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錆びれた停留所
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落ち着いてこの村を歩き回る時間が確保できた僕はまず子供時代の思い出が残る場所を訪れることにした。忘れ形見があるわけではないのだが、もしかするとあいつが居るかもしれないという淡い気持ちを携えていたのは事実である。会えなかったとしても始業式には嫌でも顔を合わせるので希求することはないのだ。いなければ街へ買い出しに行くだけである。
八分山のふもとは扇状地のため水はけが良いところでは畑や果樹園が広がっており、さらに下ると水源が確保できることによって水田が多く、稲穂がそよぐ光景は山々の自然と相まって筆舌に尽くしがたいものを感じさせる。
山に囲まれ盆地状になっているところでは上昇気流が発生しやすく積乱雲が立ち昇りやすい。そのおかげで夏場には雷雨が轟き、稲妻によって空気中の窒素が土壌へと供給されるため稲は良く育つ。碁盤目状の水田を横目に見ながら橋を渡るとそこには懐かしの駄菓子屋が現れた。
???「久しぶりだな。相も変わらず冴えない顔してるな」
開口一番に人を貶めるあたりこいつも変わっていないな、と嫌味なことを思いつつ。
「毎回ひとこと余計なんだよな。お前は」
そう言い返す。ここまでの会話は僕たちの間では挨拶の常套句なのだ。
僕の親友『花咲 空』はいつも飄々とした調子でつかみどころがない奴だ。
いつも何を考えているかわからない。突拍子もない言動を頻繁にとるので振り回されてばかりだった。
花咲「どうせまだなんにも揃えてないんだろ?折角だから街まで行こう。んじゃふ菓子おごれよ」
「唐突だな。それに察しが良すぎる。あと、高校生で...ふ菓子はないな」
こんな調子でこちらの考えを的確に突いてくるから敵わないのだ。
けらけらと気持ちよさそうに笑う花咲をよそに、僕は街へ向かうためバス停に足を運ぶ。
切り取られた前時代のピースのように感じられる停留所は錆と鉄なんかによる斑模様があしらわれており、不気味な雰囲気を感じさせるが、それがまた情緒的である。寂びれている、と人によっては感じるかもしれないが、少なくとも僕と花咲にとっては趣深い。
花咲「街に行ける手段がこれしかないのは流石に...」
景観を守るという村の方針上、やむないことではあるが生活しづらい点は否めない。
現に街へ行き買い物をするのは一苦労なのでまとめ買いをする住民が大半である。
花咲がいてくれて本当に助かった。ふ菓子で手を打ってくれるとは。安い男だな。
花咲「ん?あれは余所者か?見たことねぇな」
いかにもな田舎くさい台詞を言い放った先を見ると。確かに見たことのない制服だ。全国的に春休み期間のため制服を着て外をうろついている学生は余程の狂信者でない限りありえない。個人的趣味なら言及はできないが、それは明らかに同年代の女学生だった。左右を見渡し、狼狽している様子だ。困っているなら見過ごせないし、見当違いでもこちらが恥をかくだけなので彼女を気にかけても文句は言われまい。
少したたらを踏んだが、僕は声をかけることにした。
「すみません。なにかお困りですか?もしよろしければ力になりますよ」
女子生徒「...! た、助かります! ここに来たばかりで右も左もわからないんです!」
どうやら恥はかかずに済んだようだ。ホッと胸をなでおろした彼女の事情を聞くため、停留所のベンチに僕と二人で腰をかけた。花咲は立ちながらふ菓子に夢中だ。食べている間は落ち着いているので話が脱線せず、進めやすい。
要約すると、彼女の名前は『山吹 茜』
市外から青田村に引っ越してきて日が浅く、道に迷っていたそうだ。見慣れない制服を着ていたのは高校進学の手続きのために学校を訪れ、その帰り道だったからだそうだ。行きは地図を持っていたので問題なかったが学校に置き忘れてしまい途方に暮れ、バス停ならば現在地がわかると考えたというわけだ。しかし。
山吹「文字...かすれてて見えないんですね。それに、地名がわかっても道はわからないですよね...」
どうやら山吹さんは知的な雰囲気だが、抜けているところがあるようだ。後日、彼女のことについて話したとき花咲は「ドジっ子可愛いじゃん」とか言っていたが本人は気にしていることかも、とかは考えないのだろうか。兎にも角にも彼女を無事送り届け、花咲をこき使おうとしよう。と思ったその矢先
花咲「俺たちこれから街まで行って買い物するんだけど、山吹さんさえよければどう?案内にもなるし友達は多いほうが良いだろ?俺、花咲 空。よろしく」
突飛なことを言い出した。でもきっと彼女の友達になり、不安を払拭したいと考えているのだろう。
山吹「い、いいんですか?その...ハナサキさんたちのお邪魔になってしまいませんかね...?」
花咲「困ったときはお互い様ってな。貸しとでも思ってくれればいいからさ」
山吹さんは案内してくれることに感謝はしているがそれよりも僕たちのことを気にかけている様子だった。気弱な彼女はきっと申し訳ないと思っているのだろう。ならば「貸し」にすることで気が晴れるだろう、とおそらく花咲は考えたのだ。花咲なりの優しさだ。変に器用だなこいつ。
山吹「貸し...そういうことでしたら気が楽ですね。ではご一緒させていただきます!」
左手を胸に当て、右手を後ろに回し、紳士のように大げさな身振りをする花咲。このジェスチャーは『Bow and scrape』というそうだが、意味は『バカていねいにふるまう』らしい。
「それじゃ、案内させてもらうよ。山吹さん」
