猫だと思ったらトラでした。

だいたい石田

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10話

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朝。めざめたのは、なんだか寒かったから。暖かな毛布……じゃないや、もふもふ虎さんに包まれて寝ていたはずなのに、私の身体の上にはなにものっていなかった。
虎さんがどこかへ行ってしまったのか、私は毛布を蹴飛ばしてしまったのか。
ベッドの上に起き上がったとき、ふと嫌な予感がした。隣をみると、そこには、ルヒ……ではなく全裸の変態がいた。なんで全裸とわかってしまったのか。なぜか毛布がなく、そのままの状態だったからで。全部が見えてしまっていた。
お互いに毛布なしのままでねてたのかと思ったら床に毛布が落ちていた。
いや、毛布の行方じゃなくって。なんでなんでなんで。
朝からこんなものをみないといけないんだあああああああ!!!

人は衝撃的なことが起こってしまったとき、ショックでとりあえずは動けなくなるらしい。そのまま私は奴の身体をみたくもないけれど見続けてしまった。時間の感覚はわからないから、十数秒かもっと短いくらいなんじゃないかと思う。
リビングに行こうと身じろぎをしたのが悪かったのか、はたまた私の視線が強く突き刺さったのか。
「おはよう、由香子。」
変態が目を開けた。

「……なんか着ろおおおおおおおおおおおおお!裸はやめろ。」
私は手近にあった枕を投げつけた。
枕はくしくも奴の股間にジャストフィットしてしまった。
うわ、あの枕ぜったいに使わない。というか捨てる。

「え、だって由香子が……」
「言い訳はいいから何か着て。」
枕をどけて、身体を隠そうともせずに起き上がろうとするからパニックになった。

「変化したら洋服はどっかいくんだよねー」
へらへら笑っている。笑ってる場合じゃないんだ。というか、変態を動かすんじゃなくって私が動けばいいんじゃん。
なんとかまともな思考を取り戻した私は、にへらにへらと笑う変態を尻目に
「何か着てこい!それまでは出てこないで。」
と言い捨てるとリビングへといった。最初っからこうしとけばよかったんだ。



リビングへと、いくと、昨日は目にとまらなかったものに気付いた。本棚だ。本が友達を地でいっていた私は嬉しくなって手にとった。本来ならば人の家だし許可をなしにさわることはしないんだけど。そして大事なことに気付かすそのままページをめくった。

「読め……ない。」
本の背表紙にはカバーがかけられていたから気付かなかった。本を開くといままで見たことのない文字が並んでいた。
「なにこれ。これってどこかの国の言葉だよね。私の知らない国の。そうだよね。」
言葉に出そうと思ったわけではない。不意に口から思考がこぼれおちてしまった。

「だってここは僕の世界だからね。由香子の知ってる言葉じゃないんだよ、本当は。」
いつのまにか、背後には、ルヒトがいた。私がさんざん叫んだからだろう。服はちゃんと着てくれていた。


「ねえ、私……ほんとうに……」
「だからここは由香子の世界じゃないって。最初からいったじゃん。」
軽い言葉がやけに重々しく響く。私はまだここが夢だと思っていた。1ヶ月後に帰れると聞いていてもあまり信じていなかった。だって実感がなかったのだから当然だ。
「ねえ、帰してよ。早く帰してよ。」
知らない世界に自分が一人という実感が、孤独が急に湧いてでてきた。寒くもないのに身体の震えがとまらない。
手にもっていた本は床におち私は自分で自分を抱きしめて床に崩れ落ちた。

「本当に帰りたいの?ここには『虎さん』も僕もいるよ。」
見上げると赤い目がじっとわたしをみていた。

「私………帰りた……」
文句ばかりいう母親、家庭を顧みない父親。友達のいない学校。頭をよぎるものに愛着も執着もない。
けれど私は。
「帰りたいの!!!!」
叫ぶと、ルヒトの胸元をつかんだ。
「ねえ帰して。やっぱり知らない世界にい続けるの嫌。怖い。怖い怖いの。1か月なんて待てない。」
「……わかった。本当に帰りたいって思ってるんなら君の世界に帰れるよ。ドアはあそこだよ。出てごらんよ。」
あそこ、と指さされたドアをみやる。
ルヒトを再度みて赤い赤い目としばらく見つめあった。
「うん。帰る。」
つい、とルヒトからドアへと視線を動かし私は外の世界へと足を踏み出した。
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