は小さく怒りを抑えたような口ぶりで言った。
「兄さん……この男と、セックスしたの!?」
「は、ハァァァ!?」
突然何言ってんだ、このバカ妹!
……僕が男とセックス? 掘られたかと聞いてんのか!
「わ、ワケないだろ!!」
「本当?」
お、思い切り『疑ってます』ってジト目しやがる……。
なんなんだよ! なんで久々の妹との再会で、処女喪失の疑いかけられてんだ!?
「それは保証する。俺、童貞だからな」
エトは、輝く笑顔で童貞を告白し始めるし。
僕は慌てて、釈明にかかる。妹にまで、ホモだと思われたら自害したくなるじゃないか!
「み、ミラ! コイツは友達だ。決してそんな関係は……」
「あ。今は親友、でも恋人候補っつーことで!」
「君は、黙ってろーッ!!」
「ぐわぁぁぁっ!?」
横からワケ分かんない事をのたまわる、彼の足を思い切り踏みつけた。
「ミラ。その、コイツが言ったのはな……」
「ルベル。俺はお前の事、まだ諦めてねーからな!」
「だーかーらーっ。君は、黙ってろって言ってんだろ!」
「ヤダ、黙んねーもん! ……てか、さっき聞いただろ? 『どう思ってるのか』って」
「き、聞いたけどっ、今言う事無いだろ!?」
「いーやっ、言う。俺はまだお前が好きだ!」
「す、好きって……」
まるで心臓をガツンと、殴られたような。
途端、顔に血液が集まるのを感じた。
「愛してる。絶対、ルベルに相応しい男になるからな!」
「エト、君って……バカじゃ、ないのか」
僕は散々言ってるだろうが。
『ホモじゃない』って。なのに、まだこんなに僕の事を。
真っ直ぐて綺麗な瞳を向けてくるなんて。
「うん。バカだな、俺は」
あっさりとそう認めた彼は、僕を強く抱き締めた。
……あぁ、まただ。と思う。
「でも。バカになる位、やっぱり愛してる。ごめんな、これだけは諦められねぇ」
そう言って、首筋に顔を埋めるように抱き着く彼。
何も言えず、固まる僕。
……何が困るって、やっぱり嫌悪感がない事。
以前より一層薄くなって、それより胸が破裂しそう。
ドキドキドキドキ、と痛いくらいに。
「ルベル、大事にする」
ヤバい、こいつ。こんなに、声良かったかな。
ええっと、なんだっけ……僕までバカになっちまったのか?
「エト」
顔を見たくて名前を呼べば、直ぐに顔を上げて覗き込んでくれる。
エメラルドグリーンの双眸。
僕だけを映しているんだろうな。
「……いい加減になさい。この魔族が」
―――目の前の表情が、台詞と共に強ばった。
彼の首、突きつけられた剣。
鈍く冷たい光を持つのは。
「兄さん、騙されないで。彼らが欲しいのは別のモノよ」
忌々しげに、妹が唇を噛んだ。
軽く舞う、火の粉。睨み合う、両者。
「おーぉ。魔城、襲撃されてるぞ」
「楽しそうに言うなっつーの! あ、母さんと……ぅえぇぇぇっ!?」
玉座に悠々と座るのは、奥方(見た目は完全に男)レミエル。
そして魔王レクスは―――。
「あ。2人ともおかえりなさい!」
「親父ぃぃぃッ!?」
ふんぞり返っているレミエルの足の下で、四つん這いになってる大男。
「おぉ、遅かったな」
「母さんんんッ!?」
息子の叫びも、もっともだった。
何故なら、まるで女王様に踏まれたM男如く。魔王が、輝く笑顔で奥方に踏みつけられていたから。
「なに客人の前で、SMプレイお披露目してんの!?」
「SM? 夫婦のコミュニケーションだよ」
「特殊過ぎんだろーがッ! 寝室でやれ、寝室でっ!」
「えー。だって見られるって興奮するでしょ?」
「やかましいわッ、この変態夫婦!」
両親の痴態(?)に、激怒の息子。
それを唖然と眺める、一団。
……あれが、爆発の原因。襲撃者達か。
―――4人のパーティ。
剣士(この場合勇者だろうな)、魔道士、盗賊、召喚術師ってとこだろう。
剣士は甲冑をしていて、男だか女だかも分からない。
しかし盗賊と召喚士、魔道士が女性なのは確実だ。
「さすが魔王だな、勇者様御一行が来るとは」
「ふふん、ルベルは初めてか。最近は気骨のある奴らが少ないがな」