山吹「あの...ひとつお聞きしていいですか?」
花咲「なんなりと。お嬢様」
やっぱバカだこいつ。
山吹「花咲さんのお名前はお聞きしたのですが、そちらの方は...」
「僕は...」
『斎藤 蓮 』
それが僕の名前だ
八分山のふもとは扇状地のため水はけが良いところでは畑や果樹園が広がっており、さらに下ると水源が確保できることによって水田が多く、稲穂がそよぐ光景は山々の自然と相まって筆舌に尽くしがたいものを感じさせる。
山に囲まれ盆地状になっているところでは上昇気流が発生しやすく積乱雲が立ち昇りやすい。そのおかげで夏場には雷雨が轟き、稲妻によって空気中の窒素が土壌へと供給されるため稲は良く育つ。碁盤目状の水田を横目に見ながら橋を渡るとそこには懐かしの駄菓子屋が現れた。
???「久しぶりだな。相も変わらず冴えない顔してるな」
開口一番に人を貶めるあたりこいつも変わっていないな、と嫌味なことを思いつつ。
「毎回ひとこと余計なんだよな。お前は」
そう言い返す。ここまでの会話は僕たちの間では挨拶の常套句なのだ。
僕の親友『花咲 空』はいつも飄々とした調子でつかみどころがない奴だ。
いつも何を考えているかわからない。突拍子もない言動を頻繁にとるので振り回されてばかりだった。
花咲「どうせまだなんにも揃えてないんだろ?折角だから街まで行こう。んじゃふ菓子おごれよ」
「唐突だな。それに察しが良すぎる。あと、高校生で...ふ菓子はないな」
こんな調子でこちらの考えを的確に突いてくるから敵わないのだ。
けらけらと気持ちよさそうに笑う花咲をよそに、僕は街へ向かうためバス停に足を運ぶ。
切り取られた前時代のピースのように感じられる停留所は錆と鉄なんかによる斑模様があしらわれており、不気味な雰囲気を感じさせるが、それがまた情緒的である。寂びれている、と人によっては感じるかもしれないが、少なくとも僕と花咲にとっては趣深い。
花咲「街に行ける手段がこれしかないのは流石に...」
景観を守るという村の方針上、やむないことではあるが生活しづらい点は否めない。
現に街へ行き買い物をするのは一苦労なのでまとめ買いをする住民が大半である。
花咲がいてくれて本当に助かった。ふ菓子で手を打ってくれるとは。安い男だな。
花咲「ん?あれは余所者か?見たことねぇな」
いかにもな田舎くさい台詞を言い放った先を見ると。確かに見たことのない制服だ。全国的に春休み期間のため制服を着て外をうろついている学生は余程の狂信者でない限りありえない。個人的趣味なら言及はできないが、それは明らかに同年代の女学生だった。左右を見渡し、狼狽している様子だ。困っているなら見過ごせないし、見当違いでもこちらが恥をかくだけなので彼女を気にかけても文句は言われまい。
少したたらを踏んだが、僕は声をかけることにした。
「すみません。なにかお困りですか?もしよろしければ力になりますよ」
女子生徒「...! た、助かります! ここに来たばかりで右も左もわからないんです!」
どうやら恥はかかずに済んだようだ。ホッと胸をなでおろした彼女の事情を聞くため、停留所のベンチに僕と二人で腰をかけた。花咲は立ちながらふ菓子に夢中だ。食べている間は落ち着いているので話が脱線せず、進めやすい。
要約すると、彼女の名前は『山吹 茜』
市外から青田村に引っ越してきて日が浅く、道に迷っていたそうだ。見慣れない制服を着ていたのは高校進学の手続きのために学校を訪れ、その帰り道だったからだそうだ。行きは地図を持っていたので問題なかったが学校に置き忘れてしまい途方に暮れ、バス停ならば現在地がわかると考えたというわけだ。しかし。
山吹「文字...かすれてて見えないんですね。それに、地名がわかっても道はわからないですよね...」
どうやら山吹さんは知的な雰囲気だが、抜けているところがあるようだ。後日、彼女のことについて話したとき花咲は「ドジっ子可愛いじゃん」とか言っていたが本人は気にしていることかも、とかは考えないのだろうか。兎にも角にも彼女を無事送り届け、花咲をこき使おうとしよう。と思ったその矢先
花咲「俺たちこれから街まで行って買い物するんだけど、山吹さんさえよければどう?案内にもなるし友達は多いほうが良いだろ?俺、花咲 空。よろしく」
突飛なことを言い出した。でもきっと彼女の友達になり、不安を払拭したいと考えているのだろう。
山吹「い、いいんですか?その...ハナサキさんたちのお邪魔になってしまいませんかね...?」
花咲「困ったときはお互い様ってな。貸しとでも思ってくれればいいからさ」
山吹さんは案内してくれることに感謝はしているがそれよりも僕たちのことを気にかけている様子だった。気弱な彼女はきっと申し訳ないと思っているのだろう。ならば「貸し」にすることで気が晴れるだろう、とおそらく花咲は考えたのだ。花咲なりの優しさだ。変に器用だなこいつ。
山吹「貸し...そういうことでしたら気が楽ですね。ではご一緒させていただきます!」
左手を胸に当て、右手を後ろに回し、紳士のように大げさな身振りをする花咲。このジェスチャーは『Bow and scrape』というそうだが、意味は『バカていねいにふるまう』らしい。
「それじゃ、案内させてもらうよ。山吹さん」
山吹「あの...ひとつお聞きしていいですか?」
花咲「なんなりと。お嬢様」
やっぱバカだこいつ。
山吹「花咲さんのお名前はお聞きしたのですが、そちらの方は...」
「僕は...」
『斎藤 蓮 』
それが僕の名前だ
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