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第一章
ep-3 カキの缶詰には瓶ビールが良いよね
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「で、本当にこれだけか?」
「しつこいし臭い、これだけ」
ムンムンと漢臭を放つスキンヘッドマッチョ…ギルドマスターに対してヴィートは心底不愉快そうに顔を顰めながら答える。
「お前さん、本当は加工した女体部分持ってねぇのか?」
「何?死体愛好家なの?奥さんに相手してもらえないからってやめなよ」
「ちげーよバカ‼︎単にギルド報酬になるぞって話だ‼︎お前さん、服装といい普段の立ち振る舞いや匂いといいなんか隠してんだろ」
「え…きも」
ジトリとした目を向け胸や体を隠すようにすると、ギルドマスターも慌てて手を振る。
「いわいやいや‼︎変な意味じゃねぇよ‼︎お前さん、冒険者なのに鎧も付けないし汗臭さや異臭もねぇ、そりゃ何かしてるって疑うだろ⁉︎」
「ストーカーロリコンハゲ…」
「よーし、意味は分からんが馬鹿にしてるのはわかった…畳んでやる表に出ろこのメスガキャ‼︎」
ビキビキと青筋を立てるギルドマスターに対してヴィートはうんざりしていた。週に一回程度の討伐のたびにこれである。むしろヴィートからすれば男女問わず臭いこの世界の人々の方がアタオカである。目の前のハゲ然り、香水で誤魔化している担当の専属受付嬢然り。
そして何よりこの世界の縫製技術は酷かった。織物屋含めて基本的に日本で習った中世ヨーロッパ…それより若干酷い。裏面はチクチクとした布など当たり前、下着なのに恥部に触れる場所までそんなやすりみたいなもので作られている。平然と着ている方がおかしいとさえ思うほどであった。
言い訳をするなら、地球と異なりこの世界では魔物討伐が頻繁に起こりその討伐時に避けたりする為服に求められるのは着心地よりも頑丈製であった。故に例えた多少着心地が悪かろうとも頑丈に作るのが正義とされているのである。
「その服についても教えてくれても良いじゃねぇか…うちの娘、お前さんの担当嬢からも下着含めて欲しいと言われてんだよ…な?」
「臭そうだから嫌…というか臭いをどうにかして」
「お前さん程臭いのない方がおかしいんだよ…」
「…絶対臭いあんたらの方がおかしいって」
「聞こえてるからなぁっ⁉︎」
ブチブチと文句を言いながらも何とか質問を交わすヴィート。はっきり言ってうんざりしている。
「第一持っていても良いでしょ、僕の勝手だ」
「いや、お前さん全然ランク上げしねえし、クエストも出ねえから今だに最初期の銅級じゃねぇか…そんな実力者をそれこそ最底辺にしていたらうちの沽券に関わるんだよ」
「へー」
「興味持てやぁっ‼︎」
飽きてきて既に手元で知恵の輪を始めたヴィートにキレるギルマス。しかし、その視線はしっかりとヴィートの手元のその知恵の輪を見ていた。
ヴィートととしては珍しくない金属製の知恵の輪程度に思っているが、この世界でそのレベルの高度な金属加工の玩具はまず無い。それこそ頭のネジの飛んだ貴族の蒐集家程度しか持っていないコレクターアイテムと言える。それを目の前で弄っていることに呆れ半分で見ているのだ。
「取り敢えずその玩具仕舞え」
「話終わり?」
「あーもーいーよ…疲れた…はぁ…明後日合同クエストがあるからお前さんも「明後日は用事があるから無理さよなら」おぉい待てやこらぁ‼︎」