「久しぶりだよねぇ、挑戦者さん達」
相変わらず偉そうにしているレミエルと、踏まれて嬉しそうな魔王。
……なんなんだ、この緊張感のない図式は。
向こうも同じように思ったのだろう、戸惑ったように顔を見合わせている。
「おいおい、勇者さんたち困ってんぞ。やっと辿り着いた魔王が、変態さんだもんな」
そりゃ困るだろ。
「ルベル……そーやって、息子である俺の傷口抉りにかかるな」
「ねぇねぇねぇ。2人とも踏まれてみなよ! 案外気持ち良いから」
情けなく、眉を下げたマトに追い討ちをかける父。
て言うか、なんだその『踏まれてみろ』って。マッサージか!
「ルベル。貴様なら、踏んでやらんことないぞ? ほれ、こっち来い」
「僕を巻き込むな、変態一家め」
「ちょっ、まさか俺も同類扱い!?」
レミエルがニヤニヤしながら手招きし、エトが理不尽を叫ぶ。
もう事態はめちゃくちゃだ。
そろそろ置いてきぼり食らってる勇者達が、可哀想になってきた時。
「私達を無視するな!」
そう怒鳴ったのは、甲冑の勇者。
恐らくだが、女性だろう。厳つい甲冑からでも、その仕草は男性のそれとは違う。
それにしても、どうも聞き覚えのある声。いや、それどころか……。
「魔王、覚悟しろ!」
そう言って、剣を構えた勇者。
鋭利なナイフを構える盗賊。
本を広げ、呪文の詠唱を始める召喚術師。
……ワタワタしながら、魔法を使おうと杖を振るが取り落としてテンパる、魔道士。
「ほぅ。威勢は良いようだ。お嬢さん方、ようこそ魔城へ。歓迎しよう」
面白そうに笑ったレミエル。足を組みかえた。
勇者達が女性と言うこともあって、どこか浮かれ気味なのは僕の気のせいだろうか?
なんだかんだ言って、彼は元々女好きだもんな。
……かく言う僕も、ドジっ子風の魔道士にグッときたが。
「あんまり、苛めちゃダメだよ。あっ、今パンツ見え……」
「大人しく踏まれていろッ、この豚野郎め」
「グフゥッ! ご、ご褒美……」
どーでもいいが、イカれてんのか。この変態夫婦。
そう言えば、初日も肘鉄されてたな。
息子であるエト。ついには、悟りを開けそうな表情し始めちゃったじゃないか。
「アンタが魔王かい? ふん、まるでオカマみたいな格好なんだなぁ!」
「……!!」
盗賊の娘が、挑発してせせら笑う。
完全に、レミエルの事を魔王だと誤解したのだ。無理もない。
まさか嫁さんが玉座に座って、旦那である魔王を踏んずけてるとは思わないもんな。
……しかし、反応したのはそこじゃなかったらしい。
「お、オカマ、だと……?」
ハッ、と自身の姿を見下ろした。
するとみるみるうちに、愕然といった表情になる。
「オレ……が、オカマ……?」
「そうじゃないのよ! 男のクセに、ドレスなんて着ちゃってさァ」
盗賊娘は、中指立てて捲し立てた。
その言葉にグサグサ刺されたような顔で、遂には頭を抱えてしまう。
「お、オレが……オカマ……だなんて」
「レミエル?」
「うがぁぁぁぁっ、オレはっ、オカマじゃないぃぃぃっ!」
「ああ゙ァッ♡」
彼が叫び、足の下の魔王をギリギリと踏み付ける。
本人は、恍惚の顔で踏み躙られているもんだから……まさにSMクラブ状態だ。
「れ、レミエルっ、もっと踏んで!」
「うるさいっ、この薄汚い変態魔王がーッ!」
「あ゙あ゙あ゙ッ♡」
「貴様が、オレを女にしやがったんだーッ!」
「ゔお゙ぉぉっ♡ い、いぃッ♡」
……なんだこれは。
盗賊の娘が、完全にドン引きだ……道で露出狂に出くわした、女子高生みたいになってるぞ。
「れ、レクスさん? エトがもう死にそうな顔してるんですけど……」
たまりかねて、彼に声を掛けた。
両親の醜態に燃え尽きたボクサーみたく、真っ白だ。
そして何故か、僕の手を握り締めてブツブツ何か現実逃避してるし。
「エト、君も現実を見ろよな。御両親は、どこに出しても恥ずかしい変態だぞ」
「い、言われなくても分かっとるわいッ! お前、人の傷心に塩塗りたくる真似すんじゃねーよ!」
恨めしげに言う彼がなんだか面白いし、少し愛しい……ってあれ?
