人身御供の乙女は、放り込まれた鬼の世界で、超絶美形の鬼の長に溺愛されて人生が変わりました

たからかた

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百鬼夜行編

恋の鞘当て

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ルガリオンは、私の前に来てサッと跪く。え、え、ええっと。

「私は妖狼ようろう一族のおさ、ルガリオン・オ・カミュルフ。どうぞ、ルガルとお呼びください」

「初めまして。クローディア・リゴ・ストロベリと申します」

「なんて可愛らしく、美しい。野蛮なイシュラヴァには勿体ない鬼だ」

「ど、どうもありがとうございます」

「百鬼夜行は、初めてでしょう?」

「ええ」

「よろしければ、私が案内しましょうか」

彼はあやしげな微笑で、見上げてくる。周りの女性たちも、バタバタと気絶していった。

誘惑してるの?
素敵な男性だけど、シュラへの対抗意識だけでやってるみたい。

目の奥に計算が見えて、かえって冷静になる。

「いえ、ルガリオン様」

「?」

「私はシュラと行きます。私の伴侶は、彼なんです」

私は軽くお辞儀をすると、シュラを見上げた。
彼は嬉しそうに、肩を抱き寄せてくる。

ルガリオンは、驚いた表情をしたのだけど、すぐに元の笑顔を浮かべた。

「これは、失礼致しました。それでは」

彼は立ち上がり、また新たな女性たちに群がられながら、先を歩いて行く。

そのうちの何人かは立ち止まって、シュラの方を見ていたんだけど、シュラが私の頬にキスをする姿を見て、諦めて立ち去って行った。

ほう、よかった。
すんなりといってくれて。

「クローディア、気をつけろ」

シュラが、低い声で警告してきた。
どうしたの? 怖い顔して。

「ルガリオンのこと?」

「ああ」

「あんなの平気よ。いくらでも、美女たちが周りにいるんだから。私なんか、その他大勢の一人として扱われたのに過ぎないわ」

「いや……あいつも俺も、滅多に自分から女に声をかけないんだよ」

「……?」

「女は自然と寄って来るもの。そのくらい、俺も奴もモテてたから」

「そう」

それはすごい。
まあ、さっきの女性たちの群がり方を見ていたら、そんな感じよね。

でも、だからなんだというの?
私はルガリオンと、挨拶しただけなのに。

「彼は行っちゃったし、気にしなくていいと思う」

「あっさり引く時は、逆に燃え上がった時なんだよ。狙われてるんだ、奴に」

「まさか」

「俺は」

シュラは、私の肩に置いた手に力を入れてくる。

「誰にも奪わせない。相手が誰だろうと」

「シュラったら」

「行こう。俺から離れるなよ」

シュラは、ゆっくりと歩き出す。
本当に大丈夫なのに。

でも、嬉しい。
嫉妬するくらい、想われているんだとわかって。

自然と笑顔が浮かんで、シュラにもたれるように歩いた。

後ろから色んな種族もついてきて、長い行列になっていく。

これが、百鬼夜行。

やがて頭上から、ふわりふわりと、ランプが降りてきて、それぞれの種族に行き渡っていく。

「明かりを灯すの?」

私がシュラに聞くと、彼はクスッと笑って先を指さした。

「星屑を詰めるんだよ」

「え……」

前方に、星屑の海が見えてきた。
みんな縁に立って、星屑をランプですくっていく。

綺麗……。

私もランプに星屑をためて、蓋を閉めた。
キラキラと輝いて、まるで宝石のよう。

ここから、どうするんだろう。
星屑の海を泳ぐの?

と、思っていたら、巨大な船がやって来た。

「みんな、乗るんだよ」

シュラに言われるまま、その船に乗り込む。
こんなにたくさんの種族が、一度に乗れるのかしら。

でも、乗ってみると、中は見た目より広い。私は、好奇心が抑えられず、シュラを引っ張って甲板に出た。

船は、星屑の海をゆっくり進んでいく。

「綺麗ね」

「ああ。毎年見てるけど、クローディアが一緒だと、また違って見える」

波の音も聞こえない、静かな航海。
それでも、微かにチリーン、チリンと音が聞こえる。

「星屑が船にぶつかる音だよ」

「素敵……」

シュラと見る星屑の海。
こんなにも美しい。
静かで、穏やかで、何も起きなければ本当にすて……

「シュラ」

不意に横から声がかかる。
誰?

私の肩に手を置いていたシュラが、一瞬固まった。

声がした方を見ると、コウモリのような羽を生やしたセクシーな女性が立っている。

彼女は、私の上から下まで視線を動かすと、にっこりと笑顔を浮かべた。

「サキュパスの女王、チェリパンナ」

シュラが言うと、彼女は軽くお辞儀をしてくる。

「お久しぶり、シュラ。こちらが、噂のストロベリ御前ね?」

「ああ、俺の伴侶だ」

「初めまして、チェリパンナ様」

「初めまして。私は去年まで、シュラの恋人の一人だったのよ?」

「!!」

「やだ、シュラ。教えていないの?」

シュラの……元恋人。目の前にすると、心がザワザワと波立っていく。

落ち着いて……こういうことは、何回もある可能性がある。

それは、ディアベル御前からも言われていた。『取り乱すな、過去の女たちとは既に手を切っているから』と。

それでも、何も感じないわけじゃない。
私の知らない彼を知っていて、彼の肌や温もりを知っている相手に、平静で向き合うのは、とても難しい。

嫉妬を感じるし、それに───。

相手の言葉や態度の端々に、マウントに似た優越感を感じるからだ。

“あんたの男は私のだったのよ”

そう言われているみたいで。
負けちゃいけないのに、なんだろう、この敗北感。二の句が告げない私の代わりに、シュラが前に進み出る。

「知る必要ないからな」

「あら、どうして?」

「元カノがどうだったかなんて、知りたいか? もう、昔のように会わねえし、未練もねぇのに」

「あなたはそうでも、彼女は不安よ? 実はまだ、好きなんじゃないのか、どんな関係だったのか、よりを戻すんじゃないかとか」

「ない」

「なぜ、言い切れるの? 彼女は……ああ、そうか」

「なんだよ」

「彼女に話す。あなたは、他所に行ってて」

「何をする気だ」

「変なことはしないわよ。さ、行きなさい」

私はシュラに、大丈夫と言って、チェリパンナ女王と二人だけになる。

これはこれで、緊張するな。

「あー、あいつ、変わったわ」

チェリパンナ女王が、呆れたように他の種族のおさたちと話しているシュラの方を見た。

「変わったのですか?」

私は前を知らない。どう変わったかなんて、わからない。

チェリパンナ女王は、ゆっくり私の方を見る。な、なぜ、そんなにじっくり見るの?

「あなたを知ってる」

「え?」

「シュラの部屋に飾ってあった、肖像画の女の子でしょ?」

「!!」

そうだ。シュラは、私の肖像画を持っていた。ウドレッダ姫の命令で捨てられていた、掃除をする姿が描かれた肖像画を。

この人も見ていたんだ。

「有名だもの。見たら彼の逆鱗に触れて別れることになる、て」

「え、じゃ、あなたも?」

「そうよ。悔しいけど、あなたは昔も今もシュラの心を独占してる。本命中の本命なの」





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