叫ぶもヴィートは既にギルドを走り出し、買っている宿屋の一部屋に帰ってしまった。溜息を吐くとギルマスの手に握られた本部からの書類…『冒険者ヴィートに対する疑義確認』と書かれたそれを見てまたため息を吐くのだった。
さて、そんなとんでもない書類を送られていたと知らないヴィートは宿屋『サイドチェスト』に居た。知らぬ名前で「人間って変わった名前つけるなぁ」と思っていたが、日本でそれと全く同じ言葉を見つけ思わず「頭おかしいなぁ」と言ったのは良い思い出である。
そして前述通り、買った部屋に入ると鍵をしっかりとかける。当然ヴィートの魔法に現代日本で買ってきたドアノブに鍵までつけているのでこの世界の人間ではまず開けられない。
扉自体も地球側で海外旅行先で発注した特殊金属製の耐弾扉、窓も何層にも重ねて作られた耐弾強化ガラスに強化魔法を掛けたもの。壁も内壁側に扉と同じ素材で作った壁に無垢材やら焼杉やらで作った和風の部屋にしている。
そして扉にはドアノブ上にツマミがあり、そのツマミに連動した目盛りもある。目盛りには「アパート」「拠点」と2つ書かれており、今目盛りはを「拠点」を表示していた。
そのツマミをガチリと「アパート」側に捻る。何も起こらないが、一つ変わったことはついさっきまで外や通路から聞こえていた喧騒がぴたりと消えたことだろう。
「ただいまぁ~我が家‼︎」
ガチャリと開くとそこは見慣れたこぢんまりとしたアパートの玄関。そう、何を隠そう、神奈川県某所のアパートである(家賃5万/1ヶ月)‼︎‼︎築ウン十年と経過しているが、あんなボロ宿屋よりはよっぽど…比べるのも烏滸がましいほどに住みやすいのは言うまでもない。
さて、そんな事よりも部屋の奥にある電波時計を見れば時刻は19時。さらに自身の身体を嗅げばハゲの皮脂と漢臭が少し臭う。
「…ホント萎える…湯船にお湯張らないと」
慣れた手つきで足場を開き、給湯操作パネルを操作して少し熱めのお湯を湯船に張り始める。ついでにお気に入りの100円均一の温泉の元も蓋一杯分加える。良い匂いが浴室を満たしていくのを尻目に、臭いが付いてしまった衣服を脱ぎドラム式洗濯機に入れていく。下着まで脱いだところで魔法を解き本来のゴブリン姿となる。浴室に入り鏡を見れば背中まで伸びる赤いメッシュ混じりの髪に整った美少女の顔に額から伸びる2本の黒いツノ。全身は老竹色の緑肌…異色肌の美少女がそこに居た。そこそこの胸に綺麗に整ったプロポーション…唯一の欠点と本人が思っていることといえば低い背によるお子ちゃま感だろう。
「…今日のレッサードリアード…デカかったなぁ…」
遠い目でそう呟くヴィート。何がとは言うまい。
暫くするとお湯が溜まり終わる。そのまま入らずにしっかりと身体を洗ってから湯船に浸かる。
「おあぁぁ~…ぁあ~…極楽極楽」
親父臭いセリフと共に湯船を満喫し、ホカホカのままパンツ一枚にタオルブラ状態で上がる。正直もう今日は料理する気にはならない。しかし、そん日でもヴィートは大丈夫。迷う事なくコンロしたの観音扉を開き中から2つ程小さな箱を取り出した。
「これだよねぇ…牡蠣のオイル漬けとアヒージョ缶‼︎」
勿論硬めのバケットもスライスして冷凍保存済みである。すぐにそちらも取り出し、オーブンレンジでカリカリに焼き上げれば…
「完成~‼︎晩酌セットやる気10%」
タオルを外し、洗濯機に投げ込む。胸は髪ブラで隠れているからまぁ良しだろう。