今、僕はコイツの事を愛しいって……。
「ルベル兄さん!」
一瞬、ヤバい思考に向きかけてた僕に声が飛んできた。
「!?」
声の方を振り返る。
その主は、甲冑の人。
捨てるように脱いだ、甲冑の下には―――。
「み、ミラ……?」
久しくの再会、我が妹。
ミラ・カントール、その人だった。
「兄さん。会いたかったわ」
「ミラ、本当に君かい!?」
疑うわけじゃないが、思わず声を上げると。
「えぇ、ミラですわ」
そう言って、琥珀色の瞳を細めて優美に微笑んだ。
……あぁ、そうだ。確かにあの顔も、声も。妹のミラ。
長かった髪は、何故か肩上まで切られているが。
「迎えに参りましたわ……お兄様」
「ミラ……っ!」
僕は妹に駆け寄らんと。
そして、妹は僕に駆け寄り走る。
正に感動の再会……な、ワケがなくて。
「このバカ妹がァァァッ!!」
―――ガキィッン、と金属のぶつかり合う音。
先程稽古で使った剣と、彼女の剣だ。
……反動を使って、互いに間合いを取る。
「感動の再会の流れだったでしょう? お兄様」
「その呼び方をやめろ、ミラ」
お兄様、なんて呼ぶ時はロクなことがない。
だいたい喧嘩ふっかけてくる時なんだ。
「だいたい、実の兄を売りやがって!」
僕は忘れてないからな。
そもそもの元凶は、彼女だ。
お陰で男なのに性奴隷にされるし、ホモ達には狙われるし……挙句の果てには魔王の息子の嫁候補だ。
くそっ、僕の人生設計を返せってんだ!
「まぁ、お兄様ったら……ちゃんと迎えに来たじゃあないの」
「うるさいッ、乱暴すぎだろ。昔から」
「女の子は、ちょっとお転婆位が丁度良いのよ?」
「女の子ってガラかよ。このじゃじゃ馬め」
妹ミラは見た目も良いし、一見穏やかそうな淑女。でもその中身はとんでもない女だ。
……喧嘩は基本、買う。なんなら、売られなくても買う。
早い話、喧嘩っ早いのだ。
しかも剣と腕っぷしは、女だてらに強い。
そこらの軟弱な男数人相手しても、息一つ乱さないだろう。
そしてこの性格。
「とにかく、帰りましょう」
そう言って、足早に歩み寄って来た。
「帰るって……どこに」
「安全な場所よ。少なくても、ここよりは」
「どういう事だ」
確かにここは魔界で、魔王の城。
でも、少なくても人間界で奴隷や逃亡者として居るよりは、危険じゃない気がする。
……まぁ、貞操の危機ってのは何度か感じたが。
「兄さんは何も知らない。御自分がどんな存在なのか。そして私や父様、オリエス兄さんが守ってきたのか……」
「え?」
よく分からない。
そう言えば、前も同じような言葉を聞いた事があった。一体誰が言っただろう。
僕は、ただの貴族の次男坊じゃないのか。そうでなければ、何者だというんだ!?
