大親友に監禁される話

だいたい石田

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大親友に監禁されました。

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「あれ……?」
頭痛を感じながら孝之たかゆきが起きたとき、見慣れた自室の天井でもなく、どこか見覚えのある部屋の天井が目に入った。
けれど、なぜか天井と自分の間には鉄格子が存在する。
きょろきょろとあたりを見渡すと、案の定、鉄格子に周りを囲まれていた。とはいっても、そんなに広くはない。大きさでいえば大型犬用の檻ほど。
孝之の体格では、起きあがろうとすると頭がつっかえてしまうので座るか横になっておくしかない。
そして鉄格子の隙間から見えるのは、見慣れた親友、正人まさとの部屋だった。

そういえば、と孝之は昨日の記憶を探った。
明日から夏休みになるからと、正人の家に泊まりにいくことにした。正人の両親は長期出張でいないから、気兼ねなく泊まれると聞いて。
ゲームをして、夕御飯のカレーをごちそうになりそして、食後のカフェオレを飲んだのだ。
孝之好みの砂糖入りの甘いカフェオレ。
いつもよりやや苦く感じたものの、それを口にすることもなくごくごくと飲みほした。
それから………
それからどうなったのだろう。たしか急に眠くなって、そして。

「正人……」
小さな、小さな声で呼んでしまった。この期に及んでも何かの間違いだと思いたかった。
孝之の声に応えるかのように、ドアが開かれた。現れたのはもちろん正人だった。

「おはよう。」
孝之を大型犬用の檻に閉じ込めていることなど全く気にしていないかのような、いつも通りの笑顔だった。
「あのさ、ここから出してくれない?」
檻の扉はもちろん、しっかりと閉ざされていてご丁寧に南京錠までしっかりとかけられていた。


「駄目だ。開けたら出て行くんだろう?」
「……なあ、こんなこと、ばれたら正人が……」
「ばれない。大丈夫。」
今まで見たことのないほの暗い表情に、これは自分の知っている正人なのだろうかと孝之は不安を覚えた。
でも、と自分を鼓舞した。ここで怖気づいていては駄目だ。正人を怖がっていると気付かれてしまったらろくなことにはならない。

「あっ、あのさ、トイレ行きたいんだけど。」
目覚めたときから感じていた尿意。切羽詰まっているわけではないがトイレに行きたいのは本当だった。
正人の部屋は2階にある。が、2階にはトイレがないため1階までいくしかない。そして家の構造上、トイレの脇が玄関だった。
何度も遊びにきたことがあるため孝之は熟知していた。

「ああ。そっか。トイレな。持ってきたから。」
もってきた?頭の中に疑問符が浮かんだ。
正人が何かを手に持っているとおもったらそれは洗面器だった。
「しばらく、これにして。」
「えっ、無理。」
「トイレに連れてかないから。これにするしかないからな。」
檻の隙間から洗面器は入れられた。

「そんな……てか、家に連絡、しないと、怪しまれるから。」
「もうしてる。お前の家の両親も旅行にいくから助かるって言われたよ。」
目の前が真っ暗になった気がした。
両親は、出張や旅行のことを、なぜかぎりぎりにしか言わないのだ。
孝之が高校生になり自分のことを自分でできるからいい、と思っている節があるのはわかっているが、いくらなんでもあんまりだ。
とはいえ、作り置きの食事や、お小遣いは渡してくれるし、制服の洗濯や掃除などはできるから問題はない。親の知っている子なら家に泊めてもいいとすらいってくれる。束の間の一人暮らしだと思って羽を伸ばしていた。これまでは。
でも、その宣告は、いまの孝之には死刑宣告にも等しい。
学校が夏休みの今、心配してくれるのは親しかいないのだ。
それに何より。
「スマホのロック、解除した?」
「簡単だ。お前の暗証番号、誕生日だろ?いつもみてたからな、とっくの昔に覚えてた。」
ひっ、と声にならない声が漏れた。
スマホまでとられて暗証番号まで知られているとなってはどうしようもできない。