部屋の折り畳み机にそれらを運び込むと冷蔵庫から取り出したるは、ビール缶…ではなく本日は少し遠出して買ってきておいた瓶ビール。それも本人お気に入り、広島県産「レモンビール」である。机の上にレモンビール、グラス、牡蠣缶2缶にブラックペッパーにフォーク。そしてカリカリバゲット。
「おぉ…神よ、こんな背徳飯が許されるのか…いや許す」
そう独言てフォークで常温の牡蠣に刺す。艶やかで香り高い油を纏うそれはまさにヴィーナス。そう、貝殻では無い金属の缶に閉じこもっていた美しきヴィーナスに他ならない。香料の薫りを仄かに漂わせるそれを口に運ぶ。噛み締めればジュワリと旨味と香りの暴力が脳をぶち抜く。牡蠣の甘みと旨みをふんだんに含んだ油に貝の身本体の歯応えと旨み。
もうそれは旨味の暴力である。海外産の牡蠣でかつコストカットのため箱の中の缶には一切の表記も写真もない無骨な姿からは想像もつかないほどに繊細かつそして大胆な味。
例えるならば和服の合いそうな清楚系の美女が、パレオ付きの扇状的なビキニを着込んで微笑むような両極端を内包している。
そこにカリカリバケットを入れれば最早敵なし。
「んん~っ‼︎最オブ高…パーペキだよぉ…」
蕩け顔でオイルにどっぷり浸けたバゲットを貪り、グラスにレモンビールを注ぐ。飲み込んだバゲットと牡蠣缶の余韻を味わいながらレモンビールを含めば、優しくも爽やかな香りがそれらを包み込む。砂糖のようなくどい甘さもない、さらにはビール特有の苦味…ホップの味わいも薄くビール感はあまり感じられない。
それらを吹き飛ばす程の優しい飲み口と鼻を抜ける柑橘の香り。これはもうこのビールでしか味わえないものだ。
「あぁ…いつものビールもいいがこのビールでしか摂取できない何かがあるぅ…牡蠣旨ぁ」
モッモッと頬袋に牡蠣とバゲットを詰めながらぽややんと窓の外を見れば、ちょうど満月が煌々と光っている。元の世界では赤と青の月が上がっていたが、地球で見る一つしかない月も中々にヴィートのお気に入りである。
アヒージョ缶も突けばフワリとマッシュルームと牡蠣、そしてハーブの香りが部屋に舞う。まさに香りの妖精の舞である。
「缶開けてこのクオリティは犯罪だぁ…」
パクリと口に入れれば幸せの福音。リンゴンと鳴る鐘の音にタキシード姿のマッシュルームにウェディングドレスの牡蠣。その2人を祝福するオイルとハーブ。これはもう牡蠣とマッシュルームの結婚式である。その結婚式に呼ばれたヴィートはまさに見届けにきた神父の様…
「…あれ、ビールからになっちゃった…もう一本…」
歩くのも面倒なのかいつも通り魔法でふよふよと取り出したのは同じく広島県産「トマトビール」。そう、カクテルの「レッドアイ」ではない‼︎「トマトビール」である‼︎
「いやぁ…飲んで驚いたからなぁ、これ」
親指でキンと王冠を弾いて取るとグラスに注ぐ事なくラッパ飲みするヴィート。もうその姿は美少女姿でも酒カス。
「ウマァーッい‼︎」
ヒョイパクヒョイパクとアヒージョに牡蠣缶、バゲットと忙しなく食べながら合いの手を打つ様にトマトビール。トマトの青く爽やかな香りにトマトジュースの様な優しい甘みと酸味。しかし、薄過ぎず濃過ぎないその味はしっかりと牡蠣達の味を支え、持ち上げる。
「んぁ?…食べ終わりか…片付けて寝よ…」
缶を濯いで食洗機へ。ゴウンゴウンと動くそれを横に歯を磨きそのままの格好でベッドに身体を滑り込ませる。パチリと指を鳴らせば電気が消えた。
「…なんか忘れてるけど、おやすみぃ…」
すよすよと可愛らしい寝息が響く。そんな彼女がコスプレグッズと剥製(売りに出す時は球関節ドールに加工している)を造り忘れて大慌てでコスプレの日に間に合わせると言う徹夜地獄となったのは、また別のお話であった。