「話は後でする。今はまず、私達と来てもらうから」
「お、おいっ……!」
片方の手を取られ、引っ張られた。
その力強さに痛みを感じて、顔を顰めた。
しかし、話すどころかグイグイと引いてくるじゃないか。思わず悲鳴が上がる。
「……妹さんよ。申し訳ねぇが、彼を行かせる事は出来ないな」
「!」
さらに反対側の手を引いて言ったのは、エト。
こちらは、まっすぐな瞳が僕を映していた。
「貴方は何者ですかッ、離しなさい!」
「何者か? ……俺は、エト。魔王の息子だ」
揺れる事のない瞳。
僕は思わず、その色に魅入った。
「魔王の息子ね、なるほど。すると私達の敵、ですね」
「よく分からないが。彼を連れていくのなら、そうだろーな」
「貴方、もしや兄さんを!」
何かを察したような、焦った顔をしたミラは僕と彼を交互に睨みつける。
「な、なんだよ!?」
たじろぐ僕に、彼女は小さく怒りを抑えたような口ぶりで言った。
「兄さん……この男と、セックスしたの!?」
「は、ハァァァ!?」
突然何言ってんだ、このバカ妹!
……僕が男とセックス? 掘られたかと聞いてんのか!
「わ、ワケないだろ!!」
「本当?」
お、思い切り『疑ってます』ってジト目しやがる……。
なんなんだよ! なんで久々の妹との再会で、処女喪失の疑いかけられてんだ!?
「それは保証する。俺、童貞だからな」
エトは、輝く笑顔で童貞を告白し始めるし。
僕は慌てて、釈明にかかる。妹にまで、ホモだと思われたら自害したくなるじゃないか!
「み、ミラ! コイツは友達だ。決してそんな関係は……」
「あ。今は親友、でも恋人候補っつーことで!」
「君は、黙ってろーッ!!」
「ぐわぁぁぁっ!?」
横からワケ分かんない事をのたまわる、彼の足を思い切り踏みつけた。
「ミラ。その、コイツが言ったのはな……」
「ルベル。俺はお前の事、まだ諦めてねーからな!」
「だーかーらーっ。君は、黙ってろって言ってんだろ!」
「ヤダ、黙んねーもん! ……てか、さっき聞いただろ? 『どう思ってるのか』って」
「き、聞いたけどっ、今言う事無いだろ!?」
「いーやっ、言う。俺はまだお前が好きだ!」
「す、好きって……」
まるで心臓をガツンと、殴られたような。
途端、顔に血液が集まるのを感じた。
「愛してる。絶対、ルベルに相応しい男になるからな!」
「エト、君って……バカじゃ、ないのか」
僕は散々言ってるだろうが。
『ホモじゃない』って。なのに、まだこんなに僕の事を。
真っ直ぐて綺麗な瞳を向けてくるなんて。
「うん。バカだな、俺は」
あっさりとそう認めた彼は、僕を強く抱き締めた。
……あぁ、まただ。と思う。
「でも。バカになる位、やっぱり愛してる。ごめんな、これだけは諦められねぇ」
そう言って、首筋に顔を埋めるように抱き着く彼。
何も言えず、固まる僕。
……何が困るって、やっぱり嫌悪感がない事。
以前より一層薄くなって、それより胸が破裂しそう。
ドキドキドキドキ、と痛いくらいに。
「ルベル、大事にする」
ヤバい、こいつ。こんなに、声良かったかな。
ええっと、なんだっけ……僕までバカになっちまったのか?
「エト」
顔を見たくて名前を呼べば、直ぐに顔を上げて覗き込んでくれる。
エメラルドグリーンの双眸。
僕だけを映しているんだろうな。
「……いい加減になさい。この魔族が」
―――目の前の表情が、台詞と共に強ばった。
彼の首、突きつけられた剣。
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悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。
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