猫だと思ったらトラでした。

だいたい石田

文字の大きさ
11 / 12

11話

しおりを挟む
金色のドアノブに手をかけて足を踏み出したはずだった。それなのに、私はドアの外の空間にはいけない。まるで目にはみえない壁に阻まれているかのように拒まれてしまった。
「なん……で。」
「行ったじゃないか。君が本当に望まないと帰れないって。本当に帰りたいの?」
ルヒトに最初に問いかけられたときは私はなんと答えたっけ?たしか、『あまり帰りたくない』とか『戻りたくない』って答えた気がする。そのせいなのかな。

「かえ………わかんない。」
本が読めないことにショックを受けて、ここが異世界だっていまさら気付いて。何もかもが遅すぎたのは、きっと私が世界を嫌っていたせいだ。あの世界で好きだったのは、おじいちゃんと本とそして虎さんくらい。大好きなもののうち1つはそばにある。

「私、ここにいていいの?」
昨日からの自分の行いを振り返りつついまさらながら問う。
「いいもなにも、呼んだのは僕だし。」
「最初に僕、いったよね。僕のお嫁さんになってって。」
「……無理」
よく知らない人のお嫁さんになるなんてできるわけがない。そもそも、結婚なんて考えたことだってない。テレビでみる結婚式は芸能人のものばかりで実感なんてわかない。それに私はまだ高校2年。誕生日だってきていないから法律的にも結婚できないし。って、ここは異世界だから法律なんて関係ないのかな。

「……そう」
私の拒絶になぜか悲しそうにうつむく。変態呼ばわりしたって枕をなげつけたってこんな顔はしないのに。私が悪者みたいじゃないか。納得がいかない。

「ねえ、ドアの外には何があるの?」
「ここの世界だよ。でも、来たばかりの由香子にはちょっと危ないかもしれないね。みんな獣人(じゅうじん)だから。純粋な人間はいないし。」
「じゅうじんって?」
「獣(けもの)に人(ひと)ってかくんだ。」
そこからルヒトは説明してくれた。
この世界は獣人の世界。虎もいればウサギもいるし、牛や馬の獣人だっている。みんな、それぞれの獣になることができるし、人間の姿にだってなることもできる。異種同士であっても結婚はできるし、生まれた子供はどちらかの獣性(じゅうせい)を引き継ぐ。髪の色や目の色は両親のそれを引き継ぐことはあるが、獣性はかならずどちらかだけ。たとえば、ウサギの獣人と牛の獣人が結婚し子供がうまれた場合には、その子供はウサギの獣人か牛の獣人。牛とウサギが混ざったりはしない。
この世界にも家畜はいる。牛や馬、羊だっている。けれど、獣人と動物は異なるため、獣人が家畜扱いされることはない。
そして、ルヒトは虎の獣人であること。

「じゅうじんか……じゅうじんの世界なんだ。」
いまだに獣人というのがよくわからない。目の前にルヒトがいるけれど、実感がよくわかない。他の獣人をみればわかるのだろうか。
「だいたいの獣人(ひと)はみんな僕みたいに人間の姿で暮らすよ。獣の姿になるのは移動のためとか……かな。」

「そっか……うん。わかんないけどわかったような。」
ぐうううっと、そこで盛大に私のお腹がなった。そういえば朝起きてから何も食べていない。

「由香子も獣人かもね。その音。何かの動物の鳴き声みたいだ。」
ルヒトがすかさずからかってきた。
「うるさいっ早く何か作ってよ。おなかすいた。」
空腹を一度実感してしまうと強く感じてしまう。








それから、ルヒトとの暮らしはわりかし順調に過ぎていった。とはいえ、私は家の外にでることはできない。毎日、金色のドアノブをにぎり外へでようと試みるのだが、見えない壁に阻まれる。ルヒトはもちろん外出ができた。毎日、どこかしらにでかけている。というか、普通に仕事にいっている。何の仕事をしているか聞いたが、なぜかはぐらかされてしまい教えてもらえない。
家は、リビング、私が最初にいたベッドのある部屋、ルヒトの部屋、台所、そして豪勢な檜の湯船のお風呂なので、一日ずっとこもって過ごす分にはややせまく感じる。けれど、外にでられない以上仕方がないと思い家の中にひきこもっておくしかない。
暇だからと料理をしようとしたが、なぜか盛大に焦がして、焼け焦げた何かを生成してしまい、ルヒトから『危ないから料理しちゃだめ』と言われてしまった。とはいえ、後片付けはさせてもらえるけれど。
つまりは暇なのである。もともとが、外で遊ぶ性分ではなかったから大人しくじっとしておく分にはいい。読書とか読書とか読書とかできていればなにも文句はいわない。けれど、ここの本は読めない。時間があるから文字の勉強でもするかと思ったが、なぜかどこかしらか、ルヒトが本を持ってきてくれた。
「由香子の世界の言葉に翻訳された本があるんだ。少ないけどね。」
そういって渡された本は、この世界の歴史書だったり、料理本だったり、小説だったりした。古典もあった。小説も、血沸き肉躍る冒険ものから、あはーんうふーんなものまで幅広い。しかもどれも面白くあっというまに引き込まれてしまう。
とはいえど、いくら本が面白くても一日じっとしている生活がずっとずっと、ずーーーーーっと続くと身体がなまりになまってしまうし、ただでさえ少ない筋肉がさらになくなってしまう気がする。私の部屋となった最初にいた部屋(本当は客間らしくあまりつかっていなかったとのこと)で、ラジオ体操もどきをしてみたりした。記憶の中から。ラジオ体操を思い出して歌いながら。ルヒトがいない間に。ルヒトがいないと思っていたのに、いつの間にか帰ってきていて、みられてしまい「なにしてんの?」と爆笑されたのはいい思い出だ。
そんなこんなで時は過ぎていくが、毎日日課となっていることがあった。

「ねえ、僕のお嫁さんにならない?」
朝ごはんの後とか、昼間ルヒトがお昼ごはんをたべに帰ってきたときとか、夜ごはんをつくってる途中だったりとか、要するになんの脈絡もなくいきなり聞いてくる。
そのたびに私は「無理!」と返した。
私の返答を聞くたびに悲しそうにするのが心にひっかかるが仕方がない。わかりきっていることをきくのがおかしい。ルヒトにそういってもあいまいに笑うだけでこの日課はやめない。
そんなこんなで一カ月がすぎようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ
恋愛
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。 仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。 本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは? ※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。  主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。 ※番外編に入り、百合についても語り始めました。  こちらも独断と偏見が多々あるかもしれないのでご注意ください。 ※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。 ※番外編を随時更新中。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。

aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。 ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・ 4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。 それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、 生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり どんどんヤンデレ男になっていき・・・・ ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡ 何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

処理中です...