「しつこいし臭い、これだけ」
ムンムンと漢臭を放つスキンヘッドマッチョ…ギルドマスターに対してヴィートは心底不愉快そうに顔を顰めながら答える。
「お前さん、本当は加工した女体部分持ってねぇのか?」
「何?死体愛好家なの?奥さんに相手してもらえないからってやめなよ」
「ちげーよバカ‼︎単にギルド報酬になるぞって話だ‼︎お前さん、服装といい普段の立ち振る舞いや匂いといいなんか隠してんだろ」
「え…きも」
ジトリとした目を向け胸や体を隠すようにすると、ギルドマスターも慌てて手を振る。
「いわいやいや‼︎変な意味じゃねぇよ‼︎お前さん、冒険者なのに鎧も付けないし汗臭さや異臭もねぇ、そりゃ何かしてるって疑うだろ⁉︎」
「ストーカーロリコンハゲ…」
「よーし、意味は分からんが馬鹿にしてるのはわかった…畳んでやる表に出ろこのメスガキャ‼︎」
ビキビキと青筋を立てるギルドマスターに対してヴィートはうんざりしていた。週に一回程度の討伐のたびにこれである。むしろヴィートからすれば男女問わず臭いこの世界の人々の方がアタオカである。目の前のハゲ然り、香水で誤魔化している担当の専属受付嬢然り。
そして何よりこの世界の縫製技術は酷かった。織物屋含めて基本的に日本で習った中世ヨーロッパ…それより若干酷い。裏面はチクチクとした布など当たり前、下着なのに恥部に触れる場所までそんなやすりみたいなもので作られている。平然と着ている方がおかしいとさえ思うほどであった。
言い訳をするなら、地球と異なりこの世界では魔物討伐が頻繁に起こりその討伐時に避けたりする為服に求められるのは着心地よりも頑丈製であった。故に例えた多少着心地が悪かろうとも頑丈に作るのが正義とされているのである。
「その服についても教えてくれても良いじゃねぇか…うちの娘、お前さんの担当嬢からも下着含めて欲しいと言われてんだよ…な?」
「臭そうだから嫌…というか臭いをどうにかして」
「お前さん程臭いのない方がおかしいんだよ…」
「…絶対臭いあんたらの方がおかしいって」
「聞こえてるからなぁっ⁉︎」
ブチブチと文句を言いながらも何とか質問を交わすヴィート。はっきり言ってうんざりしている。
「第一持っていても良いでしょ、僕の勝手だ」
「いや、お前さん全然ランク上げしねえし、クエストも出ねえから今だに最初期の銅級じゃねぇか…そんな実力者をそれこそ最底辺にしていたらうちの沽券に関わるんだよ」
「へー」
「興味持てやぁっ‼︎」
飽きてきて既に手元で知恵の輪を始めたヴィートにキレるギルマス。しかし、その視線はしっかりとヴィートの手元のその知恵の輪を見ていた。
ヴィートととしては珍しくない金属製の知恵の輪程度に思っているが、この世界でそのレベルの高度な金属加工の玩具はまず無い。それこそ頭のネジの飛んだ貴族の蒐集家程度しか持っていないコレクターアイテムと言える。それを目の前で弄っていることに呆れ半分で見ているのだ。
「取り敢えずその玩具仕舞え」
「話終わり?」
「あーもーいーよ…疲れた…はぁ…明後日合同クエストがあるからお前さんも「明後日は用事があるから無理さよなら」おぉい待てやこらぁ‼︎」
叫ぶもヴィートは既にギルドを走り出し、買っている宿屋の一部屋に帰ってしまった。溜息を吐くとギルマスの手に握られた本部からの書類…『冒険者ヴィートに対する疑義確認』と書かれたそれを見てまたため息を吐くのだった。
