猫だと思ったらトラでした。

だいたい石田

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6話

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自覚はあまりなかったのだけれど、私は暗い子供だった。休み時間に外に遊びにいくようなタイプではなかった。図書室あるいは自分の席で本を読むタイプだった。運動なんてあまりしなかったし好きでもなかったから体育は苦手だった。だから運動会ではお荷物にしかならなかった。クラスの足をひっぱる私に、クラスメイトが白い目を向け始めるまでそう時間はかからかった。
小学校のころのいじめのきっかけなんてささいなものだ。小さなこと、たいしたことがないことだって、対象になる。人とちがうから。何かができないから。クラスに迷惑をかけたから。

いつの間にか無視をされるようになっていた。けれども、私はもともと友達が少ないほうだったからあまり堪えなかった。けれども、数少ない友達に話しかけてもなにも答えてくれず困ったようにされるのを繰り返してからようやく学んだ。私は人に話しかけてはいけないと。そのことに気付いてからは一人で過ごすようになった。一人はべつに苦痛ではなかった。内心は、友達が話しかけてくれないか期待していたし、無視されていたことに傷つき戸惑っていた。けれども、それを表に出していなかった。それがいけなかったのだろう。無視からはじまったいじめはエスカレートしていった。上履きには泥がつめられ、机や教科書には落書きをされた。

周りの大人に相談しようかということはちらりと頭をよぎったのだが諦めた。担任の先生は、明るい子が好きなようだった。それが子供の目からみてもはっきりしていた。運動ができてはきはきしている子が好きなのだ。そういう子が授業中に手をあげていると必ずあてたし、その子たちと話すときにはニコニコしていた。だからといって私のような無口な子が冷遇されていたわけではない。だが、私が何かいったからといって信じてくれそうなほどの器ではなかった。だから言えなかった。

一方、家族はというと、タイミングが悪く離婚の危機にあった。父が浮気をしていたのだ。母に気付かれても父は悪びれなかった。母はイライラしていた。家庭はぎすぎすしていた。私がよくしゃべる明るい子供だったら少しは事態は改善したのかもしれない。けれど、そんな性格ではなかったし、暗い家庭の雰囲気に委縮してしまい、学校にいるとき以上に口を開くことはなかった。母は「由香子のためにお母さんは頑張っているの。」というようになった。こうして母は自分に言い聞かせることでなんとか自分を保とうとしたのだろう。いまならば察することはできる。が、ストレスのはけ口に愚痴を聞かされている私はたまったものではない。『離婚すれば?』とずっといいたくて仕方がなかった。もちろん言わなかったけれど。母が離婚しなかったのは、専業主婦で職歴がなかったし、就職に有利になるような資格をもっていなかったこと、それに母の両親は他界しているために頼れる実家がなかったことにある。いくらなんでも子供を一人抱えての生活は難しいと思ったのだろう。父の浮気を黙認するしかないぐらいには。

なんにせよ、小学校にあがる前までは、平穏な安らぎのある家庭だったのに、小学校にあがってからはそんな優しい家庭は崩壊してしまっていた。

だから、中学校は、小学校が同じだった子とかぶらないように、家から通える公立の中学校ではなく、電車で通う私立の中学にした。おかげで私のことを知っている人がいなかったため、いじめられることはなかった。かといって友達ができることもなかった。暗に気を許すといじめられたときに見捨てられてしまうから。クラスメートとは積極的に関わらなかった。おかげで、いじめられることもなかったが、友達もできなかった。高校も同じようにした。知り合いのあまりいないところに。目立たないようにふるまった。年を重ねたせいか運動ができないくらいでからかう子はだれもいなかったし、運動のできない子はクラスに何人かいたから目立つこともなかった。だから平和ではあった。心許せる世界ではなかったけれど、小学校のときのようにいじめがなかったから悲しくなることもなかった。
大学は、家から離れたところにしようと思っている。そうすれば家から出られるから。お母さんは嫌がるかもしれないけれど、お父さんは許してくれるだろう。私がでていけば無理に家庭を維持しなくてもいいのだから。

でもその前に。平穏だったころの思い出、猫さんのことは確かめておきたかった。猫さんだけじゃない。父方のおじいちゃんの家は、なんとなくほっとする雰囲気だった。おばあちゃんは私が生まれる前に他界してしまったから、おじいちゃんしかいない。おじいちゃんも口数が多いほうじゃないけれど、それでも私のことを気遣ってくれているのがわかるから。好きだった。
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