「喉、かわいただろ。」
隙間から、お茶のペットボトルをいれると、さきほどの洗面器の隣においた。
「強情張らずに飲んだ方がいいぞ。喉乾いてるんだろ?」
「そんなの、いらない。」
「飲まないときついぞ。」
いらないと固辞をする孝之に正人は意外にも無理強いをしなかった。
「飲みたくなったら飲めばいい。一応、これもおいとく。早めに食べたほうがいいと思うぞ。」
同じく、隙間から入れられたのはコンビニのサンドイッチだった。

「ここから出せ……」
「だめだ。」
「なんで閉じ込めんだよ。」
「それは……こうでもしないとお前は他の奴のところにいくからな。……知ってるんだぞ、高田から告られてただろ。」
「なんで知ってるんだよ。」
「放課後、すぐに帰ろうとせずに待たせただろ。気になって後付けたら……。まったく、油断も隙もないんだな。」
「とにかく、ここから出せよ。」
「出さないったら出さない。……ちょっと出かけてくるから大人しくしてろよ。大声だしたってどこにも聞こえないんだからな。」
正人に念押しをされずとも知っていた。
正人の家は、小高い丘の上にある。周囲に家はない。どんなに大声を出したとしても声は届かないだろう。
「正人、正人っ」
孝之が呼んでも振り返りもせずに正人はでていった。

無情にも閉められたドアをみて、孝之は頭を抱えた。どうしてこうなってしまったのか。
そして、夏休み、正人以外と遊ぶ約束をしていなかった自分と勝手に旅行に行ってしまった両親を恨んだ。
これでは、孝之がいないことにだれも気付かないではないか。

とはいえ、悩んでいても腹は減る。
少し悩んだが、差し入れられたサンドイッチをもそもそと口にした。コンビニに包装に包まれたそれは、開けられた形跡などはなかった。それになにより空腹の今はそれを食べる以外に方法はなかった。食べていると喉が渇く。サンドイッチにお茶という奇妙な取り合わせだが、ここで文句はいえない。ペットボトルに手をかけるとそれは未開封だった。
異物など混入されている可能性は低そうだ。
ほっとしながらも内心は複雑だった。
ここまで正人を疑ったことは今までない。気の置けない大親友だった。それなのに。
「どうしてこうなったんだ……」
檻にもたれかかって、ぼうっと部屋の天井を眺めた。

が、もぞりと身体を動かした。目覚めてから感じていた尿意が耐えがたいものになっていた。
耳を澄ましても、音は聞こえない。正人は出かけてしまったのか。家の中にいるのか。それすらもわからない。
洗面器に目をやった。
尿意は限界に近い。いますぐにでもトイレに行きたい。
一縷の望みをかけて孝之は大きく口を開いた。
「正人ーーーー!正人、いるんだろ。トイレ行きたい。……どこにもいかないから。」
最後の一言はやや小さめの声になった。
が、相変わらず反応はないし、物音も聞こえない。幾度か呼んだものの、めぼしい反応はなかった。
でかけているのか、無視しているのか。できれば前者であってほしい。

膝立ちになると、両膝の間に洗面器を置いた。膝立ちになると頭がつっかえてしまうのでややかがめなくてはならない。窮屈な体勢だったが仕方がない。
そして、意を決して、ズボンのチャックに手をかけた。そして、洗面器に向けて放尿を始めた。
ちょろちょろと出始め、すぐにじょぼじょぼと勢いよく流れだした。ずっと堪えていた排尿の快楽とトイレではない場所、それも洗面器にしてしまっていることに羞恥がこみあげる。それでも、いまこの場には孝之一人だからいい。
排尿を終え、ズボンをはいた。周囲に漂う濃厚な尿の臭いに辟易しながらも、洗面器をできるだけ遠くにおいやった。

これからどうなってしまうんだろう。
悪い夢ならばいいと思うものの、夢であろうはずがない。突拍子もなく現実味もない出来事なのに、それだけはわかる。
腹がくちくなり、トイレも済ませたとなると眠気が襲ってきた。それにすることもないのだ。
猫のように丸まって孝之は瞼を閉じた。起きたらそこは自室のベッドであるように、と願いながら。
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