さて、そんなとんでもない書類を送られていたと知らないヴィートは宿屋『サイドチェスト』に居た。知らぬ名前で「人間って変わった名前つけるなぁ」と思っていたが、日本でそれと全く同じ言葉を見つけ思わず「頭おかしいなぁ」と言ったのは良い思い出である。
そして前述通り、買った部屋に入ると鍵をしっかりとかける。当然ヴィートの魔法に現代日本で買ってきたドアノブに鍵までつけているのでこの世界の人間ではまず開けられない。
扉自体も地球側で海外旅行先で発注した特殊金属製の耐弾扉、窓も何層にも重ねて作られた耐弾強化ガラスに強化魔法を掛けたもの。壁も内壁側に扉と同じ素材で作った壁に無垢材やら焼杉やらで作った和風の部屋にしている。
そして扉にはドアノブ上にツマミがあり、そのツマミに連動した目盛りもある。目盛りには「アパート」「拠点」と2つ書かれており、今目盛りはを「拠点」を表示していた。
そのツマミをガチリと「アパート」側に捻る。何も起こらないが、一つ変わったことはついさっきまで外や通路から聞こえていた喧騒がぴたりと消えたことだろう。
「ただいまぁ~我が家‼︎」
ガチャリと開くとそこは見慣れたこぢんまりとしたアパートの玄関。そう、何を隠そう、神奈川県某所のアパートである(家賃5万/1ヶ月)‼︎‼︎築ウン十年と経過しているが、あんなボロ宿屋よりはよっぽど…比べるのも烏滸がましいほどに住みやすいのは言うまでもない。
さて、そんな事よりも部屋の奥にある電波時計を見れば時刻は19時。さらに自身の身体を嗅げばハゲの皮脂と漢臭が少し臭う。
「…ホント萎える…湯船にお湯張らないと」
慣れた手つきで足場を開き、給湯操作パネルを操作して少し熱めのお湯を湯船に張り始める。ついでにお気に入りの100円均一の温泉の元も蓋一杯分加える。良い匂いが浴室を満たしていくのを尻目に、臭いが付いてしまった衣服を脱ぎドラム式洗濯機に入れていく。下着まで脱いだところで魔法を解き本来のゴブリン姿となる。浴室に入り鏡を見れば背中まで伸びる赤いメッシュ混じりの髪に整った美少女の顔に額から伸びる2本の黒いツノ。全身は老竹色の緑肌…異色肌の美少女がそこに居た。そこそこの胸に綺麗に整ったプロポーション…唯一の欠点と本人が思っていることといえば低い背によるお子ちゃま感だろう。
「…今日のレッサードリアード…デカかったなぁ…」
遠い目でそう呟くヴィート。何がとは言うまい。
暫くするとお湯が溜まり終わる。そのまま入らずにしっかりと身体を洗ってから湯船に浸かる。
「おあぁぁ~…ぁあ~…極楽極楽」
親父臭いセリフと共に湯船を満喫し、ホカホカのままパンツ一枚にタオルブラ状態で上がる。正直もう今日は料理する気にはならない。しかし、そん日でもヴィートは大丈夫。迷う事なくコンロしたの観音扉を開き中から2つ程小さな箱を取り出した。
「これだよねぇ…牡蠣のオイル漬けとアヒージョ缶‼︎」
勿論硬めのバケットもスライスして冷凍保存済みである。すぐにそちらも取り出し、オーブンレンジでカリカリに焼き上げれば…
「完成~‼︎晩酌セットやる気10%」
タオルを外し、洗濯機に投げ込む。胸は髪ブラで隠れているからまぁ良しだろう。
部屋の折り畳み机にそれらを運び込むと冷蔵庫から取り出したるは、ビール缶…ではなく本日は少し遠出して買ってきておいた瓶ビール。それも本人お気に入り、広島県産「レモンビール」である。机の上にレモンビール、グラス、牡蠣缶2缶にブラックペッパーにフォーク。そしてカリカリバゲット。
「おぉ…神よ、こんな背徳飯が許されるのか…いや許す」
そう独言てフォークで常温の牡蠣に刺す。艶やかで香り高い油を纏うそれはまさにヴィーナス。そう、貝殻では無い金属の缶に閉じこもっていた美しきヴィーナスに他ならない。香料の薫りを仄かに漂わせるそれを口に運ぶ。噛み締めればジュワリと旨味と香りの暴力が脳をぶち抜く。牡蠣の甘みと旨みをふんだんに含んだ油に貝の身本体の歯応えと旨み。
もうそれは旨味の暴力である。海外産の牡蠣でかつコストカットのため箱の中の缶には一切の表記も写真もない無骨な姿からは想像もつかないほどに繊細かつそして大胆な味。
例えるならば和服の合いそうな清楚系の美女が、パレオ付きの扇状的なビキニを着込んで微笑むような両極端を内包している。
そこにカリカリバケットを入れれば最早敵なし。
「んん~っ‼︎最オブ高…パーペキだよぉ…」
蕩け顔でオイルにどっぷり浸けたバゲットを貪り、グラスにレモンビールを注ぐ。飲み込んだバゲットと牡蠣缶の余韻を味わいながらレモンビールを含めば、優しくも爽やかな香りがそれらを包み込む。砂糖のようなくどい甘さもない、さらにはビール特有の苦味…ホップの味わいも薄くビール感はあまり感じられない。
それらを吹き飛ばす程の優しい飲み口と鼻を抜ける柑橘の香り。これはもうこのビールでしか味わえないものだ。
「あぁ…いつものビールもいいがこのビールでしか摂取できない何かがあるぅ…牡蠣旨ぁ」
モッモッと頬袋に牡蠣とバゲットを詰めながらぽややんと窓の外を見れば、ちょうど満月が煌々と光っている。元の世界では赤と青の月が上がっていたが、地球で見る一つしかない月も中々にヴィートのお気に入りである。
アヒージョ缶も突けばフワリとマッシュルームと牡蠣、そしてハーブの香りが部屋に舞う。まさに香りの妖精の舞である。
「缶開けてこのクオリティは犯罪だぁ…」
パクリと口に入れれば幸せの福音。リンゴンと鳴る鐘の音にタキシード姿のマッシュルームにウェディングドレスの牡蠣。その2人を祝福するオイルとハーブ。これはもう牡蠣とマッシュルームの結婚式である。その結婚式に呼ばれたヴィートはまさに見届けにきた神父の様…
「…あれ、ビールからになっちゃった…もう一本…」
歩くのも面倒なのかいつも通り魔法でふよふよと取り出したのは同じく広島県産「トマトビール」。そう、カクテルの「レッドアイ」ではない‼︎「トマトビール」である‼︎
「いやぁ…飲んで驚いたからなぁ、これ」
親指でキンと王冠を弾いて取るとグラスに注ぐ事なくラッパ飲みするヴィート。もうその姿は美少女姿でも酒カス。
「ウマァーッい‼︎」
ヒョイパクヒョイパクとアヒージョに牡蠣缶、バゲットと忙しなく食べながら合いの手を打つ様にトマトビール。トマトの青く爽やかな香りにトマトジュースの様な優しい甘みと酸味。しかし、薄過ぎず濃過ぎないその味はしっかりと牡蠣達の味を支え、持ち上げる。
「んぁ?…食べ終わりか…片付けて寝よ…」
缶を濯いで食洗機へ。ゴウンゴウンと動くそれを横に歯を磨きそのままの格好でベッドに身体を滑り込ませる。パチリと指を鳴らせば電気が消えた。
「…なんか忘れてるけど、おやすみぃ…」
すよすよと可愛らしい寝息が響く。そんな彼女がコスプレグッズと剥製(売りに出す時は球関節ドールに加工している)を造り忘れて大慌てでコスプレの日に間に合わせると言う徹夜地獄となったのは、また別のお話であった。
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